予想外の葬列 怒りを凍らせるな
モスキーノは、2体の魔法族の亡骸をまるで路傍のゴミのように、軽々と地面に放り投げた。
それらはただの死体ではない。
どちらも魔法族最高位、冥花軍の精鋭に名を連ねる強者たちだった。
最初に斃れた魔法族の名は、ピエール・ウノピュウ。
その髪型は、まるで傘をかぶったキノコのようで、無邪気な風貌とは裏腹に侮れぬ存在感を放っていた。
首元に刻まれていた花の名は“カンガルーポー”。
花言葉は“不思議”。
本人曰く、「不思議とは、それ即ち予想外!」とのことだった。
モスキーノが対峙したとき、彼は即座に冷気を放ち、ウノピュウの身体を凍らせようとした。
だが、冷気はまるで温風のように霧散し、ウノピュウの肉体に届かなかった。
「あれれ〜?何でだろう〜??」
モスキーノは肩をすくめてそう呟いた。
まるで他人事のように。
「お前が今何を考えているか当ててやろう…自慢の能力が俺に効かなくて、“予想外”だと!そう思っているんだろう?」
ウノピュウが不敵に叫ぶと、次の瞬間、モスキーノの右肩と脇腹に浅い斬撃が走った。
振り返るべき相手も、斬りつけるべき影もない。
それでも確かに、身体は裂かれていた。
“予想外”とは、かくも物騒な奇跡である。
「なぜ突然傷を負ったか不思議に思っているか?そう、これも…予想外!予言する…これからお前の身には、立ち所に予想外な出来事が起こり続けるだろう!そしてお前は、最期に“予想外な死”を迎えるだろう!」
それが、ピエール・ウノピュウの遺言となった。
モスキーノは静かに、ウノピュウの頭上に氷の刃を浮かべた。
氷剣はまるで裁きの槌のように振り下ろされ、彼の頭蓋を真っ二つに叩き割った。
無感情にして華麗なる殺戮だった。
「あれれ〜?もしかして、自分の死は予想外だったあ?」
モスキーノは冷酷にニタリと笑った。
そしてその直後、彼の前にもう一人の強者が姿を現した。
その名は、ピスキウム大司教。
落ち着いた法衣に身を包み、知性を湛えた表情で立つ男は、まさに高位の僧侶といった風体。
しかし、その実態は死を念じるだけで現実のものとする、極めて恐ろしい魔法族だった。
首元に刻まれていた花の名は“スノードロップ”。
花言葉は“貴方の死を望みます”。
モスキーノは彼の力を目の当たりにした。
彼を討ち取ろうとした兵たちが、まるで糸が切れた人形のように、次々と謎の突然死を遂げていったのだ。
「すごっ!ねえねえ!それ何の能力?」
モスキーノは目を輝かせながら無邪気に尋ねた。
興味本位とも挑発ともつかぬその問いに、ピスキウム大司教は待ってましたとばかりに語り出した。
自らの能力の詳細。
いかに自分が優れた存在であるか。
魔法族の中でいかなる功績を成してきたか。
その舌は、誇りと傲慢を混ぜ合わせて滑らかに踊った。
だが、それこそが敗因だった。
モスキーノは笑顔を保ったまま、即座に結論を下す。
“なら念じられる前に殺しちゃえばいい。”
再び宙に氷剣が出現し、今度はピスキウム大司教の喉元を無慈悲に切り裂いた。
そして今、モスキーノはその2体の亡骸を戦利品として携えながら、次なる標的へと歩みを進めていた。
その相手こそ、ルキフェル閣下。
「初めまして。ナカタム王国王族特務国土防衛軍将帥、氷の天星使ベアナイト・モスキーノさんですね?」
ルキフェル閣下が名を呼ぶと、モスキーノは笑顔で振り返った。
「そうだよ!よく知ってるねえ〜!」
「我が同志を2体も…。ウノピュウさんはともかく、ピスキウム大司教さんまで殺されてしまうとは予想外でした。これではこちらの戦局が大きく傾いてしまいますね。」
ルキフェル閣下は嘆息混じりに言いながらも、その声色からは真の焦りは感じられなかった。
「こいつら全然話にならなかったよ〜?」
モスキーノはニコニコとしながらも、あからさまな煽り口調で返した。
「流石ですね。貴方を5人の要警戒人物の1人に指定した私の判断は、間違っていなかった様です。ところでモスキーノさん、何をそんなにお怒りなんですか?」
その一言で、場の空気が変わった。
笑っているはずのモスキーノの瞳に、冷たい火が灯っていることを、ルキフェル閣下は見逃さなかった。
それは、笑顔で覆いきれるものではなかった。
「ここへくる途中ね、部下から報告を受けたんだ…ポナパルトが死んだって。まあ、仕方のない事なんだけどさ!俺たち戦士は常に死と隣り合わせな訳だし!国を護るために戦って死ぬなんて、戦士としての本懐だしね!きっと天国でポナパルトも言ってるよ…“本望だぜ!”ってね!」
口調は明るいが、声の奥底には震えがあった。
「とどのつまり、何が言いたいんですか?」
ルキフェル閣下が冷静に問いかける。
「ポナパルトはね…チャランポランな俺をいつも叱ってくれたんだ。あいつに叱られるとね、背筋がピンと伸びて気が引き締まるんだよ。まあ、少しうざいんだけどね!でもさ…あいつが死んだ今、誰が俺を叱ってくれるんだろう??」
寂しさを茶化すように、モスキーノは苦笑いを浮かべる。
「随分と後ろ向きな考え方ですね。自分を叱ってくれる人が居なくなってしまった時こそ、自分自身を見つめ直し成長できる良い機会なのでは?」
ルキフェル閣下は冷静に返した。
「ははっ、耳が痛いなあ。」
モスキーノは額に手を当てて笑ったが、その笑顔はどこか虚ろだった。
「ポナパルトさん以外にも、この国ではたくさんの戦闘員が殉死してしまいましたね。しかしそれは、命懸けで我らに抗った末の、名誉ある死です。讃えてあげるべきだと思いますけどね。」
ルキフェル閣下は淡々と言ってのけた。
その瞬間だった。
モスキーノの表情から、完全に笑みが消えた。
「無抵抗の市民まで虐殺しておいて、よく言うよ…。ねえ…こんな事してただで済むと思ってるの?絶対に許さねえからな。てめえら全員1匹残らず、俺の手で地獄に叩き堕としてやるよ。」
その目は血走り、声は怒りに震えていた。
狂気の底から湧き上がるような憎悪が、今やその身を包んでいた。
普段は道化のように笑い続ける彼が、敵を前にすると豹変する。
その裏表の激しさは、二年経った今もなお色褪せることはなかった。
モスキーノは、全身から白銀の吹雪の如き冷気を放出した。
その冷気は、まるで周囲のすべての物質を停止させるかのような、絶対零度の殺意だった。
「素晴らしい御力ですね。貴方と御手合わせ出来ることを、光栄に思います。」
ルキフェル閣下はどこまでも優雅に、どこまでも冷静に、鞘からゆっくりと剣を抜いた。




