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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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陰謀蠢く帝都と無鉄砲な若者達

エラルドは、ユドラ帝国へ帰還した。


威風堂々とした足取りで、宮廷の奥深く、無数の柱が林立する長い渡り廊下を進んでいく。


足音は高く響き、静謐な空気を切り裂くようだった。


やがて彼は、一つの扉の前で立ち止まり、無言のまま中へと入っていった。


その部屋は、聖衛使徒隊の会合の場として知られ、荘厳な緊張が張り詰めている。


中央には重厚な円卓が鎮座し、揺らめく炎を灯す大ぶりの蝋燭が、静かに場を照らしていた。


すでに四人の使徒たちが席についていた。


「エラルド〜、おめえ何勝手な事してんだよ〜??」


マックイーンがわざとらしい嫌味を含んだ口調で言った。彼が言う“勝手な事”とは、バレラルクへの単独行動を指している。


「で?愛しのエンディちゃんはどうだった?」


バスクが半笑いの顔で尋ねた。


マックイーンは痩躯で斧を背負い、残忍な光をその目に宿していた。


一方のバスクは恰幅のよい剣士で、腰に長剣を佩いている。


「どうもこうもねえよ。あいつは次元の違え大馬鹿野郎に成り下がっちまった。」


エラルドが椅子を引きながら応じた。


「はははっ、確かにあいつはとんだ腑抜け野郎になってたね。僕は昔のエンディを知っているから、バレラルクで見た時は笑い堪えるの必死だったよ。」


アベルはケタケタと笑った。


彼はもはや丸眼鏡もボサボサの髪もしておらず、きっちり整えた服装で以前とはまるで別人の風貌をしていた。


「五人だけか?」


エラルドが室内を見回して尋ねる。


「いつもの事じゃねえか。どうせ筆頭隊の連中は来ねえよ、さっさと始めようぜ?」


マックイーンが、欠伸を噛み殺しながら言う。


「ねえバスク、だいたい今日は何の集まりなの?早く終わらせてよね。」


ユリウス・アマレットが気怠そうに口を開いた。


赤みがかった茶髪とショートヘア、可憐な顔立ちと相反するように、態度はどこまでも高飛車だった。


「そうだな。まずはみんなに紹介したい男が二人いる。まず一人目は、今日から雷帝の側近になる男だ。」


バスクが立ち上がり、扉の方へ合図した。


重厚な扉が開き、硬質な足音が室内に響いた。


現れたのは――カインだった。


円卓に視線が集まり、空気が一瞬で緊張を帯びる。


「はっ、まさかとは思ったが…この男が雷帝の側近ねえ…。」


「けっ、雷帝は何を考えてんだか…。」


マックイーンとエラルドが一斉に不服を漏らす。


アベルは怒りをこらえた表情でカインを睨みつけていた。


その一方で、アマレットは一目カインを見るなり、強い衝撃を受けたような顔をし、静かに涙を零す。

すぐに袖でそれを拭い、俯いて気づかれないようにした。


「みんなも知ってると思うが…この男の名はメルローズ・カイン。かつてエンディと肩を並べ、ユドラ人最高傑作と謳われた男だ。それぞれ思うことはあるかもしれないが、これは雷帝の御意志だ。そこんとこよろしく頼むぜ?」


