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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第4章 新天地で四苦八苦
54/96

なあ、とにかく話し合おうじゃないか





 【新王国名】 ヴァンピール・アル・ミレニウ・レガテュール

 【略式名称】 VMR

 【新国王】 アルカード・ドラクレスティ

 【内閣府】

 ・内閣太政大臣 藤原澪標ふじわらのみおつくし(妖怪としての種族名が山姫)

 ・内閣官房長官 アンジェロ・ジェズアルド

 ・外務大臣 クリスティアーノ・インザーギ

 ・内務大臣 ジョヴァンニ・マキァヴェッリ

 ・経済産業大臣 虎杖槐いたどりえんじゅ

 ・国防大臣 枸橘木賊からたちとくさ

 ・科学技術大臣 クラウディオ・フォンダート

 ・厚生大臣 柏木秀樹(ノーベル賞もらった人)

 

 【行政組織】

 ・内閣府組織

  外務省

  内務省

    -近衛

    -宮廷官吏

    -警察

    -検察

  経済産業省

   -金融

   -経済

   -産業開発

  国防省

   -国軍

  科学技術省

   -環境

   -開発

   -建設

  厚生省

   -医政

   -労働

   -社会保障


 ・内閣府外組織

  司法省

   -裁判所

   -立法審査会

   -公正委員会

  文部省

   -社会教育

   -文化振興

  農務省

  通信郵政省


 【議会】

 ・閣議 内閣府閣僚による閣議

 ・右院 政府官僚。各省庁の大臣及び長官 

 ・左院 市民より選出された議員



 新政府樹立でおかれた政治形態は、簡略化するとこんなかんじだ。

「スゲ、人員ギリで足りねぇ」

「ギリじゃねーよ。閣僚と官僚ばっかで、現場戦力も議員も足りねぇよ」

「また選挙と、職員採用試験だな」

 みんなで集まった会議室で、戴冠の準備と平行して政府作り。ちなみにミナは関わりたくないので、ビラを手書きから版画にすべく板を彫っている。

 山姫一族を迎え入れて200人近くになったものの、依然として人手不足。

 閣僚と上級の官僚だけで吸血鬼の人員を使い果たしてしまった。

「告知と一緒に募集出すか」

「だなぁ」

 今板を彫り終わって、意気揚々と紙に刷っているミナが聞いたら間違いなくキレる。

 それとは別件ではあったが、その意見にアルカードが反対した。

「なぜです? 明らかに足りません」

「では聞くが、バカみたいに役人を増やして、その賃金はどこから出てくるのだ」

「・・・あ」

「言っておくが内閣にはそれなりの給金を支払うが、それ以外は最低賃金からのスタートだ。税を下げるのであればそのくらいはせねば」

「マジですか」

「言っておくが、ある程度首都にまとまった人口が流入するまでは、採用する気はない。お前達は起きている時間を全て仕事に費やせ」

「マジですか」

「小僧が余裕だと言ったのだ。小僧に出来てお前達に出来ぬはずがない」

「余計なこと言いやがって・・・・・」

「いや、あの、若だからできるんですけど」

「若じゃねーよ。仕事中は官房長官って呼べ」

「ムカつく肩書きが付いたな・・・・・」

「とにかくそういうことだ。一つ言っておくが、市民に持て囃されて驕るな。市民が政策を何でも受け入れてくれるのは最初の内だけだ。安定し出すと市民は政治に文句を言わずにはいられない。それが悪政であろうと善政であろうと、だ。だから、最初の内にできること、やりたいことは一気呵成になさねばならん。躊躇してモタモタしている暇は一秒足りとてないのだからな」

「マジですか」

「一番忙しいのが建国から繁栄、一番大変なのが繁栄を安定させ、維持することだ。お前たちもよく肝に銘じておけ。でなければ政府や政権の権威など、幻のように消え去ることになる」

「マジですか」

「それともうひとつ、決して市民を甘やかすな。ネズミに一度でも餌を与えれば、毎日たかりに来るものだ。ある程度は厳しく取り締まれ」

「お言葉ですが陛下、陛下が我々に厳しいんですが」

「甘えるな。国の為に死ぬ覚悟をしておけ」

「マジですか」

「それが出来ない者に、用はない。さっさとここから出て行くことだ」

「・・・・・滅私奉公で頑張ります」

 この話を会議で持ち出す前に、アルカードは同じ質問をアンジェロにした。当然彼の答えは

「あぁ? 当たり前じゃねーか。それが出来ねーで何が政治家だよ」

 だ。ちなみにミナにも聞いた。

「えー、それはちょっと・・・・けど、アルカードさんの為に生きてアルカードさんの為に死ぬって約束しちゃったし、どうせアンジェロは即答でYESって言っただろうし。しょうがないなぁ、地獄まで付き合いますよ」

