人として真の偉大さに至る道はただ一つ
アンジェロのテレパシー中継で脳内会議をすることにした。わざわざ脳内会議をするからには、当然悪魔対策会議だ。
【とりあえず法律はまとまったし、戴冠も済んだ。しばらくしたら新法の流布を行う。それが済めば本格的に悪魔対策を講じる余裕も出来よう】
【悪魔対策第一段階としては、軍の組織か?】
【そうだ。市民からの徴兵は行わず、雇い入れて職業軍人として育成する】
【傭兵じゃダメなのか?】
【どうして徴兵にしないんですか? 平和な時は必要ないし、税金の無駄になりません?】
【傭兵ではダメだ。いざ戦争となって状況的に不利になった時、物を言うのは数や強さなどではなく、愛国心だ。傭兵は愛国心がないから、いざと言う時逃亡したり反乱を起こしたりするのだ】
【うーん、確かにそうかもな】
【職業軍人の育成についてだが、付け焼刃の捨て駒よりもプロの方が当然いい。素人10人よりも、プロ1人の方がいい仕事をする。当然戦争のない間の対策もある】
【どうするんですか?】
【鍛錬も兼ねて、未開の地の開墾や開拓をさせる。剣などの使い方は農具と似ている物があるし、平和な間に大量に作物を作っておけば、いざ戦争となった時に増税して兵糧を得る必要はない。更に、その作物を保管しておけば、飢饉の際に市民に国庫を解放できる】
【なるほどぉ、さすがですね】
【国の運営は勿論のことだが、軍の準備も大至急行わねばならない。あの悪魔が約束したことは、退去と政治への不関与。政治的な関与が目的でなく、別の事―――――例えば殺戮や略奪などを目的として国内に侵攻してくる可能性もある。今は悪魔たちも新天地に移ったばかりで軍備も整い切っていないはずだが、いつその時が訪れるかはわからない】
【あぁ、可能な限り早急に軍を組織させる】
アンジェロの返事にアルカードも頷くと、話題を変えた。
【そう言えばお前達、結婚してどのくらいになる?】
【私達時間では、今年の12月24日で20周年ですよ!】
【随分続いたものだな・・・・・】
【ラブラブですもん! ね!】
【うるせぇ。5年後には銀婚式だぞ。なんかしてくれんのか】
【5年後か。ならば25日に双子の成人祝いをしよう】
【え、俺らは?】
【え、ていうかアンジェロ、無視?】
【お前らは勝手に二人で祝え】
【んだよソレ! や、アンタに祝われても困るけどよ】
【えー? 祝って欲しい】
【呪ってやろうか】
【字は似てるけど全然違う! もー! じゃぁいいですよ! アンジェロ、旅行行こ?】
【そうするか・・・・・】
【当然休みなどやらんぞ】
【ヒデェ! 嫌がらせか!】
【それはお前達の方だ。25日には双子の成人祝いがあるというのに、双子を置いて旅行に行こうとするお前達の方が嫌がらせだ】
【うっ、確かに・・・・・】
【つか成人祝いは決定したんだな。いや、つかよ、それがどうしたよ】
【ただの好奇心だ】
【アンタが好奇心だけでこんな質問するはずねぇ。何考えてんだ】
アンジェロがアルカードを見据えてそう言うと、アルカードは小さく息を吐いた。
【小僧が解約するにあたって、やはり現状維持を願った方がよさそうだ】
【やっぱり、そうなんですね】
【なら、生活習慣強化はこの際もういいとして、純血種の保護と、魔力や能力の維持。で、俺の解約か。うわ、あと1個しか残らねぇぞ】
【そこはまた増やしてって願うよ】
【いや、それは不可能のようだ】
【え?】
【悪魔の世界の掟では1つと限定されているようだ。小僧の時には「1つ」とは言っただろうが、「1つだけしか聞けない」と言う事をはっきり明言しなかったようだし、ミナの場合にも複数願うとは思っていなくて油断したようだ。が、願いを増やそうとすることは読まれているかもしれないし、流石に3度目は断られるはずだ】
