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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
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見えない糸と不穏因子

歴史は繰り返す。

戦争の悲惨さなど、人はすぐに忘れてしまう。


小さな水槽の中で共喰いを始めた魚達を眺めているような感覚で、人間同士の争いを傍観している者達がいる。


その者達は見えない糸で人間を傀儡のように操っている。


長く伸びた見えない糸の先で傀儡を操る手の正体こそが"神々の末裔"ユドラ人なのだ。



___


ナカタム王国には、束の間の平穏が戻っていた。

激闘から一週間が経ち、城下町の復興は少しずつだが、確実に進行していた。


軍の演習場や城の周囲には臨時で設けられた仮設住宅が建ち並び、そこへ住人たちが身を寄せていた。



瓦礫の撤去から始まった復旧作業には、王国中から集まった職人たちが指揮を執り、軍人、ボランティア、旧ドアル軍の兵士、さらにはノヴァファミリーの元メンバーまでもが一丸となって作業にあたっていた。


つい最近まで歪み合い、剣を交えていた者たちが、今は隣でスコップを握っている。


人種も、歴史も、今この時には意味を持たなかった。

誰もが疲れた顔で水を分け合い、弁当を囲んで笑い合っている――そのひとときだけが、確かな希望だった。


「チッ、なんでオレ様がこんなことしなきゃいけねえんだよ…!」


だが、ダルマインだけはその現状を不服としていた。


かつて顎で使っていた部下たちと肩を並べ、土にまみれるなど屈辱そのもの。

不貞腐れた表情のまま、彼はスコップを力なく振るっていた。


 


その頃、王宮からやや離れた演習場では、

軍、近衛騎士団、保安隊の精鋭たちが合同で軍事演習を行っていた。


訓練とは名ばかり、実態はポナパルトとバレンティノによる“スパルタ式トレーニング”だった。

その過酷さは、常軌を逸していた。


訓練にはエンディ、ラベスタ、エスタも参加していた。


約20ヘクタールの広さを誇るグラウンドを、200人を超える兵士たちが黙々と走り込んでいた。


「パチッ」


バレンティノが指を鳴らす。


その音が響いた瞬間、兵たちは20秒間全力で走らねばならない。


その合図は、彼らにとって悪魔の囁きのように響いていた。


だが、最も恐るべきは――その合図を与える当人だった。

苦悶の表情を浮かべる兵士たちを眺め、目を吊り上げて「フフフッ」と笑うバレンティノ。

その姿は、まさに悪魔そのものだった。


「うおおおおおっ!!」


エンディが叫びながら先頭を駆け抜ける。

ラベスタとエスタが懸命に彼の背を追いかけている。


サイゾーは脇腹を押さえながらも、上位五十位以内を維持していた。

一方で――クマシスは、トイレでサボっていた。


 


やがて、バレンティノが右手を高く掲げた。

合図と共に、怒涛の走り込みは終了した。


「やっと終わった…水…。」


エンディはフラフラと歩きながら、水を求める。

その目の前に、ポナパルトが立ちはだかった。


「おいコラァ!誰が休憩していいっつったあ!?」


「…え?」


キョトンとした表情を浮かべるエンディに、ポナパルトが拳を鳴らしながら笑った。


「次は実技の授業だ!バチバチにしごいてやるぜえ!」


その瞬間、エンディの体が宙を舞った。

ポナパルトの拳が容赦なく彼を吹き飛ばしたのだ。


続けざまに、練習生たちが次々と彼の餌食となっていく。


修羅と化したポナパルトの前に、恐怖で足を止める者、逃げ出す者が続出する。


だが――エンディは、倒れても、何度でも立ち上がった。

その姿に、ラベスタとエスタも呼応するように立ち向かい、吹き飛ばされ、また立ち上がる。


「お、俺たちも行くぞ!」


「おお!」


彼らの姿に勇気づけられた練習生たちが次々と拳を握り、ポナパルトに挑み始める。


「おめえらいい根性してんなあ?」


ポナパルトは楽しげに言い放ち、チラリとエンディを見る。


「すげえやつだぜ。」


そうつぶやいたその拳が、再び唸りを上げた。

ポナパルトの異次元の強さに、挑んでは倒れ、また挑む――熱狂の演習は、まだ終わらなかった。


 


その頃――ロゼは、ジェシカとモエーネを伴い、城下町の復興作業を視察していた。


「みんな頑張ってんなあ。よし!オレも手伝うぜ!」


ロゼが意気込みを見せるが、


「若!それはダメですよ!」


モエーネが慌てて止めに入る。


すると、前方からノヴァが現れた。


「これはこれはロゼ王子。女2人をボディガードに現場視察ですか?」


「あれ?お前は合同軍事演習に参加しないのか?」


「トレーニングは1人でする主義なんでね。だから復興作業に尽力しようかと思いまして。」


「ちょっと?若に向かって馴れ馴れしい喋り方はやめなさい!」


ジェシカがムッとした表情でノヴァに言う。


「あれ?誰かと思ったら裏切り者のジェシカじゃねえか。」


ノヴァの挑発に、ジェシカが静かに歩み寄る。


そして、鋭く振り抜かれた右手が、ノヴァの左頬を強烈に打った。


「裏切るも何も、私は初めから若にしか忠誠を誓っていないわ?あなた兵長になったんでしょ?だったら昔のこといつまでもグチグチ言ってないで、もっとビッとしてなさいよ!」


そう言い終えると、ジェシカは踵を返し、ロゼとモエーネのもとへ戻っていく。


「やるじぇねえかジェシカ。」


ロゼが感心してつぶやく。


「若への忠誠心は私の方が強いから!」


モエーネが嫉妬交じりに言った。


ノヴァは呆然としたままジェシカを見つめていたが、視線が合うと、慌てて目を逸らして歩き出す。


「痛えな…とんでもねえ女だぜ。」


そう呟きながら、人気のない道へと入っていくノヴァ。


その足が、ふと止まる。


「隠れてねえで出てこいよ。」


背後から音もなく現れたのは、カインだった。


「よく気がついたな。」


「あれだけ殺気放ってりゃ誰だって気づくぜ?」


ノヴァがニヤリと笑う。


「お前、ここ最近ずっと俺のこと嗅ぎ回ってたよな?だから俺の方から出向いてやっただけだ。」


「俺は新たに新設されたナカタム兵団の兵長になったんだ。兵長として国の不穏因子を探るのは当然だろ?」


「兵長だあ?そりゃ随分と大層な肩書じゃねえか。マフィアのボスからえらい出世だな。それにしても不穏因子とは言ってくれるじゃねえかよ。」


「初めて会った時からお前は得体の知れない奴だった。エンディは騙せても俺は騙せねえぜ?なあカイン、お前一体何者なんだ?」


カインは何も答えなかった。

その瞳は、感情を一切排した爬虫類のような冷たさを湛えていた。

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