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二両編成

作者: 旨米もぐ
掲載日:2025/10/31

 電車が視界の奥から現れる。


 ようやく来た、と安堵の息を吐く。自分以外誰もいない駅のホームで二十分以上電車を待つというのは、実は少し不安だった。駅員も見当たらないような駅に入って、それで不法侵入だと言われたらどうしよう。そう思ったのだ。


 たった二両編成の電車が少し離れた場所で止まる。私はベンチから腰を離して、電車の方に向かう。その間に電車から降りる人は一人もいなかった。


 開かれた電車のドアを通る。そして見えた光景に、思わず目を見開いた。


 電車の中には誰もいなかった。もしかしたらもう一つの車両にはいるかもしれないけれど、私が乗った車両には誰もいない。


 座席は進行方向に向かって横向きに並ぶ長椅子タイプのものだ。私はドアから一番近い座席に座る。前に見える窓がいつもより大きく見える、気がした。


 ドアが閉まり、電車がゆっくりと動き出す。

 窓の景色が流れていく。それを真っすぐな視線で見ていた。


 いつも使っている八両編成の電車には人がいて、座れば前の座席に座る人と向かい合うこともある。ふとした瞬間に前の座席に座る人と目が合ったら申し訳ないような気持になるから、私はいつも窓の上の方を見ていた。ちょっとしたことで気まずくなるのは嫌だったのだ。


 そんな私が窓の真ん中に視線を向けている。誰もいない車両はこんなにも気楽なものなのかと少し驚いた。独りぼっちになったような感覚も気楽さに負けてそっと消えていく。


 そんなとき、少しだけ魔が差した。


(ちょっとだけ、足を伸ばしてみようかな……)


 家に居るときみたいに足を投げ出してみる。咎める人はいない。私をチラチラと見てくる人だっていなかった。


 電車が止まり、ドアが開く。私はすぐに足を元の場所に戻す。

 少し心臓を高鳴らせながらドアの方を見る。この駅も利用者が少ないらしく、私がいる車両に誰かが乗ってくることはなかった。


 体の緊張が解れる。私はそこで、もう少し調子に乗ってみることにした。


 私は立ち上がり、数歩だけ移動する。そして長い座席の真ん中に腰を下ろす。


(贅沢しちゃった)


 他に誰もいない座席の真ん中に座るというのは、なかなかの贅沢に思える。平日の午前中に映画館で見る大きなスクリーンのように、私だけのためにあると思ってしまう。


 膝の上の荷物を座席に乗せてみる。普段乗っている電車では絶対にしないことだ。

 なんだか膝の上が涼しい。それに、荷物が落ちないように抱えなくていいというのはとても楽だった。


 再び足を投げ出してみれば、私の中にある何かが解れていく。何かというのは多分、心とかそういうやつだ。


 今日のことを思い出す。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、元気だったな。


 草刈りを手伝いに来た私を笑顔でもてなしてくれた。来たのは私だけだというのにたくさんのお菓子が用意されていたっけ。五種類ものファミリーパックのお菓子と三種類のジュースが出てきたものだから本当に驚いた。昼食も用意してくれていて、ファミレスのランチセット並に充実した内容だった。


 草刈りは大変だったけど、それで痩せることはないだろう。それ以上に食べてしまったし。


 今日は贅沢な一日だった。目玉焼きが乗ったハンバーグは美味しかったし、お菓子はいつも以上に食べている。帰りは貸切状態の電車に乗ってのんびりできて、結構幸せだ。


 気が向いたらまた二人に会いに行こうかな。そしてまたこの電車に乗ろう。


 窓から差し込む光が暖かい。満腹感も相まって眠気が生じる。

 微睡みの中で電車が止まる音を聞く。ここはまだ目的の駅ではない。


 もう少し目を閉じていよう。なんならちょっとくらい乗り過ごしてもいい。

 まだ人の気配を感じない電車の中で、私は背もたれに体を預けた。

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