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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第2章 悪魔の二次関数
26/96

天は苦心の人に背かず



「伯爵、ミナは?」

「思考も所在も読めない。まだ契約の空間にいるのか、それとも・・・・」

「ミナ・・・・」


 二人は、ミナの帰りを待つことにした。願ったことが自分の消去なら帰ってこない。全員からミナの記憶を消去したのであっても、成就した時点でミナは帰ってこない。どうか、どうか、帰ってきてくれ、と祈りながら二人は待った。

 少しすると、アルカードが急に立ち上がった。

「ミナ!」

 アルカードの様子に帰って来た事を察したアンジェロも続いて立ち上がると、アルカードはミナに呼びかけ、すぐにミナは部屋に姿を現した。

「ミナ!」

 アンジェロが駆け寄ると、ミナは途端に顔を歪ませて、涙を零し始めた。

「アンジェロ、アンジェロ、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」

 アンジェロは泣き出したミナを、優しく抱きしめる。

「いいよ。そんなの、昔の話だから。隠しててゴメンな」

「ゴメンね、私っ・・・」

「いいって、昔の事だから。俺と付き合う前の話だぞ? 俺にどうこう言う権利はねぇし、お前が自分を責めることないんだぞ」

「付き合う前・・・?」

「そう。まだお前が俺の記憶を失ってた頃の事だ。だから、お前は何も悪くない。勿論クリスだって悪くねぇよ。悪いのは俺だから、だからもう泣くな」

「でも、ジュノ様が、裏切り者って・・・・」

 そう言ったミナから体を離して、涙を拭う指輪の光る左手に印章を認めたアンジェロは、ミナの手を引いてアルカードの元へ連れ立った。


 座るように促され3人で腰かけて、アルカードが口を開いた。

「ミナ、契約したんだな」

「・・・はい。ごめんなさい」

「謝る必要はない。お前に責任はない」

「そーだぞ。ワリィのは悪魔だ。お前は、誰も裏切ってない」

「でも、私・・・・」

 ―――――アルカードさんもクリシュナもアンジェロも裏切った。

 涙を零すミナの思考を読んで、アルカードは優しく頭を撫でた。

「お前は裏切り者ではないだろう? クリスティアーノとのことは過去の事だ。誰に対する裏切りでもない。クリシュナはお前に幸せになれと言った。お前は幸せになったではないか。それのどこが裏切りだと言うんだ? 私はお前に生きて、待てと言った。お前は言った通り生き延びて、ずっと待っていてくれた。お前は、裏切り者ではない」

