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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
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黒船襲来 忍び寄る恐怖の影



海の香りが漂う小さな店内での健やかなる平穏は、一瞬で砕かれた。


「何だあの黒船は!?」


窓際の客が叫び、店内の空気が凍りつく。


ラーミアが立ち上がり、窓へ駆け寄る。


彼女の瞳に映るのは、黒鉄の巨船。


彼女を拐ったものに間違いない。

顔が青ざめ、身体がガタガタと震えた。


エンディは即座にラーミアの元へ駆け寄った。


客も店員も窓に集まり、港の異変を見つめる。


けたたましい「ビーー」という音は、黒船の汽笛だった。


「あれは…インダス艦じゃねえか!」

ドレッドヘアの筋肉質な店主が呟く。


「インダス艦? それって旧ドアル軍の?」


「そうだ、あの黒船、俺も見たことあるぞ! 間違いない! なんでこんなとこに?」


店内がざわめきに包まれる。


ラーミアの震えが止まらない。

港の漁船を矮小化する巨大な船体は、まるで海から這い出た鉄の獣だった。



「まさか…あの黒船が!?」

エンディはラーミアの怯えた瞳を見て悟った。


会計を忘れ、彼女の手を引いて店を飛び出す。


外はすでに騒然としていた。


町民が野次馬の如く港に集まり、物々しい空気が漂う。


「まさか…ラーミアを探しに来たのか?」


「…うん。そうだと思う…。」


黒船から、戦闘服に身を包んだ恰幅のいい大男が、銃を持った二十人の兵を率いて降りてきた。


堂々とした足取りは、まるで町全体を呑み込むかのようだった。


「逃げるぞ! ラーミア!」


「待って、でも…」


「どうした?」


「私のせいで町の人たちがひどい目に遭わさせるかもしれない…」


ラーミアの声は震え、泣きそうだった。


エンディは焦った。

どうすればいい? 彼女の罪悪感と、迫る脅威の間で、心が乱れた。


大男たちは海岸から町へ侵入し始めた。


頭領らしき男は肩で風を切り、兵たちは銃を手に足並みを揃えて行進する。


町民の視線が彼らに突き刺さる中、十人の屈強な漁師が立ちはだかった。


「何しにきたコノヤロウ!おめえたちドアル軍の残党か?」



「オレ達はラーミアって小娘を探してんだ。この港町に来てねえか?」


大男の声は野太く、威圧感で町を圧した。


身長180を超え、ツーブロックのオールバック、鋭い眼光、口髭が顔に刻まれ、肥満気味だが圧倒的な存在感を放つ。


粗暴さが全身から滲み、屈強な無頼漢たる漁師たちも気圧される。


「そんな小娘知らねえな!さっさと帰ってくれ!」

漁師の一人が冷や汗を掻きながら叫ぶ。




「ダルマイン提督! あれを見てください!」

兵の一人が沖合いの小さな木造船を指差す。


「あれは間違いなく、ラーミアと共に姿を消した備え付けの脱出ボートです!」


「んだよ、やっぱここじゃねえかよ。やっぱオレ様の読み通りだったなあ?」

ダルマインがニヤリと笑う。


「てめえら、しらみ潰しに探せ! 保安隊や軍隊が来ねえ限り銃は使うな!」


「はい、提督!」


ダルマインの命令のもと、兵たちは銃を腰に下げ、漁師たちを軽々と蹴散らし、町へ雪崩れ込んだ。


市場を荒らし、家屋を壊し、邪魔する市民に暴行を加える。怒号と悲鳴が町を包んだ。


「そんな、ひどい…」

ラーミアは悲痛な声で呟き、立ち尽くす。


「何してんだよラーミア!あいつらお前を探してんだろ? 早く逃げよう! あんな危ない連中に捕まったら何をされるか…」



「だって、私のせいで町の人たちがこんな目に遭ってるんだよ? それなのに私だけ逃げるなんてできないよ!」


エンディは何度も逃げようと促すが、ラーミアは動かない。


彼女の瞳は涙で揺れ、罪悪感に縛られていた。


「どうすりゃいいんだよ…!」

エンディの頭は混乱で沸騰した。


相手は二十人だが、銃を持ち、凶暴無比。


町民たちは恐れをなし、次々と逃げ出す。


丘の上の病院では、ドクターと妻が脇腹を押さえ、ゼェゼェと息を切らしながら高台へ逃げていた。


だが、一人、立ち向かう者がいた。


パウロだった。


「逃げるな! みんな!」


市場に買い物に来ていたパウロは、最悪のタイミングでこの騒乱に巻き込まれた。


腰の曲がった老人が、杖を手に、近くの兵の頭を力いっぱいコツンと叩いた。


「おい!あのじいさん何してんだ?」


「ジジイ!あんたも早くにげろ!」


町民がざわつく中、兵が激昂した。


「この老いぼれが!何しやがるっ!」


杖の一撃は大したダメージではないはずが、兵の神経を逆撫でした。


パウロは蹴り飛ばされ、地面に倒れてしまった。


「ようコラ、クソジジイ。舐めた真似してくれたなあ? ぶっ殺してやるぜ!」


兵がパウロの顔を踏みつけ、腰の銃を抜き、頭に銃口を向けた。



引き金に指がかかったその時だった。



エンディの飛び蹴りが炸裂した。


凄まじい衝撃が兵を吹き飛ばし、白目を剥いて失神させた。


その場に居合わせていた全ての者の視線がエンディへと集まり、静寂が一瞬町を包んだ。


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