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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
22/39

崩れた企み 虚空へと心中

ジェシカ一行は、ミルドニアの白亜の巨塔の入り口で凍りついていた。


眼前に、無数の死体が折り重なり、血の海が広がっていたからだ。


銃声と叫びが響き合い、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


囚人たちの反乱は続いているが、旧ドアル軍の圧倒的な火力に押され、劣勢は明らかだった。


「これは…ひどいね…。」


ジェシカの声は、まるで風に震える枯葉のように儚なかった。


部下の一人が、恐怖に震えながら進言した。


「ジェシカの姉御!こりゃとても取引なんかできる状況じゃねえ!引き返しやしょう!」


「そうね、あなた達先に船に戻ってなさい。」


「え、ジェシカさんはどうするんですかい?」


「ちょっとね…すぐ戻るから待ってて。」


ジェシカはそう言い残し、単身、戦禍の渦へと飛び込んでしまった。


部下の四人は、命令通り、逃げるようにその場を後にした。


---


エンディとフロッドは、エレベーターのあるフロアに到着した。


九機の各階停まりエレベーターが、高層階から一階へ降下する気配が漂う。


おそらく援軍が押し寄せているのだ。

フロッドは、四十階直通のエレベーターが上へ向かうのを確認し、不信の影を瞳に宿した。

いったい誰が?


