帰る場所であるように
「ひょっとしたら、と思っとったんじゃ」
着いて早々マーリンはそう言った。来るような気がしていたらしく、アルカード達が口を開く前からアルカードに上着を脱げと言う。
「全く、大した魔術師だ。読心術まで使えるのか?」
「そこまで人間離れしとらんわい。この世界から出ていくなら、封印を施す必要もないじゃろうて」
「あぁ、封印を解いてくれ」
マーリンの読み通り、アルカードは解約を申し出た。アルカードが上着を脱ぐと、マーリンはアルカードの背中をナイフで切り裂き、血を抜き取った。
そして、何やら訳のわからない言葉を呟いたかと思うと、アルカードの白く滑らかな肌に、2匹の竜のウロボロスがはいった魔方陣が浮かび、そこから瘴気が一気に放出された。
その瞬間、ドクンッと心臓が跳ねた。
「う、わ!」
「「伯爵、強かったんだ」」
アルカードの周囲を覆うように、赤い霧がたゆたう。少しすると霧はアルカードの体に溶け込むように消えた。
アンジェロのような敏感体質でなくともわかる。アルカードの強烈で禍々しく、圧倒的な魔力が。
足元にも及ばない、その力量の差。絶対値の差。全身に鳥肌が立って総毛だつ。心臓の鼓動が速くなって、精神が高揚する。
ミナの中に流れる血が言っている。アルカードは間違いなくヒエラルキーの頂点だ、と。
今まで自分はとんでもない男に仕えていたのだと、改めて畏怖した。
「すっごい・・・双子と同格かそれ以上じゃないですか」
「さあ、自分のことはよくわからんな」
「伯爵ってすごかったんだ」
「ねー、今度僕達に組み手教えてよ! クリス兄ちゃん、上手だけど弱いんだ」
「ははは、気が向いたらな」
自分たちとほぼ同レベルだと知った双子は、相手になりそうなアルカードに喜んだ。この双子は既に対人格闘においては敵なしだ。
「ていうか、じゃあ封印解いたってことは、休眠期は何年になったんですか?」
「10年だ」
「そうなんですか! わーい! 起きてる時間は!?」
「それは変わらず65年だ」
「えー、短ーい。あと30年しかないじゃないですか!」
「うるさい」
「伸ばしてくださいよ!」
「バカ者。無茶を言うな」
上着を着ながら、アルカードは呆れたように溜息だ。その様子にマーリンはクスクスと笑う。
「ほっほ。キャンセル料として血を貰ったからの。1年くらいは伸びとるかもしれんぞ」
「・・・そんなに多額のキャンセル料が要ったのか」
「当たり前じゃ。まぁ、普通の吸血鬼なら大打撃じゃろうが、お前さんには大したことないじゃろうて」
「まぁ、そうだな」
二人の話を聞いて喜んだと同時に、解約の手続きの事を思い出した。
「マーリンさん、あれ何て言ってたんですか? 何語ですか?」
思いついたようにアルカードも
「そうだ、私も何と言っているかわからなかったのだが」
と言って、アルカードでも知らない言葉ならアフリカ大陸あたりの言葉だろうか、と考えていたら、マーリンが言うには、ラテン語らしい。
ミナはラテン語はわからない。が、アルカードにはわかるはずなのだが、なぜ理解できなかったのか。
「ラテン語の文章を逆から詠唱したんじゃ。あの呪文を録音でもして逆再生すれば、普通に聞こえるはずじゃよ」
「え、しれっとすごいんですけど。何て言ったんですか?」
「偉大なる3つのヘルメスの御名において、我マーリン・アンブロジウスが命じる。竜王の名を継ぐ者よ、滅びの民よ、血の契約を解き放ち、紅き龍と白き龍のエリクシールを解放せよ。と言ったんじゃ」
「そんな長文を・・・何気にすごいですね」
感心していたが、聞きたいことは頭の中でポコポコ浮かんでくる。早速質問タイムだ。
「紅き龍と白き龍のエリクシールってなんですか?」
「エリクシールはミナも知っておろう?」
「はい。けど、赤と白の龍ってどういうことですか?」
「まぁそれはものの喩えじゃな。錬金術においては表と裏、男と女、太陽と月の様に対になった力が存在するのは知っておるな」
「あぁ、はい。陰と陽の循環で色んな種類の力が発動して、そのバランスが生命を維持してるんだとか」
「そうじゃ。で、アルカードの場合じゃが」
頷いたマーリンはそう言いながら、アルカードに視線を移して
