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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
18/34

三つの思惑

密猟船のキッチンは、まるで戦の後に放置された廃墟のようだった。


腐臭と血の匂いが漂い、明かりの下でエンディの腫れた顔が無残に映る。


カインは彼を見下ろし、まるで古い傷を抉るような悲痛な呟きを漏らす。四人のマフィアは、怒りと恐怖が入り混じる視線をカインに投げる。


「お、おい金髪…ここで何してんだ?」


一人の男の声は震え、まるで幽霊を前にした哀れな魂のよう。


マフィアたちは強面で屈強な体格を誇るが、カインの放つ得体の知れない気配に、蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまった。


彼の瞳は、まるで深淵の底から湧く冷気そのものだった。


「ちょっと、何の騒ぎ!?」


鋭い声が闇を切り裂くように、少女が部屋に踏み込んだ。


オレンジに染めたポニーテールの髪が揺れ、つんけんとした気性の強さがその瞳に宿る。


ジェシカ。密猟船の若きボスだ。


「ジェシカさん!こいつらここで暴れてたみたいで、一体どこから入ってきたのか…。」


四人のマフィアがへこへこと頭を下げる。


その卑屈な姿を見て、カインは一瞬で悟る。

彼女がこの船の支配者だと。


「よう三下のチンピラども。お前らの顔は何度か見かけたことがあるぜ?よく島で動物どもを狩っていたよな?まさかお前らの頭がこんなガキだとは驚いたぜ。」


カインの声は、まるで冷たい刃が風を切るよう。

嘲笑と挑発が混じるその言葉に、ジェシカはムッと眉を上げた。


「ガキって、私と歳が変わらなそうに見えるけど?あなたもあの無人島で密猟をしていたの?」


彼女の声は、まるで火花を散らす剣のよう。

取り巻きの四人も、カインの小馬鹿にした態度に苛立ちを滾らせる。


「俺はあの島に住んでたからな。お前らの動きは筒抜けだったぜ?興味ねえから干渉しなかったけどな。まあ、回りくどい事とかめんどくせえから率直に言うわ。お前らミルドニアに向かってんだろ?俺たちも連れていけ。あれこれ詮索せず、黙って俺の言う事だけを聞け。いいな?」


「なっ、てめえ何とぼけたこと抜かしてやがる…!」


一人のマフィアが怒りに我を忘れ、カインに掴みかかろうとする。

だが、ジェシカの鋭い視線が彼を制し、男は萎縮して退く。


「いいわ。事情は知らないけど、乗せて行ってあげる。」


ジェシカはカインの瞳をじっと見つめ、短い沈黙の後、驚くほどあっさりと承諾した。


そのあまりの決断の軽やかさに、カインは思わず拍子抜けてしまった。


「なに!?ジェシカさん正気ですか??こんな訳わかんねえガキ共の言うことなんか聞く必要ないでしょ!」


「あら、私に意見するの?この2人、私たちに危害を加える気はなさそうだし別に良いんじゃない?」


「いやでも、こんな危なっかしいガキ共を送り込んだ事があいつらにバレたら大変ですぜ?せっかく武器の取引も順調なのに…。」


「そんなの心配ないわ?私たちとあいつらは利害関係が一致しているから関わり合っているだけで、別に敵対勢力から身を守ってあげる義理はないでしょ?目的は知らないけど、この2人がミルドニアで何をしようが私たちは知らぬ存ぜぬよ?」


ジェシカの強気な言葉は、まるで一陣の風が霧を払うように鮮やかだった。


「話のわかる女で助かった。じゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ。ただし、見返りは求めるなよ?」


カインはニヤリと笑う。

その笑みは、まるで闇に潜む狼の牙のようだった。


「ふん、分かったわよ。そのかわりくれぐれも大人しくしていてよね?今別室に案内させるわ。」


カインは気絶したエンディを肩に担ぎ、部屋を後にした。


一人のマフィアが恐る恐る近づき、別室へと案内する。

その足取りは、まるで死神の後を追う亡霊のようだった。


「あーあーこんなに散らかしやがって…それにしても珍しいですね。ジェシカさんほどの人がこんなにツッコミどころだらけの状況を放棄して、あんな小僧の言うことを簡単に聞き入れちまうなんて。」


一人のマフィアが、ジェシカの決断に遠回しに不満を漏らした。

その声は、まるで波間に消える泡沫のよう。


「おもしろいことになりそうな気がしてね。」


ジェシカは珍しく笑った。

だが、すぐに彼女の表情は曇る。


「あの金髪の男は、あまり刺激しない方がよさそうね。」


「そ、そうですね…。ミルドニアまで後1時間ちょっと、気引き締めていきます!」


マフィアの声は、まるで嵐を前にした船員の決意のようだった。


エンディとカイン、ジェシカ率いるマフィア、ナカタム王国の軍と保安隊の連合。


三つの勢力が、異なる思惑を胸にミルドニアへと向かう。


その航路は、まるで運命の糸が絡み合う織機のよう。


やがて訪れる戦いは、巨大なハリケーンの前触れに過ぎない。

そよ風が、嵐の咆哮へと変わる瞬間が近づいていた。


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