 アルカードの言葉が嬉しくて、同時にとても申し訳なく思い、ミナはより一層涙を零した。

「っ、ごめ、なさい・・・・」

「謝る必要などない」

「・・・・・ありがと、ございます」

 ミナが落ち着いてから、改めて左手の印章に目をやったアンジェロが尋ねた。

「お前、何を願ったんだ?」

「契約して――――――――」

 アンジェロに問われて、契約後の顛末を語り始めた。



「これで、契約は締結されました。願いを、どうぞ」

 手を離したジュノがにっこりと笑う。しかしミナは、急に思い立ったような顔をした。

「ジュノ様、その前に一回屋敷に戻りましょう!」

 その言葉に顔を顰めるジュノ。

「なぜです?」

「だって、なかったことにするのはいいんですけど、アンジェロに謝りたいんです!」

「アンジェロさんに謝罪したい、それが願いですね?」

「違いますよ! 願い事は後からするから、一回戻してください!」

「それは出来ません。契約後に願いを聞くのは決まりです」

「ジュノ様のケチ! そんなことしたら謝る前に死んじゃうじゃないですか!」

「そうですね」

「もー! そうですね、じゃないですよ! ちょっとくらいいいじゃないですか!」

「ダメです。さぁ、願いを言ってください」

 融通の利かないジュノの様子にミナはイライラして、しばらく考え込むと顔を上げた。

「さっきの3つ以外なら叶うんですよね?」

「ええ」

「じゃぁお願いします! 私のお願いを10個聞いてください!」

 ミナのお願いに、ジュノは気を失いそうになった。

「な、何を言い出すんです」

「だってジュノ様、3つのこと以外なら何でも叶えるって言いました! できますよね!?」

「・・・・・・・・・・・チッ、わかりました」

「ヤッター! じゃぁとりあえず屋敷に帰りましょ!」

 どう考えてもその願いは1個無駄にしたとしか考えられないが、とにかくそれで戻ってきた。



「・・・・・というわけなんだけど」

 ミナの話を聞いて、アンジェロとアルカードは同時に吹き出した。

「ハッハッハッハ!」

「ハハハ! マジお前最高だな! さすがだよお前! どんだけ我儘だよ!」

「それって、褒めてんの?」

「褒めてるに決まってんじゃねーか! さっすが、伯爵の躾は行き届いてんな!」

「そうだろう?」

「スゲェよ、さっきまでのシリアスムード全壊だよ」

「ミナにかかれば何でもコメディだな」

「ハハッ、マジで!」

「「さすが私の(俺の)下僕(嫁)だ」」

 ご満悦でうっかりユニゾンしてしまったドSコンビの様子に釈然としなかったが、自分の選択が悦ばれた事だけはわかったので、それで良しとすることにした。

二人が笑うのをしばらく眺めていると、笑いが引いてきた頃にアルカードがアンジェロに顔を向けた。

「おい、小僧」

 その視線で何を求めているか気付いたアンジェロは、すぐにテレパシー中継を繋いだ。

【ミナ、俺の声聞こえてるか?】

【うん。あれ? なんで聞こえるの? なんでテレパシートライアングル?】

【説明は後だ。ミナ、心して聞け】

【う、はい】

【あの悪魔の事だ、お前が言いだしたことは、どれほどしょうもないことでも叶えようとする。口には気を付けろ】

【はい】

【お腹空いたーとかもやめろよ】

【あ、うん】

【とりあえず、カウントはきちんと取るぞ。今願ったのは1つだけだな?】

【はい】

【や、違ぇよ。俺もその手に騙された。もう既に2つ叶えてる】

【どういうこと?】

【願いを増やせってのを叶えてる】

【なるほど、悪魔らしいな。という事は、残すところ8個か】

【だとすると、重要な願いを先に持ってきた方がいいよな】

【重要な願いかぁ、あ! アンジェロの契約を解約してもらおう!】

【は? できんの?】

【解約が可能なのか?】

【ジュノ様に聞いたんです。解約はできないんですかって。そしたら契約した人が解約を願うならできるって】

