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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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黒き来訪者と記憶の扉

エンディは、胸の奥からせり上がるような心拍を感じていた。


ドクン——確かに刻まれる命の音は、不穏と懐かしさがないまぜになったものだった。


目の前に立つ、フードを深くかぶった黒装束の男。

その存在から発せられる空気には、どこかで嗅ぎ覚えのある気配があった。


まるで過去の残響が、いまこの瞬間に蘇ったようだった。


「誰だろうね、あれ。」


ラベスタの問いかけは、エンディの耳に届いていなかった。

男を見つめること以外、思考のすべてが排除されていた。


「フフフ…ねえねえ…君さあ、どういうつもり?」


バレンティノが探るような声で問いかけたが、男は何の反応も示さなかった。


「フフフ…何者か知らないけど、怪しいねえ。君もエンディと一緒に来てもらおうか。抵抗するなら殺すけどね。」


スカーフで口元を隠したバレンティノの目が、わずかに笑っているように見えた。

だがその眼差しは、冗談とも余裕とも違う、不気味な温度を孕んでいた。


緊張が張り詰める中、通行人たちも異常事態を察し、ざわつき始めた。


城下町のど真ん中で将帥が見知らぬ男と対峙するという非日常の光景。


恐怖が走り、何人かは足早にその場を離れていった。


バレンティノが剣を抜く。

そして、一気に男の首元へ斬りつけようとするその刹那——


男は腰に差した二本の剣を抜き放ち、左手の剣で攻撃を受け止めた。


その瞬間、空気が爆ぜるような衝撃波が広がった。


地面は裂け、近隣の建物は無惨にも崩れ落ちていく。

再建途中の城下町が、再び悲鳴を上げた。


「うわあー!」「危ねえな、逃げるぞ!」


住民たちは一斉に逃げ出した。


男は右手の剣を振り抜き、バレンティノに反撃を仕掛けた。

だがバレンティノは、その斬撃を難なく回避する。


人間離れした反応速度。

だが、それは黒装束の男にも同様に言えることだった。


このふたりは、ただ者ではない——。

エンディもラベスタも、その殺気と気配だけで悟っていた。


「フフフ…へえ、やるねえ。二刀流かあ、すごいねえ。」


バレンティノは感心したように言ったが、黒装束の男は依然として無言だった。


「ねえ、何か喋ってよ。」


不機嫌そうに吐き捨てるようなバレンティノの言葉。


黒装束の男は再び剣を構えると、両手の刃を振り上げた。

次の瞬間、斬撃の波動が放たれた。


それは十字を描く巨大なカマイタチのような斬撃。

空気が切り裂かれ、視界が歪む。


バレンティノは両手で剣を構え、冷静に切っ先でそれを受け止める。


衝撃がぶつかり合い、地鳴りのような唸りが広がる。

だが最終的に、バレンティノは余裕の表情を浮かべながら、十字型のカマイタチを霧散させた。


そのときには、エンディとラベスタ、そして黒装束の男の姿は、すでにそこにはなかった。


バレンティノは静かに確信する。

——逃げられた、と。


だが、追うことはしなかった。

ただ、空気の残滓に耳を傾けていた。


黒装束の男は、エンディとラベスタを両脇に抱え、信じられない速度で駆け抜けていた。


屋根から屋根へ、枝から枝へと、景色が飛ぶように流れていく。


まるで、魔法の箒にでも乗っているかのような気分だった。


ラベスタは混乱していた。

思考は追いつかず、心の中で何度も「どういうこと?」と叫んでいた。


対して、エンディは不思議な安心感に包まれていた。

誰だか分からないはずのその人物の腕の中に、確かに感じる温もり。


顔を見ようとするが、フードの陰とあまりのスピードで、視界は定まらなかった。

ふと視線を落としたとき——

男の手の甲が見えた。深く刻まれた無数のシワ。


ドクン、と胸が鳴る。


「このしわくちゃの手…どこかで…え?まさか…。」


呟いた瞬間、エンディの背筋に冷たい電流が走った。


やがて男は、王都の外れにある山脈の麓へと降り立った。


そこは幻想的なまでに美しく、澄んだ泉と苔むした岩が静かに息づく秘境だった。


そっと地面に降ろされ、ラベスタは即座に警戒の目を向けた。

一方、エンディは地面にへたり込み、顔を強張らせていた。


「エンディ、どうしたの?」


ラベスタが問うたとき、男はゆっくりとフードを取った。


現れたのは、白髪の混じった高身長の老人。

精悍な顔立ちと、深い悲しみを湛えた瞳——


「久しぶりじゃな、エンディ。」


低く、かすれた声。


エンディは驚愕し、息を呑んだ。

過去と現在が一気に繋がる。


——4年前。

嵐の夜、海辺に横たわり、身動きが取れなかった自分。

そのとき、朦朧とする意識の中で聞いた、ひとつの声。


「エンディ!」と叫ぶ誰かの声。


そのとき見えなかった顔が、いま目の前にある。


「その声…やっぱりあんた、あの時の…!!」


エンディの中で、もっとも古く鮮明な記憶が焼き直される。


老人は泣いていた。

喜びとも悲しみともつかない、複雑な感情の涙だった。


「エンディ…ずっとお前に会いたかった。」


その一言が、すべての空白を、優しく満たしていく。

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