バスクの言葉に、誰一人返答しなかった。

カインもまた、終始無言を貫いていた。


「おいバスク、もう一人は誰だ?」


エラルドが問う。


「もう一人は…我々の協力者になる男だ。父親がユドラ人に牙を向いた贖罪として、これからは我々に快く協力してくれるらしい。さあ、入ってくれ。」


再び足音が鳴る。


入ってきたのは、ロゼだった。


「紹介する。ナカタム王国現王子にして、次期国王最有力候補のウィルアート・ロゼだ。」


「よろしくな?聖衛使徒隊の皆さん。」


ロゼは軽やかに笑いながらカインの隣に立った。


「はっ、協力者ねえ。要は今までの歴史通り、ウィルアート家が俺たちに色々尽くしてくれるって事だろ?」


エラルドが皮肉を込めて言う。


「おい王子様よお、てめえの父親がしたことは大罪だぜ?本来なら息子であるてめえも粛清されるべきところ、雷帝の寛大な慈悲の御心で許されたんだ。しっかり役に立てよ?」


マックイーンは薄笑いを浮かべながら言い放つ。


「もちろんそのつもりだぜ?俺をあのクソ親父と一緒にしないでくれよな?今までの歴史通り、しっかりあんたらに従うからよ。表の王が俺で、裏の王はユドラ人。俺はそれで納得してるからよ。」


ロゼはにやつきながら言い放った。


「ロゼ王子〜、久しぶり!元気してたあ?」


アベルが愛想よく手を振る。


「おお、アルファ…じゃなくてアベルだったか!まさかお前がスパイだったなんて夢にも思わなかったぜ?全くイカつい野郎だな。」


ロゼの冗談に、アベルは笑いながらも凍てつくような一言を投げた。


「僕たちはまだ君のことを完全に信用したわけじゃないから、妙な行動とってたら殺しちゃうからね?」


「…ああ、肝に銘じておくよ。それよりカイン、お前も久しぶりだな?」


ロゼは横のカインに話しかけた。


だが、カインは何も答えず、そのまま踵を返し部屋を出ようとした。


「おいおい、どこ行くんだ?」


バスクが尋ねる。


「どこって、自分の部屋に戻るんだよ。お前らと話すことなんて何もないからな。」


静かな声とともにカインは立ち去っていった。

彼の背中を、アベルが鋭い眼光で見送っていた。


「ふん、すかしやがって。とことんムカつく野郎だな。」

エラルドは苛立ちを隠さなかった。


すると、アマレットが席を蹴って立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。


「あ?どうしたんだあいつ?」

マックイーンが眉をひそめる。


「あの2人はなあ、色々あるからなあ。」

バスクの言葉に、ロゼとエラルドは訝しげに首を傾げた。


渡り廊下の静寂を破るように、アマレットの声が響いた。


「待ってよ!」


カインの足が、音もなく止まる。


「…4年間、1人で無人島に身を隠していたって聞いたわ。随分と陰気な男になったものね?」


アマレットの声には、かすかな震えが混じっていた。


「…言いたい事はそれだけか?悪いがお前に構ってる暇はない。」

カインは振り返ることもなく言い放ち、歩を再開する。


「バカ…。」

その背中を見送りながら、アマレットは小さくつぶやいた。


その冷たい態度に、彼女の心は、ひどく傷心してしまった。


かつて交わされた何かが、今や取り返しのつかない距離を生んでいる──そんな痛みが、彼女の頬を伝って消えた。



その頃──

ナカタムの山間、川沿いの開けた場所で、朝日が差し始めていた。


「ほれ、シャキッとせんかい!」

ノストラの怒声が空気を震わせた。


まだ朝の六時。

昨日の戦闘で負傷したエンディとラベスタは、包帯を巻かれたまま寝起きの顔をしている。


当然、ノストラによる手当てだった。


「昨日のエラルドって奴の言葉が気になって全然眠れなかった…。」

「実は俺も…。この先あんな強い奴らと戦わなきゃいけないなんて、辟易するね。」


2人はボヤきながらも、口調にはどこか覚悟の色が滲んでいた。


「眠れなかったじゃと?笑わさんどけよ!おどれら2人とも、そりゃ健やかに眠っておったぞ?」


図星を突かれた2人は、驚いたように目を見開いた。


「あいつ、ラーミアを助けたいなら出来るだけ早くきた方がいい…って言ったんだ。それはどういう意味なんだろう…?」


「実はワシもそのセリフが気がかりでな…まさかそのラーミアって娘さんは、治癒タイプの異能者じゃないだろな?」


「うん、そうだけど?」


「バカタレ!なぜそれを早く言わんのだ!」


ノストラの雷鳴のような怒声が木霊した。

思わず背筋を伸ばすエンディとラベスタ。


「え?何?どういう事?」


「ええか、落ち着いてよう聞け。世界神話によると、治癒能力を司る異能者はのう、禁忌の術を2つ使えるんじゃ。術者の命と引き換えにな…それゆえ禁忌の術と呼ばれておる。」


