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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第1章 吸血鬼の一念発起
3/96

みんなに「イイ奴」は誰の友達でもない

「フランスー!」 

「パリー!」

「凱旋門!」

「エッフェル塔!」

「お前らうるせぇ」

 やってきましたフランスは華の都パリ。フランスはアレクサンドルの故郷である。つばさの情報提供で魔術師の所在はフランスが怪しいという事になり、フランスならとりあえずパリという安直な理由でやってきた。ミナもシュヴァリエ達も仕事では来たことがあるが、旅行や観光で来るのは初めて。

 ―――――今回は目一杯フランスを堪能するぞ!

 気合十分の面々のホテルの宿泊予定はとりあえず2週間。今回もアンジェロは山姫にお願いして、系列のホテルを抑えてくれた。山姫の実業家としての手腕は超一流で、またしても一級、いや、特級ホテルだ。

 ベル・エポック風のオシャレなホテル。一階にはレストラン、地下には遊技場、最上階にはバーがついており、勿論セレブ御用達ホテルだ。インドに来てからどうもミナ達は揃って成金趣味になってしまったらしい。

 アンジェロは雪が降ってると言っていたが、雪は降っていなかった。ホテルの支配人に聞いてみたところ、「パリは乾燥していますから、気温がマイナスを下回ることはあっても、雪は滅多に降りません」との事。

「アンジェロのウソつき」

「バカ、パリは降らなくても郊外は降るんだよ。海沿いだったら間違いなく降るだろ」

 ―――――そうだった。あくまでパリを拠点に捜索するだけであって、あちこち行くんだった。

 本来の目的を忘れそうになっていた為に、心配性の旦那をウソつき呼ばわり。ヒドイ話である。更に支配人に聞いてみたところ、どういうわけか年々冬の寒さは厳しさを増しているようで、地域によってはマイナス20度を下回るところもあるらしい。パリが降らなくても他の地域は間違いなく真っ白だ。

「どうせなら夏とかに来たかったなぁ」

「あぁ、夏は乾燥して気温も低いから過ごしやすいだろうな。今度また来るか?」

「うん! あ、子供生まれてから来ようよ! 家族でルーブル美術館に行くの!」

「あぁ、そうだな」

 そんな話をしていたら、部屋にノックの音が響いた。アンジェロがドアを開けると、レオナルドとエドワードとアレクサンドルが入って来た。3人は何故か溜息を吐いてソファに座り、恨めし気にしたエドワードがアンジェロにぼやき出す。

「いーなぁ、二人はスィートでさぁ」

 この3人はアンジェロがスィートを取れなかったという理由で、気の毒にもトリプルがあてがわれた。部屋の様子を見て3人はお怒りだ。

「つーかロイヤルスィートじゃん!」

「寝室バラバラじゃん!」

「俺らもここでいいじゃん!」

 おっしゃる通り、寝室はマスターベッドルーム以外にも2つある。ちなみにリビングは勿論ダイニングやバスルーム、バーやキッチンまであって、高級マンションと区別がつかないくらいだ。なのに追い出されているチャラ男3兄弟。

「うるせぇ。テメェらと同じ部屋で寝たらバカが伝染んだろうが」

「ヒデェ!」

「伝染さねぇし!」

「バカじゃねーし!」

 ―――――アンジェロったら本当にヒドイなぁ。今更だけど。

 3兄弟がちょっと可哀想なので、助け船を出航させた。

「3人ともゴメンね。違うんだよ、ただアンジェロは私と二人っきりで過ごしたかっただけだよ」

「あぁ!? 違ぇーよ! んなワケねーだろ! バカ!」

 ミナのフォローを聞いてアンジェロは急に怒り出して、3人はニヤニヤしだした。が。

 ―――――そんな全力で否定されると傷つくんだけど。

「アンジェロ、ヒドイ」

「あーあ、ミナちゃん可哀想」

「アンジェロよぉ、今更照れんなよ。イチャイチャすりゃいいじゃねーか」

「照れてねぇし! イチャつくわけねーだろ!」

「ミナっちはイチャイチャしてーんじゃん?」

「したい」

「うるせぇ、ざけんな」

「冷てぇ・・・」

 確かに冷たい。恥ずかしいからと言ってこの言いようだ。非難の的になるのも頷けると言う物。二人きりになったら甘えていいと言ってくれたしそうするが、それを差し引いてもヒドイ。アンジェロは暴走モードに入ってないと絶対人前では手も繋いでくれない。

 ―――――ちぇっ、つまんない。

 心の中でクサッて俯いていたら急にアンジェロがビクっとして、隣に誰か腰かけた。顔を上げて横を見ると、アンジェロ。

「え、あ、あれ?」

 右にもアンジェロ、左にもアンジェロ。

「オイコラ、テメェ何してんだ」

 さっきから右に座ってた本物アンジェロは左の偽アンジェロを睨みつける。

「まーまー、これもミナちゃんの為だから」

 アンジェロの顔でヘラヘラ笑う偽アンジェロ。もとい変身したアレクサンドル。これはもう、やって戴くしかないとミナは偽に向いた。

「ねぇ偽アンジェロ、私の事好き?」

「あぁ、世界で一番愛してる」

「いやーん!」

「うぉぉぉい! それアレク!」

 偽アンジェロの言葉に狂喜して抱き着いたら、正アンジェロが慌てて引きはがして、エドワードとレオナルドは爆笑している。偽アンジェロはまたミナの肩を引き寄せて、正アンジェロにニヤリと笑ってみせる。

