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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第4章 新天地で四苦八苦
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人間にとって、最大の幸福とは何か。 それは、新しい発展に参加することだ




 脳内会議を終えて、戴冠式後初の謁見会談が開かれた。各都市、各関所、各国、各省庁の代表及び内閣が招集された。


 このように各都市や省庁のトップが一堂に会することは滅多にない。今後こう言った会談が開かれることは以後ないかもしれない、と言うほど稀有なことだ。

 広い会議室には扇状に席が設けられ、それが階段状になっており、扇が切れた所にはコの字型に机が配してあり、真ん中にはアルカード、右側にはアンジェロと秘書のクミル。左側には山姫と秘書の苧環が腰かけた。

 太政大臣として、山姫が進行役として会談を仕切り始めた。

「各王、各市長、各提督、各代表の皆様にはお初にお目にかかります。この度本会談の進行を務めさせていただきます、内閣太政大臣の藤原澪標と申します」

 そうして、山姫がまずは自己紹介をはじめ、指名された者達が立ち上がり自己紹介をし、内閣及び省庁のトップたちが全員挨拶を済ませると、アルカードの挨拶に進んだ。

「では、陛下よりお話がございますので、ご清聴ください」


 言われてアルカードは立ち上がるわけでもなく、椅子に頬杖を突き、足を組みかえた。

「少なくとも現段階においては、お前達による自治を認めてやるつもりだ」

 その言葉に、代表たちは俄かにざわついた。それを遮るように「だが」とアルカードが続けたため、すぐに静まり返る。

「現行法は当然撤廃となる。悪魔の定めた法律など従ってやる義理はない。よって、我々で草案した法律を遵守してもらう事になる。その法律を遵守した上でなら、自治を認めてやってよい、と言う事だ」

 アンジェロが合図をして、文官に配された山姫の部下たちが、製本された冊子を配っていく。

 ミゲルが既にこの国の文字をフォントとしてパソコンにインストールし、パソコンで打てるようにしたため、コピー用紙に印字されたそれに、それだけで代表たちは驚いた。


 製本された冊子の表題は

“ヴァンピール・アル・ミレニウ・レガテュール法典”

 とされており、そのページ数もさることながら、項目の数に代表たちは刮目せずにはいられなかった。

 ハードカバーのその冊子は最早冊子とは呼べない厚さで、幅が10cm近くある。項目を載せた目次ページだけで7ページも消費し、検索しやすい様にインデックスまでついている始末だ。

 どれだけ厳格かつ厳密で緻密な法律なのだ、と代表たちは当然ゲンナリした。が、そんな事は草案者たちは知ったことではない。

「まぁ、戻ってからゆっくりと目を通し、重要項目だけでも構わないから、市民に流布を徹底しろ。お前達自治体側は、この法律を完全に頭に叩き込め」

(陛下も無茶を仰る・・・)

 全員一致でそう思ったが、政府側は全員頭に叩き込んでいる様子で、平然としているものだからいよいよ代表たちは辛くなってきた。

「とりあえず法律に関して重要な点を先にここで述べておく。これから述べる点に関しては最重要となるから、心して聞く様に」

 そう言われて、重要ポイントだけでもわかるなら、と代表たちは更に配られたノートとペンを握った。



「まず、今後の詳細な立法に関してだが、緊急の案件、首都圏のみの案件を除いた法案の場合、最終意思決定の前に各自治体に通達する。それぞれその法案に対する反論があるのなら、議会に談判に来い。可決後に都合が悪いだの、重大な問題が発生するだの言われても困るのでな。

 それと税に関してだが、基本的には現状通り各自治体が市民から徴収し、その自治体で政府に納めるという形は変わらない。ただし、課税方法は原則住民税と所得税、法人税とする」

 聞き慣れない単語だったのか、代表たちは一様に不思議そうに顔を上げた。手を挙げた代表に、山姫が質問を許した。

「住民税とは、どういった仕組みでしょうか?」

「まずは、住民の世帯の調査が必要だ。一つの世帯に何人で暮らしていて、市内にはどの程度の世帯があるのか。大人子供、男女、身分の一切を問わず、一律して一世帯につき収入の5%×家族数を徴収する、というものだ」

