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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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裁きの牙 修羅の子現る

エンディとラベスタが山籠りの修行に入ってから、一週間が過ぎた。


時刻は、すでに午後七時を回っていた。


ナカタム王国では、近衛騎士団と保安隊が、ロゼとエンディの行方を探し、血眼になって動いていた。


国境の内と外、徹底した捜索と取り締まりが敷かれ、街路の隅々まで捜索隊が目を光らせている。


そんな中――バレラルクの郊外、霧がかった山の稜線をなぞるように、サイゾーとクマシスの二人は捜索を続けていた。


「これだけ探しても見つからないとなると、2人とももう国外にいるんじゃないですか?」


クマシスが気怠そうに呟いた。


「その可能性はあるな…。しかしバレンティノさん相手に逃げ切るとは…エンディの奴、なかなかやるな。」


サイゾーは思わず感心していた。


「バレンティノの野郎、てめえが逃したならてめえで捜せよな。何で俺たちがその尻拭いしなきゃならねえんだよ。ふざけんなよマヌケがよ」


言い終わるや否や、クマシスははっと我に返る。


「クマシス、頼むから本人の前で絶対にそういうこと言わないでくれよな?」


サイゾーは周囲を見渡しながら、冷や汗まじりに言った。クマシスもすぐに小さく頭を下げた。


「おっと失礼。つい心の声が…それにしても、ノヴァとラベスタまで行方不明とは…兵長と副兵長に任命されたばかりだというのに、一体何を考えているんですかね?」


クマシスは呆れ気味に吐き捨てた。


「ナカタム兵団なあ…新設されて早々、トップ2人が姿を消すとは、大問題だなあ」


「エンディも早く見つけなきゃまずいですね。彼がユドラ人と分かった以上、このまま野放しにはできませんからね」


「……クマシス、確かにエンディの捕縛も重要だが、最優先すべきはロゼ王子の確保だ。一国の王子が行方不明というのは国の根幹を揺るがす事態だ。それに……ロゼ王子は、レガーロ国王殺害事件の重要参考人でもあるからな…」


