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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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ヒーローは遅れてやって来る

「ロゼ王子、随分と無茶をなさりましたね?」

モスキーノは呆れたような笑顔を浮かべながら、地面に横たわるロゼに声をかけた。


「ははっ、悪いな…。それにしてもお前ら…随分と…遅かったじゃねえかよ。」

ロゼは傷だらけの身体を無理に起こしながら、精一杯の笑みで返した。


「すいませんロゼ王子!俺はすぐにでも向かおうと思ったんですがねえ!モスキーノの野郎が今はまだ時期尚早だとか抜かしやがったもんで、遅れてしまいました!」

ポナパルトが拳を握りしめながら大声で叫んだ。


「声でけえよ…傷に響くだろうがよ…。」

ロゼは呻きながらも、他の怪我人の苦痛を代弁するように言った。


「ごめんなさい〜ロゼ王子、まさかそんな傷だらけになっているとは予想外でした…。でも、もう大丈夫ですからね!」

モスキーノは眉尻を下げ、やや困ったように笑ってみせた。


その言葉に、ロゼは眉をひそめた。


「…何が大丈夫なんだよ?」

問い返す声にはまだ警戒の色があった。


「エンディ達がユドラ帝国に侵入して暴れ回れば、すぐに聖衛使徒隊の戦士や憲兵隊が討伐に向かうだろうと予測をたてました。俺たちはその混乱に乗じ、人知れず侵入すべきと判断しました。お陰で誰にも気が付かれずスムーズに潜入する事に成功し、更に3つの目的の内の1つを達成することが出来ました!」

モスキーノは誇らしげに胸を張った。


「どういう意味だ?」

ノヴァが顔を上げ、興味深そうに尋ねた。


「俺たちがユドラ帝国に来た3つの目的…1つ目は勿論、我らがロゼ王子を保護し無事ナカタム王国まで送り届けること。2つ目は敵戦力の無力化及びユドラ帝国の完全殲滅、そして3つ目は…ラーミアの奪還!」

モスキーノがそう言い終えた瞬間、彼の横に、まるで幻のようにラーミアの姿が現れた。


「ラーミア!?」


「え、いつからそこにいたの!?」


ジェシカとモエーネが一斉に声を上げ、目を丸くした。


「ずーっと居たよ!ただ俺が居ないように見せていただけ!みんな、あのパンドラって建物を見て!」

モスキーノは指をさし、遠方を示した。


一同が視線を向けたその先、パンドラの前には確かにイヴァンカとカイン、そして…ラーミアらしき存在が立っていた。


だがそのラーミアは、突如として氷の彫像に変化し、次の瞬間、砕けて四散した。


「フフフ…つまり、あそこにいるラーミアは偽物で、ここにいるラーミアが本物ってこと。」

バレンティノが肩をすくめて言った。


「?!どうなってやがる!?」

エスタは完全に混乱していた。


「雷帝さんとカインの横にいたラーミアは俺が創り出した幻氷。まあ、蜃気楼みたいなものだよ。聖衛使徒隊筆頭の連中はロゼ王子達との戦闘に集中していたし、雷帝さんとカインはその闘いに注目していた。俺はその隙を突いて幻氷を創ってラーミアを奪還したんだよ!さあラーミア、みんなを治してあげて?」

