夫婦が似るのは、最初から似た相手を選んでいるから
アンジェロが落ち着いてから、双子の部屋に行った。双子の部屋では、双子とジャイサルの面倒をリュイが見ていてくれたのだが、ドアを開けた瞬間にミナとアンジェロは額に手をやった。
二人の視線の先には、双子に押し倒されるリュイと、それを眺めるジャイサル。
「Oh!」
「Jesus Christ!」
一体こりゃどうしたことだ、とうとう殺っちまった、と頭を悩ませる二人に気付いたのか、双子はリュイを解放して体を起こし、顔を向けた。その口元からは、血が零れている。それを見て、二人揃って双子に掴み掛った。
「ちょっとアンタ達ィィ! なにやってんの!」
「コルァ! お前ら何しやがった!」
激怒する両親の剣幕に怯えた双子は、堪らず泣き出してしまった。それを見て起き上がってきたリュイが双子の頭を撫でると、双子はすぐにリュイに抱き着いて泣き出す。
「リュイさん!」
「お前!」
眉根を寄せて変化するのではないか、と心配げな夫婦に、リュイは力なく笑う。
「あー・・・黙っててごめんなさい。実は私、とっくに吸血鬼化してるんです」
その言葉にミナとアンジェロは唖然として、言葉を失った。そんな様子を見て、リュイは続けた。
「実はですね、この子達の面倒を見てる時に、まだ1歳くらいの頃かな。噛みつかれちゃって。お腹空いてたんですねー、きっと」
その説明にようやく現実に引き戻された二人は、リュイの傍に座り込んだ。
「え、じゃぁ、リュイさんはもう4年前には吸血鬼になっちゃってたの?」
「はい」
「マジかぁ・・・そう言われてみればお前、小じわの一つも増えねぇなぁ」
その事実に酷くショックを受けた。リュイには人間としての生活があるのだ。家族もある。なのに、無邪気な子供のせいで、吸血鬼になってしまった。子供のしたことだし、リュイも責めることが出来なかったのだろう。しかも、人間に戻るには双子を殺さなければならない。そんなこと、できようはずもない。
「リュイさん、謝ったからってどうなるわけでもないけど、本当にゴメンなさい!」
「マジ、ゴメン! 責任はとる! 一生俺らがお前の面倒見るから!」
「本当にゴメンなさい!」
そう言って揃って土下座して頭を下げる夫婦に、リュイは慌てて手を振った。
「ちょ、頭上げてくださいよ! 別に私怒ってませんから!」
「でも、だってぇ」
「ラジェーシュになんて言えばいいんだ・・・ミケランジェロはクリシュナさんの生まれ変わりなのに・・・全く、このクソガキが!」
「キャー!」
「うわぁーん!」
「あらあら。よーしよし、泣かないで」
リュイはアンジェロに怒鳴られて余計に泣き出す双子を必死にあやしながら、ミナとアンジェロの怒りを鎮めようと宥める。
「あの、本当にいいですよ、別に」
「いいわけないじゃん!」
「いや、いいですよ。なりたかったし」
「「・・・・・・・は?」」
まさかの夢が叶った宣言に驚く吸血夫妻の様子に、リュイは少し笑って言った。
「言ったじゃないですかぁ。憧れてたって。吸血鬼なってみたかったんですよねぇ」
「い、イヤイヤ!」
「軽い! 軽いよ! そんな簡単に考えちゃダメだって!」
「でも、もうなっちゃいましたし。何を言っても何をしても人間には戻れないんですよね?」
「や、確かにそうなんだけどよ。お前、本当にそれでいいのか?」
「いいですよ。実際今はお給料は貰ってますけど、社会的には無職ですし、双子の為に昼夜逆転した生活してましたからねぇ。特に問題ないですよ」
「いや、あるよ!」
「つくづく楽天的だなお前!」
「楽天的にもなりますよぉ。だって、これから私もお嬢様のファミリーの仲間入りですよ? こんなに大勢で楽しく過ごせるんですもの。楽しみじゃないですかぁ」
再び吸血夫婦は額に手をやって「Oh no・・・」と呟く。アンジェロもミナも吸血鬼になった時は、少なくとも喜んでそうなったわけではなく、散々苦悩させられたのだ。今はこれだけ大勢の仲間がいるから楽しく過ごせているわけであって、相変わらず人間を羨む感情はあるのだ。
