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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
29/50

ジェット機飛び立つ 王都へと先回り

バダリューダ号の甲板は、波濤の余韻と新たな出会いのざわめきで揺れていた。


そのどよめきを切り裂くかのように、ジェシカが堂々と口を開いた。


「改めて自己紹介するわ。ナカタム王国王室近衛騎士団、参謀長のジェシカよ。ノヴァファミリーのナンバー3は仮の姿。隠しててごめんね?」


その言葉は、仮面が剥がれる瞬間の鋭い刃の様だった。




「スパイ!すげえ!かっこいい!俺もなりたい!」

エンディの目は星の様に輝いていた。



その熱は、燃え盛る松明の輝き。


ラーミアは尊敬の眼差しを向けていた。

「えー!近衛騎士団のメンバーだったんだ!しかも参謀長だなんて…すごいわジェシカ!」


その声は、清流が岩を撫でる響きのようだった。


だが、ジェシカの部下たちは青ざめていた。


「ジェ、ジェシカさん…スパイだったんですかい…」「ああ…俺たちもうおしまいだ…。」


悲観する彼らに、ジェシカは真剣に問うた。


「あなた達、マフィアから足を洗って更生するつもりはある?」


「もちろんです!」


四人は声を揃え、即答した。


ジェシカは優しく頷いた。


「分かったわ。じゃああなた達も近衛騎士団のメンバーにしてあげる。これからも私の下で働きなさい?」



「はい!仰せの通りに!」


その返答は、まるで女王蜂にひれ伏す忠実な下僕のようだった。


「ええ、こんなにあっさり…いいのか?」

エンディは心配そうに呟いた。


ロゼはラーミアに近づいた。


「よっ、ラーミア。災難だったな?」


「ロゼ王子、こんなところに来ちゃだめですよ!」


「そうですよ若!一国の王子が戦地に赴くなんて前代未聞ですよ?」


ラーミアとジェシカはどこか呆れた口調で言った。



しかし、ロゼは呑気に笑っていた。


「俺はな、下の者が戦地で血を流してるのに玉座で踏ん反り返ってるどっかのクソ国王とは違うんだよ。」


その言葉は、槍の切っ先が空を裂くように鋭かった。



次にロゼは、エンディとカインに歩み寄った。


「で、こいつらは誰?」


「エンディとカインです。この2人は私を助けるために戦ってくれたんです。」


ラーミアは、友達を紹介する様な口ぶりで言った。




「エンディ…あー、港町でダルマイン一派に立ち向かって一緒に拐われたやつか!」


「王子様!背中の槍かっこいいですね!ちょっと見せてよ!!」


エンディの軽率な発言に、ギャラリーからヤジが飛んだ。


「おい貴様!王子に向かって無礼だぞ!」


「何様だてめえ!」


エンディはビクッと縮こまった。

嵐に怯える子鹿の様に。


ロゼは二人をじっと見つめた。

「お前ら…只者じゃねえだろ。厳ついオーラがぷんぷんするぜ?」


その言葉に、エンディの心臓がドクンと鳴った。

やましい事は何もしていないのに、なぜか全てを見透かされたような気がしたのだ。



しかしカインは無表情で、岩壁の如く動じていなかった。


「お前らも歓迎してやるよ。」


ロゼは軽やかに言い残し、ジェシカの元へ戻った。




「お許しくださいロゼ王子!これからはあなた様に忠誠を誓い、世の為人の為に生きていきます!どうか御慈悲を!」

ダルマインは泣きじゃくりながら決死の思い出叫んだ。





「許してやってもいいぜ?そのかわり、罰金"国家予算"…な?」

ロゼは意地悪く笑いながら言った。


ダルマインはシクシク泣きながら連行されていった。


その背中は、折れた羅針盤の哀愁のようだ。





「若、ノヴァファミリーの主な資金源は闇カジノの経営と密猟です。そしてパニス町の複数の飲食店から用心棒代と称してみかじめ料を脅し取っている事も判明しました。そして旧ドアル軍から武器を大量に買い取っていて何やら不穏な動きを見せていますが、その目的も"ノヴァ"と呼ばれるボスの正体も、ナンバー3の私ですら聞かされませんでした。」

