廃屋探検も弟じゃない
物の怪系のお話に成りました
お楽しみ頂ければ幸いです
翌日、俺達は話の有った家の前に居た。
ちょっとした庭もあり、建物自体も立派だ。
元は資産家の物だろうか。
だが、今は荒れていて見る影もない。
間近で見るとやはり、と言うか相当な訳あり物件って感じだ。
近くに立つだけでじんわりとした圧力を感じ、まるで空気が薄く成ったように呼吸が苦しくなる。
「ありゃあ〜、これは‥」
「絶対何かある」
蛍と鈴も不穏な空気を感じた様だ。
玄関口に来た所で2人は俺に軽くキスをした。
「おっ、見える見える」
「不気味‥」
俺の見る能力はこうして少しの間、他人に分け与える事が出来る。
ただ、2人が相手を見るためには、俺も見なければ成らない。
そこで3人一組で行動する事になる。
「じゃ、行こうか」
先頭を切って蛍が進む。
「うん」
「気が進まないが‥行くか」
玄関を開け建物に入る。
正面の玄関ホールは薄暗い。
足元を確認しながら進むと、階上からゴトゴトと音がし始めた。
音のする方に向かって進む。
益々重圧が高くなった。
と、突然、床に落ちていた木片が俺に向かって飛んで来た。
「危ないっ!」
目前で鈴が叩き落とした。
勿論、誰かが触れた訳では無い。
これは‥とりあえずの警告って所だ。
「さっさと片付けちゃお」
「ちょっと!」
蛍は軽快な早足で建物を進む。
基本、蛍にはこう言った心霊現象的なものはダメージを与えられない。
でも蛍は“見る”事が出来ないので、俺が同行する。
“見る”事に専念すると周囲を警戒出来ないので、俺を守るために鈴が同行する‥。
こんな訳で3人一組の突撃隊をしている。
2階に上がり奥の部屋へと進む。
重圧は更に強くなり、俺の目にはまるで濁った水の中を進む様に黒い濁りが見える。
細い石や木片が次々と飛来し、鈴は休みなくそれを切り裂く。
“ガシャーーン”
部屋の中央に進んだ時、頭上のシャンデリアが、勢い良く落下した。
蛍はひらり、とかわす。
俺はその中でも一番濁りが濃い場所を見付けた。
「蛍、その、奥の棚だっ」
言われた蛍は棚に駆け寄り、力任せに扉を開ける。
“ぎゅぁぎゃぎゅーー”
扉の奥から咆哮とも悲鳴ともつかない絶叫が響いた。
見ると扉の中央に古い、封のされた壺のような物が見える。
「蛍、それだっ!」
「うんっ!」
蛍は腰に付けたポシェットから白い粉を掴み、壺にぶちまける。
粉は飛び散りながら金色の炎となり壺を包む‥。
激しい酸化反応が起こり、辺りの空気がうすくなる。
“キャキャキャーー”
ガラスをひっかくような奇妙な音を立てながら、炎はのたうつ様に燃え‥収まった時には辺りを包んでいた不穏な気配は消えていた。
「ふう‥おしまい」
蛍が額の汗をぬぐう。
「なんだろね、これ」
壺を持ち、様子を確認する鈴。
「多分、中は見ない方がいい」
俺は言った。
あれだけの妖力的なものを発するのだ。
中身はおおよそロクでも無いものと想像がつく。
階下におり、持ってきた金属のケースに壺を収めて、今回の仕事は完了したのだった。
何度か似たような仕事をしたけど未だに慣れない‥。
ようやく解放された息苦しさに、俺はため息をついた。
とりあえず一段落です




