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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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罪の記憶

カインは、重い影を引きずるように玉座の間を数歩進み、アベルの隣で静かに立ち止まった。



エンディは、飲み込んだ息すら喉に詰まるような緊張の中で、その姿を見つめていた。


玉座の間に漂う空気が変わる。

冷たく、張り詰め、皮膚の下をなぞるような静電気が立ち込めていく。


「カイン…お前何してんだよ?」


エンディの声は驚きに震えていた。


カインは応えなかった。

ただ黙して、アベルの隣に佇んでいる。


「フフフ…さっき兄さんと言ったね?君たちは兄弟なのかな?」


バレンティノが落ち着いた声で尋ねた。


戦士の眼差しで敵を測るように、だが決して感情を表に出さずに。


「そっ、僕たちは双子の兄弟だよ!あんまり似てないけどね!」


アベルが無邪気に微笑んだが、その笑みに人の温度は宿っていなかった。


「まさかとは思うが…おめえらユドラ人か?」


ポナパルトの鋭い問いは、空気にさらに重みを与えた。


直感が告げている――これは戦の匂いだと。


「ユドラ人って…アズバールが言ってた?」


エンディが思わず呟いた。


隣のラーミアも、顔をこわばらせている。


「ご名答。」


カインの声がついに空間を切り裂いた。

冷ややかで、乾いていて、刃のようだった。


「メルローズ…それが僕たちの姓だよ。」


アベルの言葉に、ポナパルトの眉間が険しく歪む。


エスタ、ジェシカ、モエーネは戸惑いを隠せず、その場に凍りついていた。


「フフフ…まさかねえ…メルローズ家といえば、ユドラ人の中でもかなり上流階級の名家だよね?」


バレンティノの声には、静かな戦慄が滲んでいた。


「信じるか信じないかはお前らの自由だが、これは紛れもない事実だぜ?今日俺たちは、いずれ死にゆくお前たちに、宣戦布告をしに来たんだ。」


カインの言葉が、玉座の間に氷の楔を打ち込んだ。


エンディはその言葉に背筋を凍らせた。

息を飲む、という言葉が比喩ではなく現実になる瞬間だった。


「ちょ、ちょっと待てよ!みんなさっきから何の話をしてんだ!?カイン!お前もさっきから何訳分かんねえ事ばっか言ってんだよ!?」


混乱に揺さぶられるエンディの叫びは、必死の理性の足掻きだった。


「訳分かんねえ事って、君の出自だって僕たちに負けず劣らずの名家の筈なんだけどな。ほんと、記憶喪失の人ってめんどくさいよね…兄さん?」


アベルが皮肉を込めて笑ったが、カインは何も言わなかった。

その無言が返って、意味深に重くのしかかる。


モスキーノがアベルの言葉に目を細め、何かを探るような表情を見せた。


「おい、どういう意味だ??」


エンディが詰め寄ろうとすると、ラーミアがそっとその腕を掴んだ。


「エンディ、落ち着いて?」


優しく、だが確かな声に、エンディの混乱はわずかに沈静化した。


「エンディ、よく思い出してみろよ。ガキの頃教わったはずだぜ?俺の一族もお前の一族も、太古の昔からレムソフィア家に忠誠を誓い、殺戮の限りを尽くしてきたじゃねえかよ。」


カインの声には、異常なまでの静けさがあった。

その静けさが逆に恐ろしかった。


その瞬間――エンディの脳裏に、何かが閃光のように走る。


男の声。少女の悲鳴。


「エンディ、永遠なんて物は無いんだよ。」


「人殺しいーーっ!!」


映像はぼやけ、声だけが鮮明に残る。

それは記憶か、幻か。

だが脳髄をえぐるような激痛が、エンディを襲った。


「うわあぁぁぁぁっ!!」


頭を抱え、崩れ落ちるエンディ。


ジェシカとモエーネが驚愕の表情を浮かべ、バレンティノとエスタは動かず、茫然としていた。


「おいエンディ!何があった!?落ち着けよ!」


ポナパルトの怒鳴り声が響く。


すると、ラーミアが一目散にエンディに駆け寄り、しゃがみ込んでエンディを抱きしめた。


その腕は強く、あたたかく、包み込むようだった。


「エンディ、落ち着いて。大丈夫だから。」


その声は、戦場に咲いた一輪の花のように、確かな安らぎを与えた。


「大丈夫。私が守ってあげるから。」


その囁きに、エンディの心が少しずつ凪いでいく。


「ラーミア…ごめん急に…。」


「ヒュ〜熱いね、お二人さん?」


アベルの軽口が空気をかすかに歪ませた。


「で?何か思い出したか?」


カインの鋭い視線に、エンディはギクリと震える。


「無理に思い出そうとしなくてもいいからね?」


ラーミアの言葉が盾となり、再びエンディを守った。


「はいはーい!茶番はここまで!」


モスキーノが手を打ち鳴らすと、その笑顔は一瞬にして狂気に変わった。


「おいユドラ人、国王様を殺ったのはてめえらか?ロゼ王子はどこにいる?死ぬ前に答えろや。」


殺意が音を立てて充満する。

その視線に、玉座の間の空気すら震えていた。


「あいつの顔を直視しない方がいい。殺気で気絶しちまうぜ?」


エスタの言葉に、ジェシカとモエーネが震える。


「おいモスキーノ!出しゃばってんじゃねえよ!このクソガキ共は俺が泣かしてやる!」


「フフフ…ユドラ人だか名家だかなんだか知らないけど、上等だね。喧嘩売ってるなら買うよ?なんなら神々の聖地とやらを制圧してやろうか?」


ポナパルトとバレンティノが前に出る。


「なんか凄いことになってきたな…」


エンディは空気の張り詰めた中で、思わずそう呟いてしまった。


だがカインは、なおも微動だにしなかった。


「怖いなあ。さすがの僕たちでも3将帥相手はちょっときついよね〜、兄さん?」


アベルの飄々とした態度に、ポナパルトの怒りが限界に近づいていく。


だがその時――


玉座の間の大窓が、まるで内側から破裂するかのように砕け散った。


「え!?なんだよこれ!?」

エンディが叫んだ。


無数の白い刃――否、羽が、弾丸のように室内へと襲いかかる。


バレンティノが急かさず一閃。

風の如く振るわれた剣が、空間を裂き、無数の羽の刃を無力化した。


羽の刃は音を立てて床に散った。


窓の外には、空を切り裂くように飛ぶ、巨大な純白の、神秘的な雰囲気を漂わせた鳥が、両翼を羽ばたかせながら停滞し、玉座の間をジーッと見ていた。


その姿を見て、エンディは言葉を失った。


「おいおい、まじかよ…。」

「フフフ…これは流石にちょっと…驚いたねえ。」


ポナパルトとバレンティノが動揺を隠せない。


モスキーノは、完全に体を硬直させ、唇を震わせながらその鳥を凝視していた。


「マルジェラ君…?」


呟いたその声は、小さく、しかし異様なほどに重かった。

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