ジェシカは、潜入捜査中の端末を報告した。

ここまでの事を、一言一句噛まず正確に、スラスラと難なく言ってのけた。


その報告は、暗礁に潜む陰謀の地図。

ロゼの表情が冷たくなった。


「そうか、全くあいつら武装強化して何企んでるんだろうな。まっ、クーデターでも起こそうものなら徹底的に殲滅するまでだがな?」


その言葉は、氷の刃が夜を切り裂く鋭さだった。

エンディは思わず背筋がゾクッとした。


ジェシカが続ける。


「そしてもう一つ報告が…武器の取引を名目に何度かミルドニアに足を運んだところ、旧ドアル軍を仕切っているギルドの裏に、アズバールがいました。」


その名は、場を凍らせるほどのビッグネームだった。



兵士たちがざわつく。


「え、今なんて言った…?」「冗談だよな?」




「まじかよ…あの野郎が生きてやがったか、こりゃさすがにショックだぜ。」

ロゼが呟いた。


だが、エンディはロゼの顔に高揚の影を見た。

その表情は、まるで嵐を前に笑う猛獣の眼差し。



ロゼが続ける。


「それにしてもお前ら、よく逃げて帰ってこれたな?追手も来てなさそうだし。」


「それが、私たちアズバールに追い詰められたんです。そしたら突然塔の上層階が大炎上して、その隙に命からがら逃げてきました。」


ジェシカがチラッとカインを見た。


その視線は、秘密を探る探針の鋭さ。




「炎上?まあいいや。詳しい話は王宮でたっぷりともてなした後に聞こう。エンディとカイン、んでラーミアとジェシカ、ちょっと着いてこい。」


四人はロゼに導かれ、保管庫へと誘導された。


そこには漆黒のジェット機が鎮座していた。


「すげえ!なんだこれカッケェ!!」


エンディの叫びは、星空に響く子供の歓声のようだ。




「カッケェだろ?これは王族が保有するプライベートジェットだ。本当はこれに乗って1人でミルドニアに突っ込もうと思ったんだが、流石に止められちまったぜ。」

ロゼは自慢げに言った。


「若、なぜ私たちにこれを?」

ジェシカが尋ねた。




「こんな船でチンタラ向かってたらバレラルクまで半日以上かかるぜ?だりいから俺はこいつに乗って一足先に帰る。そこでだ、お前らもついてこい。」



「そんなロゼ王子!私たちは王族の保有するプライベートジェットになんてとても乗れる身分じゃありません!」


ラーミアはたじろぎながらそう言ったが、エンディとカインが反発した。


「えーいいじゃん!俺これ乗りたいな!」


「同感だな。あんなやかましい奴らに囲まれて半日も航海なんて耐えられねえわ。」


その無礼な言葉に、ラーミアとジェシカは肝を冷やした。


しかし、ロゼは笑っていた。

特段気にしている様子もなさそうだ。


「ふははっ、お前ら面白えな!ますます気に入ったぜ?たっぷりもてなしてやるからよ、パーッと祝勝会といこうぜ?」


ロゼが搭乗口を開け、エンディはワクワクと楽しそうに、カインは我が物顔で機内に乗り込んだ。



ラーミアとジェシカが続いた。


「ジェシカ、私たちも行こっか!」


「そうね…あいつらに礼儀作法を叩き込んでやるわ。」


ジェットエンジンが唸り、保管庫の重厚な扉が開いた。


異変を察知したサイゾーとクマシスが保管庫に駆けつけた。

ロゼが独断行動を取ると踏んでの行動だろうが、時既に遅しだった。


「あー、やっぱりここだ!ロゼ王子、何をなさってるんですか!?」


サイゾーは怒鳴るように叫んだ。



「わりいな!俺たちは先に帰ってるからよ、お前らあとは頼んだぞ!」

ロゼはコックピットの窓から身を取り出して答えた。


「おいバカ王子!俺も乗せてけよ!」

クマシスは大声で心の叫びを漏らした。



「おまえ、流石にそれは不敬罪だぞ…?」

サイゾーの引いた声で言った。



ジェットは爆音と共に大空へ飛び立つ。

その軌跡は、夜を裂く流星の輝きだった。


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