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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第3章 歴史が語る三位一体
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呪いはすぐ解ける




 ルーマニア観光を終え、最後の目的地、インドへやって来た。まずはクリシュナにごあいさつ。

「このメンバーが全員集まるなんて、70年ぶりだね」

「こっちの世界じゃな」

 アンジェロとクリシュナは別れを惜しんでいるようで、しきりに思い出話に花を咲かせる。

「―――あは。そう言えば、ジュリアスがまだ生きてて、伯爵と友達だった頃にさ」

 その言葉にみんなで振り向いた。

「伯爵にミナの写真見せてさ、今度結婚するんですって言ったんだけど、アレよく考えたら死亡フラグだよね」

「フラグ立ってたのかよ!」

 歳のせいか、少しだけボケ始めたのか。みんなのツッコミにクリシュナは可笑しそうに笑っている。

「あはは、みんなのそのノリ懐かしい。淋しいな。みんな、もう会えなくなるんだね」

 そう言って淋しそうに笑って、シュヴァリエ達を見つめるクリシュナの瞳は、まるで親元を離れる子供を心配するような瞳で、シュヴァリエ達にはジュリオを連想させるには十分だった。


「クリシュナが生きている間には、もう戻ってこれねぇかもな」

「そうだな」

「今日で、お別れだ」

「寂しいなぁ。これで僕が本当のジュリオのままだったら、絶対泣いてたよ」

「あはは」

「ていうかジョヴァンニは泣いてるしな」

「うるさいな! グスッ」

「あはは、ジャンニは相変わらず感受性が豊かだね」

 別れを惜しんで泣いてしまったジョヴァンニをみんなでからかって、クリシュナは可笑しそうに笑う。

 その様子を見て、少し胸が痛んだ。

【アルカードさん、ジュリオさんは、ヴァチカンを裏切ったら死ぬ事になってたから、ヴァチカンを出る事は出来なかったんだそうです】

【そうか】

【アルカードさん、お願いがあるんですけど】

【・・・・・そうだな。お前達にも、迷惑をかけた】

 返事をして、アルカードはジュリオの前に行った。そして跪いて、頭を垂れた。

「ジュリオ――――ジュリアスに謝罪する。謀り、殺し、ミナを奪ったこと。私が悪かった。私が間違っていた。今更謝罪しても遅いことはわかっている。許して欲しいとも思わないが、あの時の事は悔いている。本当にすまなかった」

 その言葉に、ジュリオは笑った。

「伯爵のウソつき。本当は許して欲しいんじゃないんですか? 赦してくれって言っても、いいんですよ?」

 クリシュナはいたずらっぽい表情で、窺うようにアルカードを覗き込む。少しだけ緊張した面持ちで、アルカードは

「出来る事なら、許して欲しい」

 と、素直に言った。

 それを聞いてクリシュナは、

「はい、いいですよ。許してあげます」と笑って「お互い様ですから」と言った。



 シュヴァリエとジュリオの間の憂いは消えた。ジュリオはアルカードを許した。ジュリオが許しを請いたいのは、戦争の責任だろうか。そう考えていたら、立ち上がったクリシュナはアルカードの横を抜けてミナの前にやってきて、跪いて頭を下げた。

「クリシュナと北都くんを殺して、ゴメンね」

 あの戦いで独りぼっちになったミナ。アルカードは休眠期で消え、ミラーカは自ら魂を手放した。しかし、二人と違ってクリシュナはインドのこの屋敷で、ジュリオに操作されたイスラムによって死に、あの戦いでクリシュナと北都はミナとアルカードを守るために、その身を銀弾に晒し、力を使い果たし消えてしまった。

 ミナにとってジュリオは、間違いなく夫と弟の仇である。

「私、恨んでないよ」

「でも、ゴメンね」

「ジュリオさんだってクリシュナだって辛かったんだし、いい加減もう時効だよ」

「ミナ様には、償いきれない」

「そんなことないよ。だって、クリシュナは子供の頃、双子とよく遊んでくれたでしょ。私、すっごく嬉しかったんだよ。夢が叶ったみたいで」

 ミナは、夢を見た。始めてジュリオに出会った日。誘拐されてヴァチカンに来た最初の日に、夢を見た。


 夢を見た。

 太陽の降り注ぐ城の庭で、アルカードと、クリシュナと、ジュリオと、北都、ミラーカ、クライド、ボニー、みんなで笑い合って、レオとルゥとじゃれて遊んでいる夢。

 ミナもみんなも本当に楽しそうに笑いあっていた。


 目が覚めたその時は、違う出会い方をしていたら、こんな未来もあったんだろうか。所詮、夢は夢でしかないのだけれど。どう足掻いたって過去を変える事は出来ない。そう思っていた。

 だけど、そう言う未来を夢見た。それと似た光景が目の前に広がっていて、ミナは本当に嬉しかった。

 シュヴァリエ達と双子が仲良く遊んで、クリシュナやメリッサも混ざって賑やかにおしゃべりをして、そう言う光景を見ながら過ごせたことは、ミナには泣きたい程嬉しかった。ずっと、そんな光景を夢見ていたから。

