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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第3章 歴史が語る三位一体
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3人寄れば無責任


 続いてやってきたのは、ドイツのライプツィヒ。

「ッきゃー! ライプツィヒと言えば!」

「フェルトヴェングラー!」

「メンデルスゾーン!」

「音楽の街!」

「ドイツ国立図書館!」

「見本市!」

「本の街!」

「旧東ドイツ!」

 全員ハイテンションである。ちなみにライプツィヒ出身なのはヨハンだ。今も尚書籍の街と言われるライプツィヒで、ヨハンの父は音楽楽譜出版社の社長をしていた。

 その出版社は楽譜の出版に関しては世界最古と言われる会社で、ハイドン、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、シューマン、リスト、ワーグナー、ブラームスなどの名だたる作曲家・音楽家と同時代から存在した会社であり、彼らの曲譜を随時出版発行していた。

「なんとなく東側って監視されてて、経済も低迷してるみたいなイメージあったけどさぁ」

 実際東西分裂時代は3倍以上の経済格差があったが、この町は工業や文化の発達が著しく、そうでもなかったようだ。

「つか、壁崩壊のニュース見た時はビックリしたよな」

 そう言って懐かしむシュヴァリエ達。正直、ミナはよくわからない。とりあえずアンジェロに質問だ。

「壁が崩壊したのっていつ?」

「えーと、俺が16ん時だったから、1989年だな」

 それを聞いて若干引くミナ。

「えぇ・・・1989年で16歳だったの・・・?」

「そーだけど? お前何歳?」

「まだ生まれてないよ・・・」

「マジか」

 マジだ。普段あまり年齢を気にしないので、リアルな数字に割とみんなで引いた。



 気を取り直してヨハンの生家へ。家はなくなっていて、ヨハンは落ち込んだ。

「おのれ、クヴァント家!」

 ヨハンの生家の跡地には、BMWの工場が出来てしまっていた。ちなみにクヴァント家とは、ロールスロイスやBMWなど複数の大企業の筆頭株主であり、ドイツ国内はおろか、世界長者番付に一族の人間が何人も名を連ねる、世界きってのドイツの実業家・大富豪一族である。

 “エンジェル・ウイルス”で経済が混乱した影響か操業はしていないようだが、主を失った家は大きな力に飲み込まれてしまったようだ。

「これだからナチ野郎は」

 クヴァント家は強制収容所から徴用したユダヤ人を強制労働で酷使し、それで財を得たと言われている。ちなみにヨハンの祖父と父も純血アーリア人種のナチ野郎だったので、ヨハンも人の事は言えない。

 アーリア人種とはインド・ヨーロッパ語族のアーリア人を祖先とする人種で、ナチスはアーリア人至上主義を提唱する民族主義である。その民族差別がユダヤ人迫害“ホロコースト”という悲劇に発展した。それは“金の亡者”と呼ばれた、商才に長けたユダヤ人に対する僻みや逆恨みとも言われている。

 アルカードの使い魔“ホロコースト”は、その歴史に倣って名付けられたものである。要するにただの皮肉だ。ちなみにインドはアーリア人とユダヤ人が共生した唯一の国家と言われている。

 ついでに、イタリアおよびヴァチカンもドイツと同盟を組み、当時ヴァチカンはナチスを強力にバックアップした。ちょっとした戦争マニアが大好物な裏話だ。

 更に付け加えると、一部の学説では日本人も太古の昔はドイツと同族のアーリア人種だったと言われている。

「なんてったって日独伊三国同盟?」

「俺らみんな民族至上主義?」

「権威主義?」

「まぁ、うん。いんじゃね?」

「昭和天皇万歳」

「ムッソリーニ万歳」

「ジークハイル!」

 結局ファシスト集団たちはそれで話を丸く収めた。が、この同盟国と敵対していたのは、勿論アメリカだ。

「お前ら原爆落とされてーのか」

 黒人の混血であるクライドは白人至上主義、民族至上主義が当然大嫌いである。ものすごく不機嫌だ。

「まぁまぁクライドさん、昔の事じゃないですか。ていうか、私達誰ひとり直接関係ないですよ」

「シャラップ! 黄色いサルめ! クレイジージャパニーズ!」

「・・・それリアルに言われたの初めてです」

 白色人種に差別されるのは有色人種共通のはずなのに、有色同士でギクシャクした。

 ―――――ちぇっ、このニガーめ!