いろんな仕事に就いてみたい、戸籍を取得してインドの国立大学に行きたい、夏は海水浴に行きたい。ミナ達は今は可能になったが、人間の食事や昼間に遊ぶことだってリュイにはもう、できないのだ。どれほど渇望しようとも太陽の光はもう拝めない。どれほど崇拝しようとも神にはもう、拒絶された。海や川、建物や家、食事などあらゆるものからも拒絶されるのだ。
リュイはその事をちゃんとわかっているのだろうか、と不安にだってなる。あまりにもリュイが、嬉しそうにしているから。だけど、なってしまったものはしかたがない。どうしようもない。アンジェロの言う通り責任をとるしかない。せっかくリュイは腹を括っているようなので、ミナ達も腹を括ることにして、顔を見合わせて頷いた。
「アンジェロ、今何時?」
尋ねるとアンジェロは左腕の、20年前にミナがプレゼントした銀の腕時計を覗き見る。
「今12時回ったとこ。ちょっと遅いな」
「そうだね。明日にしようか」
相談する二人に不思議そうに首を傾げるリュイに、二人でまた深く頭を下げる。
「リュイさん、ほんっとーにゴメンなさい!」
「いえいえ」
「明日はお前は休みだ。来なくていいから」
「えぇっ! クビですか!?」
「あ、違うよ。明日は私達がリュイさんちに伺いたいから」
「え? うちにですか?」
「あぁ、ラジェーシュとアニカに説明した上で謝罪しねぇといけねぇからな」
「あぁー・・・」
いくらリュイが良くても、両親を説得しなければならない。大事な一人娘なのだ。つい自分の時のことを思い出して、余計に口惜しく思った。
―――――今アルカードさんがいれば、魔眼とかで何とかしてくれたかもしんないのに!
ミナはずっとアルカードが両親を魔眼でそそのかしたのでは、と思っていた。そもそもミナの家にアルカードが入れたのも、北都を魔眼で操ったせいである。いざ両親を説得してみたら「娘に近づく蛆虫野郎は殺虫してやる」ばりの鉄壁だったため、魔眼で捻じ伏せてしまったに違いない。そう考えているのだが、正否は当然、大正解である。
残念ながら今はアルカードはいないので、ミナとアンジェロで何とかするしかない。とりあえずその日は散々双子に説教をして、人間に噛みつくことがどれほど大問題なのか、これでもかと言う程納得させて、無闇に噛みついてはいけないと言いつけた。
翌日、エゼキエル家。
一家が揃ったリビングに通された吸血夫妻と双子は、ミナとアンジェロの間に双子を挟んでソファに座らず、そのまま床に座り込んで土下座して、つられて双子も頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「ウチのバカ息子どもが、本当に申し訳ない!」
二人が来る前にリュイが打ち明けていたのか、リュイの両親からは溜息が漏れるのが聞こえた。ふとミナとアンジェロが双子を見ると、二人で目を合わせている。何やらテレパシーで通信しているようだ。それにアンジェロはキレた。
「コルァ! お前らも謝れ!」
「ヒッ!」
「ごめんなさい!」
「俺じゃねぇよ! リュイとラジェーシュとアニカ!」
「リュイ姉ちゃん、ごめんなさい!」
「おじちゃん、おばちゃん、ごめんなさい!」
謝罪する相手を間違えて余計に怒られた双子は、慌てて3人に謝罪して土下座をした。それで、4人揃って土下座をして謝っていると、「頭を上げて」とラジェーシュが言ったので顔を上げた。ラジェーシュもアニカもそれはそれは深い溜息を吐いて、首を横に振る。
「想定外。この一言に尽きるよ」
「本当ですよ。どう責任を取るおつもりですか?」
当然ながらラジェーシュとアニカはお怒りだ。大事な娘を化け物にされてしまって、相当お怒りだ。
とりあえずミナとアンジェロは、どれほど誹謗中傷されようとも甘受する覚悟をして、謝罪しつつ説明することにした。
「本当に申し訳ない。リュイの事は、一生涯面倒を見る」
「絶対不自由はさせないし、嫌な思いもさせないように努めます」
「リュイの求める物は何だって与えるし、人間と同じ生活ができるようにする」
「リュイさんに恒久の安息を約束します。何百年経っても、私達がリュイさんの傍にいます」
「許してくれとは言わねぇけど、リュイを泣かせたりはしねぇし、不幸にはしないと約束する」
