ウチに居るのが弟じゃない
新シリーズ始めました
いつもの如く毎日考えながら連載なので上手く続くかは皆様次第です。
本格的(?)ラブコメは初めてなので上手く書けるかな‥
夏の日の夕方。
俺、神島譲は、高校帰りの通学路をだらだらと歩いていた。
まだ晩夏の夕方は日差しが強い。
夕日に背中から照らされて、住宅地の道路にくっきりと長い影を落としていた。
今日の夏休み明けの授業はどうにもダルく、眠気を堪えるのが大変だった。
思い出して、もう一度欠伸をする。
いつもなら学校帰りに友人達と遊んで帰るところだが、今日は皆の都合が合わなかった。
だからと言ってこのまま真っ直ぐ帰宅するには少し時間が早い。
そこで、いつもは通らない近所の自然公園に寄り道してみた。
「おお、懐かしいな」
思わず池の脇にあるベンチに腰掛けてみる。
子供の頃、近所の悪ガキ達と毎日この公園で遊んでたな。
ザリガニ捕まえたり、鬼ごっこしたり。
でも、その時の友達とはもう学校も変わって会うことも無くなった。
なんか、少しセンチメンタルな気分だ。
と、
“バッシャーーーン!”
目前の池に盛大な水柱が上がる。
「な、なんだ??」
思わず、池の水柱の方を見る。
そこに、一人の学生がもがいているのが見えた。
『溺れてる?』
慌てて辺りをみるが、夕方の公園には他に誰も居ない。
‥このままではあの学生は危険かも知れない。
そう思った時にはスクールバッグをベンチに置いて、池の中にジャバジャバと踏み込んでいた。
生温い水温。
水草が足にまとわりつく。
底には泥が溜まっていて、足が滑る。
「おいっ、大丈夫かっ」
何度か足を取られそうになりながら、声を掛け池の中央に進む。
水深は既に2メートルを超え、足は届かない。
必死に水を搔きながら、学生の側まで来た。
「おいっ、掴まれっ!」
必死に手を伸ばし、学生を抱きかかえる。
「きゃうっ?!」
奇妙な声を上げながら、学生は俺の腕に必死に捕まる。
そのままバタ足で岸に向かって泳いだ。
水を吸った制服が重く、満足に泳ぐことも難しい。
半ば溺れかけながら進んだ。
何とか四つん這いで岸に上がる。
「ゲホッゲホッ、うえぇ」
「けほっけふっ」
少し水が喉に入って水臭い。
学生も軽く水を飲んだのか咳き込んでいた。
「だ、大丈夫か?」
声を掛けると、こくこくと無言で頷く学生。
年齢は14、15歳位。見た感じ中学生らしい。
今時珍しい詰襟の学生服。
少し長めの黒髪が濡れて、顔にまとわりついている。
それでも、透けるほど白い肌が印象的だ。
「どうしていきなり溺れたんだよ?」
岸から飛び込んだ?
入水自殺って感じでも無かったけど。
尋ねると、学生はまるで犬の様にぶるぶると顔を左右に振って水気を飛ばす。
飛んだ水滴が盛大に俺に降りかかる。
「わっプププ。ちょ、まてまて」
慌てて学生を制止する。
ビクッ、と身を引く学生。
「タオルとか無いのか‥その感じじゃ無いか」
学生はカバンすら持っていない。
例え先程まで持っていたとしても、今は池の底だろう。
俺は自分のカバンから今日の体育で使ったタオルを取り出し、学生の髪をわしゃわしゃと拭いた。
「体育で使ったヤツだけど‥水で濡れてるより、マシだろ?」
無言でこくこくと頷く学生。
「臭いとか‥言うなよ?」
今度は無言でふるふると首を左右に振る。
何だろうこの感じ。
大人しく髪を拭かれてるから、嫌がられている訳では無さそうなんだが。
むしろ、ご機嫌良さそうだな。
「人と話すのとか苦手か? なら話さなくて良いからな?」
「ダイ‥ジャブ」
学生はおずおずと答える。
うーん、あんまり大丈夫そうで無い返事だ。
「服とかはちゃんと乾かせよ? 家で風呂入って体を温めろよ? 風邪引くからな」
学生は頷くと突然立ち上がる。
「ん、どうした?」
「カエル」
そのまま脱兎の如く走り出す。
「お、おいっ?」
学生は途中で立ち止まり、こちらを振り返りるとペコペコと何度もお辞儀をして‥そのまま走り去っていった。
後にはずぶ濡れの俺が残された。
「何だったんだあれ‥ハクション」
つい、クシャミが出た。
俺も帰って風呂に入らないと風邪をひきそうだった。
さすがにそれ以上は寄り道する訳にも行かず、俺は家に帰ってすぐ風呂に入った。
湯船に浸かり、今日の事を思い出す。
池で溺れていた少年。
うーん、変なヤツだったな‥。
と、風呂場のドアの向こう、脱衣場にバタバタと物音がする。
「父さん? 先に風呂に入ってるよ」
ドア越しに呼び掛けた。
今日は珍しく父親が早くに帰宅したのだろうか。
「フロ、フロー」
聞き覚えの無い声。
あれ?父さんじゃない?
と思った時、風呂場のドアを開け、小柄な人影が飛び込んできた。
「ふろー」
言うと、そのまま一切躊躇なく、俺が入っている湯船に飛び込む。
“バッシャーン”
盛大に上がる水柱。
あれ、何かデジャブ‥?
「ぷっはー」
一度湯船に漬けた顔を上げたのは。
「あれ、少年?」
さっき池で助けた少年だった。
「そうそうー」
少年は嬉しそうにギュッと抱きついて頬擦りしてくる。
が。
‥胸にふわりと当たる、柔らかい二つの感触。
「?? ちょっ、待て、待てって」
慌てて少年を引き剥がす。
白い肌、黒く艷やかな髪。
スレンダーでしなやかな身体。
真紅の瞳が俺を見つめていた。
「なんで、だめ?」
理由が分からない、と言う様子。
「いや、君、女の子‥」
言いかけて慌てて湯船から飛び出す。
女の子と湯船で全裸で抱き合うとか、色々ヤバすぎる。
はっきり言って、この状況が続いたら俺は自制できるか自信が無い。
なんと言ってもこの子は‥。
ちらり、と見てみる。
きょとん、と俺を見るあどけない表情。
桜色の唇が問い掛ける言葉を探していた。
か‥‥可愛い。
思わず抱き締めたくなった。
いや、駄目だ、駄目駄目だっ。
慌てて風呂場から飛び出した。
今のはやばかった。
「なぜなぜ〜?」
彼女の声に追われるように俺は脱衣場を飛び出した。
ど、どうしてあの娘はウチに居るんだ??
混乱する頭で考えても答えは出なかった。
いつも作品カテゴリーで悩みます。
楽しんで頂ければ幸いです。
感想とかご意見ぜひぜひ知りたいです。