「禁忌…命と引き換え?何だよそれ…?」


「1つは退魔の力じゃ。500年前、輪廻道開祖…全知全能の唯一神、ユラノス命導師に仕えておった神官の1人が、悪魔を封じ込めたと言われておる力じゃ。そしてもう1つは…不老不死。それを施された者は永久に朽ち果てる事のない不滅の肉体を手に入れることが出来る。」


その説明を終える頃には、ノストラの額に冷や汗が滲んでいた。


「え、それってまさか?」

エンディが恐る恐る尋ねた。


「不老不死…イヴァンカが今最も欲しておる力じゃ。圧倒的な強さと権力、そして不死身の肉体…奴はそれらを駆使し、未来永劫世界の頂点に君臨するつもりなのじゃ…!」


その言葉に、エンディは戦慄した。


「何だよそれ…ラーミアの命が危ないってことか!?なあ!どうなんだよ!?」


激昂したエンディが、ノストラの両肩を揺さぶる。


「エンディ、落ち着こ?」


「うるせえ!落ち着いてられるかよ!もう修行は終わりだ、ノストラさん!今すぐユドラ帝国に向かおう!」


「戯けたこと抜かすなっ!今の状態で乗り込んでも犬死にするだけじゃ!」


その激論の中、木々の隙間から声が響いた。


「やっと見つけた。」


姿を現したのは──エスタ。

その後ろには、ジェシカとモエーネの姿もあった。


「エンディ、ラベスタ、探したぜ?今の話も全部聞かせてもらった。」


「なんじゃいおどれら、どっから湧いてきたんじゃい、ええ?」


「くそっ、こんな時に…!」

「うわ、タイミング悪。めんどくさ。」

エンディは余計に焦り、ラベスタは露骨に嫌そうな顔をした。


エスタ達が、自分たちを捕らえにきたと思ったからだ。


しかし次の瞬間──空気が変わった。


「頼む、俺たちもユドラ帝国に連れて行ってくれないか?」


エスタのその一言に、皆の時が止まる。


「お前ら…何で??」

エンディは意表を突かれた。


「知っての通り、ロゼが行方不明なんだ。きっとユドラ帝国にいるに違いない…。だから何としても救出したいんだ。お前らの言うこと何でも聞く。だから頼む、俺たちも一緒に連れて行ってくれ…!」


エスタに続き、ジェシカとモエーネが頭を下げた。


「若はきっと、1人でユドラ人達に立ち向かおうとしてるんだわ…。若1人にそんな危険なことさせたくない…お願いエンディ、私たちも連れてって…。」


「私は若の為だったら死んだっていい。私たちも一緒に戦う覚悟はできてる…だから、お願いします…。」


ジェシカとモエーネは、今にも泣きそうに程に声を震わせていた。



涙に濡れたその声に、エンディの心が動いた。


「よし、分かった!みんなでユドラ帝国に乗り込もう!聖衛使徒隊もイヴァンカもぶっ飛ばして、みんなを守るぞ!!」


この一言に、全員の胸に火が灯る。


「おどれら…正気か…?奴らはあまりにも強大じゃぞ?」


「ノストラさん、諦めて?俺たちの決意は堅いからね、もうこの勢いは誰にも止められないよ?ユドラ帝国までの案内よろしくね。」

ラベスタは無表情で淡々と言った。


ノストラは大きく息を吐き、口元を歪めて笑った。


「ガッハッハー!いつの時代も若者ってのは無知で無鉄砲じゃな!じゃがな、それはええこっちゃ!仕方ない…おどれら、覚悟はできておるか?」


ノストラはひとりひとりの顔を見つめ、確かめるように目を細めた。


誰の瞳にも、一点の曇りもなかった。


──ついに、出陣の刻が来た。



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