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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第4章 新天地で四苦八苦
62/96

とにもかくにも結婚せよ



「陛下、遅くなりまして申し訳ありません」

「・・・・・ミナが暴れているようだが」

「そうでしょうね」

「キッシュに水銀を混ぜると言っているぞ」

「では今日は王宮の食堂で食事を済ませて帰ります」

 すぐにテレパシーで飯はいらないと連絡して、更にミナをキレさせる官房長官。

「懲りないな、お前も」

「それは私ではなく、懲りずに騙される所長に仰ってください」

 確かにな、と納得するアルカード。ふと、用件があったことを思い出した。

「先程使いの者がやってきてな、ほら、お前の分だ」

 と、何かを投げてよこした。受け取ると、縦15センチ、横5センチ角の小さい木箱。アンジェロには思い当たった。

「もしかして、決済用の印章ですか?」

「あぁ、私の分も一緒に届いた」

 ちなみに山姫は自分の印鑑くらい持っている。が、外人二人は印章など持っていなかったので、毎度毎度決済にはサインをしていた。が、その量があまりにも膨大過ぎて、二人とも度々ゲシュタルト崩壊していたので、山姫に印章を作ることを勧められたのだ。

 箱を開けると、黒檀の柄の先端に真鍮の台座がついていて、紋章が彫られている。山姫は元々家紋があったので、それを使用している。向かい藤と澪標。アルカードは二匹の竜のウロボロス。

「これは・・・なんですか?」

 アンジェロの紋章のデザインの提案をしたのはアルカードだ。実際イラストにしたのはジョヴァンニらしいが、何かが分からない。丸が三つあって、その丸に喰らいかかる様な、何かの獣。

「ためしに押印してみろ」

 と言われたので、既に山姫が調達していたスタンプ台に打って、適当なメモに押印してみた。

 が、それでも何やらよくわからない。

「この丸は?」

「月だ」

「この獣は?」

「ウサギだ」

「ウサギ? これが?」

 ウサギと言われた真っ黒な獣(黒いのはインクのせいだ)は、確かに言われてみれば耳が長いが、それ以外がウサギに見えない。目つきも悪いし、牙が生えているウサギは見たことがない。

「三つの月と、イカレた黒ウサギ。ミナがマーチヘアがピッタリと言ったのだ。お前にはおあつらえ向きだ」

 どうもそういうことらしかった。やっぱり自分で考えるべきだったと後悔したが、そもそも考えるのが面倒で放棄したのはアンジェロだ。

「・・・・・ありがとうございます」

「ミナが喜ぶに違いない」

「・・・・・そうですね」

「ちなみにその印章は自腹だ。お前が遅刻した為に私が立て替えてやったのだから、1万8千リル支払え」

 ―――――高ぇし、自腹かよ! 経費で落とせよ、チクショー!

 どこまでもケチで執念深いアルカードは無給&無休では飽き足らず自腹を切らせる。腹立たしかったものの、作業効率の上昇は間違いないので、アンジェロは泣く泣く金を払った。

 と言っても貯金はあと50万リル近く(日本円で約500万)あるので、あと4か月くらいなら楽に生活できる。

 今まで生活費はミナの収入+足りない分をアンジェロの収入で賄い、残りは全額貯めてきたので、アンジェロはつくづく貯蓄はしておくものだと思った。



 一応誤解のない様に説明をしておくが(遅い気もするが)、アンジェロはアルカードの直属の部下と言うわけではなく、厳密には山姫の部下だ。

 順位をつけるとしたらアルカード→山姫→アンジェロ、という事になる。官房長官の仕事は内閣太政大臣の代理、代行、サポート、広報、政務事務の実務、各所管轄の連携、会議の進行・調整などなど多岐にわたる。デカイ事は山姫がやって、細かいことはアンジェロに、といった具合だ。

 ちなみに、直接アルカードの面倒を見ているのは、宮内大臣のジョヴァンニだ。イタリアでのこともあるので、アルカード的にはシュヴァリエではジョヴァンニが一番信用できるらしい。

 王妃であるミラーカの面倒は細雪の二人が見ることになっていて、ミナとボニーはしょっちゅうミラーカに会いに後宮に行くものの、男子禁制の為に入れないとクライドがたまにぼやいている。