 心の中で文句を言ったら、聞こえていたのかアルカードが声を殺して笑っていた。

「人種などどうでもいいだろう。私達からしてみれば、肌の色よりもその皮膚の中に詰まった血の方が重要なのだからな」

 要するに人間は血の詰まった袋で、その袋が何色かなんてどうでもいいらしい。やはり長生きしているだけあって、捉え方がかなり広義だ。

 アルカードの言葉があまりにも自分達と比べるとデカすぎたので、ファシストどももアメリカ人も、どうでもよくなってしまった。



 気を取り直して深夜、ヨハンとオリバー2人でBMWの工場内に土を採りに行くことになった。残りのメンバーはお留守番だ。

「私もいこっか? 光学迷彩なくて平気?」

「いーよ、大丈夫。深夜だし操業してないし、見回りもいないと思うから」

「そう? じゃぁ気をつけてね」

「おう、行ってくる」

「行ってきまーす」

 出て行く二人を見送って、若干残念な気分に駆られるミナ。そんなミナにリュイが声をかけて、渋々着いて行った。

 残念に思った理由は、目の前で仰向けになっている豚だ。

 ―――――捌くとこからか・・・・・

 こちらに戻ってきて、山姫のもとにいる時はよかった。彼女の系列病院から輸血用血液を調達できていたからである。

 しかし、旅行中は血液を補給できない。病院にすら健康な血液は極端に少ないし、人間を殺して吸血することすらも出来ないのだ。なぜなら人間がみんな“エンジェル・ウイルス”に罹患していて、吸血鬼にとって病人の血は飲めたものではないからだ。

 一応冷凍血液も持ってきてはいるが、血液しか食せないアルカード専用(しかも大食い)なので、どうしてもミナ達は料理をして肉を食べる必要がある。

 人数が人数なだけに、料理も大変だ。つくづくつばさに料理を習っておけばよかったと、今になって後悔した。

「お、お嬢様」

「いくよ・・・!」

 豚の首に包丁を当てて、力を入れて引く。

 ――――――うはぁっ! グロッ!

