ケジメの心中
掃除を終えて、庭園に足を踏み入れたアルファは絶句した。
「あわわわわわ…。」
仲間たちが、まるで魔法にかけられたように眠っていたからだ。
ロゼはベンチに寄りかかり、エンディは地面に横たわり、ジェシカ、モエーネ、エスタも静かに寝息を立てている。
だが、アルファの胸を締め付けたのは、ラーミアの姿がないことだった。
彼女の明るい笑顔が、いつもこの場を温かくしていたのに。
「た、た、大変だぁ〜〜!!」
何かよからぬ事起こっている。
そう確信したアルファは、庭園を飛び出し、森の闇へ突き進んだ。
木の根に足を取られながらも、仲間を救いたい一心で走った。
その刹那、カインが、まるで何事もなかったかのように、幽霊の如く静かに身を起こした。
鋭い瞳が、夜の闇を切り裂くように光った。
「なるほど、睡眠薬か。サンドイッチを一口も食べてない俺が倒れても、一切不審がられなかったな。」
カインは小さく笑うと、エンディの顔を軽く蹴って起こし、森の奥へ消えた。
そのスッとした動きは、まるで森の闇と同化しているようだった。
エンディは顔を押さえ、すぐに目を覚ました。
状況を一瞬で把握し、仲間たちに呼びかけた。
「おいみんな!!起きろよ!!」
エンディの声が庭園に響き、ロゼやジェシカを揺り起こした。
皆、額に汗を浮かべ、微かに震えていた。
普通の眠りではない。
一方、森の奥深く、ラーミアは一人で歩みを進めていた。
インドラへ向かう道は、茨と木の根で覆われていた。
彼女の瞳には、固い決意とほのかな寂しさが宿っていた。
「これで良かったんだよね…。」
その呟きは、風に溶けた。
仲間を守るため、自分を犠牲にする覚悟が、彼女の心を重くしていた。
「エンディ…また会いたいなあ。」
静かな声が森に響いた瞬間、背後から慌ただしい足音が近づいてきた。
「ラーミアさーん!!」
アルファだった。
服は泥だらけ、顔には擦り傷。
幾度も転んだのだろう、息を切らしながら追いついた。
「アルファ君!?」
「何してるんですか!戻りましょうよ!」
アルファがラーミアの腕を掴む。
だが、彼女は静かに首を振った。
「だめだよ。そんなことしたらみんなに迷惑かかっちゃう。」
「エンディさん達は迷惑だなんて思ってないですよ!1人で行くなんて無茶です!」
ラーミアの声が、鋭く響いた。
「こうするしかないの!もう決めたことだから邪魔しないで!」
その強い言葉に、アルファは一瞬たじろいだ。
だが、すぐに目を輝かせた。
「そ、そこまで言うなら…ボクも一緒に行きます!」
ラーミアが言葉に詰まるその時、森の闇から大きな影が現れた。
ダルマインだ。
ニヤリとした笑みが、狡猾な狼のように映った。
「ラーミアちゃ〜?、探したぜえ?」
その声に、ラーミアは息を呑んだ。
「提督さん?何してるの?」
ダルマインは答えず、彼女を乱暴に抱え上げた。
「お前をギルドに引き渡す。悪く思うなよ?」
「ちょっと待って!あなたがそうしなくても、私は今からインドラに向かうつもりだったのよ!?」
「は?どういうことだ??」
ダルマインが怪訝な顔をした瞬間、アルファが彼の服を両手で掴んだ。
「ラ、ラーミアさんを…はなせ…!」
小さな身体に宿る勇気。
だが、ダルマインは下品に笑った。
「はあ?なんだこのガキ!」
一瞬にして、ダルマインの蹴りがアルファの腹に炸裂した。
アルファは地面に倒れ、苦痛の声を上げた。
「アルファ君!!ちょっとあなた、なんてことするの!やめて!」
「うるせえ!早く行くぞ…痛えっ!!」
アルファに腕を噛みつかれたダルマインは、断末魔のような叫び声をあげた。
「ラーミアさんに触るな!!」
「このクソガキ…!!」
憤慨したダルマインはアルファを蹴り飛ばし、何度も何度も執拗に踏みつけた。
アルファは呆気なく血に染まり、気を失った。