「ミナは冷徹アンジェロよりも甘アンジェロの方がいいよな?」

「うん」

「うん、じゃねーよ! つかソレやめろ!」

「うるせーよ。テメェはもうお払い箱だ。失せろ」

「んだと、コルァ!」

 ミナを挟んでアンジェロが2人ケンカを始めた。

 ―――――何この光景、すごく面白いんだけど。

 と言うわけで、もっと盛り上げてみることにした。

「ねぇ、偽アンジェロ、私のどこが好き?」

「可愛いとこ、健気なとこ、優しいとこ、性格も見た目も何もかも全部。お前の全てにメロメロだ」

「キャァァ!」

「だからお前やめろって! 俺の顔で気持ちワリィ事抜かすな!」

 更にエキサイトした正アンジェロが「うがぁぁ」と頭を抱えてる隙に偽アンジェロに耳打ち。それを聞いた偽アンジェロはそりゃもう愉快そうに笑った。で、抱き着いてくる。

「むふーん、ミナちゃん好き好きー」

 エドワードとレオナルドはそれを見て大爆笑して、お腹を抱えて転げまわる。さらに追い打ち。

「んもう、アンジェロったら甘えん坊なんだから」

「うん、ボク甘えん坊」

 とうとうエドワードとレオナルドは笑いすぎて泣き出して、しまいには痙攣する始末だ。一方無残な姿を見せつけられた正アンジェロはと言うと・・・・・・引くほど怒っていた。ピキッと青筋を立てて怒りながらも何故か笑う旦那様。

 ―――――ヤバ。怖い、怖すぎる。

「あぁ、俺の顔に傷をつけたくはなかったんだけどなぁ」

 そう言うと立ち上がって、ミナに抱き着く偽を引きはがして、胸倉を掴んで拳を目一杯引いた。それを見て慌てた偽は、すぐさま姿を変えた。真っ直ぐに撃ちこまれた拳は、その変身後の姿の前で、ビタッと止まる。

「アンジェロ、私を殴るの?」

 ミナの姿に変身したアレクサンドルに、さすがにアンジェロも手を止めた。それを見て更に偽ミナは畳み掛ける。苦しそうに顔を歪めて、涙目になる偽ミナ。ミナと違って偽は演技力が高い。

「アンジェロ、離して。苦しいよ」

 しかし、その訴えは余計にアンジェロを怒らせたようで、更に偽に不幸が降りかかる。そう言いながらジタバタする偽ミナ。さっきまでは男の姿をしていたのに、小柄なミナに変身したせいでバサッとズボンが脱げ落ちた。しかもパンツも一緒に脱げ落ちた。思わず全員でそれに視線をやって、全員で白目を剥いた。

「イヤァァァ!」

「ミナっちにピ―――がついてる・・・」

「ヒデェ・・・」

「テメェなんでそこで手ぇ抜くんだよ!」

「俺ミナちゃんの見たことないし!」

「当たり前じゃねーか!」

「ていうかマジ離して! マジ履かせて! お願い!」

 さすがにアンジェロも離して、偽ミナはいそいそとパンツとズボンを履きはじめた。服を着ると偽ミナはアレクサンドルに戻って、すぐさまエドワードとレオナルドの元に行って座った。

「マジ、アレクさぁ、夢に出てきたりしたらどーしてくれんだよ」

「本当、ちょっと俺今のはトラウマになるって」

 エドワードとレオナルドの文句にミナも激しく頷く。

 ―――――本当だよ。しかも私だし。本当トラウマ確定だよ。かといってそこまでキチンと模倣されても嫌だけど。

 責め立てられるアレクサンドルはばつが悪そうにしている。

「だってさぁ、ミナちゃん東洋人だし? 西洋人と違うのかなって」

「そんなこだわる所じゃねぇだろ」

「マジで。マジお前バカな」

 マジでバカである。

 ―――――あぁ、もう本当、嫌なもん見た。本当夢に出てきたらどーしてくれんのよ。悪夢以外の何物でもないよ。とんでもないパリジャンに遭遇しちゃったよ。

 と思っていたら、このトンデモパリジャンはとんでもないバカだった。

「あ、じゃぁコレでいいかな?」

 そう言ってズボンを覗き込むアレクサンドル。その様子に他の男3人はアレクサンドルが何をしでかしたか気付いたらしい。即レオナルドが提案する。

「アレク、もっかいミナっちになってみ」

 そう言われて素直にミナに変身するアレクサンドル。するとそれを見たアンジェロが立ち上がって偽ミナの元に行ったと思うと、腕を掴んで引き立たせた。

「え、なに?」

「確認してやるから」

「は?」

「あ、俺も見たい」

「俺も見たい」

 ―――――バカが! 

