勇者と魔王と剣の乙女 [幼馴染の勇者と旅に出たけど、パーティを追い出されました。では、さようなら]
初めて三人称の話を書いたので、自分でも何だか分からなくなったのですが
どうぞ宜しくお願いします!
「シェリル。お前との旅は、ここまでだ。故郷にでも他国にでも好きに行けよ」
「イアンの言う通りよ〜。今から霊峰センティニアンに登るっていうのに、弱い回復魔法しか使えない貴女は邪魔なのよぉ」
「そうだ。イアンとダイアナの言う通りだ。正直、お前ずっと足手まといだったからな」
「………………」
勇者であるイアン、回復魔法の使い手ダイアナ、剣士であるマーカスが、次々とシェリルを責め始めた。
勇者のパーティから、出て行けと。
魔法使いであるアンディだけは、無言を貫いているが、援護はなさそうだった。
シェリルは一度静かに目を瞑り、開いた時には決断していた。
「わたしが離れても、後悔しないのね?」
シェリルのその言い分に、仲間たちはイライラしながら言い放つ。
「するわけないだろ。早く離れろよ」
「見っ苦しいわ〜。弱いくせに」
「自分が役に立ってると思ってるのか!」
イアンとダイアナ、マーカスから次々と再び非難する言葉が飛び出した。
「そう…………では皆様、さようなら」
貞淑な一礼をして、一人の娘が勇者のパーティから去っていった。
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「ぐすんぐすんひっく、ぐすん……」
「あ、イアン。またダラドにやられたの?」
イアンとシェリルは、自宅が斜向かいなので、よく一緒に遊んでいた。
だが、イアンは引っ込み思案な性格が災いし、近所のガキ大将に目をつけられていた。
今日も、飴を広場で食べていたら取られた。
「仕方ないな〜。はい。これ」
「ぐすっ、でも、シェリルの今日のおやつ」
シェリルが差し出したのは、食べかけの芋団子だった。芋を潰して焼いただけの、簡単なおやつ。
「いいよ、半分食べたもん」
「……ありがとう」
「美味しそうな物を食べる時は、家で食べなきゃダメだって、前にも言ったじゃない」
「うん……飴なんて、あんまり貰えないもの。うれしくて、すぐ食べようとしちゃったんだ」
シェリルの家よりは、ほんの少しだけ裕福なイアンは、母親の働く雑貨屋に遊びに行くと、母親が店からイアンを追い出すのにお菓子をくれるのだ。
調子に乗って遊びに行き、怒られつつも止められない。
そこを狙うようになったのが、ガキ大将のダラドだった。いつもなら逃げられるのに、今日は運が悪かったのだ。
「飴が甘くて美味しくて、ダラドが近づいたのに気がつかなかったんだ」
「イアンは足が早いんだから、周りをちゃんと見てれば逃げられたよ。そうすれば、いつかリド兄さんみたいになれるよ」
リドは2人の近所に住む男性で、警備隊に入るくらい強い人である。素早い動きでひったくり犯を捕まえたのを、たまたま2人で見た時は大興奮した。
「がんばれば、なれるかな〜」
「イアンなら、きっとなれるよ」
ニッと2人で笑い合い、話している間にイアンは芋だんごを食べ終えたので、帰途につく。
手を繋いで仲良く帰っていく。
そんな、幼少期だった。
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それから十年後。
シェリルとイアンは18歳になっていた。
「おーい!皆!見たか、あの張り紙!」
「ああ!見た見た!勇者を探すんだろ?」
「聖剣を引き抜ける者、募集!だってよ」
国王から、国中の町にお触れがあった。
❝魔王復活の兆しあり
勇者を募集する
我こそはと思うものは
王都に来られたし❞
18歳になったイアンも、興奮していた。
「シェリル!勇者募集だって!オレも王都に行くよ!」
「…………なんで?イアンは、お父さんの跡を継いで、鍛冶屋になるんじゃないの?」
「そんなの、魔王を倒した後でもできるじゃないか!今、困ってる人がいるなら助けたいと思うだろ?リド兄みたいにさ!」
「鍛冶屋だって、包丁が無いと料理が出来ないって困る人がいるよ」
「親父がまだ元気なんだから、そっちは親父がやってくれるだろ!」
「……………………そう。行きたいなら行けば良いと思う」
