第4話 双子、初めて「恋」を自覚する
「最近、姉ちゃん遅くない?」
洗濯物を畳みながら、蒼がぽつりと言った。
「遅いな」
悠真も、珍しく同意する。
「前は、放課後すぐ帰ってきてた」
「今は寄り道が増えている」
原因は、分かりきっていた。
――神崎 恒一。
「……姉ちゃん、楽しそうだよね」
蒼の声が、少しだけ沈む。
「それが問題だ」
悠真は、眼鏡を押し上げた。
「楽しそう、という感情は判断を鈍らせる」
ひどい理屈だと思う。
でも、蒼は何も言い返さなかった。
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その頃、私は駅前で神崎くんと話していた。
「この前の映画、楽しかった」
「正直、あんなデート初めてだったけど」
苦笑いしながら言う神崎くん。
「……ごめんね」
「私の弟たち、ちょっと……いや、かなり」
「ううん」
神崎くんは首を振る。
「大切にされてるの、ちゃんと分かるから」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
でも同時に、
胸の奥が少しだけ痛んだ。
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家に帰ると、双子が揃ってリビングにいた。
「ひなた」
「話がある」
嫌な予感しかしない。
「……なに?」
「姉ちゃん」
蒼が、まっすぐ私を見る。
「最近、楽しい?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……うん」
「楽しいよ」
それは嘘じゃなかった。
蒼の肩が、わずかに揺れた。
「そっか」
悠真が、静かに口を開く。
「姉ちゃんが楽しそうなのは、理解している」
「だが」
「その男を、信頼する理由は?」
私は、考えた。
神崎くんの笑顔。
逃げないところ。
双子を敵視しないところ。
「……ちゃんと、私を見てくれるから」
その答えに、
二人は黙り込んだ。
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夜。
双子の部屋。
「……嫌だな」
蒼が、天井を見つめたまま言う。
「何がだ」
「姉ちゃんが」
「俺たちの知らない顔で笑ってるの」
悠真は、すぐに答えなかった。
「それが」
「恋、というものだろう」
蒼は、ぎゅっと布団を掴む。
「じゃあ、俺たちは?」
「どうすればいいんだよ」
悠真は、しばらく考えてから言った。
「……守る方法を」
「変えるしかない」
その言葉は、
二人にとって初めての“敗北宣言”だった。
⸻
その頃、私は自分の部屋で、スマホを見ていた。
『今日はありがとう。また話そう』
たったそれだけのメッセージが、
こんなにも心を動かす。
私は知らなかった。
その裏で、
双子が初めて「恋」という言葉と向き合っていることを。
私たちは、
少しずつ、変わり始めていた。




