海沿いの町
完全に大学生活が煮詰ってしまって、気紛れに終点まで電車に乗って海辺へ来た。観光地ともつかぬ田舎の漁師町らしく、人もまばらで駅の周りさえちらほらシャッターが降りていた。海の方を見れば何処にでもある海だが、凪いだ海面が日差しを反映する景色が私に充分な夏の海の印象を与えた。山の方は残暑に木が青々と繁って、過剰に青々として此方が弱った。
見る所を探して、軒に網や浮を干してある民家の脇を浜通り沿いに歩いた。時々車が往来して、田舎の街道の運転の速度が私を脅かした。買い物カートを杖代わりにした小さい婆さんが隙間を巧く縫って渡った。
そのうち家も減って、街道が峠道へ上っているのが見えたので引返して、踏切を山の方へ渡った。蔦の這う塀に囲われた急坂を登って、林に入る長い石段を上がった。枝を少し除けて進むと一番上で六地蔵が海を眺めて座っていた。いちばん背の低いのがほっかむりをして、足元にまだ新しい饅頭の包みと、おかきと缶ジュースが供えてある。苔むした十円がそこら中散らばっている。
横に座ってそよ風に当たりながら海を眺めたら、私の精神はもう完全に大学から離れてこの浜の風景の中へ来て了ったと思った。満足して帰って、久し振りに実家に電話した。