「シェリルも一緒に行こう!王都、行ってみたいって言ってたじゃないか!」
「…………うん」
シェリルは気が乗らなかったが、こんな田舎で終わりたくないと、最近ずっと言っている幼馴染が心配になった。
そして、もしもの時に連れ帰れる人間がいなければ、イアンの家族は心配するだろうと王都へついていくことにしたのだった。
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「おおおおおお!!!!」
「聖剣が、抜けたぞ!」
「勇者が現れたぞ!」
まさかだった。
イアンが、聖剣を抜いたのだ。
「シェリル!オレ、勇者だったみたいだ!なんてことだ!すげぇ!」
目がキラキラして、とても嬉しそうなイアン。
対してシェリルは、不安気だった。
そんな様子の幼馴染にイアンは不満を覚えた。
「シェリル、嬉しくないの?勇者だよ、オレ。これから魔王を倒して、皆から尊敬される人になるんだよ?」
「うん、イアン、おめでとう。これから旅でしょ?おじさんとおばさんとの約束があるから、わたしもついて行って良いかな。回復魔法だったら少しは使えるし」
「え!!一緒についてきてくれるの?嬉しいな〜。正直、王都へもシェリルがいなかったら来れなかったから、一安心だよ!」
「…………よろしくね、イアン」
そうして、イアンはシェリルを伴って、王様に出立の挨拶に城へ行くと、仲間になるべき者を紹介された。
回復魔法使いのダイアナ。
剣士のマーカス
攻撃魔法使いのアンディ
そして、イアンとシェリル。
その計5人で魔王を倒す為に、聖剣の力を高めると言う、国を2つほど超えた先にある霊峰センティニアン向かう事になった。
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「ちょっと〜!早くお湯を沸かしてよ!身体がもうベトベトなのよ〜」
「おい、早く飯」
今日もダイアナやマーカスが、シェリルにそう命令してきた。
シェリルの旅は過酷だった。
勇者一行の世話係に、自然となってしまったからだ。
だが、仕方がないとシェリルは思う。自分の使える回復魔法は切り傷を治す程度で、魔獣との戦いにはほとんど役に立たなかったからだ。
「シェリル、この服洗っといてよ」
最近はイアンまで、この調子である。
しかも、いつも隣にダイアナが侍っている。
先日、自分の事は自分でやってくれないかと頼んでみたけど無駄だった。激しい口調で言い返されただけだった。「なんで皆の分はやるのに、オレのは断るんだ!」と。
故郷では、イアンの父母は共働きなので、イアンも家事は一通りやっていた筈なのに。
シェリルは黙って世話をするしかなかった。
「…………あいつの湯くらいは沸かすよ。料理は出来ないけど」
そう言って、いつも少しだけ手伝ってくれるのは、魔法使いのアンディだけだった。
その気持ちだけでも、シェリルは嬉しかった。
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旅を続けて、半年。
話は冒頭に戻る──────。
「そう…………では皆様、さようなら」
シェリルは一礼をして去っていった。
「ふふふふふ、こーんな山奥で、一人でどうやって町まで戻るのかしらね?」
「ここに来るまでの魔獣の多さ、アイツ覚えてねぇんじゃねーか?」
シェリルが去った後も、ダイアナとマーカスの暴言は止むことは無かった。
そして、イアンもそれに追従した。
「今まで一応、オレ達についてこれたんだからさ〜?何とかなるんじゃねーの?ハハハハ!」
それをアンディは冷たい目をしながら、仲間に言い放った。
「お前ら、後悔するぞ」
イアン、ダイアナ、マーカスは顔を見合わせて笑った。
「お前、シェリルをいつも手助けしてたもんなー。もしかしてお前、惚れてた?」
「お世話係としては〜、惜しいけどぉ。イアンにくっつかれる方が、わたし嫌だったし〜」
「戦力にならないヤツはいらねーだろ!ハハハハ!!!」
アンディは、暴言を吐きながら霊峰の登山道を進む愚か者達へ、小さくつぶやく。
「バカな奴ら。でも、もう手遅れだ」
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ガキーーーン!!!