 男3人は偽ミナを部屋の隅に連行。呆れて物も言えないミナは一人置き去りで、部屋の隅で偽ミナを取り囲んだ男達3人のやり取りが聞こえてくる。

「え、ちょ、やだよ!」

 と偽ミナ。

「いいからいいから。何もしねぇから」

 とアンジェロ。何もしないからって何よ、とミナは不審に思う。

「見るだけだって」

「ちょっと、ちょっとだから」

 とエドワードとレオナルド。何故そんなに必死なのだろう。

「オイ、俺が抑えとくからお前ら脱がせ」

 とアンジェロが言って偽ミナを羽交い絞めにする。

「アイサー!」

「ちょ、待って!」

「暴れんなよ」

「おい、早く脱がせ」

 部屋の隅で展開されている、実に不愉快なやり取り。偽とはいえ仮にも自分の姿をした人が、暴漢に襲われている様を客観的に目撃するなんて、すごく嫌な光景だ。

 見たくもないわ、と体ごとソファの背に向けていても、会話だけはまんまと聞こえてくる。

「わー! もう、離せって! やめろって!」

「お、さすがにノーブラだな」

「ミナはここまで巨乳じゃねぇし、もっと華奢」

「ちょっと妄想入ってんな。あ、柔らけぇ」

「揉むなよ!」

「で、肝心の・・・」

「ギャァァ! 見るな!」

「アンジェロ、足持てる?」

「おう」

「アンジェロ、正解?」

「不正解。顔はミナだけど体は別人だな」

「つか、顔以外別人ならいんじゃね?」

「バカか。お前コレ、アレクじゃねーか」

「じゃ、アンジェロは見学で」

「見学って何を!? もー! やめろって! マジやめて! ミナちゃん、ミナちゃん! 助けて!」

 耳を塞いでいたが勿論無意味で、アレクサンドルのヘルプにさすがにたまりかねた。

「変身、やめたら?」

 その直後にゴツッと音が聞こえて、どうも元の姿に戻ったアレクサンドルをアンジェロが急に離したらしく、半裸でうずくまるアレクサンドルを置いて、つまらなそうに3人は戻ってきた。

 アレクサンドルは、泣いていた。さすがにアレクサンドルが可哀想で、ソファにかけていたコートを持って、3人と入れ違いでアレクサンドルの所に行って肩からコートをかけた。

「アレク、大丈夫?」

 コートをかけて横にしゃがむと、泣きっ面でこっちに振り向くアレクサンドル。

「うわぁぁ、ミナちゃぁぁぁん」

 リアルに泣きついてきた。実に可哀想な男である。微妙に下半身丸出しの男に抱き着かれているのには抵抗感があったが、あまりにもアレクサンドルが可哀想だったので、そのままヨシヨシとなだめる。

「アレク、女の人に変身しない方がいいよ?」

「ゔん・・・アイツら、怖い」

「よしよし、さ、服着て」

「ゔん・・・」

 アレクサンドルが離れて、一応コートを目隠しに持ちあげると、その影でゴソゴソと服を着なおした。着替えが済んでもやっぱり落ち込んでいる。

「性犯罪被害に遭った女の子の気持ちが分かったよ・・・」

「・・・そう。アレクは女の子には優しくね」

「そうする。つか、あの3人セクハラで訴えたいんだけど。ミナちゃん一緒に原告団やろうよ」

「そうしたいのは山々だけど、どこに訴えたら吸血鬼の訴えを聞いてくれるの?」

「泣き寝入りかよぉ・・・」

「大丈夫、私はアレクの味方だからね」

「うぅ、ミナちゃぁぁぁん」

 それからしばらく警戒していたのか、アレクサンドルはミナの傍を離れようとしないし、あの最低鬼畜トリオに近づこうとしないでずっと睨みつけていた。本当に可哀想である。

 3人が部屋から出て行ったあとお説教しなきゃ、とアンジェロの傍に座った。

「もう、本当最低だよ。アレクが可哀想じゃん」

「いんだよ」

「よくないよ! なんでそうアンジェロは鬼畜なのよ!」

「いんだよ」

「良くねェェェ! コレだから信用できないんだよ! 絶対アンジェロ浮気する!」

 思わず興奮して睨みつけると、アンジェロにもギロリと睨みつけられた。

「あぁ? 信用に足らねぇのはどっちだ? お前は散々俺に罠仕掛けといてよぉ、俺は全部はねつけたってのに、お前は俺に変身したアレクにコロッとなびきやがって。お前の方がよっぽど信用出来ねぇよ」

 ―――――グフッ、その切り返しは想定してなかったぜッ。

 アンジェロの言うとおりである。アンジェロにしてみれば、アレクサンドルが自分に変身して痴態を晒したことよりも、(当然それも腹が立ったが)自分にイタズラを仕掛けたくせに、あっさり偽物に抱き着いたミナの方が余程腹立たしかった。先日同じ話をしたと言うのにやっぱり人の話を聞いていなかったミナに、心底ガッカリさせられたわけである。

