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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
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あの日の真相と円盤の夜襲

ラベスタの血走った目が、医者の男を捉えた。


「お前は…あのときルシアンを見捨てた医者…!」

彼は剣を振り上げ、鋭い刃を男に振り下ろそうとした。


だが、モスキーノが軽やかに片手で剣を掴み、動きを封じた。


医者は驚愕のあまり腰を抜かし、地面にへたり込んだ。


「せっかく俺が苦労して見つけてきた人をいきなり殺そうとしないでよ?」

モスキーノが苦笑いを浮かべ、軽い口調で言った。


だが、ラベスタは内心震撼していた。


モスキーノの手は、まるで剣にそっと触れているだけに見える。


なのに、力一杯引いても刃は微動だにしない。


この細腕に秘められた力は一体何だ?

ラベスタは剣を鞘に収め、警戒の目を緩めなかった。


医者がゆっくり立ち上がり、眼鏡をクイッと上げ、落ち着いた声で言った。


「ラベスタ君、私は随分と君を探したよ。まさか王都最大のマフィア組織の幹部になっていたとはね、驚いたよ。」


「オレを探してた?どういう意味?」

ラベスタが訝しげに尋ねた。


「率直に言う。私はルシアンちゃんを見捨てた訳じゃない。」

医者の言葉に、ラベスタの顔が怒りで紅潮した。


「何を今更…。じゃあどうしてルシアンは死んだの?お前が治療を受けさせてくれなかったからでしょ?」ラベスタの声は怒りで震え、拳が握り潰されそうだった。


医者は目を伏せ、深い悔恨を滲ませた。

「私には一人息子がいてね…軍人だったんだ。しかしプロント王国で戦死してしまった。だから当時、君たちプロント人を酷く恨んでいて、幼い君たちにも冷たい態度をとってしまった。私の大人気ない態度が、君をずっと誤解させてしまっていたんだね…。」


彼は続けた。

「私はルシアンちゃんを診察したんだ。しかし彼女の肺は損傷が激しく、とても手の施しようがない状態だった。」


「そんな話信じられない。」

ラベスタが冷たく遮った。

無表情の奥に、抑えきれない憤りが滲む。


医者は地面に両膝と両手をつき、額を土に擦りつけるように頭を下げた。


「信じてくれ…!」


モスキーノが静かに口を挟んだ。


「さっき当時のカルテを見せてもらったよ。肺のレントゲンを一枚撮っただけだったから、ラベスタ君は何もしてくれなかったと思い込んでいたんだね。」


医者が震える手でポケットから二つ折りの紙切れを取り出した。


「レントゲンを撮り終えた時、ルシアンちゃんは今にも消え入りそうな声で私に言ったよ。"私が死んだらコレをお兄ちゃんに渡して"ってね…。これがその時、ルシアンちゃんからこっそり預かった手紙だ。」


ラベスタは手紙を受け取り、ゆっくりと開いた。


おにいちゃんだいすきだよ

これからもノヴァとなかよくしてね

あいしてる


幼いルシアンの大きな文字が、薄汚れた紙に刻まれていた。


ラベスタは手紙を握りしめ、放心したように立ち尽くした。


「近くで路上生活をしているプロント人の女の子が亡くなったと聞いた時、真っ先に君を探してこの手紙を渡そうとしたんだ。でも、君はどこにもいなかった…。あの時、ひどい態度をとってすまない。手紙を渡すのが遅くなって本当にすまなかった…。」

医者は涙を流し、嗚咽を堪えながら謝罪した。


「ルシアンは分かってたんだな。自分がもうすぐいなくなるって。自分がいなくなった後、俺たち2人が落ち込まないように、こんな手紙まで書いて…。」

ノヴァが切なげに呟き、目を潤ませた。


ラベスタは膝をつき、崩れ落ちた。

右手で目を覆い、声を出さずに大粒の涙を流した。


「オレたちは…今まで何のために戦っていたんだろう…。」後悔の波が彼を飲み込み、胸を締め付けた。


エンディも涙をこらえきれず、静かに貰い泣きしていた。


「ラベスタ君、何かあったらいつでも訪ねてきてくれ。私に出来ることならなんでもするから…。」

医者は穏やかな声で言い残し、静かにその場を去った。


ロゼがエンディの肩に手を置き、静かに言った。


「もっと早く手紙を見ていれば、こんな事にはならなかったのかもな。」


「ロゼ王子!?いつの間に!」

エンディが驚いて声を上げた。


「言葉って不思議だよな。言った本人は忘れていても、言われた側の人間はずっと覚えてる。何年も呪いみたいにしつこくまとわりついて人の心を蝕むこともある。けど言われて嬉しかった言葉ってのは、何年経っても御守りみたいに心に残る。行き詰まった時には勇気を奮い立たせてくれて背中を押してくれる。辛いことがあった時には、心を救ってくれる特効薬にもなる。」

