俺の代わりはいないんだ
「どけ」
「あ? ざけんな。テメェがどけよ」
すれ違うだけでこの有様だ。周りの吸血鬼達は気が気ではない。またしてもメンチを切り合うキチガイ男子。
アンジェロに退くように、アルカードの後ろにいたボニーとクライドが必死にミナに視線を送るも、ミナは全く気付かない。
「うーん、なるほど。核がRNAじゃなくDNAということは、ワクチンができれば一発解消って事か。けど、DNAに記録するほどの情報なら、余程複雑な構造だなぁ」
苧環に渡された研究資料を見ながらブツブツと思索に耽るミナは、二人の様子など気にも留めることなくスルーして、研究室へと歩いて行ってしまった。
それにショックを受けたアンジェロはすぐさまミナを追いかける。
「ミナ!」
「うーん、でもコレ神経系を破壊なの? だとしたら狂犬病に近い? その割には期間が長い・・・」
「ミナ!」
「へぁ?」
「なんだそのマヌケな返事! つーかお前俺の嫁だろ! ちゃんと俺に味方しろよ!」
「なにが?」
「なにが!? お前状況分かって言ってる!?」
「わかってるよ! 私の頭脳に人類の存亡がかかってんだから!」
「それもだけど! そっちじゃなくて!」
「そんなことよりアンジェロ! アンジェロはアリストの事もあるんだから、あっちの方もたまには様子見に行かなきゃダメだよ。シュヴァリエ何人か常駐させたら?」
「・・・そうする」
ミナはその件に関して興味はなさそうで(問題の重さが違うので当然ともいえるが)、それを察したアンジェロは泣く泣く退いた。
ロマンチストな男と違って、女は現実主義者である。いざとなればアンジェロの方が余程冷静かつ的確に行動できるのだが、アンジェロにしてみれば最大の敵と再会したのだ。最愛の妻を奪うかもしれない最大の敵に恐々とするのは当然だ。
しかし、ミナにしてみれば
―――――今そんなこと言ってる場合じゃないじゃん。その話は後回し!
ということである。
この様子を見ていたアルカードはニヤニヤ笑っている。
―――――やはりな。こうなるだろうと思った。
ミナの性格を考えればこうなることは至って自然である。アルカードとクリシュナが大喧嘩していた時も、知らぬ存ぜぬを貫こうとしていたのだ。旦那の座が誰に変わっても、そのスタンスまでは変わらない。
愉快そうに笑うアルカードに気付いたアンジェロは、すぐに睨みつけてダッシュしてきた。
「オラァッ!」
「甘い」
「わっ!」
ダッシュしてドロップキックしてきたアンジェロ(逆恨み)を、まるで蝿でも払うかのように、ペイっと叩き落とすアルカード。起き上がったアンジェロはすぐに怒鳴り散らす。
「何すんだテメェ!」
「それは私のセリフだ」
「うるせぇ! 笑ってんじゃねーよ! ムカつくツラしやがって!」
「それも私のセリフだ」
「俺のセリフだ!」
「私のセリフだ」
睨みあうキチガイ男子。ボニーとクライドとミラーカは、両手をWに開いて深く溜息を吐く。
(あぁ本当に、ミナの気持ちがよくわかる。激しく関わりたくない。面倒くさい)
面倒くさくなって、3人はキチガイをほっといてその場を立ち去った。
ようやく研究室に到着したミナ。日本に渡って1週間、膨大な資料を読み終わり、いよいよミナも研究に着手することになった。
「臨床は?」
「この際手段を選んではいられないからな。罹患した人間を攫って実験に使っている」
「なるほど。まぁ人体実験しなきゃわかりませんよね。効果はどのくらい?」
「ないに等しい。細胞の破壊を遅らせる処置ですら間に合わない」
「そうですか・・・」
研究者たちは主に山姫の病院に勤めていた医師や、製薬会社の開発担当、それらのメンバーが声をかけた有志によって構成されている。ほとんどが、人間だ。
「あの、みなさんは“エンジェル”には?」
「感染している」
「・・・そうですか。ごめんなさい」
「謝罪は後だ。あなたにはやってもらわなければならないことが山ほどある。私達が天寿を全うするまでに特効薬が開発できなかった場合は、銀の杭を打ち込ませていただく」
「はい。勿論です」