「おい、イアン!なにモタモタしてんだ!」
「す、すまない!こいつら、意外に強くてっ!グッ……」
霊峰の中腹で、何故か中等レベルの魔獣すら苦戦するマーカスとイアン。
イアンが傷を負った為にダイアナが駆け寄り、急いで傷を癒そうとした。
「ダイアナ!まだか!?早く治してくれ!マーカスだけでは抑えきれない!」
いつもなら遠隔でも癒せた傷が中々塞がらない。自分でもおかしいと思い、普段は魔獣の傍には寄らないでいるのに、こうして近寄り、傷の近くで魔法をかけているのにも関わらず。
「癒そうとしてるわよ!でも、思うようにならないのよ!なんで!?」
「おい!まだか!抑えきれな…うわぁぁ!」
ついに中等の魔獣、それも2体きりにマーカスは競り負けた。
「なっさけなー」
ゴオオオォォォォッ!!!
アンディの出した炎の魔法で、中等魔獣は消滅し、魔石が2つ、コロンと転がった。
「ぐぅぅ、おい!アンディ!やれるなら、もっと早くやれよ!ぐっ…、いってぇ……なんで、あんな魔獣程度に……おい!ダイアナ!早くこっちも回復してくれ!!」
「無理!もう、魔力ほとんど無いわよ!」
「は?まだオレの傷も塞がってないじゃないか!」
マーカス、ダイアナ、イアンが口々に叫ぶのを、アンディは冷めた目で見下ろしていた。
「お前ら、ほんと馬鹿だよね」
「はぁ!なんだと!」
「意味わかんない!」
「…………アンディ、オレ達が弱くなってるの、何でか分かるのか?」
マーカス、ダイアナが叫ぶだけの中、イアンだけは何かに気づいた事に、アンディは口角を上げた。
アンディは、お前らが気づくのが遅いだけ、とは思ったけれど、それは口には出さないでおく。
「もちろん、知ってるよ。聖剣から仲間全てに送られてた支援力がガクンと減ったからだよ」
「「「…………は???」」」
アンディ以外、全く身に覚えの無い言葉と力に唖然とするしかなかった。
一番早く我に帰ったイアンは、アンディを更に問い詰めた。
「…………聖剣から、力が送られてたとして、何で今まで使えてたものが、急に減ったんだ?」
「それを答える義理は無いね」
アンディは、既に話は終えたと言わんばかりに、山頂の方へ向く。そんなアンディに、マーカスとダイアナは待てをかけた。
「おい!オレはまだ動けねぇんだ!置いて行く気か!?」
「それよりもよ!何であんただけ普通に魔法使えんのよ!わたし達と一緒なら、弱くなってるはずでしょう!?」
アンディは、はぁと一息つき、それだけは自分の事情だからと話してやることにした。
「そりゃ僕、ヒトじゃないもの。正しくは魔族とヒトのハーフだけど。お前らみたいに聖剣から力貰わないと、ロクに剣も魔法も使えないなんて事にはならないよね」
「は!?魔族とのハーフ!?なんで、そんなヤツが王都にいたんだ!」
「声を大にしてないだけで、結構いるよ」
教えてやったのに、やっぱりマーカスは煩いな、とアンディは思う。
「だから、今、言ったじゃない。魔法使えるヤツが魔族なんだから、ヒトの国でも魔法使えるヤツは純粋なヒトじゃないんだって。ダイアナだってそうでしょ。さっきから黙ってるもんね」
その言葉に、イアンとマーカスはダイアナに視線を向けた。ダイアナは顔を青くしていた。アンディの話は間違っていないようだった。
「まぁ、そんなにショボい魔法に落ちてるんだから、大分ヒトの血が濃いみたいだけどね。それより、お前らを山頂まで連れて行かないと怒られるんだよ、僕。聖剣からの支援力って、体力も大幅に増やすらしいから、今のお前らには登山も厳しいだろうけど、ちゃんと付いてきて来てよね。ほら、これ飲みなよ。高級回復薬」