モスキーノはラーミアの肩をポンと叩いて促した。


ロゼはその瞬間、ようやくモスキーノが先ほど言った「大丈夫」の意味を理解した。


「モスキーノ…お前はすげえ奴だぜ。」

ロゼは心の底からの敬意を示した。


一方、イヴァンカは静かにそのやりとりを眺めていた。


その口元には、不遜な笑みが浮かんでいた。


モスキーノはぞわりと背中に戦慄を覚えた。

──この男は、全てを見抜いていた。


その直感は的中していた。

三将帥の侵入も、ラーミアの幻氷も──すべて、イヴァンカの計算の内だった。


「全てはあんたの掌の上ってわけか…想像以上だね。」

モスキーノの目には、計り知れぬ警戒が浮かんでいた。


「あれが雷帝ねえ、その辺にいる兄ちゃんにしか見えねえな!」

ポナパルトは茶化すように言ったが、その目の奥には鋭い緊張が宿っていた。


「…何故気付いていながら放置していたのですか?」

カインが、横目でイヴァンカを見ながら訊いた。


「潰す羽虫が3匹増えただけだ、そんなに騒ぎ立てることじゃない。そして、奪われたモノは巡り巡って必ず所有者の手元に戻ってくることは自然の摂理だろう。」

イヴァンカは冷淡に言った。


「奪われたモノ」とは、明らかにラーミアのことを指していた。


「モスキーノさん、ありがとうございました!みんな、すぐに治すからね!」

ラーミアは明るく、そして力強く宣言した。


「ラーミア…俺は最後でいい…。みんなを治してくれ…。」

ロゼは息も絶え絶えの中、周囲の仲間を優先するよう願った。


その言葉にエスタが怒鳴りかけたが、その時、ラーミアの両手から眩い光が一気に放たれた。


光は瞬く間に戦場を包み、温かく、全員の傷を優しく癒していく。


「お前…こんなこと出来たのか?」

ロゼは目を見張り、息を呑んだ。


「はい。囚われている時に覚えました。」

ラーミアは微笑んだ。


彼女は囚われの日々をただ嘆くのではなく、力に変えていたのだ。


「さてと、こっちはもう大丈夫そうだな!おいそこのデカブツ!お前強そうじゃねえか!相手してくれよ!」

ポナパルトは上機嫌でガンニバリルドに突っかかっていった。


「お前の、肉は!硬くて不味そうだな!」

ガンニバリルドはよだれを垂らし、舌なめずりをしながら応じた。



パナパルトとガンニバリルドが対峙した。


ーー


「なんだ…このスカーフ男…き、き、気持ち悪い…。」


「フ…って、えぇ?それってもしかして俺に言ってる?君の方がよっぽど気持ち悪いと思うけどなあ。」

バレンティノは心外そうに言った。


「お、お、お前の血は…何色だ…?」


「フフフ…レインボー?」


バレンティノの渾身のボケに突っ込む者は、誰1人としていなかった。


バレンティノとバリーザリッパーが対峙した。



ーー


「あれ、2人とも早速相手見つけてるじゃん。しょうがないなあ…じゃあお兄さん達の相手は俺だね!」

モスキーノは無邪気な笑みを浮かべながら言った。


「君1人で俺たち2人を相手にするだと?とても正気の沙汰とは思えないね。相手の力量を見極める目を養いなさいね。」


「思い上がるなよ、青二才が。」


ウィンザーとハルディオスは鼻で笑っていた。


「お兄さん達こそ、甘く見ないでよね?悪いけど…俺、超強いよ。」

モスキーノは全身からただならぬ冷気を発しながら、冷酷な笑みを浮かべていた。



ーー


ポナパルトとガンニバリルドは、向かい合うと即座に激しい殴り合いを開始した。


「はーはっはっはー!いいねえお前、最高だぜ!久しぶりにテンションぶち上がるぜ!!」

ポナパルトは殴られながらも楽しそうに笑っていた。


「お前は、硬そうだから…叩きにして!ミンチにして、喰う!決めた!!」

ガンニバリルドも歓喜の咆哮を上げる。


拳と拳がぶつかるたび、空気が歪み、大地がえぐれた。


攻撃一辺倒の応酬は、もはや殺し合いというより、命を賭けた娯楽のようですらあった。


しかし、体格差は歴然だった。

徐々にポナパルトは押され始める。


それでも彼は笑っていた。


「自分よりでかい奴を見るのは初めての経験だぜ!その上こんなに楽しい戦いが出来るなんてよお…最高だ!!もっともっと楽しませてくれよお!」


顔は血で染まり、肩が大きく削られていた。


「楽しいけど、もう!飽きた!俺はもう、腹ペコで!限界!お前不味そうだけど、とりあえず!何か腹に入れたいから、そろそろ!喰うね!」

ガンニバリルドは涎を垂らしながらポナパルトの肩に喰らいついた。


が、食人鬼ガンニバリルドの頑強な歯を持ってしても、ポナパルトの肩を噛み切る事はできなかった。


初めての経験に、ガンニバリルドは困惑した。


「硬くて!噛み切れない!!なんで!」


「当たりめえだろ!お前よ、ダイヤモンドに噛みついて”噛み切れない!“とか抜かしてる奴見たらどう思うよ?今のお前はそれと同じことしてるんだぜ?この俺の筋肉を甘く見てんじゃねえぞ!それにしても…戦いの楽しさよりも食欲を優先させるとはよ、俺はお前を買い被りすぎてたぜ。」