研究所内では、人間・非人間の差別なく研究がおこなわれていた。目的は同じなのだ。情熱も問題への危機感も同じレベル。時と場合によっては人種だけで研究が認められないこともある。が、そんな事を言っている場合ではない、と言うのが現状だ。
当然、研究者たちも被験体として自らの肉体で実験をするし、それぞれが持ち寄る知識を惜しげもなく提供する。通常、大学や企業の研究室ではありえないことだが、それほどの事態なのだ。
そこにやってきた、吸血鬼の娘。世界中の科学を脳に収めた、科学者。研究者たちはその脳に大きな期待を寄せた。
が、ミナは本当に人の想像の斜め上を行く。やってきていきなり言った言葉に全員が驚いた。
「ていうか、吸血鬼って病気にならないんですよねぇ。私の血を飲んだら治ったりしないかなぁ」
それを聞いて即座に注射針を用意する研究者たち。
「ミナさん、血をくれ!」
「研究を!」
「血液成分の解析を!」
「え、あ、はい。どうぞ」
ウイルスの解析にばかり気を取られていた研究者たちには盲点だったようだ。パックに溜っていく血液をワクワクと見つめる研究者たちを少し可笑しく思う程だ。
「あと、あのぅ、“エンジェル”のDNAの解析ってどこまで行ってますか?」
「まだ、半分ほどだ」
「配列が変わって崩壊したウイルスはありますか?」
「あるが、とてもではないがワクチンを精製できるような量じゃない」
「じゃぁ、そのDNAをウイルスベクターとして利用できませんか?」
「そうか! エンジェルウイルスを破壊するようにプログラムすれば!」
「だが、解析が不十分な状態でそれを行う事は危険だ」
「そうですよねぇ。じゃぁ直接脳にレトロウイルスベクターを注入して、iPS細胞を増殖させたうえで、脳神経の破壊を食い止める事ってできないでしょうか」
「やってみる価値はありそうだ」
「こうしちゃいられない! おい、その放射線片付けろ! 撹拌機の用意は!」
急に慌ただしくなる研究所内。その間もミナの血液はガンガン抜き取られている。さすがに少しお腹が空いてきた。
「苧環さぁん、ちょっとお腹空きました」
「そこの冷蔵庫に入っていますから、お好きにどうぞ」
「もう、ケチ! 今動けないんです! 持ってきてくださいよぅ!」
「誰がケチですか。ハァ、仕方ありませんね」
「ありがとうございまーす!」
能天気なミナと苧環のやり取りに研究者たちはクスクスと笑う。苧環からパックを受け取ると、新たな問題が発生。
「苧環さん、私片手塞がってるから、開けられません!」
「・・・はぁ」
「んもー、いちいち溜息吐かなくたっていいじゃないですかぁ。そんなに私の事怒ってるんですか?」
「・・・いえ」
「溜息吐くと幸せ逃げちゃいますよ」
「余計なお世話です。ハイ、どうぞ」
「ありがとうご・・・あ」
「・・・全く!」
「エヘ! ごめんなさい!」
受け取るのにしくじって、折角苧環が開けたパックを落とし、てへぺろなミナ。いよいよ苧環も溜息が増える。その様子にいよいよ研究者たちは笑わされた。
「全く、あなたは世話が焼けますね!」
「アンジェロにもよく言われるんですぅ」
「褒めているわけではないので、嬉しそうにしないでもらえますか」
「えー? でもアンジェロは同じ事言いながら楽しそうにしてますよ?」
「それは彼があなたの夫だからです。私は楽しくありませんよ」
「まったまたぁ。苧環さんってツンデレなんだからぁ」
「・・・腹立つ!」
普段冷静を通り越して冷徹な苧環がこうも遊ばれていると、研究者たちはその続きを拝みたくて仕方がなかったようで、勝手に苧環をミナ専属の助手にしてしまった。後からその話を聞いて、苧環はかなりショックを受けた。
「困りますよ。彼女、本当に面倒くさいんですが」
「だからいいんじゃないか。面白いよ」
「私が面白くありません。腹が立ちます」
「まぁまぁ! 苧環君も息抜きになるんじゃないかな」
「ストレスが溜る一方なんですが」
抗議空しく決定したようだ。その話を虎杖から聞いて、ジェラシーファイヤーを燃やすアンジェロ。即苧環に文句を言いに行く。
「テメェ、ミナに手ぇ出したらブッ殺すぞ」
「ご心配なく。あんな面倒くさい女はタイプではありませんので」
「そこが可愛いんだろ!」
「・・・・・この夫婦面倒くさい」
「あぁ!?」
