表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第4章 新天地で四苦八苦
53/96

逆境には必ずそれよりも大きな報酬の種が隠されているものだ




 一度に余りにも多くの事態が発生して、吸血鬼たちは大混乱だ。

 それを、山姫が鎮めた。

「落ち着きなさい。とりあえず、当初の目的、王位と領土の簒奪は達成できた。ミナのことを考えるのは後からでも遅くはないはずよ。今は火急を要する用件があるんじゃないの?」

 諭されて、アルカードとアンジェロも落ち着きを取り戻して、大きく溜息をついた。

「あぁ、そうだな」

「すみませんでした。とりあえず、これで山姫さん達の居住地も確保できたし、あとは新政府、新王就任の告知を出して、戴冠の準備ですね」

「そうね。あたし達は一先ず引っ越しを済ませるわ。告知や戴冠式の準備は手が空いた人から手伝いに行かせるから」

「あぁ、頼む」

 段取りが決まると、山姫達はすぐに引っ越しに取り掛かった。



 話を聞いて、アスタロトの腰かけていた玉座に目をやった。

「アンジェロ、大変じゃない?」

「なにが?」

「だって、市長なのに国王もするんでしょ?」

 尋ねると、アンジェロは眉を寄せて顔を歪めた。

「はぁ? 何言ってんだ。なんで俺がそんな面倒くせーことしなきゃいけねーんだよ」

「えぇ? じゃあ王位とかいらないじゃん!」

「や、いる。当然この国を治めるのは、アンタだ」

 そう言って、アンジェロはアルカードに振り向いた。予想はしていたはずだが、溜息をついている。

「面倒だからと私に押し付ける気か」

 その反論にアンジェロはいたずらっぽく笑う。

「当たり前じゃねーか。国王できそうな奴なんて、アンタ以外に誰がいんだよ。大体、俺は本来2番目か3番目で威張ってんのが性に合ってんだよ。俺がアンタを王にしてやっから。俺らで仕事の補佐もしてやるし、アンタはせいぜい、いつも通り何もしねーで偉そうにしてろ」


 アンジェロの言葉を聞いて、アルカードは声を上げて笑い出した。爆笑するアルカードの様子を珍しそうに不思議そうに、そして不審にアンジェロは覗き込む。

「なに笑ってんだよ」

「くっくっく、いや、なんでもない。まさかまた国王に返り咲くとは思わなかったのでな」

「ハッ、よく言うぜ。俺が王位の簒奪を狙ってるって気付いた時点で、アンタに王位を回すなんてことは、すぐに読めたろ」

「フン、さぁな」

「ま、いいけど。まずは国の統治。国内の生活、経済、科学技術水準の向上。それが十分に発達したら、人間と協定でも結んで南米に逃げた悪魔の国でも攻めようぜ」

「国盗りか。盗る側に回るのは、楽しそうだ」

「俺らには娯楽がねぇからな。せいぜい楽しもうぜ、国王陛下」

「フン、生意気な。くっくっく、国王陛下か。いずれは皇帝陛下と呼んでもらおう」

「ハハハ、そうこなくっちゃ」

 他国の簒奪を企てはじめた気が早く真っ黒い二人に、全員が「信じられない・・・」と驚きと呆れと畏怖の視線を集める。

「あの、アンジェロ、アルカードさん、本気?」

「ミナ、気安く名で呼ぶな。陛下と呼べ」

「お前言っとくけどな、今までとは違うんだから、仲間内以外で気安く話しかけんなよ。下の奴らに国王がナメられてるって思われたら、一瞬で権威なんか失墜すんだからな」

「・・・・・アンジェロに言われたくないよ」

「うるせぇな、俺は人前ではちゃんとすんだよ」

 呆れるミナ。確かに、今となってはレアとなってしまった「執事アンジェロ」はかなりの完成度だ。

結局は新王にアルカードが就く事は決定したようで、アルカードも勿論、アンジェロも一回言い出したら聞かない。周りの者は大人しく従う以外にはないのだ。


 呆れる周囲の目など全く気にせず、国王と市長は楽しそうに語りだす。

「あー、楽しみだな。ハハハ、まさかヴァチカンの神父が国政に関わる日が来るとはねぇ」

「全くだな。吸血鬼の為の吸血鬼の千年王国を作ってやろうではないか」

「千年王国! いいねぇ」

 そうしていると、山姫が戻ってきた。

「話はまとまったかしら?」

 普段からは想像もつかないほど和気藹々と語るアルカードとアンジェロの様子に、どんな話になったのかある程度は想像がついたようだ。

「私にふさわしいポストって何かしら?」

「とりあえず、ここにいるメンバーを内閣とする。私は国王として独立した権力と、最終意思決定権を持つが、内閣の元首は山姫。山姫は小僧と共に政治の指揮を執れ。山姫は内閣太政大臣、小僧は今から首都知事兼内閣官房長官」

