第3話 初デートに双子が付いてくるなんて聞いてない
「ひなた、土曜の午後って空いてる?」
神崎くんがそう聞いてきた瞬間、
私の心臓はわかりやすく跳ねた。
「……空いてる、けど」
声が裏返らなかっただけ、成長だと思う。
「じゃあ、映画とかどうかな」
映画。
暗い。
二人きり。
恋愛イベントとしては完璧すぎる。
「うん、行きたい」
即答だった。
――その日の夜までは。
⸻
「映画?」
夕飯中、悠真が箸を置いた。
「誰と?」
「……友達」
一瞬、沈黙。
蒼が、ゆっくり私を見た。
「男?」
詰んだ。
「……クラスの」
「男だな」
「男だね」
双子の声が、綺麗に重なった。
「姉ちゃん」
「その映画、何時から?」
「え、なんで……?」
「確認だ」
「確認」
嫌な予感しかしない。
⸻
土曜日。
駅前。
私は、一人じゃなかった。
右後ろに悠真。
左後ろに蒼。
距離、約二歩。
「ねぇ」
「なに?」
「……なんでいるの?」
「偶然だ」
「奇跡的にな」
そんな偶然があってたまるか。
神崎くんが現れた瞬間、
双子の空気が一気に変わる。
「あ、こんにちは」
「……どうも」
神崎くん、逃げない。
この人、やっぱり強い。
「今日は姉がお世話になります」
「問題があれば即中断で」
悠真、完全に保護者。
「いや、俺はただ映画を――」
「上映中も注意は必要だ」
「距離、近すぎたらアウト」
デートじゃなくて監視だ。
⸻
映画館。
席は――
私、神崎くん、その隣に蒼、
さらに一列後ろに悠真。
なぜこうなった。
上映中、私は全然集中できなかった。
ポップコーンを取ろうとすると、
蒼が同時に動く。
神崎くんが小声で話しかけると、
後ろから悠真の咳払い。
「……ごめん」
「いや、これはこれで面白い」
神崎くん、強すぎる。
⸻
映画が終わったあと。
「楽しかったね」
そう言ったのは、
私じゃなくて蒼だった。
「感動的だった」
「脚本は悪くなかった」
感想会、始まってる。
私は、立ち止まって言った。
「ねぇ、二人とも」
双子が振り向く。
「今日は、ありがとう」
「でも」
胸に手を当てて、はっきり言う。
「これは私のデート」
「二人のじゃない」
少しだけ、勇気を出した。
蒼が、目を伏せる。
「……姉ちゃんが泣かないなら」
「俺は、それでいい」
悠真も、静かにうなずいた。
「今回は、ここまでにしよう」
――完全勝利ではないけど。
一歩前進だ。
帰り道、神崎くんが笑った。
「大変だね」
「……でも」
「大事にされてるの、伝わるよ」
その言葉が、
なんだか胸に残った。
私の恋は、
まだ始まったばかり。
でも――
ちゃんと、進んでる。