ロゼの声は優しく、まるで戦場の煙を払うように響いた。


「良いと思った言葉は積極的に口に出した方がいいですね!」エンディが涙を拭い、眩しい笑顔で応じた。


ノヴァは震えながら呟いた。


「ふざけんなよ…。俺たちの4年間はなんだったんだよ…。本当に恨むべき相手である旧ドアル軍と取引までして…。」

怒りと混乱が渦巻き、矛先が自分自身に向かうのか、誰か他者に向かうのか、彼自身も分からないほど頭が混沌としていた。


突然、ノヴァの全身から黒い体毛がぐんぐん伸び始めた。


エンディとロゼは目を疑い、ダルマインは気絶寸前でガタガタ震えた。


ノヴァは二足歩行の黒豹のような異形の姿に変貌し、鋭い牙を剥いた。


「やめろノヴァ!」

ラベスタが珍しく声を荒げ、叫んだ。


「ほ〜う、異能者か。」

ポナパルトが低い声で感心した。


「へえ、これは強そうだな。」

カインも僅かに眉を上げて言った。


ノヴァの目は狂気を帯び、野獣の如く光った。


「俺たちは王宮を襲撃してクーデターを起こそうとしたんだ。怪我人も多数出てるしな。どうせ全員処刑だろ?」


戦士たちもマフィアも、ノヴァの異形の姿に息を呑んだ。


「未遂で終わってるし死者も出てねえ。改心するなら俺が恩赦を出してやってもいいぜ?」

ロゼが穏やかに、しかし力強く言った。


「もう後戻りはできねえんだ。行く道行ってやるよ!!」ノヴァは正気を失い、咆哮を上げた。


爪が地面を削り、殺気が空気を切り裂いた。


ロゼの居城前では、サイゾー、エスタ、ジェシカ、モエーネが緊張感を漂わせて警備を固めていた。


そこへラーミアが現れ、星空を見上げた。


「あわわ…ちょっとラーミアさん、危ないですよお…。」

アルファがビビりながら後を追い、声を震わせた。


「どうしたの?」ジェシカが鋭く尋ねた。


「なんだか…嫌な胸騒ぎがするの。」

ラーミアの声は不安に揺れ、夜空に溶けそうだった。


正門前では、黒豹と化したノヴァとポナパルトが一触即発の睨み合いを繰り広げていた。


「せめて将帥の1人でも殺してやるぜ。」

ノヴァの声は獣の唸りに混じり、殺意に満ちていた。


「おもしれえ!こいや!久しぶりに楽しめそうだぜぇ!」

ポナパルトが拳を鳴らし、ハイテンションで応じた。


「やめろよノヴァ!」エンディが必死に叫んだ。


「ああなったノヴァを止めるのは難しい…。」

ラベスタが真顔で呟き、剣に手を置いた。


「おいおい、どーなっちまうんだよこれ?」

ロゼが呆れた口調で、しかしどこか真剣に言った。


その刹那、城下町中に耳をつんざく警報が鳴り響いた。


エンディはあまりの爆音に耳を塞ぎ、身を縮めた。


空から無数の爆弾が降り注ぎ、城下町は瞬く間に火の海と化した。


炎が夜を裂き、熱風が戦場を駆け抜けた。


一同が一斉に空を見上げると、漆黒の円盤型をした巨大な黒鉄の塊が、星空を覆うように浮かんでいた。


その不気味なシルエットは、まるで世界戦争の亡魂が具現化したかのようだった。


エンディの思考が一瞬停止した。

「なんだ…あれ?」


「まじかよ…城下町の奴ら避難させといてよかったあ…。」ロゼが安堵の息を漏らし、額の汗を拭った。


円盤は軍の演習場に轟音と共に着陸した。


地面が揺れ、土煙が舞い上がる。


ナカタムの戦士もノヴァファミリーも、未知の脅威に動揺を隠せなかった。


ダルマインは今までにないほどガタガタ震え、歯をカチカチ鳴らした。


「ああああ…あれは…旧ドアル軍だぁ…!あいつら、夜襲に来やがったんだぁ…!」


「あいつらが来たのか…!」

エンディは拳を握り、身を引き締めた。



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