 この王城は広い城壁に囲まれ、王城正門から広い庭があり、そこからまっすぐ伸びた回廊の先には執務殿があり、普段ここでアンジェロや山姫やアルカードが仕事をしている。

 その奥に王宮があり、ここにアルカードが住んでいて、そのまた奥に後宮があり、王宮の両側には離宮があって、西には山姫たち、東にはバロウ夫妻とシュヴァリエ達、要するに社宅のような感じで住んでいて、周りの宮が王宮を守護するような配置になっている。




 図にしてみるとこんな感じだ。


 ――――――  ―――――――――――――――――――  ――――――

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|      ||       後宮          ||      |

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|      ||                   ||      |

|  離宮  ||                   ||      |

|      ||                   ||  離宮  |

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|      |   |     王宮      |   |      |

|      |   |             |   |      |

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 ――――――                       ――――――

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|                                    |

|                                    |

|                執務殿                 |

|                                    |

|                                    |

|                                    |

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 城壁や庭を含め、全体で300haを超えるこの広大な城。ちなみに東京ドームで表すと、東京ドームの面積を知らないので、表現しない。成田空港の敷地面積より広い。300haとは3k㎡だ。

 後宮がこれだけ広いのは、当然側室が入ることを予定しているためだ。王によっては100人からの側室と1000人の侍女を連れてくるものだが、アルカードがミラーカしか妃を置いていないため、後宮はガラッガラだ。

 ちなみに王宮には賓客などが宿泊したりするため、貴賓室や大広間などは王宮にある。ミナの研究所は執務殿の一番端にあったのだが、居を構えて早々に実験の際爆発を起こしてしまったので、執務殿の外に強制移設された。図には無い詰所や倉庫なんかもたくさんあるので、その一角を科学技術研究所としており、オリバーのいる医政局の医学研究所も隣に併設されている。

 転移したり飛べる者は移動もそう大変ではないが、衛兵や事務員なんかの一般採用の職員たちは移動がかなり大変なので、場内を馬で移動している。


 昼間働くメンバーと夜働くメンバーといるので、ほぼ24時間体制で操業中だ。執務殿から一番人がいなくなるのは朝方くらいで、他の時間は常に人がいる。

 特にアンジェロや山姫の様に昼間も起きていられるメンバーには、アルカードは容赦せず労働を強制する。

 やっとのことで一般採用も若干名認められたものの、アンジェロは官房長官と都知事を兼務している為にそれでも多忙に変わりはなく、アンジェロは朝市庁舎に帰ってきて昼まで都知事の仕事をし、昼過ぎに帰宅して、夕方にはまた王宮に出勤すると言う、人間なら過労死してもおかしくない生活を、この国に来てからずっと続けている。

 今は無休だが、通常時でもアンジェロの休みは10日に1回だ。普通なら訴えられてもおかしくはない。


 ミナの方は初期こそ多忙を極めたものの、今は所長の椅子に収まったこともあって、夕方に出勤して朝方に帰ってくると言う、普通の生活(それでも12時間労働)だ。

 帰ってから洗濯をしたりだの家事をして、アンジェロが帰ってくる昼にご飯を作って帰りを待ち、一緒にご飯を食べて一緒に眠り、一緒に起きて出勤する。

 アンジェロは何も自分に合わせる必要はないと言ってくれるけども、ミナがそうしたいのだから仕方がない。

 アンジェロの日常のほとんどは仕事に費やされる。家にいるのは時間にしたら4・5時間と言ったところで、その時間も睡眠に使われる。

 アンジェロは仕事を長時間頑張って疲れているのに、構って欲しいと我儘を言うわけにもいかないし、となると、アンジェロに生活を合わせて、少しでも一緒にいる時間を増やすしかないのだ。

 アンジェロもその辺の事はちゃんとわかっているので、可能な限り残業しないで(18時~12時が定時なのもあり得ないが)さっさと真っ直ぐ家に帰る。

 仕事で(主に精神的に)疲れて帰ってきて、ミナが笑顔で「おかえり」と出迎えをして、ミナと一緒に食事をして一緒にお風呂に入って一緒に眠りにつくのは、結構幸せだったりする。