高級回復薬は、ヒトの国ではほとんど出回らない高級薬だ。それを3本出してくるなど、ありえない。
「なんで、こんな高級な薬を今まで出さなかった?これまでも危ない事は沢山あったじゃないか!」
「それを答える義理も無いね」
イアンは、せっかく差し出された薬の文句をアンディに言うが、軽くあしらわれた。勇者になってから。そんな扱いを受けたのは初めての事であった。
アンディは、イアンの言い分を無視した後、とても勇者たちには買える値段ではないだろうソレを、ポンポーンとイアン、ダイアナ、マーカスに投げて寄越す。
「早く飲んでよね。もう行くよ。遅れるなら、置いてくから」
それを聞いた3人は、こんな所に置いて行かれては命は無いと、すぐに回復薬を飲み、アンディの後に続いた。
ケガも魔力も、全快するという素晴らしい回復力に感動する暇も、アンディは与えてはくれなかった。
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「つ、ついに、来たんだ……!」
「やったわね!イアン!これで調子の悪い聖剣も、力を取り戻す筈よ!」
「ああ、そうだ!ダイアナの言う通りだぜ!また、あの最強のオレ様に戻れるんだ!」
ついに、霊峰センティニアンの山頂、聖剣の神殿に着いた勇者一行。
重厚で威厳のある大扉を開ければ、主神の荘厳で大きな像が堂々と正面に安置してある。
その主神の像の前に、主神の像ほど大きくはないが、人間より大分大きな像が佇んでいた。
大きな棒を横にして持ち、両脇には3本の糸で吊るされた、皿のような物が掛かっている。そしてその皿は、何故か片方に大きく傾いていた。
「なんだこれは?秤……か?」
イアンがその像に近付くと、建物全体に響きそうな程大きく、そしてハッキリと、低音の男性の声が聞こえてきた。
『何用だ、ヒトの子よ』
「え?しゃべった!?」
『我は神より審判の天秤を任されし者。神の代行者』
「あ、わかったわ!これに聖剣に力を込めてもらうのよ!聞いてみなさいよ!」
「あ、ああ!神の代行者さん!オレ、勇者です!聖剣の力を解放する為にここに来ました!」
その言葉を聞いた神の代行者という像は、少しの間を空け、話し始めた。
『そなたの手にあるのは確かにヒトの、勇者の聖剣。しかし、聖剣の乙女が居らぬ。聖剣の乙女無くば真なる聖剣は生まれぬ。そなたには資格なし。去ね、ヒトの子よ』
「え……聖剣の、乙女?」
イアンは、初めて聞いた言葉に怖じ気づく。
しかも、去れとも言われた。
それではダメだ。
勇者としての力を振るえない状態で帰れば、どうなる。パレードまでして送り出されたんだぞ。魔王を倒した暁には、褒賞まで用意すると言われたんだ。
そんな自己都合ばかりの考えばかりを浮かべていると、仲間達が騒ぎ出した。
「聖剣の乙女って、わたしじゃないの?回復魔法使えるわよ!」
「乙女なんざ、王は一言もそんなもん必要だとは言ってなかったじゃねぇか!おい、もうちょっと聞いてみろ、イアン!」
「あ、ああ、そうだな。あの、聖剣の乙女の事を教えて貰えませんか。オレ……私達は知らないんです」
イアンは出来る限り丁寧に聞いた。
しかし、予想外の答えが返ってきた。
『聖剣の乙女は、勇者と共にある者。
幼き頃より勇者を支え、
勇者と聖剣と共にある者。
聖剣が勇者を選ぶのでは無い。
剣の乙女こそが勇者の選定者。
剣の乙女こそが聖剣を支える者』
「な……!」
「なによ……それ…!」
「それじゃ、あの、シェリルが………」
バターーーン!!!