「だからね、私もう全然怒ってないよ! 嬉しかったから。私の方こそ、クリシュナやシャンティ達にはすっごくたくさん迷惑をかけて、本当にゴメンね」

「ミナ様も、謝らないでよ。“エンジェル”のことだって、解決してくれたじゃないか」

「じゃぁお互い様って事で、もうチャラにしちゃおっか」

「あはは、本当、ミナ様ってお気楽」

「それって、褒めてんの?」

「褒めてるよ」

 そう言って体を起こしたクリシュナは、ギュッとミナを抱きしめた。老いて、少しだけ痩せた背中に腕を回した。

「あの時伯爵を許していたら、もっと早く叶えてあげられたのに」

「ジュリオさんが怒るのも無理ないと思うよ。いいよ、もう、叶ったから」

「今でも、僕は思う。あの時ミナ様を本当に好きになってたら、多分ジュリオはヴァチカンを裏切って、幸せな気持ちで死んで行けたんだろうなって。今回は、そう言う後悔をしないように、残りの人生を過ごすよ」

「うん。クリシュナは強いから、きっと幸せだったって言いながら、笑って死ねるよ」

「うん。そうだね。ありがとう」


 ミナの理想。もう一つ夢がある。

「色々あって忙しくって疲れちゃった。でも、すっごく楽しかった! あぁ疲れた。もうさすがに満足したよ。じゃぁ、さよなら」

 そんな事を言いながら、笑って死にたい。自分の人生を振り返った時に、乱暴な生き方だったとしても、全力で人生を謳歌したと満足して死にたい。色々あったけど、総合評価が「楽しかった」であれば、それはきっと幸せだ。

 自分は勿論、周りの仲間たちもそう言う風に生きて、そう言って死んでくれたら、きっと看取る方も幸せだ。

「僕が死んだら、父さんと母さんの墓に入れてもらうから、こっちに来ることがあったらお墓参り来てね」

「うん。前にこの庭で咲いてたのよりもっと青いバラを作って、お墓に供えるよ」

「うん、ありがとう」

 ジュリオが愛でていた、青いバラ。開発当初、「不可能」「あり得ない」と決定されていた花言葉は、後になって「神の奇跡」「祝福」「夢叶う」という言葉に変わった。

 青は、憂いの色、悲しみの色。しかしミナは青いバラを見ると思うのだ。きっと不可能を可能に変える力は、誰の中にも存在する。

 夢は、見る物ではなく叶えるもの。昼に見る夢は、夜に見る夢よりもタチが悪いという。人間と違い昼にしか夢を見ないミナ達は、その日見た夢を見たままにしてはおけない。叶えたくなる。

「今度こっちに来るとき、クリシュナのお墓の前で報告するから」

「なんて?」

「私もアンジェロも悪魔から解放されて、今は仕事が忙しいけど、みんな楽しく生きてるよって」

「あはは、いいね。楽しみにしてる」

「うん!」


 体を離して、クリシュナの手を握った。

「吾を欺きし輩を許したからには、かかる裸島に留まりとうはありませぬ。何卒皆様の呪いをお解き下さいますよう。この身の枷を取り除くため、お手を拝借、拍手の雨をお浴びせ下さいまし」

 ミナの言葉を聞いて、クリシュナはクスッと笑って、ミナの言葉に続けた。

「この身のもくろみも水の泡、もはやこの手には何も残ってはおりませぬ。手伝ってくれる妖精もおらず・・・・働きかける術も無い―――――吾が身の果てはただ絶望のみ、友の祈りに助けを借りねばなりませぬ」

 続けて、アルカードが言った。

「祈りはやがて天の扉を叩き、神の慈悲を動かし、この身の犯した過ちもすべて許されましょう・・・・・天罰を免れたきは皆様とて御同様、されば、そのお心にてこの身の自由を」

 アルカードが言い終わった瞬間、まずはアンジェロが手を叩いた。それから徐々に拍手は増えて、みんなが手を叩いてくれた。

 温かく降り注ぐ拍手は、それが風になって帆を膨らませるように、門出を祝福するかのようで、それぞれの贖罪と、それぞれの赦しが祝福されたのだと感じられて、ミナは思わず涙を零して笑った。



「ミナ様ってば、急に“テンペスト”の引用なんかして」

「だって、アンジェロが言ってたんだもん。ハムレットがプロスペローになればいいなって」

「そうだね」

 拍手を送るみんなを見渡して、クリシュナは笑って

「呪いはもう、解けたと思ってもいいでしょうか」

 と、アルカードに向き、アルカードも拍手するみんなを見渡して

「孤島の魔法使いも、妖精も、裏切り者や魔物すらも。もう、自由の身だ」

 と言って、笑った。


 

 孤島の魔法使いと、魔法使いに使役される妖精たち。魔法使いは復讐に燃えて、嵐を起こして仇を遭難させる。

 仇の息子と自分の娘が恋に落ちて、魔法使いの魔術で混乱した仇の王を見て、魔法使いは考えを改める。

 王を赦し、妖精を自由の身に。そして王の息子と自分の娘の結婚を祝福し、観客に自分の呪いを解いてくれるように願い出る。そして、ゴンザーローと和解したプロスペローは、彼らを恨んだ自分と和解するのだ。

 呪われていたのは、他人ではなかった。自分自身が憎悪に憑りつかれ、呪われている。他人を呪わば穴二つ。呪いは必ず帰ってくる。

 その呪いを解く方法は、赦しの拍手。門出を願う、祝福の拍手。

「人生をやり直せるって、幸せなことだね」

「うん。私達も、これからやり直すよ」


 拍手を浴びるまでに、あまりにも時間を費やし過ぎた。しかし、拍手をもらったからには、船の帆をいっぱいに広げて、大手を振って旅立つのだ。



★呪いはすぐ解ける

――――――――――シェイクスピア「テンペスト」より


私の目を見ろ、お前の目に宿る美しい滴に和して、こうして涙を流している・・・・・呪いは直ぐ解ける、朝が夜の帳に忍び寄り、その暗を溶かしてしまうように

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