 これで労働時間があと2時間短ければもっと最高だと思うのだが、少なくとも今のアルカードは許してくれそうにもないし、そうなれば余計に仕事が溜ってアンジェロが困るだけなので、アンジェロもそうだが、ミナもガマンするしかない。

 ――――折角だし、ミナもご機嫌斜めだし、今日はさっさと帰ろう。

 誰のせいで機嫌が悪くなったのかは置いておくことにして、やっぱり愛妻家なアンジェロはそう決めて、どうやってご機嫌を取ろうか仕事をしながら考える。

 しかし、やっぱりお約束、というか日常茶飯事なのだが。

「失礼します。陛下、西の山脈で雪崩が起きたとかで、救援と支援物資の要請がきております」

「そうか、山姫、すぐに軍から中隊規模出動準備。被災者の身元確認、捜索、必要であれば新しい居住地の準備を」

「かしこまりました」

「緊急を要しそうだ。軍の編成が済んだら、小僧が連れていけ」

「かしこまりました。新居住地は国営不動産でよろしいでしょうか」

「あぁ、構わない」



 こう言う時に限って災害が発生。西の山は巨大な山脈だ。実際に行ってみると、雪崩で村一つ潰されてしまっていて、雪崩が発生して既に2時間。生き埋めになった住民の生存は絶望的だ。

 一時間で西の山から王宮まで災害の伝達が出来たのは、通信省の功績である。山姫の部下、明日葉升麻も元々隠密だったので通信省にいるのだが、遠隔系の使い魔を操れるようで、小さな蝙蝠こうもりを1匹ずつ各都市に配置してある。

 その蝙蝠からの伝達のおかげで、災害時はかなり功を奏してきたのだが、いかんせん雪崩となると、肝心の勝手知ったる雪山育ちは雪の中。

 ひたすら地道に、必死に捜索するしかない。しかし、厚く固く膨大な量の雪は、まるでその捜索が無謀だとでも言いたげに、ひたすら真っ白い。

 隊員も、アンジェロも、当然それを見守る市民も、なんとなく最初から諦めているようで、しんしんと耳が痛いほどに降り続く雪が、被災者の心をいっそう重くさせる。

 すぐに隊員に捜索の指揮をして捜索に当たらせるものの、雪の中に棒を差して人を探す、という非効率な作業を目の当たりにすると、一層焦燥が募る。

 ―――――あぁ、なんとかならねぇか。自然の猛威にはどうしても―――――

 そう考えていて、思いついた。すぐに中隊指揮官に席を外すと告げて、家に帰った。



 家では、ミナが食事の準備中だった。

「あれ? アンジェロ?」

「緊急事態だ。お前の力を貸せ」

「え、うん。どうしたの?」

「雪崩で村1つ壊滅した。住民が生き埋めになってる。何とか出来ねぇか?」

「・・・・・多分、出来る。ちょっと待ってて、コート取ってくる」

 準備の出来たミナと、再び山脈へ転移。

「アウェパトリオータ!」

「アウェパトリオータ!」

 敬礼をして、来てすぐにミナは捜索の隊員たちにすぐに離れてもらうように言って、隊員たちがその場から離れると、ミナは服をもぞもぞしだす。

「なにしてんだ」

「静電気起こしてんの」

 少しするとミナの髪がふわ、と立ってきて、パチっと静電気が立ち始める。どうするのかとみていると、ミナが雪に手をついた瞬間、雪に静電気がバチバチバチッと広がり、一瞬で辺の雪はなくなっていて、地面が見えている。目の前に見えるのは、押し流された木々や倒壊した村の家、そして、倒れている住民たち。

 あまりの事に驚いたものの、すぐに隊を指揮して住民の救助に当たらせた。



 結局、生き埋めになっていた住人は全員で15人。その内生存が確認できたのは、たったの3人だった。

「もっと早く、所長をお呼びすべきでした。そうしたら、後何人か助かったかもしれないのに」

「・・・・・しかたありませんよ。雪山で2時間も経過しているんですから、生存者がいただけで、奇跡と言うものです。官房長官、所長、ありがとうございます。住民の手当てはこちらで致します。新しい居住地として国営不動産を解放して戴けると言う事ですので、住民はそちらに住まわせます」