「お前さん、錬金術師じゃな」
と言った。えっ、と驚くミナをよそに、アルカードは不遜にフッと笑う。
「なんだ、気付いていたのか」
「当然じゃわい。しかも並ではないのう。お前さん生前に相当研究したな」
「あぁ」
「その研究の成果が、あの使い魔じゃな」
「そうだ。さすがだな」
「全く、お前さんも大したもんじゃわい」
「伊達に竜王の名は継いでいない」
「ほっほ! やっぱりのう! そうじゃないかと思っとったんじゃ!」
ミナと双子はほったらかしで、オッサンとジーサンは盛り上がる。いい加減に説明が欲しい。
気づいたらしく、やっとマーリンがミナに向いた。
「ミナ、不思議に思ったことはないかね?」
「え?」
「吸血鬼は基本的に似たような事を考えるもんじゃ。わしと出会う前に、アルカードも何人か吸血鬼に会ったことがあるだろうが、アルカード程の吸血鬼には会ったことはないはずじゃ」
「あぁ、そうでしょうねぇ。それが?」
「なのに、何故アルカードは知っておった? 吸血鬼に棺が必要なこと、土が必要なこと」
「そう言われてみれば・・・」
「それだけではないぞ。使い魔を使役できる者などそうそうおらん。どうやって使い魔を作り出した? その方法は? そもそも何故そんな事を思いついた?」
「あっ、確かにそうですよね。どうしてですか?」
ミナはアルカードがいたために、吸血鬼化した時点で色々と聞いた。だが、アルカードは真祖だからたった一人のはずなのに、既に吸血鬼について色々なことを知っていた。
ミナと出会った時点で500年以上生きていたのだからそれは不思議ではなかったのだが、棺の件や使い魔の事は、最初から知っていないと生きてはいられなかったはずなのだ。
たった一人、真祖のアルカードに師匠となるような存在でもいなければ、あり得ない。
尋ねると、アルカードはやはり笑った。
「さぁな。自分で考えろ」
「えぇー! ケチ! 教えてくれたっていいじゃないですか!」
「誰がケチだ。お前も錬金術を勉強したのだ。自分で考えろ」
「錬金術が関係あるんですか。そう言えば、錬金術勉強しろってアルカードさんに言われたんでしたね。えー、なんだろう・・・」
考え始めるミナ。そもそもアルカードに言われて錬金術を学んだのだ。しかもアルカードも色々教えてくれた。よく考えれば、アルカードが錬金術師だったとしても、まったく不思議ではない。
考えていて、一つの可能性に辿り着いた。顔を上げてアルカードを見ると、笑った。
「正解」
「ウッソ! 本当ですか!?」
「あぁ、そうだ」
「マジ!? すっご! 確かに並の錬金術師じゃないですね! あぁ、そっか! アルカードさん大食いだから!」
「大食い・・・まぁ、そうと言えばそうだが。だからこそ可能だったわけだ」
「成程! さっすが、さすがですね! もうさすがとしか言えません!」
ミナ、大興奮。つくづく、何やらせても人並み以上なアルカード。この男には性格以外に欠点は無しだ。
しかし、やっぱり意味不明な双子。
「なにー?」
「わかんないー」
口を尖らせる双子に、アルカードとミナと揃って悪戯っぽく笑った。
「ヒミツー!」
「研究の成果は無闇に口外できん」
「えー! なんだよ、ケチ!」
「伯爵のケチ!」
「誰がケチだ」
錬金術師に限らず、あらゆる匠や達人、術師と言うものは、弟子以外には技や術や秘伝などを伝えないものだ。当然双子にはヒミツだ。
つくづく偉大なアルカードにミナは興奮させられっぱなしだ。性格を除けば、これほど完璧な師匠はいない。
「もう、ホンットアルカードさんって、私の偉大なマスターですね!」
「当然だ。バカ下僕」
「バカは余計ですよ!」
「そうでもない」
確かにそうでもない。不服ではあったが、アルカードに言われたら否定できないことに気付いて、悲しいかな、納得せざるを得なかった。
とりあえず「竜王の名を継ぐ者」というのは、アルカードの生前の親子二代にわたるあだ名に由来するものだ、ということで、質問タイムは終了された。というより、段々アルカードが面倒くさくなったらしく、打ち切られた。
打ち切ったところで、「ところで」とアルカードがマーリンに向いた。