 しかし、気の毒な同志アレクサンドルの為にここで負けてはいられないミナは、何とか反撃を試みる。

「っ、けど、アレはやりすぎなんじゃないかなぁ!?」

「自業自得だろ。俺に変身して妙な真似しやがって」

「でもさ、だからってさ」

 尚も食い下がろうとするミナを見て、アンジェロは深く溜息をついて、機嫌が悪そうに横目で見下ろした。

「しかもよぉ、お前までアレクに入れ知恵しやがって。つーか、お前はなんで毎回嫌がらせに荷担するわけ?」

「えと、別に・・・」

「意味ねぇ訳じゃねーだろ。なんだよ、俺への当て付けか」

 言い当てられた。ミナはアンジェロが素っ気なくするから、仕返ししてやりたいと思った。言い当てられて思わず黙り込むミナに、アンジェロはまた溜息を吐く。

「そんなに優しくされたいわけ?」

「っそうだよ! クリシュナは優しかったのに、なんでアンジェロは冷たくするの!?」

 その言葉にアンジェロは傷ついて、いつものごとく思ってもいない悪辣な返事をしてしまった。

「ハァ。そんなに優しい男が好きなら、ずっとアレクにクリシュナさんに変身してもらっとけ」

「・・・え?」

 ミナはすごくショックを受けた。

 ―――――いくらなんでもヒドイ。私が今好きなのはアンジェロなのに、それを知ってて他をあたれっていうの? アンジェロは私のことなんかどうでもいいの?

 日頃から冷たいアンジェロの態度。それに加えてこの言い方。慢性的に不満に思っていたミナにしてみたら、そう言う考えに発展してしまってもおかしくはない。傷ついてショックを受けるミナに、なおもアンジェロは畳み掛けるように言う。

「前から言ってんだろ。俺は優しくねぇし、優しくしねぇし、出来ねぇよ。クリシュナさんが優しかったからって、周りの奴がみんな優しいなんて思うな」

 その言葉にショックを通り越して、瞬間的に怒りが湧き上がってきた。

「そんなこと思ってないよ!」

「思ってんだろ。俺は俺だ。クリシュナさんじゃねぇ。お前はいつもクリシュナさんと比較するけど、いちいち比較されるこっちの身にもなれよ。腹立つ」

 アンジェロの言い分は正しいとは思った。だけど、ミナもヒドイ言い方をされて怒りが収まらない。アンジェロは一度も元カノと自分を比較したことはない。それで傷ついたことはなかった。だが、時に比較の対比によって褒めて欲しいと思うことだってあったのだ。

「・・・アンジェロは、比較しないね」

「当たり前だろ」

 恒常的に比較されるアンジェロにとっては、それが良い事だとは到底思えない。徐々にアンジェロの中でコンプレックスを形成していっている。しかしミナはアンジェロに比較をして欲しかった。昔の恋人と違って別格だと、今はお前だけだと、クリシュナがそうしてくれたようにアンジェロにもそうしてほしかったのだ。そう思うのは、アンジェロに愛されていると言う安心と保証が欲しかったからで、その心理は女ならば至って普通の事だった。だから、余計に不安を感じざるを得ない。

「比較しないのは、同じだと思ってるんでしょ」

「はぁ?」

「結局私も元カノと同じなんでしょ!? 私の事なんかどうでもいいんでしょ! だから冷たくできるんでしょ!」

 アンジェロにしてみればミナの言いようは突飛すぎて信じられなかった。瞬間的に激怒して、思わずミナに怒鳴りつけた。

「そんなわけねぇだろ! お前本気で言ってんのか! 冗談も大概にしろ!」

「冗談じゃないよ! 私、アンジェロが何考えてんのかわかんない!」

 本当に本当に腹が立って、テーブルを叩いて立ち上がった。

「もういい! もう・・・本当に私、アンジェロのどこを好きになったんだろ。ジュノ様がいなきゃ、アンジェロの事なんか好きになってなかったのに!」


 そう言って部屋から出て、落ち着けそうな所にいきたくて、一階のレストラン横にあるカフェに入った。

 イライラしたままとりあえずミルクティを頼んで、温かいそれに砂糖を落として口をつけた。

 ―――――いくらなんでもヒドイ。そもそもアンジェロが冷たいせいなのに。本当私なんであの人好きになったんだろ。そりゃ前から好きは好きだったけど、それは友達だったからだもん。友達と妻って全然違うはずなのに、アンジェロは私のこと、元カノと同じだと思ってるのかな。私の事別格だって言ってくれたのに。

 前から冷たかったけど、前はここまで冷たくなかったのに、最近余計に冷たくなってきた。イタズラしたことずっと怒ってたのかな。もしかして、アンジェロはもうとっくに浮気してるのかな。それで私に興味なくなっちゃったのかな。でも、子供ができた時あんなに喜んでくれたのに。

 あれは、子供ができたことを喜んだだけで、本当は私がどうこうとかどうでもいいのかな。そういえば昔、嫁なんかどうでもいいって、言ってたもんなぁ。

 考えていたらミルクティのお陰か怒りは収まって来たものの、段々悲しくなってきて、涙が溢れてきた。店員が心配して声をかけて来たが、「ほっといて」としばらく泣いて、何とか落ち着いて来たら居心地が悪くなってしまって、お金を払ってカフェを出た。

