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輪廻の風  作者: 夢氷 城
第1章
11/48

不思議な力の覚醒

空は暴力の重みで脈打ち、鋼と骨が響き合う混沌の織物が広がっていた。


エンディはまさにその嵐の中心に立ち、星々の墜落にも耐える孤高の火花のようだった。


四方八方から襲い来る兵士たちは、鉄の影をまとい、動きは天体の時計の針のように精緻だった。


一撃一撃が星の崩落のごとく轟き、エンディの身体を震わせたが、彼はなお立ち続けた。

嵐にしなる若木のように、折れることなく。


ダルマインは三本目の煙草に火をつけ、唇に狡猾な笑みを刻みながら、目の前で繰り広げられる集団リンチの情景を、まるで劇場の幕間のように眺めていた。


紫煙が彼の周りを幽霊のように漂い、嘲笑の吐息と溶け合う。


この兵士たちは強靭だった。


エンディがこれまで拳を交えた町のチンピラや敗戦国の残党たちとは別格の存在だった。


個々の戦闘力は鋭利な刃のようで、苛烈な訓練の刻印をその動きに宿していた。


だがエンディは怯まなかった。


何度殴られようと立ち上がり、投げ飛ばされ、蹴り倒されても這い上がり、反撃の牙を剥いた。


エンディは苦戦を強いられていた。


もしこの戦いが五対一だったなら、エンディの勝利は揺るぎなかっただろう。


だが、十九対一という圧倒的な数。

それはあまりにも過酷な試練だった。


少年の無垢な顔は無情にも腫れ上がり、血と汗がその輪郭を汚していた。


「くっ、何だよこのガキ。まだ倒れねえのか?」


兵士たちの声には苛立ちと困惑が滲む。


エンディの不屈の闘志と鋼のような耐久力は、彼らの戦意を鈍らせていた。


「ギャハハッ!こりゃ想像以上に強えな!ここで殺すにゃ勿体ねえ逸材だ」


ダルマインの笑みは闇を裂く刃のようだった。

煙草の火が彼の目を赤く染め、獰猛な獣のような光を放つ。


「もうやめろよ!これ以上やったら本当に死んじまう!」


「かわいそうに…まだ子供なのに。」


港町の人々は遠くから見守るだけだった。


エンディの命を案じる声は風に乗り、しかし誰も助けに動こうとはしなかった。


彼らの目は悲哀に濡れ、ただ戦場の惨劇を静かに刻んでいた。


エンディはもはや立っていることすら奇跡だった。


顔は血に塗れ、左腕は折れ、骨の軋む音が彼の息遣いに重なる。


あどけない顔は容赦なく腫れ上がった。



「気持ちわりいガキだ!首の骨へし折ってやる!」


一人の兵士が獰猛に吠え、エンディに迫ろうとしたその瞬間、遠くから悲鳴にも似た叫びが響いた。


「もうやめて!」


ラーミアだった。

彼女の声は風を切り、戦場の喧騒を一瞬だけ凍りつかせた。


「おい!ありゃラーミアじゃねえか!」


「へっ!やっぱこの町にいやがったか!」


兵士たちの視線がラーミアに集まり、ざわめきが波のように広がった。


だがダルマインは動じず、煙草をくゆらせながら冷ややかに事態を見据えていた。


「目的は私でしょ?大人しく着いていくから、だからこれ以上関係ない人を傷つけるのはもうやめて!」


ラーミアはそう叫ぶと、ダルマインへと歩を進めた。



彼女の瞳には決意と恐怖が交錯し、足元は震えながらも止まらなかった。


「や…めろ、くるな、ラーミア…逃げろ。」


エンディの声は弱々しく、血と汗にまみれた身体がふらつく。彼の言葉は風に散り、力なく地面に落ちた。


ラーミアは走り出した。

涙が頬を伝い、彼女の心を映す鏡のようだった。


「ごめんねエンディ、私のせいで。もう大丈夫だから!」


「いいから、逃げ…ろ。」


「逃げない!ねえお願いもうやめて、あなたたちの言う事何でも聞くから!」


「なんだあ?お前ら知り合いだったのか?まあお前さえ大人しく着いてくるなら全て丸く収まる。さあオメエら、ラーミア連れてとっととズラかるぞ!」


ダルマインの声が戦場を切り裂いた。

兵士の一人がラーミアを捕らえようと動いた瞬間、エンディの拳が雷鳴のようにその顔面を打ち砕いた。


そして、ラーミアに向かって怒号を放った。


「だからさあ、怖いなら逃げればいいだろ!!」


ラーミアは呆然と立ち尽くした。

彼女の瞳はエンディの叫びに揺れ、時間が一瞬止まったかのようだった。