「以前から気になっていたのだが、双子は成長が止まっているな?」
「その様じゃのう。もうそろそろ14歳じゃろう?」
「うん、来週誕生日」
「別に今のままでもいいけど、なんで止まったんだろうね?」
みんなで首を傾げると、アルカードが口を開いた。
「私の場合覚醒は65年、休眠期は10年。山姫は覚醒が35年、休眠期が15年だ。ひょっとすると、双子は休眠期前で成長が止まったのではないか?」
その発言に、全員が驚いた。確かに言われてみれば、アルカードは今力を得たからこのスパンで覚醒と休眠期を繰り返しているわけだが、双子は生まれながらにアルカードと同等の強さを持っている。
アルカードや山姫よりも休眠期が長く、覚醒期が短くとも、なんら不思議はない。
「えぇー! じゃぁ僕達もう眠っちゃうかもしれないの!?」
「確かにその可能性はあるのう。何と言っても純血種じゃし、吸血鬼の中の吸血鬼じゃからのう」
「えー、じゃぁ僕らは寝たらどのくらいで起きるのかなぁ」
「それこそ30年くらいかもしれないぞ」
「ヤダー! そんなに寝てらんないよ!」
「10代20代が一番楽しいって漫画に描いてたのに! それを寝過ごすなんてヤダ!」
「・・・吸血鬼には無関係な年代だぞ」
「確かにそうですね。私もアンジェロも、10代はともかく20代は散々でしたから」
「ほっほ、そうじゃぞ。そんな若い頃よりも、ある程度年を取ってからの方が楽しいもんじゃわい」
「えーっ、でもヤダ!」
「寝ている間は“記憶の海”を漂って、夢を見ているだけだ。昔の事を振り返って、記憶を整理する期間が休眠期だ。ただ眠って夢を見ているだけなのだから、寝ている方にはあっという間だ」
「あぁ、やっぱりそう言うものなんですね」
待っている方はかなり待ち長かったと言うのに、その辺は人間同様寝ている時間はあっという間のようだ。
納得したのかしていないのか、結局双子は不服なようだが、自分自身の力ではどうしようもないことなので、諦めることにしたらしい。
「起きたらさ、伯爵の時みたいに、知らない人が増えたりしてるんだろうね」
「増えるならいいけどさ、減ってたらヤだよね」
「それはヤだねー。伯爵、減らさないでね?」
「無論だ。言われずともわかっている。無闇に増やす気もないがな」
アルカードが自信満々にそう言ったので、双子も少しは安心したようだ。双子としては、自分達が寝ている間に面白イベントを逃してしまう事が惜しいようだ。
「だってさー、僕らが寝てる間に妹とか弟が生まれてたらヤじゃん」
「だよね。弟妹に、誰? とか言われたら、僕泣くよ」
「ていうか、今更兄弟増えるのもちょっとね」
「なんかヤだよね」
「でもお父さんがアレじゃぁね」
「わかんないよね」
「なんか怖いよね」
二人が幼かった頃は両親がイチャついているのを見て喜んでいたが、思春期を迎えた二人には、なんだかイヤな光景らしい。この二人が普通の中学生だったら、絶対家に友達を招きたくないはずだ。
「お前らの親仲良しすぎて、なんか気持ち悪いな」
「俺だったら自分の親のキスシーン見た日には、家庭内暴力の引き金になるぞ」
と、友達にコメントされること請け合いだ。
その事にミナはやっとのことで気づいて、あまり教育にもよろしくないと思ったのか、自重しようと決めた。
最後に、とアルカードが改めてマーリンに向いた。
「マーリンも、行かないか?」
アルカードだけではない。マーリンはミナ達にとっても有用な人物だ。彼を本当におじいちゃんの様に慕っていた双子も、アルカードの言葉を聞いてしきりに誘い始める。
「そうだよ、おじいちゃんも一緒に行こうよ!」
「おじいちゃんあっちの世界なら、こんな風に隠れなくても平気だよ!」
誘いを聞いて、マーリンは少し淋しげに笑う。
「ありがたいが、わしは行けんよ」
「なんでー!」
「行こうよ!」
双子は手をブンブン振って地団太を踏み、しきりに誘う。が、マーリンは頑なに行けないと言って謝る。
「なぜだ?」
アルカードの問いかけと同時に、エレインが別室から入室してきた。双子の熱烈なハンティングが聞こえていたのか、エレインも少し淋しげに笑って、マーリンの肩に手を置いた。
「わしは、ここから出る事はできんのじゃ」