「だめだ、エレベーターは使えそうにない。くそっ、一足遅かったか!」


「じゃあ階段を登るしかねえ!」


「えぇっ!?冗談でしょ!?」


エンディは猛スピードで階段を駆け登り、フロッドは渋々その後を追った。


二人の足音は、まるで戦鼓が塔内に響くようだった。


「ところでさっき君が助けたいと言っていた人って、もしかしてラーミアって名前の少女かい?」


「そう!知ってるの??」


階段を駆け上がりながら、二人の会話が弾む。


「やはり…そうか、ついに捕まってしまったのか。」


「どうしてラーミアは狙われているんだ?」


「これはあくまで噂だが、その少女は"不思議な力"を持っているらしい。ギルド総帥はその力を利用して近々、ナカタム王国に復讐をするつもりだと聞いたことがある。」


「不思議な力?ギルド総帥って誰だ?」


「不思議な力については分からない。ギルド総帥…いや、ギルドはドアル軍の元総司令官で"軍師"と恐れられたキレものだ。」


「そっか、そのギルドって奴は第五次世界戦争のリベンジを果たそうとしてるってことか。それでラーミアを利用しようと…許せねえぶっ飛ばしてやる!」


エンディの怒りは、まるで燃え盛る炎が階段を駆け上がるよう。

彼のスピードがさらに加速する。


「君はラーミアって子が好きなんだな?」


「そ、そんなんじゃねえよ!」


エンディの目は泳ぎ、まるで照れ隠しの波が揺れるようだった。


十階に到達した瞬間、上から援軍がぞろぞろと降りてきた。

彼らはエンディとフロッドを見つけるやいなや、即座に発砲した。


「いたぞ!」


「ははっ、正面突破して上に向かっているのはこの2人だけか!」


不意を突かれた二人だが、運良く弾丸を回避。


フロッドは機関銃で応戦し、兵士たちは逆走して身を隠した。


エンディは隠れる兵士たちを瞬く間に蹴散らし、階段を激走した。


その姿は、まるで嵐を切り裂く風使いの様だった。


---


一方、ダルマインと三人の部下は、四十階に到着し、息を潜めて四十五階への階段を登っていた。


静寂が支配するフロアは、まるで死の帳が降りたよう。


「しかし提督、えげつないことしますね〜。」


「馬鹿野郎!誰かの幸せってのは誰かの不幸の上に成り立ってるんだよ。血の海に浮く屍の山の上に立ち、民衆は平和を謳歌してるんだぜ?」


ダルマインの言葉は、まるで毒を滴らせる刃のよう。部下たちはその狡猾さにたじろいだ。


四十五階に到達した。不気味な静けさだ。


「よし、着いたぜ。このフロアはギルドとラーミアの部屋があるから今までみたいにすんなり行けねえ。おめえら派手にぶっ放してこい!」


「えぇ…提督はどうするんで?」


不安げな部下を、ダルマインは一喝する。


「おい、少しはオレ様を信用しろよ。おめえらを見捨てる訳ねえだろ?心配すんな、危なくなったらすぐに助けに行くからよ。」


「はいっ!俺たち提督に一生着いて行きます!」


盲信する部下たちは、廊下に出ると一斉に発砲し、ラーミアの部屋とは反対側の通路へ突進する。


「待て!」「貴様ら何をしている!」


警備兵たちは三人を追った。

ダルマインは一人、ニヤリと笑う。


「ギャハハッ!やっぱ持つべきものは頭の悪い部下だな!思考停止した馬鹿が下にいると、上に立つ者は楽だぜ!」


部下が囮になったおかげで、ラーミアの部屋周辺は無人となった。

ダルマインはドアを破壊し、部屋に踏み込んだ。


「ようラーミア、助けに来たぜ?」


「え、あなたどうしてここにいるの?」


ラーミアは目を丸くし、まるで幻を見るようだった。


「エンディは生きてたぜ?お前を助けるために今戦っている。」


「嘘でしょ?本当に…?」


ラーミアは両手で口を塞ぎ、驚愕と希望が交錯した。


「下で反乱が起きてるのはお前も何となく察しがついてただろ?俺様は仲間を連れてミルドニアを出ることにしたんだ。そこで、お前を助けようとしているエンディと手を組んでクーデターを起こしたんだよ。あいつは今頃インダス艦に向かってるはずだぜ?時間がねえ、早くここから出よう!」


「…あなたの言うことは信用できないわ。」


ラーミアの瞳は、まるで凍てついた湖のよう。


ダルマインの顔が歪んだ。


「てんめえぇぇ、時間がねえっつってんだろぉ?グズグスすんなよ!」


癇癪を起こしかけた瞬間、背後に気配を感じた。

振り返ると、ギルドが立っていた。


「ダ、ダルマイン、お前…。なにを…?」


「うるせぇドチビ!!」


ダルマインはギルドを殴り飛ばした。

ほとんどヤケクソだ。

その拳は、まるで積もりに積もった日頃の鬱憤を晴らす怒りの鉄槌のようだった。


「な?これで分かったろ、俺様はもう立派な反逆者なんだよ。お前とエンディは必ずバレラルクまで送り届けるからよ、信じてくれよ!」


「…分かったわ。」


半信半疑ながら、ラーミアはダルマインと部屋を出る。


だが、廊下には十数人の兵士が銃を構え、待ち構えていた。


奥から、血に濡れた大刀を携えたジャクソンが歩み寄る。


「ダルマイン、貴様何の真似だ?」


「お、おいおい落ち着けよ。俺様はただラーミアが敵に奪い返されてねえか心配でよ、確認にきただけだぜ?」


その言い訳は、まるで風に散る砂のよう。


ジャクソンは冷笑した。


「お前の部下がさっき全部吐いたぞ。その後殺したがな。お前、楽に死ねると思うなよ?」


「くそっ、あいつらぁ!口の軽い奴は何やらせてもダメだな!」


ダルマインの顔が引きつる。


ジャクソンの残忍な笑みが迫る。


「ラーミアを人質に取ろうなんて思うなよ?お前はもう完全に詰んでるんだよ。」


絶体絶命の瞬間、ダルマインはヤケになり、奇行に走った。


なんと、ラーミアを抱えたまま、廊下の窓ガラスを体当たりで突き破ったのだ。


「もうどうにでもなりやがれえぇぇっ!」


その叫びは、まるで奈落に落ちる咆哮のようだった。


ラーミアを道連れにするかの如く、四十五階から虚空へと飛び降りてしまった。


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