「私達一族の血にかけて、私達一族のトップとして誓います。必ずリュイさんを守ります」
「「リュイ姉ちゃんは僕達が守るから! ごめんなさい!」」
ラジェーシュとアニカの様子で大ごとだと察した双子は、必死に説得する両親を見て反省したのか、そう言って双子も再び頭を下げた。その様子を見て、再びラジェーシュとアニカは溜息を吐いた。
「・・・まぁ、何言ってももう仕方がないものね」
「そうだね。まぁ僕は慣れてるし、ある程度はわかってるつもりだけど」
そう言いながらラジェーシュがミナに向いた。
「さっきの約束、絶対守ってくれる?」
「守ります!」
続いてアンジェロに向いた。
「リュイを泣かせないでくださいね」
「勿論!」
ミナとアンジェロがラジェーシュに強く視線を向けて約束を守ることを誓うと、ラジェーシュ達は諦めたようにして、顔を伏せた。
「まぁ、吸血鬼になったからって、僕たちの娘じゃなくなるってわけじゃないし、悪い事ってわけでもなければ、その内結婚も孫もできるんだろう。少なくとも僕達より先に死ぬって言う親不孝は心配しなくても済みそうだ。だけど―――」
一旦言葉を切って顔を上げたラジェーシュが、ミナに悲しげな目を向ける。
「おじさんの二の舞は、ゴメンだよ」
ラジェーシュの表情とその言葉にドキッとさせられたものの、一層視線を強めて言った。
「クリシュナの時は、私はまだ弱かったです。だけど今は強くなりました。私達はこれから何十年か何百年か先に、再び戦うようなことがあるかもしれません。だけど、絶対に守ります。何があっても、この身にかえても、リュイさんは勿論、誰ひとりとして死なせはしません。私は最強の吸血鬼の眷属ですから、絶対に約束は守ります」
ミナの言葉を聞いてふと考え込むラジェーシュ。少しすると顔を上げた。
「ミナさんが強いって言う証拠、みせてくれる?」
日が沈んで、オレンジ色の空は徐々に紫色に変わっていく、タール砂漠。ムンバイの北、デリーの南西に位置するこの砂漠で、アンジェロは銃を構え、ミナは砂漠の砂に含まれる石英から錬成した、透明に輝く剣を構える。
「銀とクリスタル。どっちも俺らには致命的だ」
「遠慮しないで撃ちこんで。手加減しないでよ」
「お前こそ」
ミナが砂から錬成した硬化ガラスのバリア越しに、双子とリュイとラジェーシュとアニカは固唾を飲んで見守る。双子の合図で、二人同時に砂を蹴った。
アンジェロが撃ちこんできた銀弾は、容赦なくミナの左胸をめがけて一直線に空を切る。それに剣をふるうと、キィンと音を立てて銀弾は真っ二つに両断された。それを見てアンジェロは驚く。
「ハハッ、スゲェな」
「ジュリオさんとの戦いのときに言ったでしょ。銀は硬度が弱い。銀の硬度は2.5。対して、石英の硬度は8。銀弾だって私には効かないわよ」
「そうかよっ!」
アンジェロが銃をもう一挺取り出して、素早く連続的に射撃してくる。それを躱したり弾き返しながら、何とか走り回ってアンジェロとの距離を詰める。弾切れした瞬間を狙って一気に地面を蹴ったものの、アンジェロはすぐに再装填して、至近距離で銃を向けられた。
咄嗟に地面を蹴って飛び上がると、背後のガラスのバリアに当たり、ビシッと音をさせてわずかにガラスにひびが入り、リュイ達は大層驚かされた。
「お前、状況判断能力ねーな」
「うるさいな! そこは私の専門外なの!」
「相変わらず、特攻しか知らねぇな、お前は」
懲りもせず着地するとすぐさま突っ込んできたミナに、アンジェロが笑いながらそう言って銃を構えると、発砲した瞬間屈んでその弾を避けて、スライディングしながら剣を地面に沈め剣を振り砂を巻き上げる。目に砂が入ったようで、視界を奪われたアンジェロは闇雲に発砲した。
アンジェロの視力を奪って一気に近づこうとするものの、滅茶苦茶に撃ちこんでくるものだから近づこうにも近づけない。仕方なく後退し、アンジェロの方に手をかざした。するとアンジェロは視力を回復したようで、目を開けて、目の前に広がる光景に、驚愕した。
アンジェロの目の前には、複数のミナの姿が揺らめいている。ミナはアンジェロが目を瞑っている間に窒素を冷却して、砂漠の少ない水分をかき集めて蜃気楼を作ってしまった。