背後の大扉が、勢いよく開いた。
開けたのは、仲間のアンディだった。
アンディは扉に向けて跪き、
扉から歩いていく者を迎えていた。
優雅な足取りでやってきたのは、
黒髪の美丈夫。
そして、隣に寄り添うのは……
美しい容姿に変貌した、
シェリル、であった。
「しゃべりすぎだ、神の代行者よ」
低く、しかし美しい声で美丈夫は神の代行者の像に苦言を放つ。
『魔王ルーファスよ。魔王の魔剣、さらなる解放の時がやってきたか』
「それよりも、この者らに剣の乙女の話は必要ないだろう。何故話した」
魔王ルーファスは、神の使いでもある代行者の話を遮り、我を通そうとする。
『剣の乙女を得、力を増したか。
もはやこの世に敵うものは居らぬであろう。我とて、意思のある者。ヒトの最後の望みくらいは叶えてやってもよかろうと思ったまで』
「はっ、こやつらに理解出来る訳がないだろう。己の行いで、ヒトがどうなるかなど」
魔王の言葉は、イアンは既に聞こえていなかった。神の代行者の、その言葉の数々に、イアンは驚愕していた。
乙女を、得た。
魔王が、最強。
ヒトの、最後の、望み。
ヒトは、負ける。
自分の、せいで。
「あ、ああ、あ……そう。そうだ!シェリル!シェリル!オレ、間違ってたよ!謝るから、こっちに戻って来てくれ!シェリルが居なければ、オレは、オレは、」
「イアン、もう遅いの」
シェリルはイアンの言葉を遮った。
とても、良く通る、透き通った声で。
魔王の隣で、幸せそうに。
「わたし、もう選んだの。ルーファスと一緒に居るって。ずっと、この命が尽きるまで」
「なんで!?ずっと、ずっと一緒に居たのは、オレじゃないか!そんな、急に現れたヤツ、どうして!?」
「愚か者。そうやって周りが見えないから間違えるのだ、そなたは。本当に俺に見覚えが無いのか」
「え…………」
そう魔王に言われ、黒髪の美丈夫を改めて、じっと見るイアン。すると、良く似た者が村に来ていた事を思い出した。
髪は今より短く、村の人達と変わらない服装をした、少しだけ年上に見えていた少年。
シェリルは仲良くしているのを見てたけど、嫉妬からか自分は、それを見たら逃げていた事を。
「な、なん、で。あんたが、魔王?」
「ルーファス、わたしが話すわ。良い?」
「…………神の代行者にも言ったが、骸に話すのと同じだぞ。良いのか?」
「良いの。わたしの気が晴れるから」
「なら、いい。好きにしろ」
ほんの2日前まで、一緒にいたシェリルが、もう目の前の、自分とは違う男と夫婦の様に見える。
イアンには、既に嫉妬を覚える資格もないのに、自分の物を取られた気持ちが、どうしても無くならない。
シェリルはそんなイアンを見て、イアンが今どういった考えでいるのか、手を取るように分かった。幼い頃から一緒にいたのだ。当たり前のことだった。
だったら、なぜイアンはシェリルの事が分からないのか。少なくとも、子供の頃はシェリルの事を気にかけてくれる事もあったのに。
だから、シェリルは今だけ、幼い頃の様に話す。
これで、思い出も最後なのだから。
「イアン、ダメだよ。周りを注意して見ないと。わたしイアンの事、恋愛感情ではなかったけど、家族としての愛情はちゃんとあったよ」
それを聞いたイアンは、怒りを顕にした。
「シェリルはオレの事好きだったんだろ!?なんで、そんな事言うんだ!周りの皆だって、いつもオレと一緒にいるから、シェリルはオレと将来結婚したいんだって!」
「周りの人が言った事を真に受けて、わたしが絶対に離れていかないと思ってたんでしょ?だから、それに胡座をかいて、自分は何もしなくても、わたしがずっと傍にいる自信があったんだよね?」
シェリルの言う、その通りだった。
