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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第4章 新天地で四苦八苦
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ロバが旅に出かけたところで、馬になって帰ってくるわけではない



 11月上旬。近頃、双子の様子がおかしい。朝(夕方とも言う)は寝坊気味だし、授業中に寝てしまう事があると言って、マニが心配して研究所にまで足を運んで報告してくれた。

「博士、二人とも具合が悪いんじゃないですか?」

「うーん、どうかなぁ。吸血鬼って病気になったりしないから、具合が悪いなんてことはほとんど起きないんだよね」

「でも、なんていうかな。元気がないっていうよりは、ぼうっとしてるっていうか」

「それって二人揃って?」

「うん、双子だからかなぁ? でも、博士にもわかんないって、なんだろう?」

「わかんないってわけじゃないんだけど、確証がね」

「最近お弁当のおかずが減ったせいですか?」

「・・・違うよ。その分家ではちゃんと血をあげてるよ」

 一応、想像はつく。確証があるわけではないが、双子のような症状を以前見たことがあるのだ。

 まだイタリアにいた頃、アルカードが休眠期に入る直前も、そんな感じだった。あのアルカードが昼間に起きてこないどころか、度々夜でも眠っていたのだ。その時も休眠期に入る前の月くらいから始まった。

 恐らく休眠期の前兆で、休眠期に入るとしたら12月25日の双子の15歳の誕生日だ。

 一応マーリンがホテル代わりに使っていいと言ってくれているので、甘えるつもりではあるが、そう何度も預けるのはさすがに迷惑だろうし気が引けるので、頼めても2,3回。その後はこちらで面倒を見るべきだ。何よりも、我が子なのだから。

 だけど、双子が起きていられる時間は、15年しかない。15年しか起きていられなくて、何年も寝ている間に、世の中は全く違うものに姿を変えているのだ。双子を置いて。

 マニはディアリだからいいけど、ホビットや人間の友達は大人になって姿が変わってしまうのだろう。

 もしかしたら双子は起きた途端に大人になっていて、こちらの世界に帰ってきたら友達が驚くかもしれない。今までの様に友達のような付き合いをしてくれるかはわからないし、その事を考えると双子を可哀想に思った。

 

 とりあえず、アンジェロが帰ってきてから双子も呼んで、家族会議を開いた。

「マニくんに聞いたよ。最近眠っちゃうんだって?」

「・・・・・ごめんなさい」

 居眠りをした事を怒られるとでも思ったのか、ミケランジェロは申し訳なさそうに俯いた。

「違うよ、怒ってるんじゃないよ。私もアンジェロも未経験だからわかんないんだけど、双子みたいに眠くなっちゃう人を見たことがあるの」

「え? そうなの?」

「うん。アルカードさんが休眠期に入る前、そんな感じだったよ」

「「やっぱり、休眠期なんだ」」

 話はあらかじめ聞いていたし、双子もそんな気はしていたようだ。やはり休眠期と言う事になって、双子は口を尖らせた。

「じゃぁ、僕達学校辞めないといけないかな?」

「その必要はねぇよ。マーリンさんトコに預けるから、お前達が何十年眠ってても、こっちじゃ数日だ。俺からリュイに掛け合って、休暇って事にしてもらうから」

「「本当!?」」

「あぁ」

「「お父さん、ありがとー!」」

「二人とも、よかったね」

「うん!」

「やったね!」

 双子はアンジェロの職権乱用に、手を取り合って喜んだ。


 とりあえずアンジェロからリュイに話を通してもらったうえで、アルカードに家族総出で報告に行くことにした。

 ミナと双子はアルカードの御前に跪いて、アンジェロが報告をした。

「―――――というわけで、双子は数日国を空けさせていただきます」

「そうか、15年か。短いものだな。もうすぐで誕生日だと言うのに」

 そう言ったアルカードに、アンジェロはニヤッと笑った。

「陛下、どうせなら双子があちらに行く際、陛下もご一緒にいかがですか? 折角、陛下も空間転移できることですので、試しに」

「えっ!」

 いつの間にやら、アンジェロは空間転移の仕方をアルカードに教えていたようだ。アスタロトは門外不出だとは言っていなかったし、そもそもジュリオが似たような事を出来ていたので、アルカードに出来ないはずがない。