 ―――――どうしよう、悲しい。辛い。一人でいたくないよ。なんか、昔もこんなことあったな。アルカードさんとケンカして家出して、あの時はアルカードさん追いかけてきてくれたのに、アンジェロは追いかけてきてもくれないんだ。

「あれ、ミナ?」

 ロビーをトボトボ歩いてると声がかかって、顔を上げるとエドワードが立っていた。エドワードはミナの顔を見て覗き込んでくる。

「泣いてたのか? どしたの?」

「アンジェロと、ケンカした」

「・・・話、聞こっか?」

「うん・・・」

 部屋に入るとレオナルドがいて、相変わらず警戒してたのかアレクサンドルはいなかった。

「エド、どした?」

「や、煙草買いに行ったらミナに会って。なんかアンジェロとケンカしたっていうから」

「・・・ふーん。で、連れて来たわけ?」

「・・・そ」

 二人は盗聴していた為にレミとアンジェロの話を聞いていて、“秘密”を知っている。それに至った顛末も盗聴していた為に、状況からミナの最大の欠点をすぐに察した。それでも、二人はケンカを収束させることの方が先決だ、とミナに座るように促した。


 アレクサンドルのベッドに腰掛けると、二人は対面のレオナルドのベッドに腰かけた。「何があったの?」と尋ねてくる二人に事の顛末を話した。それと自分の気持ちも。

「アンジェロ、追いかけてきてもくれないし、私の事どうでもいいのかな? アンジェロは何を考えてるの? どうして私に冷たくするの?」

 ミナの話を聞いた二人は、腕組みをして揃って溜息を吐く。

「とりあえず、俺はミナにはガッカリだね」

「俺も。アンジェロに甘え過ぎ」

 まさか非難されるとは思っておらず、一瞬ショックを受けたが、でもすぐに二人に尋ねた。

「・・・どうして?」

 すると二人はまた溜息を吐いて、諭すような口調で話した。

「自分で逃げといて追いかけてきてくれないとか、我儘すぎじゃない?」

「そうそう。それにミナっちがアンジェロを信用できないってのが不思議で仕方ねーよ」

「マジで。冷たいとか優しいとか関係ねーじゃん。どーでもいい奴の為に魂売り渡すようなバカ、世界中探したっていねぇよ。普通ならたとえ好きな女の為でもそこまではしねーんだよ」

「普通ならな。でもアイツは普通にはミナっちを好きじゃねぇんだよ? 死ぬ程好きだからそこまでするんじゃん。なんでわかんねーの?」

 集中する非難に思わず涙がこみ上げてきそうになった。二人の言い分はわからないわけではない。でもミナはそれだけで、怒りも自分の意見も引き下がる気にはなれなかった。

「それはっ、わかってるけど。でも、じゃぁどうして冷たくされなきゃいけないの?」

「本当にわかってる? わかってないんじゃないの? アンジェロがああいう奴だってのは昔っからじゃん。それはミナも知ってるはずじゃん? 恋人とか結婚したからって劇的に態度変化させる奴なんかいねぇよ」

「まぁ好きな奴から優しくされたいってのはわかるよ。確かに俺から見てもアンジェロは冷てぇと思うけど、そんなの表面上だろ。アイツが感情隠す癖知ってんだろ? アイツは本当にミナっちが好きだし、優しいよ。人によっちゃとっくにミナっちに愛想尽かして別れてる」

 結局この二人が私の味方になってくれることはないのか、と落胆して俯いて、握った手を見つめた。

 ―――――とっくに愛想尽かしてる、か。私、嫌われてもおかしく無いような事をしたのかな。

 俯くミナに溜息を吐きながら、少し落ち着いた声でエドワードが言った。

「アンジェロが最近になって冷たくなったのには、一応理由はあるよ。その理由は俺らは言えないし、その理由を俺らにもアンジェロにも尋ねる事は絶対に許さない」

「どうして?」

「アンジェロを激しく追い込むから。だからその理由だけは絶対に尋ねるな。アンジェロは間違いなく酷く傷つくし、他にも傷つく奴はいる。それを尋ねて誰かが傷ついたりしたら、マジで許さねぇから。それと、アンジェロと誰かを比較すんのもやめてほしい」

「・・・わかった」

 エドワードのいう事に納得はできなかった。でも、そこまで言い切るのならきっと本当にアンジェロを傷つけてしまうのだろうと思って、飲み込むことにした。続けてレオナルドが言った。

「アイツはミナっちの行動も言動も何もかも許して耐えてるけど、俺だったら許さない」

「私が、何をしたの?」

「アイツを信じてないくせに、依存し過ぎ。ミナっちはさぁ、本当甘えん坊だよね。別にアンジェロに甘える分にはいいよ。その事にはアンジェロは何とも思ってないし、むしろ頼られるのは嬉しいだろうから」