シェリルは何を言っても、何かイアンがやらかしても、いつも傍にいたから。
霊峰を登る直前の事も、今自分が突き放しても、故郷でずっと自分の事を待ち続ける、そんな事をイアンは考えていた。
「わたし、イアンに好きだって、結婚したいだなんて一言も言った事無いよ。おじさんやおばさんにも、近所の人たちにも。必要だったから、イアンの傍にいただけ」
とどめだった。
そう言われ考えると、シェリルとの仲の良さを揶揄われていたのは自分の友だちだけだった。イアンの父や母もシェリルの家族も、将来の話などイアンに話した事は無かった。
「なん、で……だって、王都に、親父やお袋が心配するから、ついてくって、シェリルが……」
「その言葉のままだよ。おじさんやおばさんは、イアンが一度王都へ行けば、悪い事を覚えて身を滅ぼすかもしれないって。すぐ楽な方に流される息子だから、いざと言う時に連れ帰ってくれって頼まれたの」
それは、思春期になってから両親にいつも言われていた事だった。いつも、危ない道に行きそうになると、両親かシェリルが引っ張ってくれていた。そんな事が、今更になってイアンの頭に浮かんだ。
「わたしの役目もあったし、王都へ一緒に行かない選択は無かった」
「や……役目?」
「さっき、その像が話したでしょ?もう忘れたの?わたしは、聖剣の乙女。勇者を選別し、支える者」
話が、最初に戻った。
イアンは、そうシェリルに説明され、ようやく自分が聖剣ではなく、目の前のシェリルに選ばれたのだと理解した。
「な、なんでオレだったんだ!オレが、何で!シェリルはオレを好きじゃなかったんだろ!?どうして!!」
イアンは、叫ぶしかなかった。
情けなかった。
目の前の女の子に選ばれただけの【勇者】が。
でも、認めなくなかった。
今までの自分の力が、自信が、権力が、全て無くなってしまうから。
「イアンね、弱かったでしょ?」
「は?何を……」
「弱いくせにね、わたしを守るって言ってたの。覚えてる?5歳くらいの時かな」
イアンは、思い出した。
いつもガラドにいじめられて泣いていた自分。走って逃げられるように、かけっこだけは頑張っていた自分。
ある時、シェリルと2人で居る時にいじめられて、結局シェリルがガラドを追い払った時があった。
その時だ。「シェリルを守れるくらい強くなりたい」と、シェリルに言った事を。
「あ……ああ……、それ、そんな小さな頃の、言った、事で」
「そうだよ。だからね、そこからだよ。ずっと見守ってた。イアンは強くなれるのかな、って」
勇者の選定が、"弱かったから"だった。そんな事だったのかと、ついにイアンは倒れ、膝を地につけた。
そんなイアンを労ることはせず、シェリルは教えるように話し続ける。
「その像が持ってる天秤、片方に傾きが寄ってるでしょ?」
シェリルはそれまでの話から、急に話題を変えたとしか思えない事を言った。大事な話をしていたのではないのか、とイアンは訝しむ。
「何で……そんな事、今関係あるのか?」
「イアン、周りの意見に耳を傾けな、っていつもわたし言ってたよね?必要だから話してるの」
またいつもの説教だ、と思ったイアンだったが、すぐに、違う、と思い直す。優しく言っているシェリルの後ろで、魔王が圧を放ってきたからだ。
「ルーファス、今は黙って聞いててって言ったのに」
「すまん、あまりの阿呆さに我慢が足りなかった」
2人のやりとりは和やかに見えるが、圧倒的な力にイアンは膝立ちでもいられなくなった。這いつくばり、何とかシェリルに止めてくれと視線を送ったが、無駄だった。
「イアン、もうダメだよ。ここまで優しく言ってあげたのに、まだ期待してるの?」
「な……なん、で、頼、む、弱め、るよう、言ってく、れても」