ダルマインは冷ややかな視線をエンディに投げた。

まるで殴られすぎて正気を失った獣を見るかのような目だった。


「怖かったら逃げてもいいんだ!自分の心を押し殺してまで、無理に立ち向かう必要はない!!」


エンディは息を荒げ、叫び続けた。


だが次の瞬間、彼の声は柔らかく、まるで春の風のようにラーミアを包んだ。


「怖いものを怖いと認めることは恥ずかしいことじゃないよ。誰かに助けを求めることも恥ずかしい事じゃない。約束する…絶対におれが助ける!」


その笑顔は、今まで誰も見たことのない温もりだった。

まるで夜明けの光が彼の顔に宿り、ラーミアの心を照らしているようだった。


「エンディ…私ね、ずっと怖くて怖くてどうしようもなかった。助けてください…!」


ラーミアの声は震え、涙が堰を切ったように溢れた。


彼女は誘拐されてから今まで、恐怖を胸に押し込め、気丈に振る舞ってきた。


その仮面をエンディの優しさが剥がし、彼女の心は解放された。

安堵と悲しみが交錯し、涙となって零れ落ちたのだ。


「お取り込み中悪いねえ。俺たちゃ忙しいからよ、しょうもねえ茶番劇に付き合ってる暇ねえんだわ。」


ダルマインの声は冷酷だった。

彼はラーミアの両腕に、まるで運命を縛る鎖のような手錠をはめた。


「ラーミアから離れろ!」


エンディの叫びが空を裂く。


だがダルマインは無視し、配下に命じた。


「やいてめえら!このエンディとかいうガキをブッ殺せ!発砲を許可する!」


兵士たちは一斉に銃を構えた。


気絶していた二人も目を覚まし、総勢二十の銃口がエンディを捉えた。


彼はもはや動くこともままならず、憔悴しきっていた。


「待って、本当にやめて!」


ラーミアの叫びが響いた。

だが、ダルマインの声がそれを掻き消した。


「撃て!」


二十の凶弾がエンディを襲った。

射手の腕は熟練そのもので、距離はわずか十メートル。

急所を外すはずがない。

誰もがエンディの死を確信した。


ラーミアの泣き叫ぶ声が戦場を切り裂いた。

エンディ自身も、自らの命の終焉を覚悟していた。


結局、自分が何者なのかも知らぬままだった。

救いの手を差し伸べてくれた少女を守れなかった。

人生とはかくも儚いものかと、彼は静かに死を受け入れようとした。


だが、その瞬間、奇妙な事が起きた。


エンディの全身から突風の様なものが迸り、まるで神の息吹のように弾丸を弾き返したのだ。


その風はダルマインの配下二十人を薙ぎ倒し、一掃した。


エンディは生きていた。


彼自身、何が起きたのか理解できなかった。

風は彼の周りを渦巻き、まるで彼を守る精霊の舞のようだった。


「エンディ…まさかあなたも…?」


ラーミアの声は驚愕に震え、しかし安堵の色が滲む。

彼女の瞳には、エンディが自身と同様、何か特別な存在であるという確信が宿っていた。


ダルマインの背筋に冷たいものが走った。


彼は一瞬でエンディに詰め寄り、腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。


満身創痍のエンディはその場に崩れ、ついに意識を失ってしまった。


「エンディ!!」


ラーミアの叫びが空に響く。



ダルマインは冷たく命じた。


「おいテメェらいつまで寝てやがる!さっさとラーミアを船に乗せろ!そして…そのエンディとかいうガキも生捕にする!」


「え?この小僧もですか?どうしてまた?」


「ガタガタ言ってねえで急げ!」


ダルマインは黒船へと急いだ。


兵士たちは気絶したエンディと抵抗をやめたラーミアを連れ、そそくさとインダス艦へと向かった。


二十三人が乗船を終えると、インダス艦は大海原へと滑り出した。


水平線の彼方へと消えていくその姿は、まるで冥府へと続く亡魂の棺桶のようだった。


平和ボケした港町の人々は、目の前で繰り広げられた出来事を現実と受け入れるのに時間を要した。


わずか三十分にも満たない事件だったが、その劇的な展開は、まるで映画の世界のようだった。


インダス艦は遥かなる海の果てへと消え、平和な港町に静寂が戻った。


その静寂は、嵐の前の静けさに似ていた。


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