「でも、誰にでも甘えようとすんのはやめた方がいいよ」

「誰にでもは甘えないよ」

 ミナの返答にレオナルドはイラついた表情をして、強く言った。

「ウソ吐くな。じゃぁなんでここにいんだよ」

「連れて来た俺が言うのもなんだけど、普通さぁ男の部屋に女一人で来る? だから防御力弱いって言われんじゃん。俺らにはそんな気はないけど、ミナに下心ある奴だったらどうすんの? それに付け込まれて、ミナは被害者ぶってアンジェロに泣きつくわけ? ちょっと悲しいことがあったとか淋しかったとかで、誘われたくらいでホイホイ着いて行くようじゃ、アンジェロのが気の毒だ」

 二人の厳しい言葉で、やっとのことでアンジェロの言っていたことを理解した。お前の方が余程信用できない、そう言ったアンジェロに言われる度に言い返していたけど、アンジェロや二人の言う通りだと考えを改めざるを得ない。

「アンジェロはさぁ、あの性格だから本当はミナっちが他の男と話してるだけでも許せねぇと思うよ。でもそれを許してんのはミナっちの為にならないからであって、本当はジョヴァンニとレミくらいにしか許容したくねぇはずだよ」

「なんで、あの二人はいいの?」

「そりゃな。アンジェロにしてみたら俺らは男だけど、あの二人は息子だから」

「まぁ周り男だらけだし、しょうがねーとは思うけどさ、ミナは男に甘えるのに慣れ過ぎて、男をナメてんだよ。アンジェロが怒ってんのはそう言うところ。俺から見たらアンジェロよりもミナの方がよっぽど信用できねーよ」

 アンジェロは不安なのだ。クリスティアーノの時と同じようなことが再び起こるとは思えなかったが、それでもミナの行動がアンジェロを不安にさせる。それを二人はわかって、だからこそここまで厳しく言った。これ以上アンジェロを傷つかせたくもなかったし、アンジェロが今耐えているのはクリスティアーノだからであって、過去の事だからであって、今後はそう上手くはいかないだろうと思ったからだ。

 二人が危惧するのはアンジェロだけじゃなく、勿論ミナにとっても避けるべきことなのだ。ミナには自覚が足りていない。それで一番傷つくのは誰よりもミナなのだから。だからと言って、ミナにアンジェロが冷たくなってしまったのは、当然ワザとではなかったが、悪循環以外の何物でもない。だが、アンジェロの愛情の深さを鑑みると、それを改善させるのは難しいと踏んだ二人は、ミナに理解してもらうしかないと思ったのだ。

「ま、だからってそれを我慢してる副作用で冷たくすんのは逆効果だけどな。それはアンジェロもわかってはいるだろうけど、アイツだって好きで冷たくしてるわけじゃねーよ。本当は優しくしてやりてーだろうけど、ミナっちがいちいちアンジェロを不安にさせるからだよ。それでもアイツはミナっちが好きだから怒りたくもないし我慢して、その反動で冷たくなるだけ」

「私が、アンジェロを不安にさせてるの?」

「そーだよ」

「アンジェロが、不安に思ってる?」

「そう。冷たくなったのはそのせい」

「私が甘えなければ、アンジェロは優しくしてくれる?」

「うん。でも、さっきも言ったけど、アンジェロには甘えていいよ。勿論女もいい。あとクライドさんとレヴィと、息子二人もね。でも、それ以外は絶対ダメ」

「それ以外に甘えてんの見かけたら、アンジェロは傷つくし、多分俺らがキレるから」

「ん・・・わかった」

 アンジェロにも何度も言われた。ミナの方が信用できないと。そのせいでアンジェロが不安に思っていたとは思わなかった。アンジェロはいつもしれっとしていて普通だったから。でも、アンジェロは感情を表に出したがらないし、自分が不安を抱えているということを人に知られるのが嫌なのだ。

 ―――――だから平静を装って、でも完全に隠しきることなんてできなくて、私に冷たくなっちゃってた、って事なのかな。

 そう考えるに至って、アンジェロの気持ちを理解してなかったことに、自分を恥じた。

「ねぇミナ、アンジェロは本当にミナを好きだよ。なんでそれが信じられないのかが、俺には本当に理解できない」

「・・・アンジェロは冷たいし、いつもしれっとしてるし、それに一回フラれてるから」

「そう言えば、ミナっちは知らねぇんだっけ」

 レオナルドの言葉に顔を挙げたら、二人は頬杖をついて語り始めた。ミナが告白して、フラれて、その後のこと。

「あん時俺らで説得してさぁ、それでもアイツは頑固にダメだつって。仕舞にはミナっちからアンジェロの記憶も、アンジェロを思う感情も今度こそ完璧に消し去って、屋敷を出るとまで言いだした。あの時シャンティがブン殴ってでも止めなきゃ、アイツは絶対にそうしてた」

「アンジェロがミナの告白を断ったのも、記憶を消そうとしたのも、全部ミナの為だよ」

「私の為?」

「そう。恋人になってもすぐ死ぬ。自分が死んでミナっちが悲しむくらいなら、自分のことを完全に忘れた方が幸せだって。自分のことを一切覚えていなければ、自分が死んでもミナっちは悲しまないからって。アイツは、自分が死ぬ事も勿論辛いと思うけど、それ以上にミナっちと子供を置いて死ぬ事の方が余程辛い。自分が死んでミナっちが悲しむことの方が辛い」

