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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
166/180

空から落ちた祝福

「トルナド!?トルナドって、あのトルナド!?天星使きっての暴れん坊で有名な??」


ルミエルは頬を紅潮させ、高揚した声で問いかけた。


「はっ、なーにが暴れん坊だよ!俺ぁただ好きな様に生きてるだけだ!俺ぁ誰よりも自由なんだ!」


胸を張って得意げに言い放つトルナド。

その横顔は、どこか誇らしげであった。


「えー!すごい!貴方、超有名人よ!私ね、いつか貴方に会ってみたいと思ってたの!こんなところで会えるなんて…感激!」


ルミエルは両手でトルナドの右手をギュッと握りしめ、心からの喜びをぶつけてきた。


生まれて初めて女性に手を握られたトルナドは、茹でタコの如く顔を真っ赤に染めていた。


「や、やい!気安く触るんじゃねえよ!怪我してえのか!」


照れ隠しも相まって、トルナドはルミエルの手をぶっきらぼうに振り払った。


すぐさま両足に風を纏い、逃げるように飛び立とうとする。


だがその瞬間――


「えいっ!」


ルミエルは無邪気な声を上げてジャンプし、トルナドの背中にしがみついた。


「はっ!?おいてめえ何してんだよ!?」


反射的に背中を支えてしまったトルナドは、もはや自分が何をしているのか理解不能だった。


「ねえねえ、どこ行くの?」


「腹が減ってむしゃくしゃしてしょうがねえからよ、食えそうなもん持ってる野郎を片っ端から襲撃して奪ってやるんだ!ついでにぶん殴ってやろうとも思ってる!」


トルナドは虚勢を張って、自分を悪く見せようと必死だった。


しかし――その意図など、ルミエルにはとうに見抜かれていた。


「ふーん…じゃあ私も連れてってよ。」


「はぁ!?ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ!」


「だって貴方と一緒にいたら、なんか楽しそうなんだもん!お願い!」


無垢な笑顔に押し切られ、トルナドは観念したように溜息をつき、渋々承諾した。


背中にルミエルを乗せたまま、トルナドは勢いよく空を翔けた。


一気に上空100メートルを超え、さらに速度を上げていく。


「ワッハッハー!どうだ!?怖えか!?俺は怖くねえ!なんならもっと高いところまでいってよ、お前を突き落としてやってもいいんだぜ!?」


心にもない意地悪を並べ立てるが、ルミエルは――


「きゃー!気持ちいい!最高!」


まるで遊園地の絶叫マシンでも楽しむかのように、大はしゃぎしていた。


盲目とは到底思えぬその肝っ玉に、トルナドは仰天していた。


「やい!人の背中でぎゃーぎゃーうるせえぞ!まじで突き落とすぞ!」


怒鳴ると、ルミエルはすぐに静かになり、ニコリと微笑んだ。


そして次の瞬間――


「えいっ!」


なんと、ルミエルはトルナドの背中から地上に向かって飛び降りた。


一切の躊躇もなく、まるでバンジージャンプを楽しむかのように、空中を真っ逆さまに落ちていった。


「きゃーー!」

ルミエルは心底楽しそうに叫んだ。


トルナドは真っ青な顔で急降下し、寸前でルミエルをキャッチした。


心臓が喉から飛び出るかと思うほどの衝撃。

胸の鼓動は止まることなく高鳴り続けていた。


だが――


「あー楽しかった!」


両腕で抱えられたルミエルは、屈託なく笑っていた。


その無鉄砲さに、ついにトルナドは怒りを爆発させた。


「馬鹿野郎てめえ!なに考えてやがる!?頭おかしいのか!?」


だが彼女はケロリとして答える。


「あれえ?さっき私を突き落とすなんて言ってたのは、どこの誰かな〜?」


「だ…だからって急に飛び降りることはねえだろ!お前イカれてやがるぜ!」


「だってトルナドなら絶対に助けてくれるって信じてたもん。ありがとね?」


優しく微笑むルミエルに、トルナドは完全に気圧されていた。


「トルナドは口は悪いけど、本当はとっても優しくて素敵な男の子だよね!私ね、そういうの分かるんだ!」


「…なんでさっき会ったばかりなのにそんなこと言い切れるんだよ?」


「う〜ん、何でだろう?目が見えない分、他の感覚が人一倍優れてるのかな!第六感心の目ってやつかなあ??」


「はっ、下らねえこと言いやがって!」


トルナドは鼻で笑ったが、どこかこそばゆくて照れ臭かった。


どれほど空を飛んでいたのか――。


空は夕焼けに染まり、あっという間に夜が訪れた。

時間の経過が、これほど早く感じたのは初めてのことだった。


ほとんど言葉を交わさずとも、沈黙の空気は不思議と心地よかった。


見渡す限り、魔法族に焼かれた大地と崩れた街並み。

なのに、トルナドの心は今までにないほど落ち着いていた。


そして夜が更ける頃――


一つの山の上空に辿り着く。


そこは奇跡的に焼かれておらず、緑が生きていた。

まるでこの大地に残された最後の神域のように。


トルナドとルミエルは、静かに降り立った。


「なんか…私もお腹空いてきちゃった。」


「ワッハッハ!ちょうどよく良い森に来たもんだな!ここなら野生動物もまだ生き残ってそうだ!サバイバルといこうか??」


その言葉に、ルミエルの顔が輝く。


「お疲れ様!ありがとうね、トルナド!」


「……。」


トルナドは照れ臭そうに無視し、キョロキョロと周囲を見渡した。


「さてと、食えそうなもん探すか。」



森はまるで深海のような静寂に包まれていた。

枝葉の揺れる音が、不気味な静けさをむしろ強調していた。


――何かがいる。


直感でそう察したトルナドは、ピタリと動きを止めた。


ルミエルも同様に、異変を感じていた。


そして――


森の奥から、カツン、カツンと足音が響いてくる。


姿を現したのは、ブロンドの長髪を持ち、黒の軍服のような衣を纏った男。


右手に剣を携え、二人に背筋を向けることなく、ぴたりと立ち止まる。


「ワッハッハー!誰かと思えば…ルキフェルじゃねえかよぉ!」


「ルキフェルさん…!」


その正体は、冥花軍最高司令官――ルキフェル閣下だった。


「お久しぶりですね…トルナドさん、ルミエルさん。お迎えにあがりました。」


淡々としたその口調には、底知れぬ闇と冷気が宿っていた。



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