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ウチの弟が弟じゃない  作者: てんまる99


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9/13

思い出すのは弟じゃない

主客転倒:本来のあるべき状態と逆になっている様

俺、神島譲は高校からの帰り道をゆっくりと歩いていた。

秋も深まり、道路には黄色い落ち葉が幾重にも積もっている。


「だいぶ寒くなってきたよな」

隣を歩く鈴に話しかける。

「うん、あのさ‥これ‥まだ少し早いかもだけど」

鈴は言いながら、紙袋からマフラーを取り出した。

「お、それ、まさか‥手編み」

「まさか、は失礼じゃない?」

鈴はちょっとむくれてみせる。


「いや、予想外だったから」

「サプライズ成功?」

「うん、驚いた‥ありがと」

「巻いて見てよ」

「こうかな‥うん、温かい」

「どれどれ‥」

言いながら鈴はピタリと身体を密着させ、余った先端を首に巻いた。

「‥本当だ温かい」

微笑む鈴。

マフラーよりも鈴の体温が伝わり、胸が温かくなった。


俺達は付き合っている。

最初は無口な鈴を妙な奴だと思ったが、偶然教室で席が隣に成った。

話して見ると何故か話が合い、それで。

‥それで‥あれ?

何か俺達が付き合うきっかけに成ったイベントが有った‥よな?

大切なことなのに忘れるとか、駄目だな俺は。


帰り道に近くの自然公園に寄り道をする。

池の近くのベンチに鈴と並んで座った。

揺れる池の水面を見ていると、誰かが落ちて水飛沫みずしぶきを上げそうな気がしてくる。

‥まさかね。

こんな寒空に池に落ちたら、下手すれば命に関わる。


“バッシャーーン”


目前の水面に水飛沫が上がった。

思わず、ベンチから立ち上がる。

「譲? どうしたの?」

鈴が戸惑い、聞いてくる。


見ると、それは子供が投げた小石が起こした、小さな水飛沫だった。

「こら、池に石投げちゃ駄目だよ」

子供は傍らの女生徒に注意されていた。

子供はバツ悪そうに頭を掻き、走り去ってゆく。


その女生徒は今時珍しい、真っ黒なセーラー服姿だった。

そして腰までの艶やかな黒髪。

コントラストの真っ白な肌。

吸い込まれる様な真紅の瞳が俺を見ていた。

あれ、俺はその瞳をどこかで‥。


隣の鈴が弾かれた様に立ち上がった。

慌ててスマホを取り出し、どこかに電話をかけ始める。

「どした?」

あまり見たことのないその様子に、思わず問い掛ける。

「う、うん、何でもない‥」

スマホをポケットにしまい、鈴は普段の様子を取り戻す。

「寒くなってきたから、帰ろ?」

言いながら、傍らにピタリと寄り添う。

セーラー服の女生徒はいつの間にか居なくなっていた。


そのまま公園を出て、暗くなり始めた道を、鈴の家に向かって歩いた。


家の前まで来ると、鈴は目を閉じ、キスをせがんだ。

「え、こんな公衆の面前でか?」

思わず躊躇する。

「いいじゃない、早く」

「仕方ないな‥」

俺は鈴の唇に軽くキスをした。

柔らかい感触が唇を覆った。


「ん‥」

名残惜しそうに鈴は唇を離し、溜息をついた。

でも、肩に回した手を離さない。

「えと‥今日は親が二人とも出掛けてて‥」

言いながら、俯いた鈴の顔が真っ赤だ。


「寄って行かない?」

「え、どこに?」

「この状況でそれを言う?」

「そうだな‥ごめん」

‥あれ、俺は鈴とこの会話を以前も‥。

いつだった?

それほど昔のことではないはずなのに、なぜか思い出せない‥‥。


鈴に誘われるまま、部屋に入った。

2人でベッドに並んで座る。

これって、あれ‥だよな。

さすがにこれを訊ねたら怒られるだろうから、聞けない。


意外なことに、鈴から積極的に抱きついて来た。

そのまま、肩に手を回し抱き寄せる。

微かに震えているのが分かった。

「護、好き‥」

ぽつり、と鈴が囁く。

その様子に愛おしさが込み上げ、思わずキスをした。


でも、何故だろう。

何処かに違和感がある。

突然、積極的になった鈴の態度も。

いや、もっと心の奥で何かが違うと思っている、もう一人の自分が居た。


「鈴、無理しなくても‥」

「む、無理なんてしてない。本当にこうなる事を待ってた」

言いながら、鈴は俺を軽く引いてベッドに倒れ込む。

俺達はもつれる様にベッドに重なった。


その時。

“ガタガタ、ガタガタ‥”

突然、強風でも吹いた様に、サッシ窓が揺れ始めた。

そして、サッシの僅かな隙間から、白い、氷のように冷たい冷気が吹き込んでくる。

カーテンが揺れた。


いくら寒く成ったと言ってもまだ晩秋だ。

だが、吹き込んできた冷気は真冬並み‥いや、更に冷たい。

じわじわと絨毯に窓側から霜が降り始めた。

「こ、これは‥」

俺は息を呑んだ。

少なくとも自然に起きた現象とは思えない。


鈴はいち早く身を起こしていた。

手にはいつの間にか小型のナイフが。

「護はそこから動かないで」

ナイフを構えながら鈴は言った。

「いや、何か分からないが逃げよう。これはヤバい」

「ううん、逃げても‥」


“バァッーーン”


激しい衝撃音とともに、遂にサッシが風圧に耐えきれずに千切れた。

途端に身を切るような冷風が吹き込んでくる。


そこには。

開け放たれた窓には。

まるで影の様に漆黒の少女が立っていた。

激しい冷気が吹き付けているはずなのに、苦にする素振りも無い。

腰までの黒髪だけが、風にまるで悶えうつ様にはためいている。


少女の燃えるような真紅の瞳が俺をとらえる。

それだけで俺は動くことさえ出来なくなった。

魅入られた‥とはこう言う事を言うのだろう。


「護‥迎えに来たよ」

瞳と同じくらいに鮮烈に赤い唇から言葉が紡がれた。

強強蛍の登場です。


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