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枯花廻りの籠の中  作者: 高良あおい
第二部
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第一話 青い鳥がもたらす悪報

 ずっとずっと、後悔していた。

 あの時、死ぬべきは私だったのだ。彼は、私を助けてはいけなかった。何のとりえもない、平凡な私が生きて、何でも出来て優しくて誰からも愛された彼が死ぬ。そんなことが、あってはならなかった。

 なのに、それは起きてしまった。

 私のせいで。私が、何も考えない愚かな子供だったせいで。

 恋人であるもう一人の少年もまた悔やんでいたけど、私にとって悪いのは私一人で、あれ以来部屋に閉じこもって、何度も何度も自分を責めた。あれ以来優しくなった恋人といなくなってしまった彼を想っていた親友に説得されて、何とか立ち直ろうと決めたけれど、それだって私と同じくらい……もしかしたら私よりずっと辛い思いをしているだろう二人に、迷惑をかけたくなかったから。

 幼馴染の死、という出来事は、私が背負うには重すぎた。

 ずっと、謝りたかった。

 色々と迷惑かけてごめんね、と。人には言えないような弱音や愚痴をたくさん聞かせてごめんね、と。貴方の時間をたくさん奪ってしまってごめんね、と。私の身代わりにしてしまって、本当にごめんなさい、と。

 たくさんの後悔を、『私』は最期まで抱えたまま。

 ――けれど『わたし』は全て忘れて、あろうことか彼に恋をしてしまった。

 それがどんなに彼を苦しめるか、そんなことも知らずに、愚かな真似を繰り返してしまった。


 ◆◇◆


 見覚えのある鳥が目の前に舞い降りたのは、僕が風の国を出て一年と少し経った頃……冬の二の月が終わる直前、アネモスからそう遠くはないとある国でのことだった。

「……何、これ」

 僅かに警戒の色を浮かべて呟く紅髪の少女に、苦笑する。

「心配しなくても、危険なものじゃないよ、リザ。実家で遠方との連絡用に使っていた鳥だ。……けど、どうしてこんなところに」

 僕は眉を顰め、瑠璃色の鳥の足に結ばれた手紙を取った。そこにトゥルヌミールの紋章が描かれていることを確認し、そっと紙を開く。

「兄様から? ――っ」

 そこに書かれている文章を読みとった途端、僕は思わず目を見開いた。何か言おうと開いた口からは、僅かに息が漏れるだけ。

 僕の様子がおかしいことに気づいたのか、リザが訝しげに覗き込んでくる。

「実家ってことは、公爵家から? 一体どうしたのよ」

「……父様、が」

 答えようとした言葉もまた声にならず、代わりに僕は手に持っていた紙をリザに渡す。彼女がそれを読んでいる間、僕はその内容を頭の中で繰り返した。兄の名で、兄の筆跡で書かれた短い文章。

『父上が危篤。お前がどこにいるのか分からないから戻ってこいとは言わないが、後悔は絶対にするな』

 兄様らしいその文章に、僕は僅かに苦笑を浮かべる。返事を求めるつもりも無かったのか、気付けば鳥は既に飛び立っていた。

 手紙に記された日付は、昨日のもの。相変わらず凄い速度だ、と飛び去った鳥に再び苦笑しながら、僕は目を閉じて考え込む。

 僕たちは徒歩で旅をしているけれど、今いるこの国からアネモス王都までは、馬車を使っても数日かかる。しかしそれは、あくまでも一般的な話。少し無理をして限界まで魔法を使えば一日でアネモスに辿り着くくらいのことは僕にも出来るし、この国もまたアネモスの友好国なのだ。国で一番大きな魔法研究施設にでも行けば、アネモスの同じような施設に繋がる魔法陣が設置されていることだろう。あくまでも魔法陣だけ、だから自分で魔法を使う必要はあるけれど、それでも使う魔力は大幅に節約できる。この一年で他国にも伝手は出来たから、使わせてもらうことは可能だろう。

 兄様は……戻ってこいとは言わないと、そう書いていたけれど。

「リザ。ごめん、予定変更してもいいかな」

「しなかったらぶん殴るところだわ」

 肩を竦め、彼女は手紙を僕に返してくる。同時に、意味ありげな笑みを浮かべながら。

「アネモスに帰るのね?」

「……うん」

 否定する理由もなく、僕は苦く笑った。

「前に話したことがあったと思うけど、父様には本当に色々と迷惑をかけて……それなのに僕は何も返せなかったから、正直合わせる顔は無いけど。だけど、これ以上親不孝を重ねることも出来ないよ」

「そう言うと思ったわ」

 薄く笑い、彼女は正面から僕を見る。

 『昔』と同じ、気の強い笑顔で。

「いいわ、付き合ってあげる。どうせ目的も何もない旅だし、どこに行っても変わらないわ。生まれる前からの付き合い、だし」

「……ありがとう」

「感謝されても困るだけなんだけど」

 戸惑うように目を細める彼女に微笑を返しながら、僕はふとリザに出会ったときのことを思いだす。

 リザ。癖の無い鮮やかな紅髪をポニーテールにした、深い紫の瞳の少女。十一歳という年齢に似合わない、大人びた口調と表情の少女。

 ――彼女と僕が『再び』出会ったのは、半年以上前のことだった。


こんばんは、高良です。


というわけで、今回から第二部のスタートとなります。時系列としては、リオマリ編から三ヶ月ほど後のことですね。

第一部の最後に出てきた少女、リザ。どうやらジルと一緒に旅をしているようですが……第二話では少しだけ時系列を戻し、彼女とジルの出会いについて語ろうと思っています。

まだ書きあがっていないので、次の話はひょっとしたら少し更新が遅れてしまうかも(おい)


それでは、また次回!

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