 納得した議員は、「続けてよろしいですか」と所得税に対する質問を重ねた。

「簡単に言えば、給与から税金を差し引くという事だ。所得税に関しては累進課税とする。詳しいことは345ページを見ろ」

 言われて、パラパラと法典をめくり始める。345ページには所得税に関する詳細が記されている。


【原則】

・身分、世帯主、寡婦(または寡夫)、単独世帯、単身者問わず、就労し給与を得ている者全員を対象とする。

・就労に従事するのが不可能な場合(子供、年配者、妊婦、重病人、障碍者等)は免除とする。

・就労に従事するのが可能でありながら就労しない者は、その種族における「成人」の年齢を超えているようであれば課税の対象となる。

・上記に当てはまらず、就労できない事情のある場合(介護・育児・主婦業等)は、調査報告し確認の上免除とする。

・納税受付の際に給与明細の確認を義務とする。


【累進課税率】

 年収         課税率

20万円以下        3%

20万円超~30万円以下  7%

30万円超~70万円以下  15%

70万円超~90万円以下  20%

90万円超~180万円以下 30%

180万円超~       45%


 法典を見て、代表たちは唸る。首都圏住民の平均年収は70~80万。地方はバラつきがあるが、40万~70万と言ったところだ。なんとも金持ちに厳しい税制である。それまで貴族階級であった者達は課税対象でなかったため、他の代表に比べると一層渋い顔だ。

 そもそも、累進課税は金持ちに厳しくて然り。金をたくさん持っている者から、多額の税金を徴収した方が効率的だ。

 しかも所得税の注意書きを見る限り、暗に「働け」と言っている。ニートの存在を許す気はないようだ。



 続いて、法人税についての質問が上がった。

「これは、自営業などの商売、所謂利益を目的とした事業を営んでいる企業に課せられるものだ。客から金をとる事業は全てこれに当たる。露天商レベルなら対象外だが、屋台や市などの出店などの個人商店、風俗店、金融業、病院、あらゆる事業が対象だ。仮に個人経営でも、家計収入と経営収入は切り離して報告する必要があるので気を付けるように。尚、税率は企業全体の純利益が100万以下の場合は18%、100万以上の場合は30%だ」

 それを聞いて更にざわつく代表たち。

(なんだかんだで細かく金をとるのか)

 と、一様に思ったが、アスタロト政権時代の一家庭75%に比べればはるかにマシだ。

 が、どうしても金持ちに厳しい税制には納得いかないようで、渋い顔をしている。それを見てアルカードは息をついて、代表たちを見据えた。

「税金に関する項目の一番初めにも記載しているのだが、これらの徴税をして、自治体が政府に支払う地方自治税は、徴収税額の40%だ。支払方法は一括分割、どちらでも構わない。年度末の3月1日までに全額を徴収し、王宮に送り届けることとする。

 納税を怠った者、虚偽の報告・納税をした市民は政府の指定する事業で5年間の強制労働とする。

 また、年に数度自治体に、抜き打ちで法定監査官を送る。自治体側が政府側に虚偽の報告をしないとも限らないのでな。その監査の際、違法な報告が発見された場合、税務担当官と自治区の代表は当然―――――死刑だ」

 さすがにその説明にはざわついた、が、すぐに山姫が鎮めた。その様子にアルカードは薄ら笑いを浮かべる。


「何を動揺することがある? 悪魔が治めていた頃の税率に比べればはるかに緩和しているし、分割での納税も認めているのだから支払いもそう難しくはない。私の言う通り法律を遵守していれば、それで平和に、かつ安定して、かつ政府からの極度の干渉も受けることなく自治出来るのだから、問題はないはずだ」

 一人の身なりのいい肥え太った代表が挙手をして、山姫が意見を許した。

「わかりますが、その程度の違法行為で死刑とは、刑が重すぎると思います」

 その言い分にアルカードは眉をひそめた。

「その程度? その程度だと? 見たところお前は貴族出身だな。市民の税で飯を食っておきながら、市井の実情も知らない温室育ちが、良くもぬけぬけと“その程度”などと言えるものだ。

 仮にもお前は市民の代表でここにいるのなら、税に対して“その程度”などと言う表現をするべきではない。

 税は国を運営するための血脈だ。市民が国に血税を支払わなければ国を運営することはできない。 

 我々行政側は、市民が汗を流し稼いだ収入を分け与えてもらえるのだ、という意識を忘れてはならない。

 それを忘れ、権力と金に溺れて、市民が公共事業の運営と国の発展を願い治める税を、私腹を肥やす為に誤魔化そうとするような者など、国にとっても市民にとっても害でしかない。そのような者は、この国にも、この世界にも必要ない」

(仰ることは尤もだけども!)

(陛下厳しい!)

 厳格主義の税制賛成派の代表ですら上記の感想を抱いた。アルカードの厳しい言葉に、立ち上がり意見した代表は顔色を青くして、「申し訳ありません」と大人しく座ってしまった。



 会議室の隅っこで聞いていたミナは、日本で暮らしていた頃のニュースを思い出してみた。

 ―――――そういえば、横領とかしてるような汚職議員のニュース見た時、すっごいムカついたなぁ。私達が払ってる税金で贅沢してるくせに、それを更にちょろまかすなんて、死ねばいいと思ってたわ、そういえば。

 そう考えると、常々議員や閣僚、官僚に支払う給金も抑えて、交際費も抑えて、税率自体は緩和したものの、自治体にこれだけ税法の遵守を厳命するアルカードは、相当大した国王陛下だ。

