回想するのは弟じゃない
相変わらずメチャメチャ苦戦してます
窓枠は千切れ、カーテンは風に揺れていた。
吹きすさぶ冷風の中、漆黒の少女は語りかける。
「護、思い出して。一緒に過ごした時間」
「駄目っ! 聞かないで」
鈴はそれを遮ろうとした。
「鈴さん、やっぱり、貴方なんだね」
少女の言葉は寂しそうだった。
「わ、私は‥譲を‥本当に‥」
辛そうに言葉を絞り出す鈴。
「知ってる」
「!」
「会ってすぐ分かった。多分この人も譲の事好きなんだろうなって」
「な、なら、どうして放って置いてくれないの‥」
「鈴さんの為だよ」
「な、何を言って‥」
ナイフを構えたまま、鈴は動けない。
鈴もまた魅入られていた。
少女は窓から離れ、鈴に歩み寄る。
「騙されて居るんだよ鈴さん。あの、仲間のフリをした人間達に」
「そんな事‥」
少女は手を伸ばし、鈴の額に触れる。
「や、やめろ‥」
慌てて制止しようとした。
「大丈夫、任せて‥」
優しく撫でるように鈴の額に触れる。
「酷い‥薬まで使って‥今、楽にしてあげるから」
言いながら繰り返し、額の部分に手を当てた。
「ほら、これで収まるよ」
「い、一体何を‥?」
俺は少女に訊ねた。
「鈴さんに使われていた薬を中和したの」
「薬‥って?」
「暗示の効果を高めて意識誘導しやすくする薬」
少女は鈴の方を向いた。
「鈴さん、もう貰った薬、飲んじゃ駄目だよ」
「わ、私は‥元々体が弱いから‥」
「そんなの嘘だよ。神人が不幸を呼ぶなんてのも嘘」
「それは、実際に‥」
「もう100年位昔の話でしょ。薬が消えた今なら、今更な話って分かるよね?」
「え、そ、それは‥」
「現代じゃ、拳銃を使えば普通の人でももっと沢山の人を殺せる。なのに神人だけを敵視するの、おかしいよね」
「それは‥‥」
既に鈴の言葉には力がない。
「私と護が結婚して子供が10人生まれても、それって人口の何割になるの?」
「わ、分からない何が正しいのか‥」
「私が絶対正しいなんて言わないけど‥鈴さん達のやり方は間違ってるよ」
少女は再びこちらを向いた。
俺に問いかける。
「護だって分かるよね? 記憶を変えられても‥本当の事」
「お、俺は‥?」
少女は俺の肩に手を回し‥キスをした。
冷気の中でも、触れた唇は暖かった。
そのぬくもりと一緒に、段々と頭にかかった靄が晴れてゆく‥。
公園での再開、学校で過ごした時間‥。
そうだ、この少女は‥。
「‥蛍?」
目前の少女は何度も頷いた。
「そうそう‥やっと思い出した?」
「思い出した‥何で俺は‥」
「薬と催眠術だよ」
蛍は再び鈴の方を振り向いた。
「んじゃ、難しい話はこれで終わり! それで、鈴さんに相談なんだけど‥」
「な、なに‥」
「鈴さんだって、もうこのまま此処には居れ無いでしょ?」
「私はもう何も‥」
「ね、私と一緒に、護と結婚しよ?」
「へ?ぁ?」
その時の鈴は今まで一度も見たことの無い表情をしていた。
「蛍、お前何を‥」
「護ちゃんだって、私達二人とラブラブ出来たら嬉しいでしょ?」
「いや、それはそう‥いやいや」
二人と一緒に結婚?
そんな非常識な‥。
でも、この数ヶ月の鈴と過ごした日々も俺には大切な時間だった。
‥‥神人の蛍も、それを追う組織の一員だった鈴も、既に常識の外の存在だ。
その二人とこれからも一緒にいるなら、俺も常識の外に踏み出せ、と蛍は言っているのだ。
‥多分。
そうだ。
俺はとっくに決めていた。当たり前の日常より蛍を選ぶと。
「いいよ、鈴、行こう?」
俺は、座り込む鈴に手を伸ばした。
何とか結論は出た感じですが‥




