男達の誇り 信念を賭けた決闘
「見るからに強そうだなあ。」
ラベスタはいつもの調子で、どこか呑気に構えていた。
だが次の瞬間、空気が裂ける。
バスクが剣を抜き、猛烈なスピードで斬りかかってきたのだ。
ラベスタは反射で防御に転じる。
金属が打ち鳴らされたような激しい太刀音が、空中庭園に響き渡った。
「ほう、いい反応だ。兄ちゃんよ、何の目的でここに来たんだ?」
バスクが低く唸るように問いかけた。
「ノヴァを助けに来た。」
ラベスタの声に、迷いは一切なかった。
「ほう、やっぱりな。お前ら今はなきプロント王国の同じ孤児院出身だもんな。今は仲良くナカタムで新たに新設された兵団を2人で率いてるらしいじゃねえか。親友を助ける為にユドラ帝国に乗り込んでくるなんて、若えのにたいした根性だ!」
バスクは目を細めて感心していた。
「へえ、俺のことよく知ってるんだね。」
ラベスタは、個人情報が筒抜けであることに驚きを隠せなかった。
「そりゃそうさ、俺たちは世界の覇権を牛耳ってんだからよ。てめえらの情報なんざいくらでも入ってくるぜ?」
言い終わるや否や、ラベスタが攻勢に転じる。
果敢に斬りかかるが、そのすべての動きはバスクによって軽々と受け流されていく。
剣と剣が交錯するたびに、ラベスタは理解した。
この男――自分より遥かに強い。
戦いの経験値も、技量も、迫力も。
すべてが、自分の遥か上を行っている。
「どう足掻いてもお前じゃ俺には勝てねえよ。諦めて降伏しろや、そうすりゃ命だけは見逃してやる。」
「諦めるなんて…死ぬまでないから。」
その眼差しは、揺るがなかった。
決して強いとは言えない。
だが、折れることのない心がそこにはあった。
その気迫に、バスクも心を動かされた。
「何がお前をそこまで突き動かすんだ?」
「さっきも言ったろ、大事な親友であるノヴァを助ける為だよ。それと、エンディの為だ。」
「エンディの為?どういう意味だ?」
「エンディもね、俺にとってノヴァと同じくらい大切な友達なんだ。あいつはね、人の為に本気で怒ったり喜んだり悲しんだり出来るんだよ。そのエンディが、ラーミアを助けたがっている。記憶を取り戻して自分の過去と向き合おうともがきながら戦ってるんだよ。それこそ命懸けでね。だから俺はエンディの力になりたい。エンディが命を賭けるなら、俺も命を賭けて戦う。友達なら、そんなの当然でしょ?」
その言葉には、嘘も飾りもなかった。
純粋で、まっすぐなラベスタの魂が、空間を満たしていた。
「お前…ボケーっとしてるように見えて、実は情に熱い良い男なんだな。友達の為にそこまで出来る奴はそうそういねえよ。若いのに大したもんだ、お前みたいな男は大好きだぜ?」
バスクはそう言って微笑んだ。
だがその優しい笑みは、すぐさま険しい鬼の形相へと豹変した。
「だけどな、甘い。」
斬撃が閃く。
次の瞬間、ラベスタの上半身が裂かれた。
あまりの速さに反応できず、ラベスタは片膝を地につけ、苦しげに息を吐いた。
「なんで甘いか、分かるか?それはな、お前が弱いからだ。」
「くっ…。」
「弱者の振りかざす正義感なんて、所詮は空虚な理想論だ。お前の掲げる信念には何の価値もない。力無き者の言葉ほど軽いもんはねえぜ?」
悔しさが、喉の奥で煮えたぎった。
唇を噛みしめながら、ラベスタは立ち上がる。
「言ってくれるね…でもね、それでも負けるわけにはいかないんだよ…。」
ラベスタは再び剣を握りしめ、突き進む。
だがバスクは余裕の表情のまま、斬撃を受け流す。
まるで子供をあしらうように。
その攻防の中で、ラベスタはある記憶を呼び覚ます。
――ノストラとの修行。
老人とは思えぬほどの実力。
あの厳しさと優しさが、今の自分を形作った。
「…あれ、なんか動きに慣れてきたかも…。」
「ほう、この短時間で確実にさっきよりも腕を上げたな。お前、センスあるぜ?だけどな…それでも甘い!」
バスクの刃が再びラベスタを捕らえ、彼は背中から地面に倒れかける――
「ラベスタ、悪く思うなよ。俺にも守りたいものがあるからよ。お前はいい奴だが、侵入者だ。俺の大事なもんを脅かす可能性が少しでもある限り、俺はお前を殺すぜ?」
…だが、ラベスタは倒れない。
踏みとどまったのだ。
地面を背にせず、ぎりぎりの姿勢で耐えた。
「なに!?」
その異様な執念に、バスクは驚愕した。
そして――ラベスタが、加速する。
閃光のような斬撃がバスクを襲う。
バスクが受け止めようとした、そのとき。
「バスクおじちゃーん!」
2人は耳を疑った。
7人の幼い子供たちが、庭園の隅からラベスタとバスクの間に走ってきたのだ。
「遊ぼうよ、バスクおじちゃん!」
2人はゾクリと背筋が凍る。
この勢いのままでは、子供たちを斬ってしまう――!