 アルカードは忠臣に恵まれたようだ。この頃ミナのビラ作りは終盤に差し掛かり、市庁舎に戻ってパソコンでビラを作ればよかったと、途中から参加してきた山姫の部下に指摘されて、ひどく落ち込んでいた。



 そんなこんなで会議を終えて、ミナ達もビラを刷り終わった。山姫の部下たちも、前もって用意していたコンパネに告知の旨を書き終わったようで、これからアリストと近隣に掲示板を建てに行く。

 首都圏以外の地域への伝達は、通信省から早馬を出させたり、隊商を使う事にした。

 首都圏には、ミナとアミンと双子を含めた、空を飛べるメンバーで空からビラをばら撒くことにした。アルカードとミラーカも飛べるが、当然二人は何もしない。

 大量のビラを携えて、

「じゃぁいってきまーす!」

 と、四散して飛び立った。


 パタパタと飛びながら、首都の街を見下ろす。こちらでの名称アキレマ大陸の真ん中あたりにある、首都アリスト。東側には広大な湖が広がり、西側には巨大な山脈の連なるのが上空から微かに確認できる、平原地帯。

 巨大な王宮の周りは城壁で囲われ、その周囲に東西40km、南北28kmの範囲にアリストが広がり、その首都を囲う様に城門が築かれ、城下の外では首都へと続く街道が四方から城門の前まで伸びていて、街道沿いには小さな集落が点在している。

 街道が道を別って蜘蛛の巣のように広がり、複雑化したところになると多くの民家が見受けられる。隣の市オガシクの市街と真ん中には市庁舎。

 この国は広い。平原地帯にはこう言った市がたくさん存在するのだろう。途中で道が切れているが、きっと西の山にもたくさん集落があるのだ。

 ここからでは見えない南の砂漠や常夏のビーチも、北の荒涼とした雪深い場所にも。この広大な国を見て、つくづく思う。

 ―――――本当に、私達がこの国を治められるのかな。広すぎて、行き届かない。


 現在、一国がこれほどの広範囲を纏めていられるのは、しっかりした行政システムと、現代の科学あっての事だ。

 文明が紀元前なこの世界では、国と呼ばれる地域の範囲は、日本で言う県に等しい。場合によっては市のレベルだ。

 例えばロダクエ大陸(こっちで言う南米)では、アルゼンチンの範囲に100以上の国が存在する。領土をめぐって国同士で小競り合い、勝った方は王族の分家を領主としておく。

 そうやって範囲を拡大して、王家の一族が支配下に置いた地域の領主を務め、または侵略した地域の王に服従と納税を誓わせ、その王家に政権を残すものの、間接的に支配し藩属に置く。

 侵略する側が欲しいのは、人口と領土。それらを求めるのは、つまるところ力と金だ。

 それらを求めアスタロトは戦争を繰り返し、この大陸全土を支配した。

 ―――――その為に、一体どれほどの人が犠牲になって、苦しんだんだろう。

 戦争では何人死んだか、そんな事は問題ではない。他人を殺してまで欲しいものがあるのだ、数など大した問題ではない。

 邪魔なら殺す、欲しければ奪う、この世界では、それが大原則。


 それが当たり前だからこそ、市民はミナ達を歓迎したのだ。少なくとも、そう言った原則、悪魔の理に囚われない者が存在しなかったから。

 アスタロトの政治が酷かったのは、ただの圧政ではなく悪政だったからだ。ただの圧政ならばまだよかった。

 厳重に取り締まり、少しでも反抗した者、罪を犯した者は処罰される。例えそれが「反論した」と言うだけでも。問題は処罰の対象が、それが悪魔に対してならば、と限定されていたことだ。

 つまりは、アスタロトはどうでもよかった。悪魔が気分よく暮らしていけるなら、市民たちが強盗に遭おうが、殺人に遭おうが、傷害事件に巻き込まれようが、知ったことではなかった。

 犯罪者はただ、悪魔たちから隠れていればそれでよかった。だから、アリストはとても治安が悪い。

 アンジェロもアルカードもその辺は十二分にわかっている。だから、アンジェロは市の法律を市民が最低限生活しやすいレベルまで緩めはしたが、今まで以上に厳密且つ緻密にすると宣言した。

 アルカードも厳重に取り締まり、それは圧政と呼べるほどのレベルになるかもしれないが、それを市民が窮屈だと感じたとしても、治安の維持、トラブルの回避など、結局は市民を守ることになる。