「だからアンジェロはまた記憶を消そうとした。最初に記憶を消したのもその為だよ。最初に記憶を消した時、アンジェロは本当に辛そうだった。そりゃそうだよな。心底好きな女が完璧に自分のことを忘れてんだから、辛くないはずがない。それでも、同じ辛さを再び味わってでも、ミナから記憶を消して、幸せになってほしいと思った。それほどの思いでミナを愛してるんだよ」

 二人の話を聞いて、涙が溢れた。ミナは何も知らなかった。何もわかってなかった。あの頃悲しいのは自分だけだと思っていた。ミナに忘れられて、アンジェロがどんな思いを抱えてたかなんて、解っていなかったのだ。

「ミナはもしアンジェロに忘れられたら、それに耐えられる?」

 エドワードに言われてアンジェロに忘れられることを想像してみて、悲しくて辛くて、言葉に詰まって、首を横に振った。

「アンジェロは耐えたんだよ、10年も。これから同じことが起きても、アンジェロはきっと耐えるよ。はっきり言って、ミナよりもアンジェロの愛情の方がずっとずっと強いよ」

「アンジェロは我慢強い奴だけど、あんまり我慢させないでやってよ。じゃなきゃアイツはまた自分を追い込んで、悪魔に魂売り渡すような事をしちまうから。アイツは本当にミナっちが好きで、いつもミナっちの事ばっかり考えてて、ミナっちの為に悪魔を倒すって決めたんだよ。だから、アイツを信じてやって」

「うん」

 涙は止まらないまま、頷くとポタポタと膝の上に落ちた。

 ―――――私は最低だ。アンジェロに甘え過ぎてる。

 悪魔に魂を売ったことも、記憶を消したことも、アンジェロの行動は全部ミナの為なのに、わかっていたはずなのに、ちゃんと知ってたはずなのに、表面上の事でしか見ていなかった。

「私、アンジェロに、ヒドイ事を言っちゃった・・・」

「なんて、言ったの?」

「なんで、アンジェロを好きになったんだろうって。ジュノ様がいなければ好きにならなかったって」

 ミナの言葉を聞いて二人は苦笑して溜息を吐いてみせる。

「ヒデェなぁ」

「さすがにアイツ泣くよ?」

 やっぱり傷つけてしまったんだろう、そう思って、アンジェロを傷つける様な事を言ってしまったと思って、自分に腹が立った。ジュノがいなければ好きにならなかったか、そう考えてみると

 ―――――いなくても、絶対好きになってた。

 それしか浮かばない。より一層涙を零すミナに、レオナルドが優しく笑いながら尋ねてきた。

「ミナっち、アンジェロのどういうところが好き?」

「カッコよくて、頼りになるとこ」

「それから?」

「照れ屋さんなところ」

「それから?」

「頑張り屋さんで、賢いところ」

「それから?」

「楽しくて、いつも私を笑わせてくれるところ」

「それから?」

「私の事を大事にしてくれて、好きでいてくれるところ」

「それから?」

「本当はすごく優しいのに、不器用すぎて、優しさが分かりにくいところ」

「ちゃんと、アンジェロに謝りなよ?」

「うん・・・」

 私はどうして自分だけが好きみたいに思ってたんだろう。アンジェロはいつも私の事を考えててくれてたのに。ちゃんとわかってたはずなのに、身勝手で自己中なのは私の方だ。私はちゃんとありのままのアンジェロを好きになったはずなのに、アンジェロの優しさと愛情が大きすぎて、自分がその中にいるって気付かなくて、目の前に何もないと思って・・・

 昔からそうだったのに。アンジェロは優しい。ただ、その優しさが分かりやすいものじゃないってだけで、ただ口や態度が悪いだけで、私はそういうさりげない優しさが好きになったのに。

