一番恥ずかしい事
インドラは炎をまとい、蛇行しながら地上へ降下していた。
轟音とともに機体が揺れ、旧ドアル軍の兵士たちがパニックで叫んだ。
「うわああぁぁ!!」
「やべえ落ちるぞ!」
「逃げろぉ!!」
兵士たちは緊急用パラシュートを広げ、次々とインドラから飛び降りた。
夜空には堕ちゆく夕陽のような円盤。
そして白い傘が無数に咲き、混乱の叫び声が響き合った。
独房に閉じ込められたダルマインは、鉄格子を握りしめ、顔を真っ赤にして喚いた。
「おい!何があった!?え、落ちてんのかこれ!??誰かオレ様を助けろ!!オレ様を解放しろ!!」
だが、誰も彼の声に耳を貸さなかった。
別の独房では、ラーミアがベッドにうつ伏せになり、静かに目を閉じていた。
恐怖が心を締め付ける中、彼女は運命を受け入れる覚悟を固めていた。
コックピットでは、爆風で機体が大きく揺れ、ギルドが頭を打って気絶していた。
ノヴァは操縦席に立ち、冷静な目でエンディとラベスタを見た。
「何があったか知らねえが、このままじゃ墜落するぜ?早く逃げろよお前ら。」
ノヴァは緊急用パラシュートを二つ投げ渡した。
エンディは受け取りながら、ノヴァを睨んだ。
「ノヴァ、お前…。」
「ラベスタ、今まで散々振り回しちまって悪かったな。これからは自由に生きろ。」
ラベスタはポーカーフェイスで首を振った。
「嫌だ。1人で死のうとするなんて卑怯だよ。」
「分かんねえ野郎だなてめえは!」
ノヴァが声を荒げた瞬間、エンディが拳を振り上げ、ノヴァの頬に拳骨をクリーンヒットさせた。
バチンと音が響いた。
「うじうじしてんなよ!こんな事しても何も変わらないって、本当はわかってんだろ!?」
「てめえ‥何しやがる!」
ノヴァは憤怒の表情で、よろめきながらもエンディの顔を殴り返し、さらに頭にかかと落としを炸裂させた。
しかしエンディは倒れず、頭と顔から血を流しながら、フラフラと立っていた。
「お前…本当は心細いんだろ?だったら仲間に頼れよ!」
エンディの言葉に激怒したノヴァは、エンディの胸ぐらを掴み、拳を連打した。
「うるせえ!てめえに何が分かるんだよ!ずっとナカタムを恨んで生きてきた…ガキの頃からずっと、奴らに復讐する為だけに生きてきた!それが全部誤解で、本当に恨むべき相手だったドアル人と手組んで…こんなみじめなことあるかよ!?あぁ!?ケジメつけるならボスだった俺が、奴ら道連れにして死ぬしかねえだろ!?」
ノヴァの叫びは、自分への怒りで震えていた。
後先の事など考えられないほど感情的になっていた。
すると、ラベスタが静かに割って入った。
「ノヴァ落ち着いて。道連れも何も、旧ドアル軍の奴らはみんな脱出しているよ。このままじゃ犬死だ。」
だが、その言葉はノヴァの耳には届かない。
エンディは一瞬息を整え、ノヴァに頭突きをくらわせた。
ノヴァは額から血を流し、床に尻もちをついた。
「どうして自分から孤独になろうとするんだよ…せっかく友達がいるのに…!」
エンディの悲しそうな目に、ノヴァは少しだけ我に帰った。
「は?何言ってんだ?」
「ノヴァ、お前が死んだらラベスタは一人ぼっちになっちゃうんだぞ。お前ら子供の頃から友達なんだろ?」
「エンディ…」
ラベスタは、どこか遠い目でエンディを見ながら呟いた。
「ノヴァ…辛い時、苦しい時、誰かに救いを求めることは恥ずかしい事じゃないよ。逃げる事も、泣く事も恥ずかしい事じゃない。1番恥ずかしいのは、自分に嘘をついて生きる事だ。」
エンディの顔は血と腫れでボロボロだったが、優しい笑顔が輝いていた。