【そっかぁ・・・・じゃぁ、どうしたらいいんですか?】
【その前に、現状維持で願わなければならないことはもう一つあるはずだ】
【ん? なんだっけ? 何かあったか?】
【え? なんだろう?】
【忘れたのか。お前達の事だぞ】
【あ、そうだ! 俺らが付き合ったの悪魔の手引きじゃねーか!】
【そっか! じゃぁ、解約しちゃったらアンジェロ私の事好きじゃなくなっちゃう!】
【私としてはどうでもいいことだが、そうなると周りが気を使う羽目になり困る。それの維持を願うのも忘れるな】
【えー、でも、仮に好きじゃなくなっても、アンジェロはまた私を好きになってくれるでしょ?】
【うーん・・・】
【悩まないでよ! バカ!】
【いや、実際難しい。クリスティアーノに聞いた話だが、戦後と言うあの状況があったからこそ、悪魔にも可能だったのだ。今は小僧も仕事が忙しいし、お前にばかり構っている暇はないはずだ。精神的にも安定した現在では、戦後当時ほど精神的に依存する相手は必要としないはずだ。特に小僧のような奴はな】
【そうなんだよ。今みてーな状況は、ヴァチカンにいた頃と変わらねぇ。あの頃の状態で行くなら、仮にミナにまた惚れることがあったとして、何百年後だよって話だ】
【えぇー!! なんでアンジェロってそんなカタブツなの】
【小僧の場合基本スタンスが“恋愛は邪魔”だからだ。そう言ったことに左右されるのが許せないのだろう】
【今はそうは思わねぇけど、少なくとも昔はな】
【でも、待ってくださいよ。じゃぁそれ全部願ったら、私死んじゃいます】
【そーだよ、どーすんだよ】
【そこで、だ。一つ思いついたんだが、これはかなりの賭けになる】
ゴクリ、と生唾を飲み込み、アルカードの言う賭けを聞いた。
【仕方がないから、私が契約してやる】
その言葉に、二人揃ってつんのめった。
【ダメですよ! 何言ってるんですか!】
【アンタまで契約したら悪魔の思う壺なんだけど! 全員魂奪われて終了じゃねーか!】
【なんだ、いけないか?】
【当たり前じゃないですか! 私達はまだいいけど、アルカードさんは国王だし私達のボスなんですよ?】
【アンタに死なれたらみんな困るだろうが!】
【少なくとも私が契約することにより、お前達の現状を維持しつつ二人とも解約して存命することは可能だ】
【いーやダメだ。俺らが悪魔の契約から解放されても、アンタが契約して死ぬんじゃ話にならねぇ】
アンジェロの言葉を聞いて、アルカードはアンジェロに視線をやって、まっすぐに見つめた。
【小僧は、私が死んだ方がありがたいのではないか? お前にとっては自分の上に永久に鎮座する邪魔者でしかないはずだが?】
【・・・確かにそうだけど、それでしかないわけじゃない。王位を奪った時も言ったけど、俺は本来2番目とかの方が性に合ってるし、それに俺自身が、アンタの下にいてぇんだよ】
【何故?】
【為政者として、吸血鬼として、リーダーとして、男として、どこをとってもアンタは俺より上位だからだ。アンタにはこれから政治の事や吸血鬼の事も含めて、まだまだ教えて欲しいことはある。今死なれて困るのは、アンタも同じだ】
それを聞いてアルカードはニヤリと笑った。
【なんだ、それはまるで私を尊敬しているとでも言いたげだな】
茶化されて腹が立ったようだが、アンジェロは俯いて
【そう言う奴じゃなきゃ、俺が下についてやるわけねぇだろ】
と言うので、ついにアルカードは笑い出した。
茶化されたうえに笑われて、アンジェロはひどく不機嫌になってしまった。
【はははは、あぁ、可笑しい】
【何笑ってんだよテメェ】
【ははは、そんなに私に死んで欲しくないか?】
【さっきからそう言ってんだろ!】
【そうか。わかった】
【・・・なにが? 契約やめんの?】