 ―――――スゴイな、アルカードさん。権力は大好きみたいだけど、権力をここまでマトモに行使できる人って、そうそういないんじゃないかなぁ。

 その通り。人は権力を持てば持つほど、有効に活用できないものだ。権力と金の魔力に憑りつかれて、汚職議員やバカ殿になるのが人と言うものだが、アルカードは理想の為には初志貫徹するタイプだし、代表や議員、更に言うと政府や王の代わりはいくらでもいるが、市民がいなければ行政は成り立たない。その事をよくわかっている。

 市民にしてみれば、悪魔政権は悪政過ぎて例外だが、普通の政権下においては、トップが誰に変わろうが大した問題ではないのだ。が、政府側にしてみれば、市民の不在や納税の拒否といった事態は大ごとだ。

 市民の血税を、完璧に、潔癖に、法に則った正常で清浄な状態で市民に返還しなければ、その内政府の方が反乱にでもあって破綻してしまう。

 税の事は市民にとっては重大な問題だ。その件で反感を買ってしまうようなことがあって、政府の信頼が失墜してしまえば、戦争などの有事の際に、最悪の場合市民が敵を招き入れ加担する、というような事態もないではない。

 単体では何もなさない市民だが、市民と言う名を隠れ蓑にして、集団で行動した時の威力は恐ろしい。

 かつて第3次元で政権を執っていたこともあるし、各国を放浪して行政の在り方や戦争を目の当たりにしてきたアルカードには、市民の恐ろしさと、権力者の愚かしさは嫌と言う程染み付いている。

 少なからずアルカードの言い分に(言い方がキツすぎるせいで)腹を立てた代表もいるにはいた。しかし、ほとんどが民主主義により擁立された市民代表であるこの会談においては、多くの代表が感銘を受けた。

「素晴らしい。陛下、私はこの税制に関して、なにも異論はありません」

「私も」

「私もです」


 その後も説明と質問と解説を繰り返しながら、会談は5時間にも及び、概ね重要な法律を頭に叩き込んだ代表たちは、頭の中を整理しながら、わくわくしだした。

「どう思います、この労働基準法は?」

「奴隷解放は雇用者側には厳しいだろうが、私は奴隷と言う制度が好きではないから、賛成だ」

「私もです。個人を個人として扱う、という思想がいい」

「教育法もいいですね。悪魔がいなくなった以上市民での自治になるわけですから、今後有望な人材を育てることは重要です」

「地方政策が認められることも有難い。ある程度の自治がないと、その地域や種族によっては価値観や常識が違うものだし、環境や状況によって許可したり制限しなければならないこともある」

「そうですな。商法においても企業側消費者側に立った政策になっている。どこからが商売でどこからがそうでないのか、どちらに責任があるのか、よく争点になることだが、商品やサービスに対する企業側の責任、消費者側の責任も明記してある」

「あぁ、本当に細かい事まで考えておられる。何よりもこの法典の前文を読みましたかな?」

「読みました。私は感動しましたよ」

「あぁ、わしもじゃ。国民の思想・職業・発言の自由、幸福の追求、健康で文化的な最低限度以上の生活、政府は国民の厳粛な信託によるものであり、国権は国民に帰属し、国民より選抜された代表によりその権力を行使し、国民はその自由と恵沢を享受するもの。あぁ、良い響きじゃ。素晴らしいことじゃ。わしゃこういう世の中を望んでおったんじゃ」

「ええ、私もですよ。決して甘やかしはしないようですが、一人一人が自分の足で立って、歩いて、考えて生きていける。そう言う国になりますよ、きっと」

「その為にも、まずは私達がしっかりやらなければなりませんな」

「そうですね。私達は、民の代表なのですから」

 会議室から出て行く代表たちが口々にそう言い合って、早く国元に帰って民たちに法律を流布せねば、と浮かれはじめた。



 それらが聞こえてきて、俄かに政治に関わりたくないと思っていたミナやアミンたちも、自分たちの努力や考えが受け入れられたことを喜ばずにはいられなかった。

 なにより、代表たちの崇高な使命感、その誠実で熱意のある姿勢に、心が震えた。

「きっと、この国は生まれ変わるね」

 ボニーの言葉に、笑顔で頷いた。

「そうですね。きっと、この国は歴史に名を残す、素晴らしい国になりますよ」

「だね。なんたってウチの陛下が治めるんだもんね。間違いないよ」

「あはは、そうですね。ちょっと怖いし厳しいけど」

「あ、それも間違いないね」


 みんなが一生懸命考えて、誇りを持って立ち上がり、歩いていく。そんな未来を想像して、やっぱりそんな未来を見たくなって改めて、そう簡単に魂をくれてやるわけにはいかないな、と決意を新たにした。




★人間にとって、最大の幸福とは何か。 それは、新しい発展に参加することだ

――――――――――ガガーリン

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