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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
30/180

花の都の光と闇


ジェット機の機内は、興奮と緊張の交錯する嵐の渦だった。


エンディは窓から地上を見下ろし、落ち着きのない様子でキョロキョロしていた。


「うお〜すげえ!!高え〜!速え〜!」



「うるせえな。静かにしてろよ。」

カインが冷たく言った。




「ごめん…。」

エンディはズーンとしょぼくれてしまった。





「まあまあカイン、そんなに怒らなくても。でもすごいスピードね?これならあっという間に着きそう!」

ラーミアが場を和ませる様に言った。


一方ジェシカは、コックピットでロゼに声をかけていた。


「若、操縦は私が…。向こうでお休みになっていてください。」


「だめだ!これは俺の愛機だぞ?俺以外のやつにハンドルは握らせねえ!」


ロゼの頑なな声は、まるで幼い子供のワガママの様だった。


ジェシカはため息をつき、ラーミアの隣に座った。


「はぁー、若のわがままにも困ったものだわ。ところであなた達、バレラルクに着いたらどうするつもり?」


ジェシカの問いの直後、エンディは目を輝かせた。


「そのことなんだけどさ、ジェシカ!おれ軍隊か近衛騎士団ってのに入ってみたい!いつでもラーミアを守れるようにもっと強くなりたいんだ!」


エンディは情熱を燃やすようにそう言うと、ラーミアの頬がほのかに赤らんだ。


「なるほどね。あなた達強そうだしいいんじゃない?保安隊には入りたくないの?」


「保安隊はなあ…あのサイゾーって人口うるさそうだし…。」


エンディの呟きは、彼がサイゾーに苦手意識を持っていることを周囲に露見させた。




「おい、何があなた達だ。俺はどこにも入隊する気なんてないぞ?」

カインが不機嫌に割って入った。


ジェシカが続けた。

「ふーん。まあ入隊しないにしても、何かしら仕事を見つけないとね。ところであなた達、出自は?」


その質問は、エンディが顔を曇らせた。


「ジェシカ、エンディは4年前から記憶喪失なの。」


ラーミアはやんわりとフォローした。



「あら、そんな事情があったの…。カインは?」

ジェシカは若干気まずそうにしながら、すぐに話題を変えるべくカインに話を振った。


「…答えたくない。答える義理もないしな。」


カインの言葉は、閉ざされた鉄の扉のようだった。

まるでとりつく島が無い。




「あっそ、あなたって本当に無愛想な男ね。」

ジェシカは呆れ返っていた。


カインはそっぽを向いたまま微動だにしなかった。


「おーい、もうすぐ着陸するからちゃんとシートベルト閉めとけよ?」

ロゼが軽快な口調で言った。


「え、もう着いたの!?」


エンディの驚きの声を上げると、ロゼは自慢げに笑った。


「当然だ、このジェット機は時速350キロだぜ?」




---


ジェットは遂に、王都バレラルクの軍演習場の滑走路に降り立った。


演習中の軍人たちが戸惑いながらもゾロゾロと集まってきた。


「え?ロゼ王子!?」


「お帰りなさいませ!」


「随分とお早いご帰還で…あの、他の者達は?」


そのざわめきは、波が岩に打ち寄せる響きの様に広がった。




「おう、お疲れさん。ちょうど良かった、これ格納庫にしまっておいてくれよ。」

ロゼは軽やかに言った。


ジェット機を指差し、軍人たちに命じ、ロゼはエンディたちを連れて演習場を後にする。


王都バレラルクの城下町は、荘厳な石畳と清らかな河川が織りなす絵巻のようだった。


古代遺跡の影が街並みに溶け、まるで過去と現在が共鳴する楽曲みたいだ。


エンディの目は、初めて見る世界に奪われる。


「おお!ロゼ王子だ!」


「おーいみんな、ロゼ王子がお見えだぞ!」


「はあ…なんとご立派な佇まい…。」



「カッコいいー!」


