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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
28/55

世にも珍しき武闘派王子


インダス艦の船長室は、ビーフカレーの香りと笑顔で満たされていた。


男性陣は食後の満足に身を委ね、まったりとくつろぐ。


ラーミアとジェシカは厨房で洗い物を進め、ダルマインはテーブルで爆睡。


エンディは元気を取り戻し、鍋を手に取った。


「俺も手伝うよ!」


その声は、まるで朝陽が新たな力を宿すようだった。



ラーミアが小声で囁いた。

「ねえ、エンディ?」


「ん、なに?」


「前に提督さんの部下たちに撃たれそうになった時のこと覚えてる?あの時…どうやって弾丸を跳ね返したの?」


「え、そんなことあったっけ?よく覚えてないな…。」


エンディの無垢な答えに、ラーミアは心の中で呟く。やっぱり無意識だったんだ、と。


一方でジェシカは皿を洗いながら、塔の炎を思い出し、シビアな表情を浮かべていた。




すると、突如轟音が艦を揺らした。


砲撃音が空を切り裂き、インダス艦が激しく震動したのだ。


「うおおおぉぉ!追手がきたぁ!こ、殺されるうぅっ!」


ダルマインは飛び起き、テーブルの下でガタガタ震え始めた。


その姿は、まるで嵐に怯える子犬のようだ。


エンディはよろけるラーミアを優しく、紳士的に支えた。


カインとジェシカが甲板に飛び出した。


「ラーミアはここにいて!」


エンディはそう叫び、二人を追った。


ジェシカの部下も後に続いた。

甲板に立つと、巨大な軍艦が視界を圧する。


「え?これ、バダリューダ号じゃない!」


ジェシカが叫んだ。


バダリューダ号がインダス艦に幅寄せし、サイゾーとクマシスが先陣を切って乗り込んできた。


「貴様ら旧ドアル軍だな!?おとなしく投降しろ!」


二人に続き、20人の連合軍の戦闘員が機関銃を手に突入してきた。


インダス艦には砲撃による大きな穴が開き、海水が侵入していた。

沈没まで秒読みだ。

緊張が空気を支配した。


だが、ラーミアが甲板に現れると、状況が一変した。


「あれ?サイゾーさんにクマシスさん!?」


「え!?ラーミア!?どうしてここに!?」


サイゾーは驚愕し、状況が読み込めず、一瞬頭が真っ白になった。


ラーミアが必死に説明した。


「待ってみんな、違うの!この人たち私を助けてくれたの!今みんなでバレラルクに向かってるところよ!」


殺気立っていた連合軍の兵士たちは思わぬ事態に困惑し、戸惑いの波が広がっていた。


そうこうしているうちに、インダス艦は徐々に海に沈んでいった。


「と、とにかくラーミア!こっちに来い!」


「え?隊長、ラーミアを捕獲したって事はつまり…ミルドニアまで行かなくていいって事ですか!!」


クマシスの顔がパッと明るくなった。

先程までの憂鬱そうな表情が嘘のように。


「そういうことになるな…全軍引き上げ!これからバレラルクに戻るぞ!」


サイゾーの号令に、兵士たちは拍子抜けしながらも、すんなり撤退した。


サイゾーも、内心安堵していた。

戦闘をする必要性がなくなったからだ。


「砲撃して悪かった。まさかお前が乗ってるとは思わなくてな。とにかく、バダリューダ号に移ってくれ!」


「分かりました。あの…この人たちも一緒に連れてってもらえませんか?」


「ああ、そのつもりだ。色々と聞きたい事があるしな。」


サイゾーの視線は、エンディたちを鋭く貫いた。


避難用はしごを一列で渡り、全員がバダリューダ号へ移った。


「グスン…俺様のインダス艦が…。」


どさくさに紛れてはしごを渡るダルマインを見たサイゾーは、思わず叫んだ。


「貴様っ、ダルマイン!!」


兵士たちが一斉に飛びかかり、ダルマインを結束バンドで拘束した。


ダルマインは必死に命乞いをした。

「ちょっと待てよおめえら!確かに俺様はラーミアを誘拐したが、もう改心したんだ!その証拠にラーミアを無事バレラルクまで送り届けようとしてたじゃねえか!おい、おめえらも証言してくれよ!」


「いや、こいつは捕まえておいた方がいい気がするな…。」

エンディの苦笑いをしながら言った。


ラーミアが続ける。

「提督さん、しっかり反省しないとね。」


「ちくしょう〜、もう俺様の人生は終わりだ…。」

ダルマインの絶望は、まるで海底に沈む船のようだった。


「隊長…この女見たことあります。確かノヴァファミリー大幹部のジェシカですよ。」

クマシスがボソッと呟いた。


「なに?本当か?」

サイゾーはジェシカを凝視した。


「本当よ。だったら何?」

ジェシカの反抗的且つ好戦的な態度で言った。


「ジェシカ、煽らないで!サイゾーさん、ジェシカは悪い人じゃないわ?」


ラーミアの声は、まるで波を鎮める光の様だった。


サイゾーは警戒心を募らせながらジェシカに近付いた。


「おいジェシカとやら、お前らミルドニアで何をしていた?ラーミアを助けたのはどういう風の吹き回しだ?答えろ。」


「あなたごときに教える事は何もないわ。」


ジェシカはそう言い終えると、プイッとそっぽを向いた。強気な態度を崩す気配は一向に見られなかった。


「なんだと?マフィアごときが誰に口を聞いている?」


サイゾーはまんまとジェシカの挑発に乗り、苛立ちを募らせていた。


ジェシカの部下の四人は、怯えてオドオドしていた。


「おいおい、みんなちょっと落ち着けよ。」


「そうよ、一旦話し合いましょ?」


エンディとラーミアは場を鎮めようと奔走した。

一方カインは、呆れた視線を投げるのみ。


「おいおいおい…なんの騒ぎだあ?」


すると、奥からいかにも軽薄そうな若い男が現れ、喧嘩の仲裁に入るようにツカツカと歩いてきた。




「あっ…。」

ラーミアの驚きの声をあげた。

どうやら、この男と顔馴染みのようだ。


「厳ついなあ…ここまで来てバレラルクに引き返すのかよ。せっかくミルドニアで大暴れしようと思ってたのによぉ。なあ、どうなってんだよ…ジェシカ?」


男の言葉に、何故かジェシカは即座に跪いた。


サイゾーとクマシスは唖然とする。


「あわわわわ…。ピンク色の髪…右目の下に2つの涙ボクロ…背中にでかい槍…その男は……ナカタム王国王子、ウィルアート・ロゼ…!」

ダルマインは声を震わせ、怯えていた。


「え〜〜!王子様〜!??」


エンディの驚愕は、まるで雷に打たれた叫びの様だった。


部下たちは慌てふためく。


「え?なに?何なのこの状況?全然意味がわからないんだが!?」


クマシスは軽くパニックを起こしていた。


サイゾーが恐る恐る問尋ねた。

「あの…ロゼ王子。なぜマフィアの大幹部であるこの女が、貴方様に頭を垂れているのでしょうか…?」


「ん?こいつは俺がノヴァファミリーに送り込んだスパイだよ。俺が全幅の信頼を置いている3人の腹心のうちの1人だ。」


ロゼは軽快な口調で、しれっと衝撃的な事実を暴露した。


一同は一斉に叫ぶ。

「ええぇぇーーーっ!??」


いつもクールなカインでさえ、微かに動揺していた。



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