全ての姿が揺らめいていることに気付き、ミナが自分の周りを走り回っていたのは、自分の周囲の窒素を冷却させる為だったと気付いたようで、視力はもはや当てにならず、ミナの気配を頼りに銃撃する。
ふと、気配が絶たれたと感じた瞬間にアンジェロが背後に振り向いて発砲すると、振り降ろした剣を持つ手に銀弾が当たって、石英の剣は弾き飛ばされた。
剣と同時に掌を貫通した為に手を抑えるミナに、アンジェロは銃口を向ける。
「チェックメイトだぜ」
「まだよ!」
アンジェロが発砲した瞬間、ミナは炭素の組成を変化させ、体を硬質化して銀弾から身を守り、指をはじいて火をつけると、一気にアンジェロに向けて放った。
「うぁっち!」
「あはは、砂漠は乾燥してるから、よく燃える」
慌てて服を焦がす炎を払うアンジェロに中段蹴りをお見舞いして、倒れこんだアンジェロの両手を踏みつけて動きを封じ、新たに錬成したナイフを首元に突き付けた。
「チェックメイト」
「・・・あー。今回は俺の負けだな」
「これで、一勝一敗一引き分けだね」
「ハァ・・・」
やっと勝負がついてミナがナイフを避けてアンジェロが起き上がると、ガラスの向こうで5人はポカーンとしていた。
「えーと、あのー。強さの証明になりました?」
砂を払いながら立ち上がり声をかけると、まずは双子がガラスから出てきて、それぞれアンジェロとミナに抱き着いた。
「お父さん!」
「お母さん!」
「「すごーい! カッコイイ!」」
どうやら感動したようである。大喜びで抱き着く双子の頭を撫でていると、ようやく3人がガラスから出てきた。
「とりあえず、ミナさんが強いのはわかったよ」
そう言ったものの、ラジェーシュは釈然としないようだ。まだ証明にならなかったかとがっかりして、爆弾でも作ろうかと考えていると、リュイが言った。
「本当、スゴイですね。何が起こったかも正直よくわかりませんでしたし、目で追うのがやっとでした。お嬢様もアンジェロさんも、スゴイ」
その言葉を聞いてやっと理解した。人間のラジェーシュとアニカには、戦うアンジェロとミナの姿が速過ぎて見えなかったのだ。とりあえず、蜃気楼や炎など大技は認識できたようで、十分吸血鬼の強さの証明にはなったようだ。
納得してくれたし、日も暮れてきて寒くなったので、ムンバイに戻ることにした。
「お父さん」
「お母さん」
「あ?」
「なに?」
「「ガラス、どうしよっか?」」
砂漠に不自然にそびえ立つ防弾ガラス。それを指さす双子は妙にワクワクしている。またテレパシーでも来たのか、アンジェロが溜息を吐く。
「割りたきゃ割れ」
それを聞いて大喜びした双子は「エイッ!」とハミングパンチをして、双子に殴られたガラスは、ガシャーンと割れて砕け散った。それを見て驚くエゼキエル一家。
「すごっ! 銃弾当たっても割れなかったのに!」
「まぁ、この双子は私よりも強いから」
「そうなの!?」
「そうなんだよ。この家族内の力関係で言ったら、悲しいことに俺最下位だぞ」
「アンジェロさん、パパなのに威厳が・・・」
「うるせぇ」
双子のお陰でアンジェロ以外の強さの証明にはなったようだ。
「本当にすごいわね」
「それにしてもさすがっていうか、ミナさんもアンジェロさんも、戦闘慣れしてるね」
「ていうかお嬢様達、前も決闘したことあるんですか?」
戦闘に関する質問を畳み掛けられるので、少しだけ昔話をすることにした。
「やー、実はね。アンジェロは昔、とある精鋭部隊の隊長さんで」
「で、その隊長の座をミナに奪われた」
「えぇっ」
「あはは。それでケンカしたの?」
「それでミナが調子に乗ったからケンカになったんだよ」
「でも、今思い出してもアレは腹立つよ。アンジェロって本当ヒドイよね。私誕生日だったのに。殺してやろうって本気で思ったよ」
「ハハハ、いい眺めだったな、アレは。血だらけで下着姿で戦うお前は、今まで見た中で最高に勃起モンだったぜ。あの時のお前は95点」
「ぜんっぜん、嬉しくない! ムカつく!」
「最低だね・・・・・」
とりあえず引いてはいるようだがイマイチ状況の把握ができていないようだったので、その時の状況を説明してやった。