「そんなの、エレインさんが結界を解けばいいだけの事じゃないんですか?」
「そうではない。わしは、ここを出たら死ぬ」
「・・・それは、肉体の時を止めた魔法に関係するんですか?」
「そうじゃ。そうでなくとも、わしはここから出られぬのじゃ」
マーリンがそう言うと、エレインも悲しげに目を伏せた。
かつて、湖の乙女は3人いた。その内2人はマーリンの弟子として傍にいるようになり、一人は未だに湖で暮らしている。
エレインともう一人の妖精、ヴィヴィアン。彼女はいつしかマーリンに強い愛情を抱くようになり、マーリンもヴィヴィアンを愛するようになり、二人は愛人の様になった。
しかし、ヴィヴィアンはマーリンを独り占めしたくて仕方がなかった。エレインを、殺そうとした。
それをマーリンが止めたことに怒り狂って、止めようとするマーリンにすら攻撃を仕掛けた。その戦いの中で、マーリンはヴィヴィアンに傷を負わせてしまった。
最後の力を振り絞って、ヴィヴィアンは呪いをかけた。
「私よりも、エレインの方が大事なのですね。ならば、永遠にそうするがいいでしょう。永遠に二人だけで、二人とも、二人だけでどこにも行けなくなってしまえ!」
最後にかけた呪いによって、マーリンとエレインはこの地に封じられた。人だけでなく、妖精や妖怪が死の間際に放つ呪いは、それはそれは強大なものである。
呪いと結界と魔法。3重の魔力によってマーリンは永遠に時を止め、不死の存在となった。ここから出ては一瞬で死んでしまうが、そもそも呪いの為にここから出る事は出来ない。
最初の内は何とか呪いを解こうと思ったが、マーリンもエレインも、ヴィヴィアンの事を思うと、その呪いを甘んじて引き受けようと言う気になってきて、そうして二人だけで生きてきて、もう1000年以上の時が流れてしまった。
マーリンもエレインも、ここから出る事は出来ない。誰も二人の元を訪れてくることはない。よからぬ輩くらいしか、彼らの元に現れてはくれなかった。
だから、エレインが新たに結界を張った。マーリンの魔力を利用しようとするだけの者は、遠ざけるように。仮にマーリンの力を求めていたとしても、せめて、マーリンを慕ってくれるような心の清らかな者が、近づいてくれるように。
「わしはもういいんじゃ。ここから出られないことはな。ただ、アルカードやミラーカ、ミナや双子たちに出会えて、わしはその事がとても嬉しくてのう。わしはこれからもこっちでずぅっと生き続ける。じゃから、たまに戻って来た時に会いに来ておくれ」
「はい、勿論です」
「絶対来る!」
「お土産いっぱい持って来るね!」
「ほっほ、有難いのう。異世界のお土産とは、楽しみじゃな。なんなら、双子の休眠期中はわしの屋敷を別荘代わりに使うてもよいぞ。こっちとあっちでは時間の流れが違うんじゃろ。こっちで30年でもあっちじゃ2,3日じゃろう」
「えぇ、でもそれはさすがに悪いですよ」
「わしは構わんぞい。純血種が休眠期にどう過ごしているのか、観察しても見たいしのう。休眠期の間に漂っている“記憶の海”がどんなものか、双子なら話してくれそうじゃしな」
性格上、アルカードやミラーカは話してはくれなさそうだ。マーリンがいいと言うのならお願いしようか、と考えていたら、「もう一つ」とマーリンが続けた。
「先程から気になっておったのじゃが、ミナ、その剣は?」
マーリンがミナが携えていた長剣を指さした。
「あ、これはデュランダルですよ」
というと、マーリンはしわのある額に更にしわを寄せて、目一杯目を見開いた。
「なんと! デュランダル!」
「はい。イスラムの使徒とか言う人たちが持ってたんです」
「ほっほ、道理で双子が妙にミナと離れてると思ったら、まさかデュランダルとは、驚いたのぅ」
マーリンは立ち上がって、ミナの前に来ると屈んでデュランダルに手を伸ばした。
「なるほど、本物じゃな」
「やっぱりそうなんですね。道理で気持ち悪いはずです」
「ちょっと、見ても良いかね?」
「えぇ、どうぞ」
差し出すと、しげしげとそれを見つめて、マーリンは柄を開いた。その瞬間、中から真白くまばゆい光が放たれて、ゾクリと悪寒が走り、双子は悲鳴を上げて立ち上がり部屋の隅に逃げ、蹲ってガタガタ震えた。