 行き来するだけなら大した時間もとらないし、結局アルカードも行くことになった。



 それと、アルカードに頼み込んでもう一つ許可を貰った。子供たちが第11次元に里帰りするのは12月に入ってからにしようと言う事になって、11月下旬に催された学校行事。

 先にどこにでも行けるアンジェロに連れて行ってもらって、市長や太守にはアンジェロのツルの一声で滞在許可を貰った。地図で座標を確認しながらミナの転移で生徒たちを連れてきた。

 リュイにミナと昼間も起きていられると言うので、護衛も兼務して苧環が引率として同行して、今日は双子も生徒として扱う事にして実施した。


“第1回・アリスト都立学校高等部、ふしぎ発見! 修学旅行の巻”


「うわー! すっげぇ!」

「深ーい!」

「でっけぇ!」

 子供たちは大騒ぎで、危ないと言うのに崖っぷちを走り回る。

 イエローストーン、ヨセミテ、カールズバット洞窟群を回ってやって来た修学旅行最終日の5日目は、オダロロック市の外にあるグランドキャニオン。


 450kmにも及ぶ巨大な渓谷は、谷底と崖の上の標高差は1700mもあり、11層にもなる地層は20億年分の歴史が作り出した“星のアート”と称されていて、このあたりに住む住民からこの渓谷は神聖視されていて、“オダロロックの精霊の谷”と呼ばれている。

 某ガイドブック及び、宿泊先の市長にあらかじめ聞いていた情報をリュイが説明すると、「へぇ」と感心しながら谷底を覗き込む。

 近くに湖がある以外は、若干標高があり少しの丘陵がある位で、特に景観に見どころもないアリストに住んでいる生徒たちは、自然の生み出した芸術に釘付けになっている。

 双子も眠気より興奮の方が上回っているようで、友達としきりにあっちを見たいこっちを見たいと言っては、はしゃいでいる。


 夜になって宿泊先のオダロロック市庁舎に戻ると、市長自らお迎えしてくれた。

「博士、校長先生、ようこそお越しくださいました」

「お世話になります、市長」

「お食事の用意が整っております。こちらへどうぞ」

 通された市庁舎内は、やはりアリストとは違う文明で、建造物は岩肌をくりぬかれたもので、そこに柱などが彫刻されている、と言った感じだ。

 そもそもオダロロックの住人はディアリや人ではなく、フィフィと呼ばれる獣人で、二足歩行で知性のある巨大な山猫の姿をしている。

 一応市長達階級のある者は服を着ているが、兵たちは腰布くらいで、市民たちは全裸らしい。全裸と言っても毛に覆われているので、大して問題はないのだと言って、市長はミナと同じ目線でニャハハと笑う。

「市長、失礼なお願いかもしれませんが、よろしいですか?」

「ニャンでしょうか」

「喉、撫でてもいいですか」

「え、えぇー」

 と言いつつ市長も撫でて欲しそうにしている。勝手に喉を撫で始めると、たまらず市長は喉を鳴らした。

「やだ、ゴロゴロ言ってる・・・!」

「やだ、市長可愛い」

 フィフィでは高貴の証と言われる青と金のオッドアイの目をつぶり、気持ちよさそうにしている。ついにはリュイも卯の花色の柔らかい毛並みを撫で始めて、市庁舎ではミナ達の方がはしゃいだ。


「ゴホン、それでは学校の行事と言う事で、注意事項です」

 気を取り直した市長が、食事の前にテーブルを囲む子供たちの前で言った。

「フィフィ族は夜行性ですから、仕事は夜の内にします。ですから、市庁舎ニャイを見学するのは大歓迎ですが、大声で走り回ってはいけません。生徒さん達は色んニャ種族がいるようですが、お風呂の時間は10時から12時の間。わかりましたかニャ?」

「はーい」

「では、お口に合うかはわかりませんが、フィフィの郷土料理ですよ。おかわりもたくさんありますから、イッパイ召し上がってください」

「はーい」

「いっただっきまーす!」

 テーブルの上に広がる料理は、オダロロック川で漁をして引き上げた魚を料理したものや、小鳥や小動物の肉を焼いたり煮たりしたような料理が並んでいる。この分なら子供たちの食事にも問題はない。