「いえ。本当に心配には及びません。私も結婚してますので」
「あ、そうなのか。なんだ。アンタの嫁ってどんな女?」
「・・・お構いなく」
あまりにも面倒くさくて、咄嗟に嘘を吐いた苧環。苧環にしてみれば全く持って迷惑な話である。面倒くさいを連発するのも仕方がない。
折角研究室まで足を運んだので、ガラス越しにミナの様子を観察することにしたアンジェロ。
「なぁ、アイツ、ちゃんと役に立ててるか?」
「ええ、彼女のお陰で少し可能性が広がりました」
「もう!?」
「ええ」
「そうかぁ。ミナ、ちゃんと頑張ってるのか」
ガラスの向こうでは白衣を着たミナが、電子顕微鏡を覗きながらメモを取っている。科学者としてのミナの姿を見て、アンジェロはガラスから離れた。
「俺とクリス、シュヴァリエ何人か、ちょっと出かけてくる」
「どちらに?」
「異次元」
「異次元?」
「あぁ、俺、あっちの世界の市長だから。街をほっとくわけにはいかねぇんだよ」
「あなた市長なんですか」
「そ。なったばっかだけど。あっちとこっちでは時間差があるから、何か月も留守にするかもしんねぇけど、ミナと他の奴らの事頼むな」
「わかりました」
言うが早いか、アンジェロはシュヴァリエに何人か声をかけてさっさと異次元に行ってしまった。後からその話を聞いてキレるミナ。
「んもぉぉ! ヒドイ! 私を置いて! 時間差あるのに! また何十年も経ったらどうすんのよ!」
「ミナ、大丈夫だって。落ち着け」
「だって、あっちで私がいないと思って浮気したらどうするんですかぁ!」
「大丈夫だから・・・」
「やだ、もう。アンジェロがいないと淋しい。アンジェロー、帰ってきてェェェ! あっ! 私も第11次元に行く!」
「誰か、アンジェロに連絡とれ。何とかして」
「ていうか、ミナをなんとかして」
必死に宥めるボニー&クライド。その様子を見てアルカードは首を傾げた。
「ミラーカ」
「なに?」
「ミナは、何があった?」
「どういうこと?」
「なぜ小僧にあんなに執着する?」
「愛してるからでしょう」
「いや、それもそうなんだが・・・」
「確かに、ミナちゃんらしくないと言えば、そうね」
それから半年近く経っても、アンジェロは戻っては来ない。あちらでは微々たる時間だろうが、ミナは淋しがってふさぎ込み、研究に手が付けられない程になって、双子が必死になってミナを励ます。そんな日常が繰り返される。
ミナの様子を不振と考えたアルカードは、こちらに残ったジョヴァンニに、あの戦争の直後からのミナとアンジェロの様子を聞いた。
絶望して、心神喪失状態に陥ったミナ。それを献身的に支え続けたアンジェロ。ミナはひたすらアンジェロに守られ、ミナを傷つけないよう、怖がらせないよう、常にアンジェロが目を光らせ、ミナは笑顔を取り戻した。
「あの頃はアンジェロもミナも、二人とも相当心に傷を負ってたから、アンジェロ、言ってたんです」
「なんと?」
「ミナとアンジェロは、お互いに依存し合っていないと、生きていけないんだって。アンジェロは多分ミナを守ることで自分を守ってたんでしょう。ミナはアンジェロが傍にいないと泣き出してしまう程で、いつもアンジェロにくっついて頼ってた。あの頃、ミナはアンジェロがいなかったら生きていられなかっただろうし、アンジェロもミナの為に生きていました」
「なるほど。しかし今は状況が違う。それこそ小僧が全て取り戻した」
「そうですね。だけど、それが解消される前に、アンジェロが悪魔と契約してしまったから。ミナの為に、アンジェロはミナから自分の記憶を消したんです。ミナを愛してしまったから」
「愛したから?」
「そうです。言ってました。それは裏切りだから許されないって。ミナはアンジェロがいなきゃダメなのに、アンジェロの記憶が消えて、なのに思い出だけが残されて、ミナはずっと忘れられずに苦しんで、勿論アンジェロも」
「・・・そうか。初期の状態から抜けないうちに小僧が消えて・・・」
「愛情を獲得して、より依存度を高めたということでしょう」
「しかし、小僧は愛情と言う感情を持っていなかったように思ったのだが」