国民の声援は、熱狂の波濤。


ロゼの背中に浴する光は、まるで王冠の輝き。


なぜかエンディまで照れ臭くなった。


「はあ〜毎度毎度困っちまうぜ、歩きづらくてしょうがねえ。」


ロゼは満更でもなさそうに言った。


彼は悪趣味な仮面を被って変装した。


「これなら誰も俺だって気がつかねえだろ?」


そのヘンテコなデザインに、ラーミアとジェシカは笑いを堪えていた。


まるで子供の悪戯に付き合う姉妹のように。


仮面の効果で、先程の喧騒は嘘のように霧の如く消えた。



静かな城下町を歩むエンディは、ふと違和感を覚えた。


「たしかに良い街だけど…なんか活気がないな。みんな顔に生気がない…。」


その呟きは、凪いだ海に投じた小石。


ロゼがピクッと振り返り、路地裏を指した。


「あれを見ろ。」


そこには、ガリガリに痩せた子供たちがうずくまり、汚れた老人が酒に溺れ、喧嘩が絶えない街のリアルな情景が、嫌でも目に留まった。


保安隊員が仲裁に走る。



突如、男の叫びが響く。


「おい!また首吊りだぞ!」


路地裏に若い男の首吊り死体。

群がる人々の声が刺さる。


「また自殺か…今週に入って何人目だよ?」


「可哀想に、まだ若いのに…。」


エンディは言葉を失った。


その衝撃は、まるで心に突き刺さる氷の棘。


ラーミアとジェシカも気持ちが沈み、夜の海底のように静かになった。





「貧しいだろ?戦争に勝ったところで、結局不況は終わらないし貧富の格差も縮まらない。幼い子供を苦しめ、人々の心を追い詰め、未来を担う若者が未来に絶望し、抗議することなく自ら命を絶つ。これが世界一の軍事大国、ナカタム王国の王都バレラルクの現実だ。」

ロゼは重く語った。


その背中は、悲壮な波濤に耐える岩礁。ロゼが続ける。


「国民がこんなに苦しんでるのに、王族や一部の軍人達は豊かな暮らしをしてるんだぜ?信じられるか?」



「え、どうして…?」


エンディの問いは、純粋な子供の瞳。


カインが冷たく答えた。


「税収だろ?国民から税金とらなきゃ国は維持できないもんな。」


その言葉は、冷たい海流の如く流れた。


ロゼの表情が曇る。


「ご名答。俺も飢えた人々から税金を巻き上げている側の人間だ。」


「若、そんな言い方なさらないでください!」


「そうですよ!ロゼ王子はちゃんと国民に寄り添える素晴らしい王子です!それはみんな分かってますよ?」


ジェシカとラーミアの擁護は、嵐を鎮める灯台の光。

ロゼの目が燃えた。


「愛国心を抱き、納税する事を誇りに思う。この国にはそんな国民1人もいねえんだよ。そんな国に未来はねえよ。だけどな、俺は絶対に諦めねえ。絶対にこの国を変えてやる。」


そう語ったロゼの両目には、強烈な灯火が宿っていた。


すると、エンディがロゼの前に立ち塞がった。


「ロゼ王子…おれ頭悪いし、どうしたら良いかよく分からないけど…おれ、ああいう人たちの力になりたい!弱い立場の人を救える人間になりたい!」


エンディもまた、ロゼに負けないくらい強い目をしていた。


ラーミアが続く。

「私も!力はないし、役に立てるか分からないけど…私に出来ることがあれば何でもお申し付けください!」


ジェシカも進み出る。

「私も、若の夢が叶うその日まで戦います。夢が叶った後も、この命尽きるまで若をお守りします!」


二人の声は、寄せる波と打ちつける岩の協奏曲みたいだった。



カインは無言のまま。

この現状を見て、一体何を思い、何を考えているのか、皆目見当も付かないような顔をしている。


ロゼは嬉しそうにはにかんだ。

「この国も、まだまだ捨てたもんじゃねえな。お前らしっかり俺に着いて来いよ?」


その言葉は、希望の帆を掲げる船の号令。


一同は王宮の門前に辿り着いた。

その門は、まるで新たな運命の扉を開く巨人の口。


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