「あ! この肉美味い!」

「市長さん! このお肉なんですか!?」

「それはカエルですよ」

「えー! カエル!?」

「この辺では食用の大きなカエルがいるんです。鶏肉に似ているでしょう?」

「うん、本当だ。トリに似てる」

「美味しいね」

「カエル、侮りがたしだね」

 食文化の違いも知的興奮をもたらしてくれたようで、生徒たちは自分達との食文化の違いを聞き出し始めて、話しをしながら逆に市長も驚いたりして、結構有意義なディナータイムだ。


 食事がすんでお風呂から上がった生徒を集めた。

「ハイ、じゃぁ昼行性のみんなは寝る時間。夜行性のみんなは自由時間。市庁舎の外に出る時は私か博士か、事務次官にちゃんと言うんですよ」

「ハーイ」

「じゃぁ校長先生、おやすみなさーい」

「はい、おやすみ」

「校長先生、オレ遊び行きたーい」

「オレも!」

「僕も!」

「あたしも!」

「いいですよ・・・・って夜型の子はみんな行くんだね」

 実際外出するならその方がありがたいには有難い。外出する生徒には、国内と言えども何が起こるかわからないので、一応見張りにつく必要がある。

 結局リュイが市庁舎に残って昼型の子たちを見張ることになって、ミナと苧環で引率することになった。この辺は力量を考えた結果である。いざ不遜な輩と戦闘になった時、戦闘経験のある二人の方が心強いからだ。

 勿論ミナはデュランダルも持ってきていて、それを携えて子供たちと苧環と街に出た。



 市街地では大きな山猫たちが二足歩行で闊歩している。

「不思議な光景ですねぇ」

「第3次元では絶対見る事の出来ない光景ですね」

「ぶっちゃけグランドキャニオンより衝撃的ですよ」

「あはは、そうですね」

「事務次官、仕事忙しいのに付き合わせちゃって、ごめんなさい」

「構いませんよ。太政大臣からも行けと言われましたし。それと―――――二人の時は、名前で構いませんよ」

「あ、そうですね」

 生徒の存在を抹消する苧環。ミナとのお出かけに俄かに浮かれているようだ。一方ミナはちゃんと引率の役目を果たそうと、生徒たちにちゃんと目を配りながら市中散策も楽しんでいる。

