憎しみの狂刃と愛の抱擁
ロゼの居城にも、けたたましい銃声と共に数発の弾丸が撃ち込まれた。
窓ガラスが砕け、装飾品がキラキラと床に散らばる。
ジェシカとモエーネは即座に外へ飛び出し、マフィアたちに立ち向かった。
ジェシカは短剣を閃かせ、モエーネはムチをしなやかに振り回し、次々と敵を薙ぎ払った。
「足引っ張らないでよね?」
「はあ!?こっちのセリフなんだけど!」
戦闘中も二人の舌戦は止まらず、火花を散らしていた。
居城内では、サイゾーとエスタが剣を構え、ロゼを固く守っていた。
「おいおい、俺じゃなくてラーミアとアルファを守れよ。俺の強さはお前らも知ってんだろ?」
ロゼが少し苛立った口調で言った。
「あわわわわ…。」アルファはラーミアの後ろでガタガタ震え、丸眼鏡がずり落ちそうになっていた。
ラーミアは苦笑いを浮かべ、優しく声をかけた。
「大丈夫よアルファ君。そんなに怖いなら避難所に行けばよかったのに。」
「だ、だって…ボクなんかにこんなに優しくしてくれるラーミアさんが残るのに…ボクだけ避難所に行くわけにはいかないですよ…。」
アルファは声を震わせ、顔を真っ赤にして答えた。
ロゼがニヤリと笑った。
「ほう、アルファ。お前意外と男前じゃねえかよ。」
「ああ、苦しい…もう食べれない…。」
クマシスはローストビーフを詰め込みすぎた腹を押さえ、床に仰向けで呻いていた。
「お前もうクビだな。」
サイゾーが冷ややかな視線を投げ、呆れた声で言い放った。
庭園では銃撃戦が激しさを増していた。
連合軍はマフィアの王宮侵入を防ぐため、命を懸けて応戦していた。
そこへ、重厚な王宮の扉が軋みながら開き、ポナパルトが悠然と姿を現した。
「オラァ!少しは楽しませろよ?」
その雷鳴のような声が戦場を切り裂くと、銃声がピタリと止み、辺りは凍りついた。
ポナパルトの全身から迸る圧倒的な闘気と、まるで実体化したようなオーラに、敵味方問わず全員が恐怖で硬直した。
一方、正門ではノヴァとラベスタがエンディたちを相手に激しい攻防を繰り広げていた。ダルマインは体を丸め、ガタガタ震えて役立たず状態だ。
ノヴァとラベスタは何度も正門を突破しようとしたが、エンディが血まみれになりながらも立ちはだかった。
「ぐわあっ!」
ノヴァの拳がエンディの顔を捉え、腫れ上がった頬から血が滴る。
それでもエンディは倒れるたび、這うように立ち上がり、ノヴァに挑み続けた。
「うざいなこいつ。しかもムカつく。」
ラベスタが無表情のまま、苛立ちを滲ませた。
ノヴァがエンディを見下ろし、訝しげに尋ねた。
「おい、なんでそこまでする?そんなボロボロになってまで何を守ろうとしているんだ?お前記憶喪失なんだろ?この国に何か恩でもあるのか?」
エンディは地面に膝をつき、か細い声で答えた。
「やっと出会えた…おれを受け入れてくれた大切な人たちを傷つけさせたくないんだ…。それに…誰かが争っているところも、傷ついて苦しんでいるところも見たくない…俺はただ、みんなで仲良く楽しく生きたいだけんだよ…。」
「言ってる意味がさっぱり分からねえな。もういい、お前殺して俺たちは先に進むぜ?」
ノヴァが冷たく言い放った。
その瞬間、カインがノヴァの前に立ちはだかった。
ノヴァは目にも止まらぬ速さでカインの周りを駆け回り、四方八方から攻撃を浴びせたが、カインは全て冷静に、そして完璧に防いだ。
ノヴァの渾身の回し蹴りを、カインは両腕を交差させてガード。
「やるなお前。」
ノヴァは内心の動揺を隠し、感心したように呟いた。
カインが鋭く切り返した。
「庭園内のマフィアはざっと100人くらいってとこか。いくらなんでも無謀すぎるんじゃねえか?そんな人数じゃ簡単に捻り潰されるぜ?」
ラベスタが剣を抜き、カインに斬りかかったが、カインは軽やかに身を翻して回避。
「言ったでしょ?俺たちの目的は別に勝つことじゃないし、初めから勝てるなんて思ってない。ただ俺たちの憎しみを思い知らせてやりたいだけだよ。だから死ぬことなんて怖くない。」
ラベスタの声は無機質だった。
エンディは倒れたまま、力を振り絞って叫んだ。
「命を粗末にするなぁ!!」
ノヴァとラベスタが驚いたようにエンディを見た。
エンディはフラフラと立ち上がり、続けた。
「死ぬことなんて怖くないだと?そんなこと言っても全然かっこいいと思わねえぞ。」
「おい、てめえ何が言いてえんだ?」
ノヴァが恐ろしい顔でエンディに詰め寄った。
「本当は怖いくせに…。怖いものを怖いと認めることができないのは臆病な証だ。本当はこんなことしても意味がないってわかってるんだろ?」
エンディの言葉が鋭く突き刺さった。
「うるせえっ!」
ノヴァが激昂し、エンディの顔を思い切り蹴り飛ばした。
エンディは地面に叩きつけられ、血が土に滲んだ。
それでもエンディは這いつくばり、ノヴァの足を掴んだ。
「お前ら全然楽しそうに生きてねえよ。前の俺みたいだ…。こんなことしたって余計辛くなるだけだぞ。」
ラベスタが剣をエンディに向け、静かに言った。
「じゃあ俺たちの孤児院を襲撃したナカタムの軍人をここに連れてこい。ルシアンを見捨てた医者も連れてこい。それが出来るならすぐ引き上げるし、これから先は心を入れ替えて真面目に生きるよ。」
無表情の奥に、かすかな悲しみが揺れた。
「ん?孤児院…?」
ダルマインが震えながらも、初めて反応を示した。
カインが冷たく言い放った。
「エンディ、こいつらには何を言っても無駄だ。とりあえずぶっ飛ばして再起不能にしとくが、止めんなよ?」
するとエンディは、突然立ち上がり、なんとラベスタを力一杯抱きしめた。
カイン、ノヴァ、ラベスタは目を丸くし、唖然とした。
エンディの顔には優しさと、どこか深い悲しみが混じっていた。その真意は、誰も計り知れない。