その瞬間、バスクがラベスタに背を向け、走ってきた男の子を抱きしめた。
刃が、バスクの背を裂いた。
「どうしたのおじちゃん?」
「おじちゃんだけ遊んでてズルいよ!」
「私たちもまぜてよー!」
状況などまるで理解していない子供たちは、無邪気に笑っていた。
「…ああ、いくらでも遊んでやるぜ?だけどなあ、今はちょっと忙しいからよ、また後でな?」
バスクの声は優しく、そして痛みを隠していた。
「えー…どうして〜?」
「つまんないの〜、じゃあ後で絶対に遊んでよね?」
「おう、約束するよ。後で必ず遊んでやるから良い子にして待ってろよ!」
バスクは、何事もなかったかの様な優しい笑顔で言った。
子供たちはようやく踵を返し、走り去っていった。
その背を、バスクは最後まで見送る。
ラベスタの手は、震えていた。
その一撃が、何を奪いかけたのかを理解していた。
「悪いなラベスタ、邪魔がはいっちまった。続きを始めようぜ?」
その笑みは、わずかに苦悶を含んでいた。
「バスク…あんたの守りたいものって、まさか…?」
「おう、あのガキどもだ。何か文句あるか?まあよ、聖衛使徒隊の戦闘員がガキども守るために戦ってるだなんて、実際笑うしかねえよな。」
「笑わないよ。バスク…初めてあんたを見た時に思った。あんたは悪い人じゃないって。あんたからは悪党独特の嫌なニオイが一切しなかったからね。そして今それを確信した。俺はあんたとは戦いたくない。」
ラベスタはハッキリとした口調で、自身の思いを主張した。
「甘いこと言ってんなよ?生きてりゃな、戦いたくなくても戦わなくちゃいけねえ時が必ず訪れるんだよ。どれだけお互いを尊敬し合ってても、信念が違えば衝突しちまうんだよ、嫌でもな?」
バスクも、本心ではラベスタとは戦いたくないと思っていた。
しかし自身の信念のため、バスクは心を鬼にしてラベスタと戦っていたのだ。
「どうしても戦わなくちゃいけないんだね…なら仕方ないね。」
すると、ラベスタは突如、自らの脇腹を斬りつけた。
それも、何の躊躇もなく、無表情で。
「おい!てめえトチ狂ったのか!?」
バスクは信じられないという顔でラベスタを凝視し、本気で驚いていた。
「バスクの背中の傷の深さもこのくらいだったかな?」
ラベスタは自身で斬った脇腹をまじまじと見つめながら、呑気に言った。
「は?何言ってんだ?」理解に苦しむバスク。
「さっきの一撃は不本意だったからね。これでフェアでしょ?」
ラベスタは不敵に笑った。
苦悶の中でさえ、顔色ひとつ変えない。
無表情の奥で、凛とした誇りが燃えていた。
「ラベスタ…てめえ男じゃねえか!ますます好きになったぜ?でも、容赦しねえぜ?」
二人の剣士が、再び向かい合う。
それぞれの信念を背負って、戦いの火蓋が切って落とされた。