【なるほど、ではそうしろ】

【はい! あ、でも、解約したからって今までのアンジェロの功績がパァになったりしないかなぁ】

【うーん、その可能性はあるよな】

【小僧、お前は何を願った?】

【ミナが幸せになるように】

 回答を聞いたアルカードは、アンジェロに呆れたような視線を向けた。それにムッとするアンジェロ。

【んだよ】

【お前、そんな奴だったか・・・?】

【うるせーな! いいだろ別に!】

【そんなにミナが好きか?】

【ワリィかよ!】

【うるさい】

【ていうか、テレパシーでまでケンカしなくたって・・・】

【うるせぇ! テメェは黙ってろ!】

【小僧が一番うるさいぞ】

【そうだよ、落ち着いてよ。煙草吸う?】

【吸う】

【この部屋は禁煙だ】

【チッ】


 落ち着いたところで、ミナが会議を再開した。

【でも、もしアンジェロが解約したことで、今までの事が全部パァになったらどうしよう】

【ならないように願うしかねぇよな】

【ならないようにって?】

【小僧の契約を解約した上で、状況環境その他諸々現状維持であるように願うしかなかろう。今の段階なら一つの願いに複数消耗しても問題ないだろう】

【そうだな。とりあえず、取り返した魂は保持してぇな。双子の事も、クリシュナも、当然ミラーカさんも】

【願いによってもたらされたことは、純血種と魂だけか?】

【いや、ヴァチカンやイスラムから俺らの存在を抹消することと、吸血鬼としての進化、知人友人の保護と、世界平和】

【随分欲張ったものだな】

【俺じゃねーよ。ミナが望んだの】

【えー? ていうか、私世界平和なんて言ってないよ】

【言ったじゃねーか! お前ベトナムで花火してる時に言っただろ!】

【そーだっけ?】

【何忘れてんだよ! このバカ!】

 アンジェロにとっては思い出の一つだったのだが、ミナはまんまと忘れてしまったようで、アンジェロは悲しみに打ちひしがれた。

 しかもミナが忘れていたら、世界平和の為に人類が絶滅しかけているのは、アンジェロ単独の責任になる。さすがのアンジェロもそれはゴメンだ。

 が、ミナは珍しく可笑しそうに笑う。

【ウソウソ! 覚えてるよぅ! 冗談だって!】

【マジバカ。このバカ。お前最悪。この状況でよくそんな冗談言えるよな、お前】

【まぁいいじゃない。でも花火かぁ。またしたいね! 今度花火しよっか!】

【・・・・ハァ】

 二人の様子を見てアルカードは可笑しそうに笑う。

【なんなら打ち上げ花火でも上げたらどうだ】

【ソレもうやった】

【私の誕生日に花火上げてくれたんです!】

 それを聞いてまたしても呆れたような視線を向ける。

【お前、そんな奴だったか・・・?】

【そんな奴になりました!】

【病気だな・・・】

【ほっとけ!】

【今年も上げてね】

【断る。つーか脱線させてんじゃねーよ、バカ】

【私のせいじゃないもん!】

【うるせぇ】

【ていうか断んないでよ! いいじゃない!】

【うるせぇ】

【ミナ、うるさいぞ】

【すいません・・・】


 落ち着いたところで、今度はアルカードが会議を再開した。

【その願いによってもたらされた事とは、全て叶ったのか?】

【や、後は伯爵の祝福が残ってる】

【なるほど。叶う事はないな】

【だろーな】

【えー!】

【うるさい。では、世界平和を願ったのはいつの事だ?】

【24年前】

【24年前? あぁ、67年前か。・・・しかし、20年も世界平和に着手しなかったのは、私の帰りを待っていたのか】

【恐らくな。悪魔は伯爵の帰還する日を模索してたからな。俺らは知ってたけどあのクソ悪魔は必死になって探ってたし、伯爵が帰ってくる日が重要だったって事は、伯爵の帰還に合わせて、もしくは帰ってくる間に何かしでかすつもりだったんだろ。つーか、やられたけど】