「――――で、そん時は俺が勝った」
「ホンット、あの時悔しくて仕方なかったなぁ」
「・・・・・」
話を聞いたエゼキエル一家はドン引きだ。主にアンジェロにドン引きだ。アンジェロの非道な仕打ちと、どうもケンカっ早そうなミナに逆に不安になってきた。それを察したのか、慌ててリュイがフォローに入る。
ミナが妊娠していた時のひったくりの件を話すと、幾分か安心したようだ。
「二人とも正義感強いのよ! それだけなの!」
「そうそう。俺も若けぇ頃はゴロツキ狩りとかよくやったし」
「え? アンジェロも?」
「あ? お前も?」
「うん。修行でよくヤンキーとか悪党狩りしてたよ」
「へぇ」
「「お父さんもお母さんも正義の味方だ!」」
「ていうか、似た者夫婦ですね」
そう言われて思わず納得するヒーロー気取り夫婦。確かに正義感が強い、という面を見れば似ているかもしれない。正反対の二人にも、共通点はあったようだ。
「でもその割によぉ、クリシュナさんもだったみてーだけど、お前も平気で泥棒するよな」
当然ながら、アンジェロのこの一言で台無しである。一気にミナに向かって怪訝な表情が集まる。
「そういえば、ずっと不思議に思ってたんだよね。みんな無職のはずなのに、高価なものばっかり持ってるし」
「そうよね。リュイのお給料もどうしてるのかしらって、ずっと思ってたのよね」
「お嬢様、泥棒だったんですか」
「違うよ! 前はしてたけど、今はアンジェロの指示でミゲルが集めてるの!」
「結局夫婦で泥棒じゃないですか!」
言い訳してみたものの、正義の味方から一転、泥棒夫婦に転落してしまっただけだった。結局評価を落としてしまい、アンジェロはミナに溜息を吹き付ける。
「お前よぉ、余計なこと言うんじゃねーよ」
「アンジェロに言われたくないよ!」
「バカ、そもそも俺が指示してんのは睡眠口座とか凍結口座とか、政治団体とかの裏金口座からだぞ。運用してやってんだから、感謝されてもいいくらいだぜ」
「何言ってんの! 犯罪には変わりないじゃん!」
「うるせーよ! そもそもソレだってお前が言いだしたんじゃねーか!」
「え? ウソ言わないでよ!」
「忘れてんじゃねーよ! 昔スペインでそう言う話しただろ!」
言われて記憶の糸を辿ってみる。スペイン遠征、あの時、アンジェロと作戦会議をした後、ミゲルの作った通信機器とその才能を褒め称えていたのだ。その時、確かにミナは言った。
―――――ハッキングもできるの!? すごいねぇ。じゃぁミゲルがいたらお金に困らないじゃん。銀行のデータにアクセスして口座間のデータ移動させちゃえば、残高の操作できるじゃん。
思い出して、落ち込んだ。
「結局ミナさんが言い出しっぺか」
「お嬢様、程々にしましょうね?」
「・・・うん」
「ミナさん、リュイにはそう言うのはさせないでちょうだいね?」
「・・・勿論です」
怒られて落ち込むミナを見てアンジェロはニヤニヤと笑っている。それを憎らしげに見つめながら落胆した。
―――――んもぉ、いっつもこうなるんだから。なんでいつも誰も私の味方になってくんないの! そうだ、双子! 双子は私の味方だよね!?
そう思いついて双子に振り向くと、双子はガッカリしたような視線を向けていた。
「お母さん正義の味方だと思ってたのにー」
「悪い事しちゃダメだよ」
子供にまで説教されてしまった。
「お前、母親の威厳、ねーな」
この夫婦は夫婦そろって親の威厳がない。反面教師に自分なりの正義を考え出した双子の方が、はるかに立派である。
良くも悪くも似た者夫婦な二人には呆れたものの、なぜか双子の存在に安心させられたので、結局は許してもらえることになった。
★夫婦が似るのは、最初から似た相手を選んでいるから
――――――――――Mikhila Humbadミシガン州立大学心理学博士
同大学で表題の研究がされた。調査研究の結果、次のような結論が出た。
夫婦は結婚期間が長いほど性格が似てくるということはなく、「似たもの夫婦」は結婚する段階で性格が似ている相手を選んでいたことにより説明できる。
つまり、似た者夫婦は最初から似た者同士だということだ。