 ちゃんと謝って、許してもらいたい。部屋に戻らなきゃ、アンジェロにちゃんと謝らなきゃ。


 レオナルドがタオルを持ってきてくれて、それで涙を拭いて、部屋に戻ると言うと二人とも「すぐに仲直りできるから、大丈夫」と励ましてくれた。

 二人にお礼を言って部屋を出て、エレベーターでフロアに到着すると、ドアの前にアレクサンドルが立っていた。

「あれ? ミナちゃん」

「あ、アレク、部屋に行ってたの?」

「うん。アンジェロ、部屋にいるよ」

「そっか。ありがと」

 エレベーターのドアが閉まる前、アレクサンドルは笑って言った。

「アンジェロを、信じてね。アンジェロはミナちゃんが本当に大好きだから」

 閉まりかけるドアの向こう、アレクサンドルに頷くと笑って、ドアは閉まって静かに降下していった。


 アレクサンドルが部屋に戻ると、レオナルドとエドワードが溜息を吐いて、部屋に戻ってきたアレクサンドルに視線を注いだ。

「おう、お前どこ行ってたんだよ」

「アンジェロのとこ」

「じゃぁ途中でミナに会った?」

「会ったよ」

「そか」

 二人の様子に、ミナは二人と話をしたんだと気付いて、アレクサンドルもベッドに腰かけた。レオナルドがアレクサンドルに聞いた。

「アンジェロは?」

「瀕死」

「マジか」

「吸血鬼じゃなかったら、窓から飛び降りて自殺するとか言ってた」

「そりゃまた・・・」

「ある意味さすがだな・・・」

 アレクサンドルは、アンジェロだけには謝罪しようと部屋に行った。当然レオナルドとエドワードはただの悪ふざけなので腹立たしかったが、アンジェロには変身してからかったりイタズラを仕掛けたりしたので、自業自得だと思ったのだ。それで部屋に行ってみると、アンジェロが放心状態でソファに横たわっていて、どうしたのかと尋ねると、途端に錯乱してミナに嫌われたら生きていけないから死ぬと言い出した。それで今までずっとアンジェロを落ち着かせていたのだ。

 その様子を思い返しながら3人は「ちょっとケンカしたくらいで、情けねぇ・・・」と溜息を吐く。

「俺が部屋行った時灰になってたもん。そっからメソメソ言い出して、泣くかと思ったよ」

「あぁ、道理で」

「何が道理で?」

「や、ミナっちが追いかけてきてくれないとか言ってたんだけど」

「あぁ、あの様子じゃ追いかけるどころじゃなかったね。とりあえず、アンジェロ今日は銃持ってなかったし、目の届くところにシルバー(のナイフやフォーク)がなくてよかったよ」

「どんだけだよ・・・」

「あのアンジェロが自殺をほのめかしてる時点で、相当な異常事態だな」

「つーか、面倒臭くね? アイツら」

「マジで。ラブラブなくせに無意味なケンカしやがって、マジ面倒くせーバカップル」

 おっしゃるとおり、巻き込まれた外野にしてみれば傍迷惑な話である。

「マジで。どーせ一瞬で仲直りだよ」

「だろーな。面倒くせぇ」

「羨ましいって言えばいいのに」

 そう言ったアレクサンドルを二人は急に睨みつける。

「うるせーよ。犯すぞ」

「やめろよ! 二人ともマジ怖い!」

「冗談じゃねーか」

「もう絶対女に変身しない」

「冗談だろー」

 恐々とするアレクサンドルは、この日銃を抱いて眠ることにした。


 部屋に戻ると、ソファに腰かけていたアンジェロがすぐに立ち上がって、こちらに歩いてきた。手を伸ばしてきたアンジェロの手をすり抜けて、抱き着いた。

「アンジェロ、アンジェロ、ごめんなさい。ヒドイ事を言って、ごめんなさい。もう勝手なこと言わないから、誰にでも甘えたりしないから、アンジェロしか愛してないから、だから、私を見捨てないで。他の人の所に行けなんて、言わないで」

 ミナは二人に言われたことを真摯に受け止めたが、やはり傷ついた。人によってはとっくに愛想尽かして別れてる、俺なら絶対許さない、そう言った二人の言葉に恐怖せざるを得なかった。アンジェロに、他の男の所に行けと言われてしまったから。そう言って涙声で抱き着いてきたミナを、アンジェロは優しく抱きしめた。

「ミナ、ゴメン、俺ヒドイ事を言った」

「アンジェロ、私の事怒ってる? 嫌いになる?」

「怒ってねぇし、ならねぇよ」

「ゴメンね、ゴメンね、私全然わかってなくて・・・私、バカだけど、でも本当にアンジェロしか好きじゃないよ」

「わかってるよ」

「私、ヒドイ事言って、本当はアンジェロが優しいってわかってたのに、ジュノ様なんかいなくたって、私アンジェロを好きになったよ。なのに、ゴメンね、ゴメンね。アンジェロを、傷つけた」

「いいよ、別に。怒ってねぇから。俺もお前を傷つけたよな、ゴメンな」

「アンジェロは悪くないよ、ゴメンね、ごめんなさい」

「うん」

「私、ちゃんとするから。ちゃんとアンジェロのいう事聞くから。ちゃんと気を付けるから」

「うん、俺も優しくできるようにするから」

「・・・アンジェロは、優しいよ」

「じゃぁもっと優しくするから」

「うん」


 3人の予想通り一瞬で仲直りできた夫婦は、より一層仲良しになりました。

 めでたし、めでたし。




★みんなに「イイ奴」は誰の友達でもない

―――――――――ユダヤの諺


★登場人物紹介★

【レオナルド・ジュリアーニ】 

シュヴァリエ幹部の一人。イタリア出身。狙撃が得意で、標的が物陰に隠れていても殺せる。自称・魔弾の射手と称しているが、ミナはヴァチカンのゴルゴと呼んでいる。


【アレクサンドル・ミッテラン】 

フランス出身。トランスフォーマー。変装が得意。変身できる為、その能力をしょっちゅう悪用している。


【エドワード・クロムウェル】 

アイルランド出身

あらゆる武器を使いこなす武器マニア。要するにセンスがいい。でも一番好きなのは剣だったりする。近頃はヨハンと一緒に武器開発に勤しむ。



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