「本人もそう言ってましたよ。クリスもアンジェロは愛情が欠如してるって断言したし、クリスが言うなら間違いないんだろうって思ってました。だけど、ジュノ様が言ってました。恋愛に酷似した感情を持ちながら、全くそちらに行かないから苦労した、って」
「悪魔の手引きか!」
「そうです。あの二人が愛し合うようになったのも、一度は拒絶したアンジェロを説得してミナと付き合うように言ったのも、ジュノ様です」
蠢く悪魔の策略に、アルカードの脳内は不穏な何かに支配され始める。二人の恋が、ただの恋ならばよかったのに、二人の愛は操作され、悪魔に運命を導かれている。
「ジョヴァンニ、レミは?」
「アンジェロと一緒に行きました」
「そうか」
「用があるのは、キースですか?」
「なんだ、お前知っていたのか」
「伯爵も、知ってたんですね」
「当然だ」
その返事にジョヴァンニは意地悪な人だと思いながら苦笑した。
「現代のパソコンで使えるのかはわかりませんけど、多分伯爵に報告するためにデータは持ってきてると思います。レミはあの戦争の後から毎日ミナやみんなの状況を詳細に記録していましたから、ジュノ様や二人の様子もわかると思います。伯爵なら、俺達が気付かなかったことにも、気付けるかもしれません」
レミの部屋に侵入し、パソコンを立ち上げて荷物の中からカードを取り出す。なんとか読み込んだ画面に映し出される、膨大な数のファイル。60年前の戦いの日からの、23年分の記録。その一つ一つに、丁寧に目を通していく。
「ここは、妙に記録が少ないな?」
「・・・・あぁ、この時は二人がジュノ様から逃げる為に、二人で逃避行してた期間ですね。ベトナムとかあちこち逃げ回ってたそうです。で、帰ってきたら二人の様子がおかしくて、即アンジェロはジュノ様と契約して、記憶を消しました」
「なるほどな。この間に何かあって、小僧が自覚したという事か」
「そうみたいですね。今思うと、アンジェロは踊らされていたとしか思えません」
「そうだな」
しばらく読み進めていくと、アルカードは目を瞠った。
「これは、本当なのか?」
「・・・本当です。本人も認めてるし、アンジェロも知ってます」
「知らないのは?」
「クラウディオ、ヨハン、オリバー、ボニーさん、クライドさん」
「なるほど、それ以外の、知っているメンバーは全員あちらに行ってしまっていないのか」
「はい。それと、ミナもです」
「ミナが知らない?」
「はい。記憶は消えているようです」
アルカードの脳裏に浮かぶ、ミナの性格。アンジェロとミナの関係、アンジェロとクリスティアーノの関係、ミナとクリスティアーノの関係。浮かび上がる、可能性。
「罠だ」
「え?」
すぐに部屋を出てミナの姿を探した。ジョヴァンニもその後を追いかける。ミナの居場所はアルカードにはわかる。当然すぐに見つけた。
庭のハルニレの木の下で、アンジェロがいないと淋しがり涙を零すミナの涙を拭って、ミナを抱き寄せる、苧環。
ジョヴァンニは知った。ミナの性格、強烈な魔力。それが生み出す、不幸。アルカードが気付いたジュノの策略の一つ。ミナとアンジェロを強力に結び付けておきながら、引き離すことで生まれる、不幸。二人は、絶対に引き離してはならない。
「ミナ!」
「苧環!」
慌てて二人を引き離し、アルカードがミナの手を引いて、ジョヴァンニと3人でアルカードの部屋に入った。
「ミナ、お前は、なんて女だ」
「ミナ、会えなくて淋しいのは、アンジェロもだよ?」
「でも、あっちではちょっとしか時間経ってないんだよ。こっちはもう半年も経ってるのに」
「ミナ、お前は本当に小僧を愛しているのか?」
「当たり前じゃないですか・・・」
「ならば、小僧以外の男の胸で泣くような真似はやめろ」
「だって、じゃぁ、どうしたらいいんですか?」
ミナは、孤独には耐えられない。いつも、強烈に欲している、自分より強く、自分より上の男を。
―――――エディプス・コンプレックスか。
ミナは父親に溺愛されて育った。いつも父親と北都に守られて、過度に干渉されて生きてきた。だから、自分より上の男に庇護されていないと、不安で、どうしたらいいのかが分からない。
それまで頼っていたアルカードが消え、心神喪失しているところに、アルカード以上に自分を守ってくれる存在、アンジェロが現れてしまったために、より強烈になってしまった。