声を潜めながら、サイゾーは深刻な表情を浮かべた。


クマシスは真剣な面持ちでサイゾーを見つめ、そして毅然と言った。


「俺は、ロゼ王子を信じてますから」


「……クマシス、それは本心で言っていると信じるぞ」


「本心に決まってんだろ。俺はお前みたいな猫被り野郎とは違うんだよ」


「……クマシス、貴様斬り捨てたろか?」


サイゾーのこめかみがピクリと動いた。


互いに口を慎む気配はないが、それでも二人は息の合ったように捜索へと集中し直した。

くだらない言い争いの裏で、信頼だけは不思議と揺らいでいなかった。


一方その頃、ノストラとラベスタは今日の稽古を終え、川辺で焚き火を囲んでいた。


火の中では、彼らが釣り上げた川魚がパチパチと音を立てて焼けていた。火種には落ち葉や枯れ枝を使い、すべて自給自足の山暮らし。


ラベスタは岩に腰掛け、焼けた魚にかぶりつきながら肩を落とした。


「ああ…きついな」


日々の稽古に、すでに体は悲鳴を上げている。


「ガッハッハー、なんじゃい、もう音を上げるんかい、ええ? しかしラベスタよ、お前なかなか筋がええぞ!」


ノストラは嬉しそうだった。

久方ぶりに誰かと心から向き合い、語らい、手合わせし、鍛える日々。

それが年老いた心に新たな火を灯していた。


「それは嬉しいね。今日は早く寝て、明日もまた頑張るよ」


「おう、その意気じゃ! それにしてもラベスタよ、ノヴァって子はそんなに大事な友達なんか?」


「うん、かけがえのない友達だよ」


即答だった。迷いは微塵もない。


「ええのう。友達を大事に思うのはええ事じゃ。エンディとカインもなあ、昔は良い仲間じゃと思っとったがのう……」


ノストラの声に、一抹の哀切が混じった。


「あの二人、昔は仲良かったの?」

ラベスタは珍しく興味ありげに尋ねた。


「まあ、そうじゃなあ……少々、歪な関係じゃったがのう……」


ノストラは遠くの闇を見つめ、言葉を探していた。


「歪な関係?ねえ、それってどう言う意味?」


ラベスタが問い返したその時――


ノストラの瞳に、光が宿った。


「ところでラベスタよ、お前少し気を抜きすぎじゃぞ?ええ?まだ気がつかんのか?」


「え? 何が?……!!」


ラベスタは遅れて気づいた。


木陰に潜む、得体の知れない気配。

それも、並の者ではない。

空気に漂う殺気が、肌を刺すようだった。


「おーい、隠れてないで出てこんかい。ええ?」


ノストラが声をかけたその瞬間――


カツン……カツン……靴音が、暗闇の奥から地面を叩いた。


そして、紫色の髪をした彫りの深い少年が、薄暗い森影からゆっくりと姿を現した。


「これはこれは、さすがノストラ先輩! 気配は消していたつもりだったんだけどな。やっぱ元・聖衛使徒隊の長は次元が違えぜ!」


少年の笑みは、狂気と快楽の混じったものだった。


「いくら気配を消してもなあ、そんなに危ない殺気を放っておれば誰でも気がつくぞ?」


ノストラは軽く肩を竦めて言った。


「おいおい、殺気とは人聞きが悪いぜ? 俺は大先輩にラブコールを送ってただけだぜ?」


「気色悪い奴っちゃのう。おい、おうち帰って歯磨いて早よ寝い。ええな?」


ノストラはシッシッと手を払った。


「おいおいおい、そんな邪険に扱うなよ!悲しいじゃねえかよ!」


「なんの用?」


ラベスタが立ち上がり、剣を構えた。


「てめえに用はねえよ。小物はすっこんでろや」


少年はニタリと笑い、挑発的に言い放った。


ラベスタは無表情のまま、しかし内心では憤っていた。


「おう小僧、おどれ何者じゃい? ええ?」


ノストラの問いに、少年は待ってましたとばかりに胸を張った。


「俺か? 俺はユドラ帝国上級戦士!聖衛使徒隊の一人、エラルド様だ!」


「え? 聖衛使徒隊……?」


ラベスタの体がわずかに強張った。


「何じゃい小僧、使徒隊の者かい? 何しにきたか言うてみい。ええ?」


「そんなもん決まってんだろ? 裏切り者のあんたに、神の裁きを下しにきたんだよ!」


エラルドの舌が、猛獣のように牙を剥いた。


「神の裁きじゃと? 思い上がるのも大概にせいよ。それにしてもおどれのような小僧がメンバーに入れるとのう、使徒隊も地に堕ちたもんじゃのう」


ノストラは静かに、しかし確実に挑発した。


「思い上がってんのはあんただろ? いくら元使徒隊の長といえどよぉ、全盛期はとっくの昔に過ぎてんだろ? 今となっちゃただの老兵、俺の敵じゃねえぜ!」


ノストラの素性に驚いたラベスタは、息を呑んだ。


「だーれが老兵じゃい!?ふざけたこと抜かしとったら承知せんぞ!」


「ハハッ、本当のことだろ? ついでにエンディの野郎もぶちのめしてやりてえなあ。おい、あの野郎はどこにいるんだ?」


「エンディはお前なんぞ相手にせんぞ」


「老兵ごときがよ、さっきから癪に障る言い方ばっかしやがって。あんま馬鹿にすんなよ?」


「ガッハッハー!ええか小僧!若いうちはのう、馬鹿なくらいがちょうど良いんじゃよ。でもなあ、アホンダラにはなっちゃいけねえぜえ?」


言葉の応酬は鋭く、静かに火花を散らし始めた。


ラベスタは、ただその場で立ち尽くしていた。


剣を構えていながら、自分が脇役に追いやられているようで、どこか腑に落ちない――それが、正直な気持ちだった。

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