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ボッタクリ占い師の華麗なる誤算〜適当なアドバイスが異世界の運命を変えていく〜  作者: ぱすた屋さん


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第4話 専属顧問の初仕事は、呪われた館の除霊?

 


 クラーク商会の『専属特別顧問』。

 その肩書きは、俺の想像を遥かに超えるほど甘く、そして恐ろしいほどに快適だった。


「ふむ……。今日の紅茶は少し渋みが強いな。明日は茶葉を変えてくれ」


「申し訳ございません、先生! すぐに王室御用達の最高級品を取り寄せます!」


 ふかふかの特注ソファに深く腰を沈めながら、俺は優雅にカップを置いた。

 ここは王都の一等地にそびえ立つ、クラーク商会の本部ビル。

 その最上階にある、見晴らしの素晴らしいVIPルームが、今の俺の新しい拠点である。


 あの水星逆行の騒動から数日。

 俺はアイリス会長の強引なスカウトにより、路地裏の薄暗い占い館からこの豪華な部屋へと強制的に引っ越しさせられていた。

 三食昼寝付き、専属のメイドまで控えているという、まさに夢にまで見た完璧なスローライフだ。


(いやー、適当な占星術のハッタリでこんな生活が手に入るなんて。異世界最高だな!)


 俺は心の中でガッツポーズを決めながら、皿に盛られた甘い果実を放り込んだ。

 このまま適当に星の配置を眺めて、「今日は運勢がいいですよ」とニコニコしていれば、一生遊んで暮らせるはずだ。


 バンッ!!


 俺がそんな甘い未来予想図を描いていた、まさにその時だった。

 VIPルームの重厚な扉が、蹴り破られんばかりの勢いで開かれた。


「先生! 大変です、どうかお助けください!」


 血相を変えて飛び込んできたのは、クラーク商会の若き会長、アイリスだった。

 彼女の美しい金糸の髪は乱れ、その表情は深い絶望と恐怖に染まっている。


「ど、どうしたんですかアイリス会長。そんなに慌てて」


「呪いです! 私たちの商会が、恐ろしい悪霊の呪いにかけられてしまいました!」


 彼女は俺の足元にすがりつくようにして、震える声で訴えかけた。

 呪い。悪霊。

 剣と魔法のファンタジー世界において、それらは決して珍しいものではないのだろう。


 だが、徹底的に安全第一を掲げる俺にとって、霊的トラブルなど絶対に関わりたくない案件の筆頭だ。


「じゅ、呪いですか。それは大変ですね。すぐに教会の神父様か、凄腕の魔術師を呼んだ方が……」


「いいえ、先生の御力が必要です! 先生の『星の導き』でなければ、到底太刀打ちできないほどの強力な怨念なのです!」


 アイリスの話によれば、事の発端は商会が新しく買い取った『第二支部』の建物らしい。

 業績が急上昇したため、人員を増やす目的で手に入れた立派な洋館なのだが、そこに移った社員たちが次々と原因不明の体調不良で倒れているというのだ。


「頭痛に吐き気、そして目まいの連続。さらに夜になると、誰もいないはずの壁の向こうから、恐ろしい獣の唸り声が聞こえてくるそうです……!」


「獣の唸り声、ですか」


「はい。前の持ち主が相場よりも随分と安く譲ってくれたのですが、まさかいわくつきの『呪われた館』だったなんて!」


 アイリスはポロポロと涙をこぼしながら、俺の手を強く握りしめた。

 商会の社員は彼女にとって家族同然だ。彼らが苦しんでいる状況に、居ても立っても居られないのだろう。


(うわぁ……完全にホラー案件じゃないか。適当に理由をつけて逃げたい……)


 俺は引きつった笑顔を浮かべながら、必死に断る口実を考えていた。

 しかし、彼女の後ろに控えている屈強な護衛の騎士たちが、「我らが顧問先生なら、悪霊など一捻りでしょうな!」と目を輝かせている。

 ここで逃げ出せば、俺の「偉大なる預言者」というメッキが剥がれ、この優雅なVIP生活も終わりを告げてしまう。


「……わかりました。アイリス会長がそこまで言うのなら、一度その館を視察してみましょう」


「本当ですか!? ありがとうございます、先生!」


 俺は重い腰を上げ、愛用のスマートフォン(彼らには魔法石に見えている)をポケットにねじ込んだ。

 最悪、霊的な何かが出たら全力で逃げよう。そう心に誓いながら、俺たちは馬車で問題の第二支部へと向かった。


 * * *


 王都の少し外れにある、閑静な区画。

 そこに建っていたのは、黒っぽい石レンガで造られた、確かに立派で重厚な三階建ての洋館だった。


「ここが、呪われた第二支部です……」


 馬車を降りたアイリスが、怯えたように館を見上げる。

 俺も隣で建物を観察したが、霊感など一切ない俺の目には、ただの古ぼけた大きなお屋敷にしか見えなかった。


 ただ、一つ気になったことがある。


(なんだこの建物。やたらと窓が小さくて、しかも周りに高い樹木が密集しすぎじゃないか?)