【本当、まさか時間の流れがこんなに違うとは思わなかったよ。いない間にこんなことになるなんて・・・】

【反省は後にしろ。それより折角契約したんだから、使っちまえ】

【そうだね! 世界平和はキャンセルで! って言ってみる】

【すると、小僧の願いは全部成就して、小僧は死ぬのではないか?】

【そうなんだよなぁ。だから俺の解約を先にしねぇと】

【え? アンジェロのお願いが全部成就するって事は、アルカードさん、アンジェロのこと認めてくれるんですか!?】

 嬉しそうにそう言って顔を向けたミナにアルカードはついイラッとして、ミナの頭を鷲掴みにした。

【誰のせいだと思っているんだ・・・!】

【痛っ! いたたたたた! ごめんなさい! ごめんなさい!】

【お前は何故成長しないんだ! 暴走するなと昔から言って来ただろう!】

【ご、ごめんなさい! ごめんなさい!】

【大体私は認める気も許す気もない! それとコレとは別だ! わかったか!】

【わかりましたからぁぁぁ!】

 頭をクラッチされてジタバタ暴れるミナ。アンジェロがその手を引きはがそうとする。

【おい、伯爵やめろよ。ミナのせいじゃねーだろ】

 その言葉に渋々手を離すと、解放されたミナの頭を撫でて【痛かったなぁ】とあやすアンジェロ。その様子に今度はアンジェロにキレた。

【大体お前もお前だ! ミナを甘やかしすぎだ!】

【んなこと言ったって、しょーがねぇだろ】

【しょうがないのはお前だ! バカみたいに溺愛しやがって!】

【しょーがねーじゃん】

 完璧に開き直ってしまっているアンジェロの様子に、アルカードはまたしても呆れた視線を向けて溜息を吐く。

【お前の溺愛ぶりは、俄かにクリシュナを彷彿とさせるな】

【そりゃ2代目だからな。先代の遺志を継がなきゃいけねぇだろ】

【なんだその義務感は・・・お前、いつからそんな奴になった?】

【生まれつき】

【嘘を吐け!】

【これからよろしくな、お義父さん】

【誰がお義父さんだ!】

 ―――――私の知っている小僧は、クソ生意気でイカれた小僧だったはず。いや、それは今でも変わらないが、こんな恋の奴隷ではなかったはずだ。ミナは一体どんな魔法を使ったのだ。

 頭を捻るアルカードの様子にアンジェロは若干イラついたが、ミナも帰ってきた上に結果的にアルカードと共闘できることになったという事実で、まぁいいか、と思う事にした。


 すぐに脱線するのは、どうも吸血鬼の習性のようである。今度はアンジェロが会議を再開した。

【とりあえず、取り返した魂の保持・純血種の保護・俺の解約・世界平和のキャンセル。順番としてはこんなもんか?】

【そうだな。今更ヴァチカンやイスラムなどどうでもいい。あぁ、そうだ。良い事を思いついた】

 そう言ったアルカードにミナとアンジェロは揃って顔を向けた。それを見てアルカードはニヤリと笑う。

【その後はミナが好きなことを願って行けばいいが、願いの数が残り1つか2つになった段階で、更に10個叶えるように願え。それを永遠に繰り返せ】

 それを聞いてミナは呆れ、アンジェロは可笑しそうに笑った。

【伯爵さすがだな! 性格悪っ!】

【むしろ賞賛されて良いと思うがな】

【さすがですね・・・他人の魔力まで湯水の様に使おうだなんて】

【マジ伯爵さすがだな。俺改めてアンタ尊敬するわ】

【小僧でも“尊敬”という言葉を知っていたのか。驚いた】

【驚いてんじゃねーよ! 失敬なジジィだな!】

【失敬なのはお前の方だ】

【確かに・・・ジジィはヒドイよ。せめてオッサンにしようよ】

【【そう言う問題じゃないだろ】】

【二人でツッコまないでよ・・・】

【打ち合わせなどしていない。お前がそうさせるんだ】

【うぅ、読まないでください】


 いつものようにミナがやり込められてテレパシー会議が終盤に差し掛かった頃に、序盤の事を思い出した。

【そういえば、アンジェロってこんなにバッチリテレパシーできたっけ?】

【双子とはな。それ以外とは今の所伯爵とお前となら】

【え? 前はできなかったじゃん。なんで出来るの?】

【立場がお前と同じになったからじゃねーか】

【同じ? ・・・誰のお嫁さ】

【違ぇーよ! 眷属になったんだよ、伯爵の!】

 その回答にミナはかなり驚いて、目も口も目一杯開いた上に、立ち上がった。

「えぇー!? ウソ! アンジェロが!? あんな、引くほど拒絶してたのに!?」

【バカ! うるせーよ! 声出すな!】

【あ、ごめん】

 怒られて、アンジェロに腕を引かれて無理やり座らされると、アンジェロとアルカードに溜息を吐かれた。

【ま、元々俺はそーいうの強い方みたいだし?】

【あぁ、普通はテレパシー中継は出来ないからな】

【あ、そうなんですか。じゃぁアンジェロも血と元素を操れるんですか?】

【そうなるな。眷属になったことでより魔力は強大になった。ESPも訓練次第では何かしらの能力を発揮するだろう。更にESPに加えて、私の能力も踏襲する】

【なんかズルーい】

【いーだろー。これで家族内パワーバランス、お前が最下位だな】

【それでも私の足元にも及ばないがな】

【アンタ、マジムカつく。地獄に堕ちろ】

【お前が堕ちろ】

【アンタが肥溜めに落ちろ】

【お前が溶鉱炉に落ちろ】

【・・・】


 立場や関係に変化が起きても、結局この二人が険悪なことに変わりはなさそうだ。



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