 

 優しさだけが政治ではない。為政者が市民に対応する時、その態度は常に一貫したものでなければならない。市民に対し、徹底して寛容であるか、徹底して厳格であるか、そのどちらかだ。

 中途半端に甘やかせば付けあがる。中途半端に厳しくすれば異論が上がる。ニュースをよくご覧になれば、某国の政治の中にどっちつかずの対応がいかに“悪”であるかはわかると思う。

 ―――――あ、そっか。だからアルカードさんは、中立が絶対悪だって言ったんだ。

 現代の日本やアメリカならいざ知らず、ミナ達の治めようとしている国や周辺国の考え方は実にシンプルだ。

 譲歩して妥協、折衷案、こんなものはバカバカしい。伸るか反るか、やるかやらないか、常に選択を迫られる。

 ―――――って言うのを考えると、アルカードさんは勿論、アンジェロも政治家向いてるんだなぁ。



 そんな事を考えていると、携えているビラはいつの間にか空っぽになっていた。下では、ミナに気付いた子供が手を振っている。その子供に手を振りかえして、市民を見下ろす。

 アリストは様々な種族が集い、混在している。大多数を占めるのがディアリ族。人間と、デミヒューマンと呼ばれる小人族。ミナ達吸血鬼同様の夜族。森や川、湖の近くには妖精が住んでいる。森には魔物も住んでいて、たまに人間やデミヒューマンを襲ったり。

 ―――――なんか、アレだな。冒険者とかいそう。ギルドとかあるのかな。

 何となくがっぷりファンタジーの世界。が、ミナ達は冒険者でなく為政者なので、その辺は関係ないし、暴れん坊がいたら軍を動かして討伐に差し向けるだけだ。


 問題はそんなファンタジーよりも政治だ。とりあえず、先に紹介した内閣を見て、「オヤ?」と思われたかもしれないが、ミナは内閣の閣僚ではない。

 科学技術省の大臣はクラウディオで、ミナは科学技術研究所の所長だ。一応実質的トップはミナなのだが、アンジェロとアルカードが、

「会議でミナと話したくねぇ」

「政治的にはクラウディオの方が適役だ」

 と言うので、ミナは大臣職からは外されたわけだ。言われてムカつきはしたが、よく考えると会議中寝てしまいそうだ。

 と言うよりこの二人は、二人が提案する厳しい政策に、甘ちゃんのミナがギャーギャー文句を言うのは目に見えている。説得は可能だが、そこに行きつくまでが非常に面倒くさいので、邪魔者を放り出しただけだ。

 そんな事とは露知らず、拳を突き出し空に掲げるミナ。

 ―――――私の仕事は研究あるのみ! 頑張るぞ!

 適材適所の把握も、トップとしては重要な資質だ。



 ビラを配り終わって王宮に戻ると、一旦都庁に戻る、とアンジェロが言った。

「議員たちほったらかしだしな」

「あ、そっか。ていうか、あっちの荷物とかどうするの? 私達も王宮に住むんでしょ?」

「シュヴァリエの奴らはな。俺らの居住地は都庁舎。あそこは俺達一家の宮にする」

「じゃぁ王宮に通勤なんだ。なんかサラリーマンみたいだね」

「異次元に来て、やっと人間ぽいことになったな」

「アハハ、本当だ」

 ちなみに山姫は王宮の一角にある離宮に住む。アルカードは当然ながら、シュヴァリエとミラーカとボニー&クライドは王宮住まいだ。どうせ王宮に行かなければならないのだから、移動が面倒なので王宮に行こうという事になって、庁舎に寄った時に既に荷物は運びだしている。

 が、アンジェロはアリストの知事(アルカードが勝手に市長から知事に改定した)と言う立場もあるので、居残ることにしたのだ。



 アンジェロと二人で庁舎に戻ると、早速掲示板を見たらしい議員が詰め寄ってきた。

「市長! なんですかこれ! どういうことですか!」

「市長じゃねーよ。知事若しくは官房長官と呼べ」

「えぇ・・・本当、あなた方は・・・・・」

「知事は大した方だと思ってましたが、あまり驚かされると寿命が縮む思いがします」

「ハハハ、どうせ長生きなんだから大したことねーだろ」

「そう言う問題でしょうか・・・」

 驚きつつ呆れた議員だったが、思い立った顔をしてアンジェロに向いた。

「そう言えば、このケーコートーとか言う灯りは、スゴイですね」

 そう言って天井を差した。そしてクミルも紙を掲げた。

「この紙も、スゴイですね。パピルスなんかよりも書きやすくて、このペンというのも。知事のいらっしゃったところは、すごいところなのですね」

 クミルの手には議事録用に買ってきたルーズリーフと、ボールペンが握られている。こちらのパピルスは微妙に黄色く、表面もざらついて凹凸がある。議員たちも一緒になって試し書きでもしたのか、一枚だけ落書きされた紙が捨ててあった。