「な、あ、なんですか、それ」
アルカードの陰に隠れるように必死にしがみついて言うと、マーリンは可笑しそうに笑っている。
「この剣には聖遺物が納められておっての、ホレ、聖骸布の切れ端じゃ」
「ヒィィ! 近づけないでください!」
「ほっほっほ、ミナはリアクションが大きくて面白いのぅ。さすがのアルカードも、聖遺物は気持ちが悪いようじゃなぁ」
見ると、珍しくアルカードの顔色が悪い。さすがに聖遺物レベルとなると、アルカードにも堪えるようだ。
マーリンは聖骸布の切れ端をつまんでいた手をミナ達から少し離して、ミナに向いた。
「お願いがあるんじゃが、この聖骸布、譲ってくれんかの?」
その問いに、何とか顔を向けた。
「でも、それがなくなったら、ただの剣になるんじゃ・・・?」
「コレがなくても、この剣は十分に聖剣じゃよ。代わりと言っては何じゃが、わしが魔法をかけよう。退魔ではなく、ミナが斬りたいものを斬ることが出来て、絶対に折れない魔法じゃ」
「あ、そういうことなら、どうぞ。それは差し上げます」
「ほっほ。ミナは物わかりがいいのう。ありがとう」
言うが早いかマーリンは聖遺物を服の中に押し込んで、剣に手をかざして何やら呪文を唱えた。その瞬間に剣が光を帯びて、青とも緑ともつかない光を纏い始めた。
「これでよい。何か試しに斬ってみるかね?」
渡された剣は、聖遺物を取り除いたためか、さほど気持ち悪くはなかった。心なしか、軽くなった気もする。
「じゃぁ、絶対に斬らないので、アルカードさん斬っていいですか?」
「やってみろ。その瞬間にお前は犬の餌だ」
「ごっ、ごめんなさい」
今にも殺されてしまいそうな形相でアルカードに睨まれ、大人しく引き下がった。マーリンが笑いながら紙切れを差し出す。
「これでやってみぃ」
マーリンが紙を掲げて、やってみなさい、と手招く。なので、絶対に斬らないぞ、と思いながら、紙を斬りつけた。
軽く切りつけたのだが、普通なら紙はスパンと切り落とされるはずなのに、剣先は紙を撫でただけで、紙には斬り込み一つ入っていない。
「え、ウソ、スゴイ」
紙の下端を持って、剣先で突いてみても紙は切れない。感心して、今度は斬ると思いながらつつくと、いとも簡単に剣先は紙を貫いた。
「おぁ、スゴイ!」
「ほっほ、魔法も確かに効いとる様じゃな」
「これはすごいですね! ありがとうございます!」
「聖遺物を貰ったんじゃ。このくらいはのぅ。餞別じゃ」
斬りたいものは斬れる。斬りたくないものは斬れない。ミナとしては嬉しい魔法だ。誤って身内を斬り殺してしまうような事故は起きなくて済みそうだ。
アルカードがもう用事は済んだと言うので、改めてお別れだ。
「マーリンさんには本当に、何から何までお世話になって。ありがとうございます」
「良い良い。わしも面白いものをたくさん見せてもらったからのぅ」
「おじいちゃん、またくるからねー!」
「眠くなる前におじいちゃんとこ来て、あっちの話いっぱい聞かせてあげるね!」
「ほっほ。双子は優しいのぅ。楽しみにしておるぞ」
「「うん!」」
最後に、とアルカードがマーリンに何かを渡した。
「これは?」
「血の結晶だ。およそ500人分。何かに使うといい」
「・・・お前さんはどれだけの命を持っとるんじゃ。恐ろしい男よのぅ」
「その言葉は聞き飽きた」
「そうじゃろうな」
マーリンは呆れたように笑ったものの、結晶を受け取って、アルカードに笑顔を向けた。
「楽しみじゃな、これから」
「あぁ、そうだな」
「アルカードも、たまにはミラーカと一緒に遊びに来るんじゃぞ」
「またいらしてくださいませね」
「そうさせてもらおう。マーリン、エレイン、世話になったな。ありがとう」
「お気をつけて」
「元気でな」
「二人も、元気で」
魔術師師弟に別れを告げて、フランスを後にした。
★帰る場所であるように
―――――――――――Crystal Kay[Motherland]より
私は君にとっての空でいたい
悲しみまでも包み込んで
いつでも見上げるときはひとりじゃないと
遠くで思えるように
帰る場所であるように