「博士! 博士! 杏売ってる!」

「これでなんかオヤツ作ってくださいよ!」

「えー? もう、しょうがないなぁ」

 と言いつつなけなしの金をはたくミナ。

 エコバッグに大量に杏を詰め込むミナに、苧環は苦笑している。

「お嬢は“武士は食わねど高楊枝”ですね」

「そうですねー。それにやっぱり美味しいって褒められると嬉しくなって、調子乗っちゃうんですよねー」

「若に怒られませんか?」

「怒られちゃうかも。苧環さんから怒らないように言っておいてくれます?」

「努力はしますけど、私も一緒に怒られそうな気がします」

「あー、確かに。その時は一緒に怒られましょう」

「道連れですか」

「連帯責任って事で!」

 杏を突きつけられて、またしても苦笑させられる苧環。



 ミナが突き付けた杏を苧環が受け取った時、「キャァ」と生徒が叫んだ。

 声のした方に目をやると、鬼族の子が駆けてきた。

「博士、助けて!」

「どうしたの!?」

「ユンとトキが変なのに絡まれた!」

「えぇっ!」

 その子に連れられて行ってみると人だかりができていた。人波をかき分けながら進むと、子供たちと低い男の声が聞こえてくる。

「ぶつかっておいて謝罪もニャイたぁ、鬼族のガキはお高くとまってんニャァ」

「そっちがぶつかって来たんだろ!」

 山猫の口調が微妙に怖くないので、子供も強気だ。

「ガキが粋がってんじゃニャーぞ」

「うわっ」

 やっと人波から抜けた時、生徒が突き飛ばされるのを見て、頭に血が上った。


 エコバッグを苧環に押し付けて、スラッと鞘からデュランダルを抜いて、大きなブチ模様の山猫に剣を突きつけた。

「ウチの子に何しとんじゃ、コラ」

「アァン? ニャンだテメーは」

「この子達の保護者よ。ユン、トキ、怪我は?」

 子供たちに視線を移すと、体を起こしてミナを見上げた。

「ちょっと掌に擦り傷出来ただけですよ」

「大したことないけど・・・」

「そう、怪我したのね」

 子供たちが怪我をしたと聞いて、余計に頭に血が上った。ブチ猫に視線を戻して、髭を切り落とした。

「ニャニしやがる! このアマ!」

 ブチ猫は髭が無くなった頬を抑えてニャンニャン喚く。耳をつんざく鳴き声に余計に腹が立って、剣を下段に構えた。

「ウチの子たちに怪我させといて、タダで済むと思ったら大間違いよ。毛皮剥いで三味線にしてやるわ!」

「うわ! 博士!」

 一閃。杏が足元に転がった。振り上げた剣はブチ猫の眼前で止まっている。苧環が、ミナの腕を掴んでいた。

「お嬢、落ち着いて下さい。あまり派手なことをなさると、行政に問題が及びます」

 そう言われて、アンジェロに迷惑がかかることに気がついて、慌てて剣を引っ込めた。

 一方の山猫はと言うと、ミナが本気で斬りかかって来た事に意表を突かれたのか、剣を納めるとその場に座り込んだ。

「今度ウチの子に手ェだしたら、三味線にして葦原中国に輸出してやるから、覚えておきなさい」

 ブチ猫を睨み下ろして、振り向いて子供たちには笑顔を向けて立たせた。

「大丈夫? 痛くない?」

「痛くないです・・・ていうか、博士、怖えぇ」

「良かった、事務次官がいて」

 俄かに子供たちはミナに怯えて、苧環の傍に寄っていく。双子も苧環の傍に寄って行き、

「お母さんを止めてくれてありがとうございます」

 と、丁寧に頭を下げる始末だ。



 なんとなく居たたまれなくなってその場を離れようとすると、人だかりからも異様に視線を感じるし、子供たちもヒソヒソと話している。

「ねぇタッキー先生(翼の事)、博士ってあんなコワイの?」

「そうだよ。お母さんはお父さんより怖いんだよ」

「・・・マジで?」

「マジだよ。本当、事務次官がいてくれてよかったです」

「えぇ、私も同行してよかったと思いました」

「お父さん、お母さんに刺されて死にかけたからね。あの分じゃ、あの猫も本当に三味線にされかねないよ」

「ミッキー先生(ミケランジェロの事)、三味線って何?」

「猫の皮で作った楽器だよ」

「・・・・・」

「ていうか、官房長官死にかけたの?」

「そうだよ。もう、思い出すのも怖いよ」

「お母さんは普段はいつもニコニコしてるけどね、お母さんだけは絶対怒らせちゃダメだよ。何するかわかんないから」

「みんなも気を付けるんだよ」

「うん、気を付ける。超気を付ける」

「・・・・博士、怖えぇ」


 子供たちの会話を聞きながら、気まずそうに人から隠れるように歩くミナの後姿を眺めて、杏の詰まったエコバッグに視線をやって、苧環はアンジェロに言われた「重大な忠告」を今更思い出した。


「博士は、親が“トラブルの申し子”と命名するほどのトラブルメーカーですから、子供もそうですが、博士の動向にも十分注意するようお願いします。本当、博士に関わるとロクなことがありませんからね。絶対何かトラブルが起きると言う事は、覚悟しておいてください。事務次官だけが頼りですから、よろしくお願いしますよ」


 本当に真剣にそう言ったアンジェロの顔を思い出して、アンジェロが以前切腹されたと聞いた時の事を思い出して、ミナに対する認識が甘かったと反省した。



 結局ミナは、

「子供たちの引率は私がしますし、双子の先生もしっかりしていますから、お嬢は市庁舎で休んでもらって構いませんよ」

 と、デート気分を台無しにされた苧環にやんわりハウスを言いつけられてしまったので、大人しく市庁舎に戻った。

 この騒動の話をリュイに話すと、当然のごとく引かれた。

「・・・お嬢様、子供の前ではやめていただきたいんですけど」

「・・・ゴメン、つい」

「気持ちはわかりますけど、ダメですよ」

「うん、ゴメン」


 折角の修学旅行だと言うのに、最後の最後にお説教を食らい、修学旅行後双子に提出された“修学旅行の感想文の巻”には、

「博士が怖かった」

 という感想が目立っていたという話を聞いて、結局アンジェロにも説教された。




★ロバが旅に出かけたところで、馬になって帰ってくるわけではない

――――――――――西洋の諺

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