「聞こえてるなら、良いじゃない。続き、教えてあげる」
イアンは絶望した。
本当に、もう最後なのだ、と。
シェリルは既にイアンの方は向いていなかった。神の代行者と言う像に視線が向かっていた。
「あの秤は、ヒトと魔族の力関係を示しているの。聖剣の乙女が勇者を選べばヒトに傾く。魔剣の乙女が魔王を選べば魔族に傾く」
シェリルと魔王は、少しずつ神の代行者の像に向かって歩きだす。
「剣の乙女はね、勇者の子ならば魔族の元へ。魔王の子ならヒトの元へ。そういう定めがあるの。わたしは先代魔王の子。だから、ヒトの中で育った」
「なっ…………!ま、ぞく?」
シェリルが、魔族。
イアンは、驚愕する。
「剣の乙女は中立。それぞれの剣の真の力が解放されない限り、ヒトでも魔族でもない」
そう話しながら、倒れこんだイアンをシェリルと魔王は通り越した。
「育った種族の剣の乙女になれれば良かったのだけど。もう、2代続いて勇者は"真なる勇者"になれなかった。秤は、続いて3代は保たない。
今ここで、壊れるわ」
神の代行者の像の正面に
剣乙女と魔王は立つ。
『剣の乙女よ。魔王の剣を解放するのか』
「はい。わたくしはルーファスと共にあります」
凛とした声が聖堂内に響いた。
『証を示せ、剣の乙女よ』
シェリルはルーファスと向きあい
そして、深い口付けを交わす
するとシェリルから、するすると黒銀の光が魔王の持つ剣へ放出され始めた。
『証、承認。
感謝する、魔剣の乙女よ。
今ここに、天秤は新たな"覇王"へ
力を受け渡し、消失する。
長き役目であった。
私は、解放される』
神の代行者の持つ天秤から、神々しい金色の光が溢れ、魔王の持つ剣を包みだした。
【覇王の天剣】
それが、今、誕生する。
「役目ご苦労、代行者よ」
天剣の誕生を見届けたの様に、神の代行者の像は淡い白色の光の中、消えていく。
その光に溢れる聖堂は、愛し合う2人を祝福する結婚式のようだった。
「さて、行こうか。シェリル」
「ええ」
シェリルとルーファスは、倒れ込んだままのイアンの傍を、一瞥もせず歩いて行く。
「シェ、リ、ル……」
イアンが今だに意識があるのを、シェリルは感嘆した。
そして、絶望を、言い渡す。
「イアン、あなた、そこまでルーファスの威圧を受けて、まだ生きていられるなんて。まだ聖剣が少し守っているのかしら。周りの煩いのは、もう事切れているのにね」
イアンは、もう余り動かない身体で、目だけを何とか動かし、周りをみた。
ダイアナはうつ伏せに、マーカスは仰向けに、目を見開いたまま動かなくなっていた。
「あ……あ、ああ……あああああああ」
「安心してね、イアン。あなたも、もう終わるわ。世界中のヒトと一緒にね。そう、あなただけが悪いのではないわ。あなたの前と、前の前の勇者のせいでもあるのだから。ヒトが滅ぶのは」
いつまでも前の男に構うシェリルが我慢ならず、ルーファスは手を引く。
「もう行くぞ、シェリル」
「ええ、行くわ。ずっと、ずっとルーファス、あなたと共に」
その日。
ヒトは滅ぶ。
勇者はいなくなり
魔王の名も消える
剣の乙女は役割を終える
そして、今───
新たなる存在
──【覇王】が生まれた──
世界は魔族……魔人が
ヒトの代わりに繁栄していく
これは、何処か違う世界
どこか、別の星の物語────
初めて投稿した
【埋もれていたいので、悪役令嬢っぽい人の取り巻きになろうと思います】
https://ncode.syosetu.com/n4221mv/25/
とは全然違う、シリアスな仕上がりになりました。
実はこの話は、ずーーーっと頭にあった話で、ようやく頭から出す事ができて、ほっとしてます。
短編にまとめる事が出来て良かったです。