 自分はアンジェロを切腹したことがあるくせに、冷静な時は耐えられないようだ。

 なんとか豚が食肉に姿を変えると、ミナもリュイもやっと落ち着いてきた。

「なんか、やっと料理してる気がしてきた」

「本当ですね。さっきまで解剖してる気分でした」

 豚肉に塩・ブラックペッパー・小麦粉を薄くつけて、ローズマリーと一緒にフライパンで焼いていく。大量に。

 いい香りが立ち込めてくると、男性陣が「今日はなんだ?」とキッチンを覗いてくる。

「今日は豚のタリアータですよ」

「ソース何がいい?」

「マスタード!」

「ビーツ!」

「バルサミコ!」

「クリーム!」

「アンチョビ!」

「バジル!」

「・・・じゃ、マスタードね」

 面倒くさかったので、一番楽なものを選択した。ブーブー文句を言う男性陣もいたが、マスタードを採用されたクラウディオが笑いながら言った。

「ていうか、リュイはともかく、ミナが料理できんのが意外だよな」

 それに周りも同調する。

「意外にな。なんだっけ、アレ、チキン南蛮。アレ美味かった」

「確かに意外だな。しかも結構上手だし」

 一応ミナも女子。長女だったこともあり母親の手伝いはよくしていたし、居酒屋で働いていたので、経験のない人よりは料理は上手だ。どうも余程意外らしい。

「失礼な。料理位人並みにはできるよ」

「でもつばさには負けるな」

「あんな完璧超人と一緒にしないでよ・・・」

 料理が趣味でシェフ並の腕を持つつばさと比較されては太刀打ちできない。ちょっと拗ねていたミナだったが、オーブンのタイマーが鳴った。

 余熱が十分に回って熱くなったオーブンに、フライパンで焼いた豚肉を入れて、短時間焼く。それを取り出して、しばらく放置。これを何度か繰り返す。

「なんでそんな手間かかんの?」

「一気に火を通すと固くなるし、味も落ちるから。余熱でゆっくり火を通すと、ジューシーで柔らかいんだよ」

「へぇーっ」

 その間にマスタードの用意。レオナルドがあまりにもうるさいので、渋々ビーツも用意することにした。

 ミナの横ではリュイがパスタを作り始めた。ミナが超能力でフリーズドライしておいたバジルソースを豚肉とトマトによく絡めて、アルデンテより少し硬めに茹でたフェデリーニと煮汁を、フライパンを揺すってよく絡める。

 焼き上がった肉を気休め程度に盛ったサラダの横にどっちゃりと盛って、一緒にソテーしたカブとアスパラを並べて、スプーンで掬ったビーツを弧を描く様に引いて、マスタードを添える。盛り付けの仕方、見た目も味の一つだ。

 この間に双子がフォカッチャを焼いて、オリーブオイルを出してくれていた。

「できた!」

「完成!」

「「こっちもできたよー」」

 双子のテーブルセッティングも終わったようだ。タイミングよくヨハンとオリバーも帰ってきた。

「二人とも手洗って。ご飯だよ」

「うわ、超いい匂い」

「美味そ!」

 みんなが席について、リュイと二人で料理を運んで、席についた。

「いただきまーす!」

 豚を捌くところから始めた甲斐あって、“豚とトマトのバジルソースパスタ”と“豚肉のタリアータ、マスタード&ビーツ添え”は大好評だ。

「ウマッ」

「いいな、アンジェロ。料理上手な嫁」

「羨ましッ!」

「だろ?」

「レミ、良かったなお前。リュイちゃんはいい嫁さんなるぞ」

「羨ましッ!」

「でしょ?」

「本当、美味しいわ」

「二人とも料理ウマイねー」

 褒められて上機嫌なミナとリュイ。とりあえず、ミラーカとボニーが手伝わないことはノータッチで行く。

 しかし、みんなの様子を眺めながら、上座の席で血を啜る男が一人。当然全員で憐憫の目を向ける。

「伯爵も食べれたらいいんですけどね」

「ミナの料理だろう? 恐ろしくて・・・いらん。お前達よく食えるな」

「ヒド・・・」

 ヒドイ言い様だ。どの道生活習慣強化をしていないアルカードが食べれるわけではないのだし、600年も血液生活をしてきて、今更普通の料理を食べたいとも思わないようだ。

 しかし、みんながフォローに回る。

「イヤイヤ、伯爵、美味いですよ」

「不味かったら不味いって言いますって」

 シュヴァリエ達は割とみんな正直者なので、きっとそうする。

「お母さんの料理にケチつけないでよ!」

「ちゃんと美味しいもん! お母さんもリュイ姉ちゃんも頑張ったんだから!」

「あぁ、ちげーよお前ら。ヴラドは自分が喰えねぇから僻んでんだよ」

「「あぁー」」

 双子とアンジェロが文句を言ってニヤリと笑うと、アルカードは小さく溜息を吐いた。手を伸ばしたと思うとミナの皿からタリアータをひょいっとつまみ上げて、ぱくっと口に入れた。

