第5話 条件付き停戦、その条件が重すぎる
「ひなた」
「話がある」
その言葉を聞いた瞬間、
私は察した。
――これは、普通の話し合いじゃない。
リビングのテーブル。
向かいに悠真、隣に蒼。
この配置、完全に“面接”だ。
「なに……?」
私は警戒しながら椅子に座る。
悠真が、真剣な顔で口を開いた。
「姉ちゃんの恋愛について」
「一つ、結論を出した」
蒼が、小さくうなずく。
嫌な予感と、
ほんの少しの期待が、同時に胸をよぎった。
⸻
「――完全な反対は、やめる」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「……え?」
「今、なんて?」
「聞こえなかった?」
蒼が言う。
「姉ちゃんが誰かと会うの、止めない」
世界が止まったかと思った。
「ほ、本当に!?」
「条件付きだがな」
はい来た。
⸻
悠真が、指を一本立てる。
「条件その一」
「門限は厳守」
「条件その二」
「相手の身元は把握する」
「条件その三」
蒼が続ける。
「姉ちゃんが嫌だって思ったら、即終了」
……思ったより、普通?
私は少し拍子抜けした。
「それだけ?」
二人は、同時に首を振った。
「メインはここからだ」
「覚悟して」
やっぱり普通じゃなかった。
⸻
「条件その四」
悠真が言う。
「月に一度、報告会を行う」
「……は?」
「交際状況、心境の変化、相手の態度」
「問題点の洗い出し」
「それ、恋愛じゃなくてプロジェクト管理だよね?」
「似たようなものだ」
全然違う。
蒼も、真顔で言う。
「あと」
「俺たちの前で、無理して笑わないこと」
その言葉に、少しだけ黙ってしまった。
「……姉ちゃんが苦しいなら」
「それ、恋じゃない」
蒼の声は、珍しく弱かった。
⸻
私は、深く息を吸ってから言った。
「条件、全部は飲めない」
二人が顔を上げる。
「報告会は、簡単にする」
「門限は守る」
「でも」
私は、はっきり言った。
「私の気持ちは、私が決める」
沈黙。
悠真が、ゆっくり息を吐いた。
「……それが」
「本来の姿なんだろうな」
蒼は、少しだけ笑った。
「姉ちゃん、強くなったね」
それは、褒め言葉だったと思う。
⸻
その夜。
『今度の日曜、少し遠くまで行かない?』
神崎くんからのメッセージ。
私は、迷わず返信した。
『行きたい』
送信してから、
リビングの方を見る。
双子は、何も言わなかった。
ただ――
少しだけ、距離が空いていた。
完全な自由じゃない。
でも、完全な檻でもない。
これはたぶん、
私たちなりの“停戦”。
そしてきっと、
次の一歩への、準備期間。