 建物の周囲は鬱蒼とした木々に囲まれており、昼間だというのに館の壁にはどんよりとした暗い影が落ちていた。

 俺たちは意を決して、重い木製の玄関扉を開け、館の中へと足を踏み入れた。


「……うっ」


 中に入った瞬間、俺は思わず鼻を覆った。

 空気が酷く淀んでいるのだ。カビのような、あるいは埃のような、ツンとする嫌な臭いが鼻腔を突く。

 廊下は薄暗く、じめじめとした湿気が肌にまとわりついてくるようだった。


「先生、気をつけてください。この瘴気を吸い込んだ者が、次々と倒れているのです……!」


 アイリスがハンカチで口元を押さえながら、震える声で警告してくる。

 案内された大広間には、何人かの事務員たちが青白い顔をして毛布にくるまり、うなされていた。

 確かに、これは尋常ではない。誰もが「呪われている」と信じ込むのも無理はない惨状だ。


 ヒュゥゥゥゥ……ッ!!


 その時だった。

 建物の奥から、まるで獣が遠吠えをしているような、低くて不気味な音が響き渡った。


「ひぃっ! ほ、ほら、また悪霊の唸り声が……!」


 護衛の騎士たちすら剣の柄に手をかけ、冷や汗を流して周囲を警戒している。

 アイリスに至っては、恐怖のあまり俺の背中にガシッと抱きついて震えていた。


「先生! どうか、どうか悪霊退散の儀式を……!」


 全員が怯えきった目で、俺の次の行動を待っている。

 俺は一人、静かに館の中を見回した。

 淀んだ空気、ツンとする悪臭、社員たちの頭痛や吐き気。そして、壁の奥から聞こえる不気味な唸り声。


(……なるほど。そういうことか)


 俺は内心で、安堵の溜息を長く長く吐き出していた。

 なんだ、ただの物理現象じゃないか。


 俺のいた現代日本でも、これと全く同じ症状で苦しむ人々が大勢いた。

 建材から出る化学物質や、密閉された空間で繁殖する大量のカビ。それが引き起こす深刻な体調不良。


 現代の言葉で言えば、これは呪いでもなんでもない。

 ただの『シックハウス症候群』だ。


 さらにあの不気味な唸り声も、正体はすぐに予想がついた。

 気密性が中途半端に高いせいで、外からの強い風が建物のわずかな隙間を通り抜ける時に発生する『風鳴り(隙間風の音)』現象だ。

 ペットボトルを口に当てて息を吹くと音が鳴るのと同じ理屈である。


(前の持ち主が安く手放したのも納得だ。ここは霊的な意味じゃなく、建築的に『最悪の欠陥住宅』なんだよ)


 原因がわかれば、全く怖くない。

 窓が小さくて換気ができず、周囲の木々のせいで日差しも入らない。結果として湿気がこもり、カビや有害な空気が充満しているだけだ。


 だが、ここで「ただの換気不足ですね」と正直に言ってしまえば、俺の偉大な占い師としての威厳は丸潰れだ。

 このファンタジー世界の人々に、どうやって現代の建築知識と健康被害を『それっぽく』説明し、納得させるか。


 俺は少し考えるフリをしてから、ゆっくりとアイリスの方へ振り返った。


「アイリス会長。安心してください。原因は完全に特定しました」


「ほ、本当ですか!? やはり、恐ろしい悪霊の仕業なのですね!」


「いいえ。この館に悪霊など一匹もいません」


 俺の言葉に、アイリスも騎士たちも目を丸くしてポカンとしている。

 俺はあえて、低く神秘的なトーンで語り続けた。


「これは『気』の流れが完全に滞っているために起きた、大地の反発です。東洋の神秘の術において、これを『風水』の乱れと呼びます」


「ふう……すい? 気の流れ……?」


 聞き慣れない単語に、全員が息を呑む。

 俺は知ったかぶりの知識を総動員して、彼らにハッタリをかまし始めた。


「この館は、自然界を構成する『木・火・土・金・水』のバランスが最悪なのです。悪い気が外へ逃げず、室内に毒の瘴気となって蓄積している。獣の唸り声は、行き場を失った風の精霊たちが泣き叫んでいる音ですよ」


「なんと……! では、どうすればこの呪い……いえ、気の乱れを直せるのでしょうか!?」


 すっかり俺の言葉を信じ込んだアイリスが、藁にもすがる思いで尋ねてくる。

 俺はニヤリと笑い、自信たっぷりに宣言した。


「アイリス会長。聖職者による除霊は一切不要です」


「教会の者を呼ばなくていいのですか?」


「ええ。その代わり、王都で一番腕のいい『大工』と『清掃業者』を、今すぐここに集めてください」


 俺は館の薄暗い壁をバンッと叩き、高らかに言い放った。


「これより、我が秘伝の『風水魔術』を用いて、この館の運命を根本から改造します!」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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