ノヴァの目からは、静かに涙がこぼれた。
「いつでも頼れよ。俺たちもう、友達だろ?」
エンディの心から出てきた優しい言葉に、ノヴァの心が揺れた。
「少し前の俺だったら、お前と一緒に死のうとしていたかも。だけどルシアンが言ったんだ、ノヴァと仲良くしてねって。だから俺決めたよ、これからも生きようって。ノヴァと一緒に、子供達の未来を守れる大人になれるように強く生きようって。」
ラベスタがノヴァに駆け寄り、無表情ながら熱く語った。
ノヴァは震える声で呟いた。
「ラベスタ…エンディ…、俺を、助けてくれ…!一緒に戦ってくれ…!」
大粒の涙がノヴァの頬を伝った。
「当たり前だろ!一緒にバレラルクを守ろう!」
エンディが叫び、ラベスタがコクリと頷いた。
三人はコックピットを飛び出し、独房エリアへ急いだ。
だが、10の独房を全て確認しても、ラーミアの姿はなかった。
「どういうことだ…まさかもう逃げたのか?あーっ!!」
エンディが訝しげに窓の外を見ると、驚くべき光景が目に入った。
なんと、ダルマインがラーミアを抱え、パラシュートで宙を舞っていたのだ。
「火事場の馬鹿力ってのはすげえな、ドアぶち破ってやったぜ!」
ダルマインは下品に高笑いしていた。
「提督さん、どうして私を助けてくれたの?」
ラーミアが疑いの目を向けた。
「炎上するインドラ…ラーミアを見捨てて逃げ惑う旧ドアル軍…そんな中、オレ様がお前を助けてアズバールに引き渡せば…オレ様の株は鰻登りだぜぇ!!」
ラーミアはダルマインを汚物を見るような目で睨んだ。
すると、遠くから木のツルが触手のように伸びてきた。
エンディは、それがラーミアを狙っていると確信した。
エンディは持っていたパラシュートをノヴァに押し付けた。
「おい、お前何する気だ?」
「ノヴァ!ラベスタ!ダルマインからラーミアを守ってくれ!」
エンディはそう言い、窓ガラスを蹴破って飛び降りた。
木のツルがラーミアに迫る直前、エンディが彼女の前に立ちはだかった。
ツルはエンディの腰に巻きつき、凄まじい力で森の奥へ引きずり込んだ。
「エンディ!?」
ラーミアの叫びが響いたが、エンディは森の闇に消えた。
インドラは人気のない森に墜落し、大爆発を起こして木っ端微塵に砕け散った。
炎と黒煙が、天体観測などとても出来ぬほどに夜空を染めた。
ノヴァとラベスタはパラシュートで降下し、ダルマインを囲んだ。
「え!?お前ら!なんでここに??」
「てめえがラーミアに手出ししねえように見張ってろって、エンディに頼まれたんだよ。」
ノヴァが睨みつけながら言った。
さっきまで号泣していたのが嘘のような、鋭い眼光だった。
「エンディ、大丈夫かな。」
ラベスタは森の方角を見つめながら、心配そうに呟いた。
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森の奥では、エンディが木のツルに絡まれ、地面に叩きつけられていた。
目の前に、アズバールが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「久しぶりだな、アズバール。」
「気安く俺の名前を呼ぶな。まさかてめえみてえな吹けば飛ぶような小僧に二度も邪魔されるとはな。また風穴開けてやろうか?」
アズバールの邪悪な笑みに、エンディは一歩も引かなかった。
「もう食らわねえよ。お前が全ての元凶だろ?俺がここでぶっ飛ばしてやる!」
勇敢な言葉に、アズバールの顔が不愉快そうに歪んだ。
エンディとアズバール。
因縁の対決を告げるゴングが鳴り響いた。




