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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
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嵐の記憶の告白

4年前の夏の夜、その日はひどい嵐だった。


冷たい雨に打たれながら、エンディは意識を取り戻した。


「エンディ!おい起きろエンディ!」


目を開けると、かすれた声でそう叫びながら、自分の体を強く揺さぶっている男の存在に気がついた。


どうやら海辺の砂浜で倒れているようだった。


その時自分は眠っていたのか、それとも気を失っていたのか、エンディは今でも分からない。


そしてどういう訳か、全身がひどく痺れていて身動きが取れず、言葉を発することもままならない状態だった。


「気がついたか!良かった!」

目の前の男は、とても喜んでいる様子だった。



その男は丈の長い真っ黒な服を着ていて、フードを深く被っていた。


そのせいか、真夜中だからか、顔が全く見えなかった。


しかし男の声色と、チラッと見えた手の甲のシワから察するに、おそらく老人ではないかと、朦朧とする意識の中、エンディは考えていた。


「誰…?ここは…俺は…」

やっとの思いで、精一杯言葉を発した。

今にも消え入りそうな、か細い声だった。


エンディとは自分のことなのか、目の前の男は誰なのか、自分の今置かれている状況、自分は何者で、今まで何をしていたのか、何も分からない。


何もかもが謎で不可解、気が狂いそうだった。


「エンディ、お前…」


悲しそうな声で男は言った。


男はしばらく下を向いて黙りこくった後、なんと信じられない事に、エンディを置いてそのまま立ち去ってしまったのだ。


自分のことなんて誰も気に留めない。


いくら叫んでも、自分の声は誰にも届かない。

そんな激しい豪雨の中、エンディは1人、取り残されてしまった。



丘の上に佇む病院の庭で、海風がエンディの前髪を揺らす。


朝陽が海を金色に染め、ラーミアの長い髪が風に舞う。


二人は、互いの存在を確かめるように、静かに言葉を交わしていた。


エンディは、ゆっくりと話し始めた。


四年前のあの嵐の夜。


記憶を失い、住む家もなく、頼れる者もいない。

自分が何者なのかも分からない。



ずっと一人ぼっちで、ひたすら各地をあてもなく彷徨い続けた四年間。


言葉は重く、胸の奥から絞り出すようだった。


ラーミアは、時折深く頷きながら、静かに耳を傾けた。


彼女の瞳は、まるで海の底に沈む星のように穏やかだった。


エンディは話すうち、感極まる心を必死に抑えた。


誰かに本音を明かすのは初めてだった。


涙がこぼれそうになるのをグッと堪え、言葉を紡ぎ続けた。


すべてを話し終えると、胸の奥に溜まっていた重い霧が、わずかに晴れる気がした。


初めて、誰かに心を開けた気がした。


初めて、誰かが自分の話を聞いてくれた。


その事実に、エンディの心は温かさで満たされた。



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