失望を口にしたポナパルトは、左手でガンニバリルドの頭を鷲掴みにした。


そして、渾身の一撃──右ストレートをみぞおちへ叩き込んだ。


凄まじい衝撃音。

ガンニバリルドの腹部には、拳が貫いた風穴が空き、彼はそのまま、呆気なく絶命した。


「目先の欲にとらわれると破滅の道を辿るぜ?」

ポナパルトは、吐き捨てるように言った。



一方、バレンティノとバリーザリッパーの激闘は、風を切る斬撃と、目にも留まらぬ高速移動の応酬だった。


彼らの戦場には、常人が一歩でも踏み入れれば、即座に体がバラバラになるであろう。


斬り結ぶ音が金属を砕き、剣圧が空気を裂く。


その圧倒的な剣気は、鋼鉄ですら紙のように切り裂かれた。


バリーザリッパーの扱う大鎌は、死神の象徴のように獰猛で、狂気をまとっていた。


だが、それに臆することなく応じるバレンティノの剣捌きも、まさに異次元。


彼の動きは優雅で、無駄がなく、冷徹だった。


「血…血…血…。早く……血を…くれよ…!に、に、虹色の血は…プレミアム!」

バリーザリッパーは涎を垂らしながら、まるで陶酔したかのように呟いた。


「はあ…。そんなの嘘に決まってるじゃん、馬鹿なの?なんでこんな気持ち悪い奴と戦わなきゃいけないんだろうねえ…ついてないなあ。俺もどっかの野蛮人と同じく、戦闘は楽しみたいタイプなんだけどねえ。君との戦いは早く終わらせたくて仕方がないよ。」

バレンティノは疲れたようにため息をつきながら、刃を受け流した。


「どっかの野蛮人」とは、当然ポナパルトのことだ。


「お、お、お、お前に…気持ち悪いとか…言われたくない…!薄気味悪いな奴め…さっさと…死、死、死ねよ…!」


「薄気味悪いって、心外極まりないな。君の方がよっぽど薄気味悪いと思うよ。」

剣を振りながら、バレンティノは視線を逸らすように呟いた。


そのやりとりは、剣戟の合間に繰り広げられる不毛な応酬だった。


だが、バレンティノの目には明らかな「飽き」が見えていた。


「フフフ…このままじゃ埒があかないね。」

そう呟いた彼は、戦闘中に破れた自らの衣服の一部を手に取った。


そして、軽やかにその布切れをバリーザリッパーの目元へ投げつける。


不意を突かれたバリーザリッパーは、視界を一瞬完全に奪われた。


その“ほんの一瞬”──バレンティノは見逃さなかった。


刃が閃く。冷たい閃光が空間を切り裂いた。


バリーザリッパーの体は、頭頂から股関節にかけて真っ二つに割れた。


刹那、断面から血が噴き出し、地面に赤い雨を降らせた。


「な、な、なんて…姑息な…。永主よ…お、お、お役に立てず…申し訳…ありません…。」

バリーザリッパーは哀れに呻きながら、崩れ落ちて絶命した。


「フフフ…姑息って言われても、俺は聖人君子じゃないからねえ。俺は誰かと駆け引きをする時は常に相手の揚げ足を取ることに専念している。例えそれが議題と関係のない事柄でも、執拗に揚げ足を取り続けることで不利な状況を打開して、最終的にこちらが優勢に傾く事もあるからねえ。戦いも同じだよ。相手の弱点を徹底的に突いて、どんな小さな動きの機微も絶対に見逃さない。勝つ為ならば手段を選ばないという強い執念さえあれば、どこの世界でも生き残れるよ。」


バレンティノは剣を払いつつ、静かに独特な持論を述べた。


その姿は、ある種の哲学者にも似ていた。

優雅で、冷酷で、どこまでも現実的。


ラーミアの癒しの光に包まれながら、ロゼたちはその戦いを見つめていた。


彼らは、ナカタム王国が誇る三将帥の圧倒的な戦力を、肌で実感していた。


「これが……将帥……」

ノヴァは呆然と呟いた。


ただの戦いではなかった。

これは“戦局”の流れそのものを変える者たちの力だった。


──戦場に、風が吹いた。

死の匂いを払うような、涼しく澄んだ風が。


その風は、希望の名をしていた。

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