「お願い!もうやめて!アルファ君が死んじゃう!」
ラーミアの涙声に、ダルマインはようやく足を止めた。
「お願いおろして!アルファ君を治さなきゃ!」
「うるせえ!そんな暇はねえ!」
ダルマインはラーミアを片手で抱えたまま、急いでインドラへと向かって行った。
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庭園では、仲間たちが次々に目覚めた。
「ちくしょう、睡眠薬か…イカついぜ。」
ロゼが悔しそうに言った。
「ラーミア…やっぱり自分だけ犠牲になろうと…。」
ジェシカは胸を痛めていた。
「カインがいないな…。あいつは一足先にラーミアを追ったのか?」
エスタはまだ少し眠たそうで、目を擦っていた。
エンディは黙り込み、深刻な表情を浮かべた。
次の瞬間、彼は屋上の縁を飛び越え、単身、森の闇へ突進した。
「待てエンディ!俺たちも行くぞ!」
ロゼ、ジェシカ、エスタ、モエーネが後を追った。
「お待ちくださいロゼ王子!今急に動くのは危険です!」
サイゾーの制止の声は届かなかった。
「やばいぞやばいぞ…大変な事態だ…!」
サイゾーは青ざめ、玉座の間へ急いだ。
その頃、森の別の地点では、アズバールとジャクソンが木々の間から様子を窺っていた。
「あの黒髪のガキ、生きてやがったのか。金髪のガキはいなかったな。」
「ええ。しかしラーミアを連れずにインドラの方へ向かうとは…奴ら、奇襲でもする気ですかね?」
「ククク…だろうな、こっちの条件を踏み倒す気だ。良い度胸じゃねえかよ。見せしめに、避難所にいるナカタム人を皆殺しにするか。」
アズバールは冷たく笑った。
彼が手をかざすと、避難所を包囲する巨木がうねり始めた。
アズバールは遠く離れた木も操ることができるようだ。
その場所の様子も、自らが出現させた木を通して目視することができるのだ。
無数の枝が、口から刃を突き出した蛇のように避難所へと突進した。
だが、避難所に到達するわずか直前に、全ての枝が巨木ごと一瞬で炎に包まれ、灰と化した。
まるで、敢えてその直前を狙ったかのようだった。
炎は、アズバールを嘲笑う悪魔のように燃え盛っていた。
「まさか…!」
アズバールは確信した。
憎らしいカインが近くにいることを。
「アズバールさん…どうかしましたか?」
「ジャクソン、俺たちもインドラへ向かうぞ。」
「?…はい。」
二人は、演習場へ急いだ。
一方、インドラのコックピットでは、ギルドが退屈そうに椅子に座っていた。
「もうすぐで12時間経つが、なんの動きもねえな?アズバールは出て行ったまま帰ってこねえし。」
そこへ部下が飛び込んできた。
「ギルド総帥!」
「なんだようるせえな!」
「申し訳ございません…。捕らえていたノヴァファミリーのメンバー14名が、いつのまにか脱走していました!」
「そんなどうでもいい事いちいち報告してくんな!大体、てめえら何でマフィアなんか捕らえてきたんだ?拷問して吐かせたい事もねえし、人質にもならねえじゃねえか!」
ギルドの怒鳴り声に縮こまった瞬間、部下の男は、突然何者かに背後から殴られ、倒れた。
「お、おいどうした!?」
ギルドが叫ぶと、ノヴァが姿を現した。
「あいつらは俺が逃したんだ。かつての部下を巻き込むわけにはいかねえからな。」
「部下?巻き込む?どういう意味だ?てかてめえ誰だよ!」
するとノヴァは、ギルドの顎を正確に打ち抜き、蹴り上げた。
「さあ、これから俺と心中してもらうぜ?旧ドアル軍よ。」
ノヴァはニヤリと笑っていたが、目はどこか虚で、心此処に在らずだった。
まるで何かに取り憑かれているように。
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