「あぁ、そうだ。シュヴァリエも役職変更。クリスは外務大臣兼官房副長官な。ジョヴァンニは宮内大臣、レミは副大臣。お前ら二人で憲兵隊を組織しろ。アミンは女官長な」

「ボニーとクライドは金には細かいから、お前達で財政と経済を管理しろ。山姫の部下で経済産業省を作り、経済に精通している者を大臣に置き、二人を教育しろ」

「わかったわ」

「ミゲルは山姫さんの下で情報機関を立ち上げろ」

「それと、山姫の部下、侘助の隊長枸橘からたちを国防大臣に置き、主要戦力を将とした軍を組織しろ」 

「わかったわ」

「ミナは科学技術省長官な。ヨハン以外のメンバーに変更はねぇ」

「え? じゃぁ俺は?」

「ヨハンは軍事開発研究の顧問をしろ」

「オリバーは医者やるなら科学省の医療チーム作れ」

「エドワードとルカは司法機関を作れ」

「リュイは文化・学問の普及な。子供たちはそれぞれ補佐に着けよ」

 瞬く間に役職を決めていく仕事の早い二人には全員脱帽した。と言うよりも唖然としてしまって、開いた口が塞がってくれない。しかも返事はYES以外は許されない。


 なんだかとんでもないことになったぞ、という周囲の動揺など、勿論この二人は意にも介さない。

「おっしゃ、そうと決まれば早速戴冠式の準備だ」

「お前ら、グズグズするな。さっさと告知の用意をしろ」

「えぇ!? 今からですかぁ!?」

「当たり前じゃねーか。オラ、さっさとしろ」

「もう、なんでそんなにせっかちなの・・・・・」

「「さっさとしろ」」

「・・・・・」

 どう考えても性急すぎる二人に全員で溜息だ。しかし、この二人が組んだら誰も刃向えないと察して、全員大人しく準備をしに謁見の間を出た。



 みんなが出て行った謁見の間で、出て行く背中を見送っていたアンジェロに、玉座に満足げに腰を下ろしたアルカードがクスッと笑う。

「お前、大した男だな。国を作ろうなどと、現代人のくせによく考えたものだ」

 その言葉にアンジェロも笑ってみせる。

「アンタ程じゃねーよ。俺らみたいなのが臣下にいたら、アンタは吸血鬼になってなかったんだろ。人が失敗すんのは当然のことだけど、同じ失敗を繰り返すのはバカのやることだ。優秀な臣下が手に入ったんだ、今度こそアンタの理想郷を作れよ」

「フン、お前に言われるまでもない」

「ハッ、アンタやっぱムカつくヤローだぜ」

「クソ生意気でイカレた小僧に言われる筋合いはないがな」

「自己中化け物クソジジィがよく言うぜ。イカレてんのはお互い様だろ」

「そうかもしれないな。だが小僧、政治も悪魔との戦いも、本番はこれからだ。決して気を抜くでないぞ」

「わーってる」

「本当にわかっているのか? 悪魔がお前の願いをミナの願いとして叶えることはわかっていただろうに、油断して3つも願ったではないか」

「! アンタわかってたのかよ!」

「なんだ、お前わからなかったのか。まだまだだな」

「うるせぇ! つか、わかってたなら止めろよ! 3つもミナの命縮めちまったじゃねーか!」

「かといって、ああ言わなければこの玉座が私のものになることはなかったのだから、仕方あるまい」

「テメー、王位とミナとどっちが大事なんだよ!」

「勿論どちらも手元におくつもりだ」

「マジムカつくんだけど! どーすんだよ!!」

「落ち着け、策はまだある」

「・・・あんのかよ。なに、どーすんの」

「今はまだ秘密だ」

「なんでだよ! 腹立つ!」

「・・・お前の短気さは何とかならんのか」

「うるせぇ! 教えろって!」

「“陛下、お教え願えますか”だ」

「陛下、お教え願えますか?」

「・・・・・異様に素直だと気味が悪いな」

「もうアンタどっちだよ! 腹立つ!」

「あぁ、うるさい。いい加減黙れ」

「テメーがいい加減にしろ!」


 敵同士は真祖と眷属になり、ついには国王とその右腕になったものの、結局この二人の険悪さに変わりはないようだ。

 が、アルカードもアンジェロも男だ。男に生まれたからには偉くなりたいもの。なんだかんだで権力万歳。

 将来が楽しみな二人はハイテンションで大ゲンカしながら、今後の国の未来を語った。



★逆境には必ずそれよりも大きな報酬の種が隠されているものだ

――――――――――ナポレオン・ボナパルト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