【いや。小僧の私に対する忠誠心はよくわかった。とりあえず確認したかったのはそれだけだ】
【今の流れ全部確認!? そんだけの為に契約するとか言い出したのかよ!】
【そうだが?】
【うっわ、マジ最悪だよ。アンタ本当最悪。やっぱ死ねよ。俺らの為に契約して死ねよ、頼むから】
【断る】
話を聞いてミナも若干引いたが、結局アルカードの言う賭けと言うのは何の事なのかが分からない。
【あの、結局賭けって、なんですか?】
【あぁ、あまりにも小僧が必死で可笑しくて、忘れていた】
【ムカつく・・・!】
【結局は、だ。現状維持を全て願ってミナの願いは残り一つ。その願いを永久に使わずに置き、小僧は私が祝福しなければそれで延命できるわけだ】
【そうだけどよ、あの悪魔の事だから、その内ミナが願わずにはいられない状況を作り出そうとするぞ】
【そうだな。そうならない内に、あの悪魔を悪魔でなくしてやればよい】
【なるほど! そう来たか! 元を絶てばそれで全部クリアじゃねーか! アンタやっぱスゲェな。何なのアンタ】
【でも、悪魔じゃなくするってどういうことですか?】
【奴は元々人間だ。人間が悪魔堕ちしたものだ】
【じゃぁ人間に戻すってことか】
【そうだ】
【でも、どうやって?】
【悪魔と言うのは魂を持たない。魂を取り戻してやれば、人間に戻る】
【どうすれば魂を取り戻すんですか?】
【奴が人間であった頃の正体を暴いてやることだ】
【えぇー・・・わかるわけねーじゃん】
【それはわからないぞ。地獄の三大悪魔と呼ばれるほどだ。人間だった頃も偉大な人物だったか、とんでもない罪を犯したに違いない】
【そうかもしれませんけど、人間なんて第3次元だけじゃなくこの世界にもいるじゃないですか。とてもじゃないけど探し切りませんよ】
【まぁな。とりあえず、お前達が知る奴に関する情報は?】
尋ねられて、アンジェロと二人揃って宙を仰ぐ。
【3500年生きてるって言ってたな】
【あとはぁ、普段男の方が多いって事は、やっぱ男の人?】
【ちょいちょい第3次元来てるって、マーリンさんは言ってたよな。第3次元が発展するのを見てきたみてぇな口ぶりだったし】
【息抜きのつもりかな。あっちで100年経ってもこっちじゃ2週間くらいなんだろうし】
【だとすると、第3次元の人間の可能性が高いな。他には?】
聞かれて、今度は瞑目して唸る。
【なんかあったっけ?】
【そんぐらいしかねぇなぁ・・・・・】
ハァ、と落胆して息を吐くと、アルカードも同様に残念そうにして息を吐いた。
【まぁ、悪魔が自分の身元を明かすような事を言う筈がないしな。奴の正体に関しては、考えておくとしよう。何もこの件に関しては急ぐことはないからな。まだ時間はありそうだ】
その言葉に俄かに疑問を感じて、首をかしげた。
【時間って?】
【小僧は、形勢逆転が10年だと宣言した。もし悪魔が攻めて来るなら、10年以内に軍備を整えるはずだ。ならば、こちらで優先すべきことは5年で軍備を整えることだ】
【5年ですか・・・・・悪魔の軍団に立ち向かえる軍って、どの程度必要なんでしょうね?】
【数よりも強度だ。まずは兵の育成、武器の開発、戦術の考案が優先だ】
【その辺は戦闘に長けた奴が多いし、なんとかなるはずだ】
【そうだな。いいか、お前達】
言葉を切って、アルカードはミナとアンジェロに強い視線を向けた。
【5年だ。5年後の12月25日に大勝負に出る。それまでに国政は当然だが、悪魔対策に関してもそれぞれ指示をする。その間何があっても―――――この私を裏切ってくれるなよ】
その言葉と強い視線に、ミナとアンジェロは強く視線を返して、頷いた。
★人として真の偉大さに至る道はただ一つ。何度も酷い目に合う事だ。
――――――――――アルバート・アインシュタイン