「・・・・・・・・・あぁ、意外と美味いな」

 その様子に、勿論みんなで驚いた。

「えぇ!? 伯爵食えるんですか!?」

「当然だ」

『当然かよ!!』

 全員でツッコんだ。結局この男はなんでもアリらしい。

 よく考えてみたら、アルカードと初めて会った時に、アルカードの家でご飯をごちそうになったのを思い出した。

 メニューまでは覚えていないが、ほっぺが床を突き抜けるほど美味かったのを覚えている。

 ―――――アルカードさん、そういえば料理できるんだ。しかもプロ級の腕なんだ。よく考えたら、味見しないであんな美味しい料理できるわけないじゃんね・・・・・。

「えー、でも伯爵、さすがにニンニクは食べられないでしょう?」

 言わずと知れた吸血鬼のニンニク嫌い。当然ミナ達も食べられない。おかげでニンニクを多用するイタリア料理には大打撃である。ペペロンチーノは敵だ。

 ちなみに豆類もダメだ。「魔を滅する」豆類もどうしても苦手で、人間時代豆のスープが好物だったアンジェロも、お赤飯を食べたかったミナもガッカリした。

「好き嫌いはあまりないが、サバは嫌いだ」

 内陸の国で生まれ育ったせいか、海魚とくにヒカリモノは苦手なようである。というよりこの男には弱点はないらしい。

「マジなんでもありかよ」

「さすが伯爵。吸血鬼の常識を超える」

 感心する面々の前で、アルカードは口直しとばかりに一気にパックを啜って、ぽい、と前に放り投げる。

「ミナの料理も悪くはないが、私には血液が一番美味い」

 結局は吸血鬼の行きつく先はそこだ。確かにね、と納得していると、急に首根っこを掴まれてグイッと引かれた。

「その中でも、好物はお前だ」

「え、あ、ちょ、アルカードさっ・・・!」

 ミナはまだ食事の途中だと言うのに、噛みつかれる。結構大量に吸血して満足したのか、アルカードは「ごちそうさま」と言ってそのままダイニングを出て行った。

 横を見ると、当然アンジェロがジェラシーファイヤーで身を焦がしている。

「アイツ腹立つ! 俺にも飲ませろ」

「ヤダよ。ダメだよ、私のはアルカードさんのだから」

 余計に怒るアンジェロ。

「お前昔自分からどうぞつって飲ませようとしただろ!」

「あの時はなんか頭おかしかったんだもん。今はダメだよ」

「じゃぁどっかでハッパ調達して来る」

「そう言う問題じゃ・・・ていうか、アンジェロもたまにはアルカードさんに血あげてるでしょ」

「あげてるけど」

 それを聞いて全員で想像する。シャツの襟を肌蹴たアンジェロの首筋に、アルカードが顔を寄せている。

 ―――――キャァァ! BL! どっちが責めかしら!?

 大興奮で劇的に妄想を膨らませるリュイと違って、ウッカリ想像してしまったメンバー(主に男性陣)は後悔に駆られた。

「リュイ、お前何想像してんだ。顔ヤベェぞ」

「だって・・・アンジェロさんも旦那様も、エロい」

「エロくねーよ! つか俺らでエロい妄想すんな! 気持ちワリィ!」

 実際のところ、そんな状況はアンジェロとアルカードが一番嫌なので、二人とも手首を切って流れ出た血をグラスに入れて交換している。

 とてもではないが気持ち悪くて、男同士で首筋に噛みついたりできない。しかも相手が相手である。そこはお互いに嫌だ。

 それを聞いて残念がるリュイ。

「なぁんだ。旦那様とお嬢様でアンジェロさんを取り合いしてると思ってたのに」

「どんだけ妄想膨らませてんだ」

「アンジェロさんが受けたいですか?」

「俺はいつでも責め将棋!」

「わかりました」

「なにを!?」

 脳内で展開されるリュイちゃん劇場は、とてもではないが表現できない(したくない)レベルに発展しているため割愛する。

「なんか、食欲なくなってきた」

「ミナちゃん、ゴメンな」

「うん、いいよ、しょうがないよ・・・・・私もだもん」

 二人の会話を聞いて、ウッカリ想像してしまったミナとシュヴァリエ達は、精神的に大ダメージだ。無理もないことだが、みんなフォークの進みが悪くなってしまった。

 ―――――あぁ、嫌な想像しちゃった。ていうかリュイさんが何想像してるか知らないけど、アンジェロがその道に行ったらさすがに離婚だよ。なんでアルカードさんとアンジェロを取り合わなきゃいけないのよ。

【バカ者。心配などするな。あり得ん。気分が悪い】

【・・・ですよねー。すいません】

 みんなの皿の中に残るいくつかの豚肉に目をやって、自分の更にも残る3つの豚肉にも目をやって、溜息を吐く。

 ―――――しょうがないや。勿体ないから、余った肉はひき肉にして、ラグーソースにしよう。

 すっかり主婦が板についてしまったミナであった。




★3人寄れば無責任

―――――――中国の諺

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