 現場に赴いた市長がそう言ってくれて、少しは気が楽になったものの、やっぱり気は重いまま、支援の指揮をしたり、ミナは部屋を暖めて温かい食事を用意したりして、ひとまず首都へ戻った。



 報告を聞いたアルカードは、「そうか」とだけ返事をして、とりあえず労をねぎらってくれた。

 気付けば日はもう中天をとっくに傾いて、時計の針は3時を回っている。今から帰って食事をしたり風呂に入ったりしていたら睡眠は1時間、起きて双子の様子を見に行って、そこからまた仕事だ。そう考えるとさすがに憂鬱になってきた。

 ふと、アルカードが溜息を吐いた。

「仕方がない。お前達は二人とも明日は休め。小僧に労働基準を無視していると言われても面倒だし、ミナも大規模に能力を使って疲れただろうからな」

 アルカードの言葉に万歳するミナ。

「やったー! 陛下、ありがとうございます! ホラ、アンジェロ、帰ろう! 帰ろ!」

「ハイハイ」

 すぐにミナが立ち上がってアンジェロをグイグイ引くものだから、まともに礼もとらずに家に帰った。




「そうだった! ご飯まだ途中だったんだ!」

 帰ってすぐにミナはバタバタとお風呂に水を入れたり、ご飯の準備を始める。それを捕まえて、後ろから抱きしめた。

「いいよ、飯は」

「えぇ? でもお腹空いたでしょ?」

「空いてねぇ。それより、別のモンが食いてぇ」

 と言いながらミナの耳を舐めたら、ミナは急にわたわた暴れ出す。

「んもー! ダメ! 私がお腹空いたの!」

「えぇー・・・」

 色気より食い気の方が強かったミナは、すぐにご飯作りを再開してしまった。

 仕方がないのでアンジェロはソファに座って、料理をするミナを眺める。こうしてミナが料理している姿を見るのも久しぶりだ。

 ミナの料理はおいしい。微妙とか不味いと思ったことがない。それは料理の腕もそうなのだが、いつもアンジェロの希望とかリクエストを聞いて、アンジェロ好みに味付けしてくれるからだ。

 ミナも褒められた方が嬉しいし、美味しい料理を食べられることは幸せだと思うから、それでアンジェロが悦んでくれるなら、といつも腕によりをかける。

 ―――――んー、やっぱイイな。好きな男の為に料理する女って、最高に可愛く見える。

 時折超能力を使いながら料理をするミナを眺めるのも、なんだか幸せだ。



 今日の晩御飯は、カボチャのキッシュとサーモンのオーブン焼きと、カポナータとブルスケッタ。材料だけ見ればケチくさいことこの上ないのだが、見た目が鮮やかで美味しいので、全く気にならない。

 ちなみに野菜なんかは、ミナが市庁舎の敷地で大量に栽培している。たまに職員や兵たちにもおすそ分けして、代わりに卵や蜂蜜なんかを貰ったりするらしい。

「あ、このサーモン美味い」

「そぉ?」

「うん、今更だけど俺、白身魚食えねぇんだよな」

「そうなの?」

「そう。キライ。でもミナが作った奴は食える。美味いし魚臭くねぇし」

「えー? 嬉しい」

 アンジェロは子供の頃から白身魚が嫌いだ。味は好きなのだが、どうしても匂いがダメで、微量でも魚が料理に混ざっているとすぐに魚の匂いに気付くし、気付いた時点でその料理自体食べられなくなるほどに嫌いだ。

 が、ミナはハーブなんかを使ってウマイ事それを消してくれているので、純粋に味だけを楽しめるので食べられる。

 実の所ミナも魚は嫌いではないが好きというわけでもない。経済事情で魚が主役になる以上、工夫は必要だ。

「このキッシュ水銀入れたんか」

「入れてないよ! ていうか、なんでアルカードさんチクるの?」

「さぁな。このカボチャもお前が作った奴?」

「んーん、これはね、貰ったの」

「へぇ、職員から?」

「んーん、市民から」

「お前顔広いなぁ」

「なんかねぇ、こないだ水車作ったお礼とか」

「水車って、なに」

「あれ? 言ってなかったっけ? この前麦買ったのはいいんだけど、挽くのが面倒臭くって。ホラ、市庁舎の向こうに川があるでしょ? あそこに水車小屋作って、水車に碾き臼を付けたのを作ったの。で、みんなで使ってねって言ったら喜んでくれたよ」