―――――ミナに、話すべきか。
それが正解かも、今はまだわからない。せめて、アンジェロが帰ってきてから話すべきだ。この秘密を知っている者達は、全員アンジェロに着いて行ってしまった。
当然誰かがミナを諭したはずだ。だが、今はその秘密を知って、ミナの性格を危惧する者はいない。アンジェロのいない状況で、抑止力となれる者がいない。
一瞬、脳裏に浮かぶ考え。
アルカードがアンジェロの代わりに傍にいて、そうすればいつかはミナの心を奪えるのではないか――――そう考えたが、すぐに打ち消した。
―――――おそらく、それも悪魔の狙いの一つだ。それは、避けるべきだ。
そうなれば、あの戦いは敵を変えて再び戦端を開く。まさしくジュノの思うつぼだ。アルカードにとってはミナも重要な存在ではあるが、重要なのはミナだけではない。山姫の部下たちまで巻き込み、人間の存亡など忘れ去られてしまう。それだけは、避けなければ。
状況からして、一番の適任者はジョヴァンニだ。アルカードでは、アンジェロに誤解を招く。苧環とこれ以上近しくなることも好ましくはない。助手を変える必要がある。
ひとまず、ミナに散々に説教して言い聞かせた。ジョヴァンニにはミナの傍から離れないように言いつけて、ボニーとクライド、そして双子にもミナの監視を言いつけた。
「ねぇ伯爵」
「なんだ」
「お父さん、いつ帰ってくるの?」
「わからない」
「「お父さん、会いたいなぁ」」
淋しがっているのは、当然ミナだけではない。
―――――アイツは妻子を置いて、何をやっているんだ。
あちらでは恐らく一時間も経過していない。アンジェロも時間差はわかっている。必要なことを言いつけて、すぐに戻るつもりでいるのだろう。しかし、待つ方には、長すぎる。
一年近く経って、ようやくアンジェロが帰ってきた。アンジェロに、ミナと双子は泣きながら抱き着いて、アンジェロも不在にした事を後悔したようだった。
ミナが落ち着いてから、アンジェロを含め、帰還した出張組とジョヴァンニを全員呼んだ。そして、アンジェロが不在時の出来事を話した。
「あー・・・マジか」
「小僧、お前はミナを置いて異次元へ行くな。どうせ行くなら連れて行け。若しくは、市長を誰かに譲れ」
「それは、できねぇよ。ミナはこっちでやることがある。俺はあっちの責任者なんだぞ」
「ならばせめてクリスティアーノでも代理として市長に常駐させろ。お前はミナから離れるな。市長の代わりは他にもいる。だが、ミナにはお前の代わりはいない。いてはならないのだ」
アルカードの言い分には、当然アンジェロは不審に思った。
「アンタ、何考えてんだ」
「お前の言いたいことはわかる。しかし、事態はそれよりも深刻だ」
「俺がいねぇ間に、アンタが奪うことだってできただろ」
「事態は深刻だと言っている。それどころではないのだ。お前たちの隠す秘密がどんな悲劇をもたらすか・・・!」
言葉の途中で顔色を変えて立ちあがったアルカードに、一同は身構えた。
「なんだ、どした」
「ミナが、聞いている」
「・・・アイツ、いつの間にか気配の消し方習得したな。光学迷彩だ」
「苧環あたりが教えたのかもしれないが、アイツ、姿を消すことが出来るのか! クソッ!」
すぐに部屋を出てみるも、誰にもミナの姿は捕えられない。アンジェロも気配が読めない。それ以上にこの屋敷は吸血鬼が多すぎて、気配が混乱する。
ミナの居所が分かるのはアルカードだけだが、アルカードにすら読めない。
「まさか」
「悪魔の空間に連れて行かれたんじゃ!?」
「あの空間は、外部からの干渉を受けない!」
「クソッ!」
走り去るアルカード達に笑って、ミナを後ろから抱きしめて共に姿と気配を消したジュノが笑う。
「ジュノ様、秘密ってなんですか? 私は、なにかしたんですか?」
悪魔が囁く。
「知りたいのなら、教えてあげましょう。それが、願いなら」
歯車が、回り始める。重くきしみながら音を立てて、破滅の時を、刻み始める。
★大統領や総理大臣の代わりはいるだろうが、俺の代わりはいないんだ
――――――――――――勝新太郎




