家で待つのは弟じゃない
外伝的なお話です
「んで、お前、二人と同棲してんだろ‥羨まし過ぎ」
向島博はピラフを頬張りながら言った。
ここは前通っていた学校近くの喫茶店。
放課後のこの時間でも客はちらほら。
あまり混雑していた覚えが無く、これで経営が持つのだろうかと心配になる。
俺は実家に帰ったついでに、博と会っていた。
今住んでいるマンションから元の街まで1時間ほど。
さほど遠い場所ではない。
「うーん、有難いのかな?」
悩みながら答えた。俺としては必然的に成ったと思っていた。
「そりゃそうだろ。んで、2人とはもう“シタ”のか‥?」
博は小声で囁いた。
「いや、そう言うのはまだ早いというか‥」
思わず言葉を濁す。
「いや、カッコつけるなよな」
「そうじゃなくて、2人を尊敬してるからこそ、見合う人間に成ってからって‥」
「俺なら喜んで‥いや、そうでも無いか」
博は腕組みをして考えた。
そこへ、食べ終わった食器を下げに店主らしき初老の男性が来た。
食器をトレイに乗せ、戻ろうとした所で突然姿勢を崩す。
「あっ、危な‥」
思わず席を立ち、店主を支えた。
「ああ、申し訳ない。‥歳を取ると足腰が弱って‥」
「いえ、大丈夫ですか?」
老人は立ち上がろうとして、でも立ち上がれなかった。
「‥痛た‥ああすみません、少し腰を痛めたみたいで‥」
「え、それ、大変じゃないですか?」
「いえ、少し休めば‥お手間をおかけしますが、食器を下げるのを手伝って貰えませんか?」
「ええ、もちろん」
俺は店主に手を貸しながら、食器を持ってカウンターに向った。
そのまま奥の洗い場まで入って食器を置く。
「ああ、すみませんねぇ‥」
店主を椅子に座らせ、腕まくりをして食洗用のスポンジを持つ。
「これ、使って良いですか?」
「いえいえ、お客様にそんな事まで‥」
「困った時は、ですよ」
「しかし、申し訳なくて‥」
店主は立とうとしたが、腰が痛むのだろう、また席に座ってしまう。
「気にしなくても‥あ、それじゃ‥」
「ん、何かな?」
「今度、俺が困った時に相談に乗って下さい」
「え、そんな事で良いのかい?」
「食器洗いだって、“そんな事”ですよ」
言いながら、置いてあった食器を手早く洗って水切りに置いてゆく。
それを繰り返して、そこに有った食器を一通り片付けたので失礼する事にする。
「それじゃ、これで‥あ、でもその様子じゃ今日は店を開けているのは無理では‥?」
「そうだね、今日はもう閉めるよ」
腰をさすりながら老人は答えた。
「それじゃ、出る時に開店中のプレート、ひっくり返しておきます」
開店中のプレートの裏は閉店中だ。
「何から何まで済まないね‥」
「いえいえ、店主さんも気を付けて」
そう言ってカウンターから出ようとした所で、店主が声をかけた。
「またおいで。今度はコーヒーをサービスするから‥」
「ありがとうございます」
「あんた、親切すぎて苦労する“質”だねぇ。でもそれが良い所だ」
「‥そうですか?あまり実感無いですが‥」
「周りの人は結構、見ているもんだよ。一緒に仕事するなら、そういう人が良いからね」
「‥ありがとうございます」
どう言って良いか分からなくて、そう返事した。
そのまま博と一緒に店を出る。
「店主さん、大丈夫そうか?」
「うーん、数日は無理そうだったな」
「ありゃぁ‥今度様子を見に来るか‥」
博はガサツな様でこう言う所心遣いが細い。
知らずのうちに友人を増やすタイプだった。
と、ここで俺のスマホに着信が入る。
『護、今どこ?』
相手は蛍だった。
『実家近くだよ』
『叔母さまから連絡あって‥』
どうやらまた、“仕事”があるらしい。
急いで家に戻る事にする。
「すまん、急いで戻らないと‥」
「ああ、今度は蛍ちゃんと鈴も連れてこいよ」
「はいよ」
答え、駅に向かう。
まだまだこんなドタバタした日々は続くのだろう。
確かに大変だが、少しづつこんな日々も愛おしいと感じ始めていた。
それに、人の役に立つ“仕事”にもやりがいを感じ始めていた。
さぁ帰ろう。
大切な家族が待っている場所に。
俺は駅に向かう足取りを早めた。
始めてラブコメ(?)を書いて見ましたが、文書にすると難しいですね〜。
あまり騒いでもドタバタし過ぎるし、本当に日常だけだと退屈だし‥。
もっと勉強しなければ‥