「お前、スゲェな。道理で最近やたらと礼を言われると思った・・・・・で、その建設費用は?」

「え? あ、えへへへ。まだツケてもらってるんだけど・・・・・」

「ハァ、ったくお前は本当しょうがねぇな。いくらだよ」

「5万リル」

「高ぇよ! なんですぐ散財すんだお前は!」

「だって、どうせ臼にするならちゃんとした石がいいと思って、石英がいっぱい入ったの買っちゃったし、大きな石買っちゃったし、小屋一個作るのに木材もたくさん必要だったから・・・・ゴメン」

「ハァ、もう作ったんならしょうがねぇけどよ、今度から俺にちゃんと話通せよ。金はやるから、ちゃんと払っとけよ」

「うん。ありがとう」


 こういうことに関しては大概において、アンジェロが「ダメだ!」と言う事は滅多にない。ミナが市内でふりまく「思いやり政策」のお陰でアンジェロの株はうなぎ登りである。

 いつもミナが「知事からのプレゼント」と言っては上記の様に何かを建設したり、調理法や調味料の作り方を教えたり、家事や作業の効率化を指導したりしている上に、その費用は税金ではなくアンジェロのポケットマネー。

 政策も法律自体も厳しくはしているものの、ミナがどこそこで甘い顔をしているので、

「知事は切れ者だし太っ腹だし」

「奥様は優しくていい人だし」

「この町に住んでてよかった!」

 と、市民の支持率は上がる一方だ。

 アンジェロ単独なら市民の為の思いやり政策など、仮に思いついても絶対に実行しないが、ミナは自分が楽をするため且つ、ついでに市民の役に立つならいいよね、くらいの軽い気持ちでホイホイやってしまうので、アンジェロの財産はちょこちょこ大幅に減少する。

 が、それもミナらしいと言えばそうだし、付加価値として支持率がついてくるなら、別にいいかと考えている。

 ただ問題があるとしたら、ミナがいちいち報告をしてくれない為に、急に市民や職員から礼を言われるアンジェロにはチンプンカンプンなので、せめて口裏合わせくらいはしておきたい所である。



 ご飯を食べて片づけをして少しゆっくりしてから、二人でお風呂に入る。ついでにボイラーなどは当然ないので、風呂の湯はミナが超能力で温める。電子レンジの様な原理らしい。

 風呂に浸かろうとしたら、ミナが浴槽に何かをポタリと入れた。すぐに芳香が立ち込めた。

「なんだソレ」

「カモミールの精油だよ。この前作ったの。石鹸もコレ入れたんだ。いい香りでしょ?」

「へぇ、お前スゲェな」

「えへへ。カモミールにはリラックスの効果もあるんだよー」

「へぇ」

 言われてみると、段々リラックスしてきた気もする。

「つーか、ミナといるとそれだけでスゲェ安心感があるんだよなぁ」

「本当? 嬉しい!」

「・・・・・あれ、俺今声に出してた?」

「出してた! 恥ずかしいの?」

「うるせぇよ」

 アンジェロに背を向けてクスクス笑うミナ。風呂に入る時はいつも長い黒髪をクリップで纏めて、濡れた後れ毛がうなじを撫でている。なんだかエロい。

 ミナを後ろから抱きしめてうなじにキスをすると、もごもごとミナが小さく暴れている。

「官房長官」

「ハイ、なんでしょう」

「背中に何か当たってるんですけど」

「何が当たってるか言ってみなさい」

「・・・! 嫌です! もう! セクハラです!」 

「風呂で暴れると溺れますよ」

 カモミールのリラックス効果は、吸血鬼には通用しないらしい。




★とにもかくにも結婚せよ。 もし君が良い妻を得るならば、君は非常に幸福になるだろう。 もし君が悪い妻を持つならば哲学者となるだろう。 そしてそれは誰にとってもよいことなのだ。

――――――――――ソクラテス

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