「まーな。俺らのいた所には人間しかいねぇから。魔法なんかも使えねぇし、魔法だのなんだのが発達しなかった代わりに、科学が発達した」

「そうなのですか。科学とはすごいのですね」

「そーだ。その科学の真髄を頭に叩き込んだ科学者がこっちには何人もいるからな。この国も科学を発展させてやる」

「科学が発展したら、どうなるのですか?」

 議員とクミルは目を輝かせて、ワクワクと尋ねてくる。その様子にアンジェロと笑った。

「えっとね、私達はお洗濯を自分でしてなかったよ」

「え、ではどうするのですか?」

「洗濯する機械があってね、その中に服と洗剤を入れたら勝手に洗濯してくれるの」

「へぇ、それはすごい」

「もっとスゲェのは、星ひとつ破壊できる兵器がある」

「えぇっ!」

「ちなみにソレはミナが作れる」

「材料があればね」

「えぇっ! 作る気ですか!?」

「作らないよぉ。でも、必要に迫られたら作るよ」

「・・・・・必要に迫られることが起きないことを、願います」

「そりゃなぁ。俺もそう願いてぇな」

「だねぇ。その辺はアルカー・・・・陛下次第だね」

 そんな話をしていたら、ようやくアンジェロが無駄話だと気付いたようだ。


「じゃねーよ、あのな、政府の事でお前らに話があったんだ」

 そう言われて、議員もアンジェロがやって来た理由があることに気付いて、落ち着いた。

「とりあえず、お前らは今から国会議員な」

 その言葉に、議員たちは鳩がミサイルを食らったような顔をした。予想していたのか、アンジェロはその様を無視して続ける。

「俺ら政府側は右院、お前ら市民代表は左院。国とアリストの議会と掛け持ちな。アリストの方は現状維持。国の政策については一回ここで議論して、ある程度まとまってから国会に提出する。わかったか?」

「・・・・・」

 わかったようだが、わかりたくないらしい。

「知事、お言葉ですが、我々には荷が勝ちすぎます」

「気のせいだ」

「気のせいではありませんよ!」

「気のせいだ。んなモン気の持ちようだ。やろうと思えば大概の事は何だってできんだよ」

「限界があると思うのですが」

「男ならウダウダ言わねぇで限界突破して見せろ」

「・・・・・」

 議員と言えど、アンジェロには口では勝てないようだ。

「つーわけで、他の奴らは国政の方に移ったから。一先ず俺らで市と国の行政掛け持ち。議事録見せろ」

「え、あ、はい。一応会議で出た意見を全て資料としてあります」

「この意見を元に政策を練って戴ければ、と」

「お、やるじゃん。この分ならお前ら国会議員も何とかなるぞ」

「・・・・・そうでしょうか」

「そうそう。俺が言うんだから間違いねぇ。そもそもお前らが選出されたのは、俺の提示した条件に見合う優秀な市民だからだ。市民が選んで、俺が採用した奴なら間違いねぇ。この議事録見りゃ一目瞭然だ」

 議事録には議題についての意見、その意見に対する賛否と解説が詳細に書き込まれている。アンジェロはせいぜい意見くらいだろうと思っていたようなので、嬉しい誤算だったようだ。

「少なくとも最初のうちはな、意見てのは出れば出るほどいいものなんだよ。その点お前らは細かい事までよく考えてるし、議員に向いてる。国会での議員の意見は市民の叫びだ。お前らは市民の叫びを拾って、俺達に提案する。政府にはそう言う存在は不可欠だ。お前らには期待してるし、信頼してる。お前らならやっていける。議員がいなきゃ俺らだけじゃどうしようもねぇんだよ。だから、これからもついてきてくれるだろ?」

「はい」

「頑張ります」

 アンジェロが言うならそうかもしれない、と議員たちは飲み込むことにしたようだ。

 ―――――うわ、丸め込まれちゃった。アンジェロのコトバ責めって誰にでも通用するんだな。

 政治や会議では頭は勿論、口の巧さがものを言う。お口が達者に生まれ育ったこの官房長官は、結局のところ政治家に向いていたようだ。




★なあ、とにかく話し合おうじゃないか。民主主義の根底は、話すことなんだ。話せばわかることなんだ。

――――――――――田中角栄

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