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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
106/180

光が見逃した影 魔法族、再誕

「おいカイン、誰だよこいつ?知り合いか?」


エンディは突然現れた不審な男を睨みつけながら、警戒心むき出しで訊ねた。


「いや、知らねえな。」


カインが即答すると、男は露骨に傷ついたような顔を見せた。


「知らないだとぉ!?ふざけるなよ!貴様、恩師を忘れるとは何事だ!」


「は?恩師?何言ってやがる?」


カインの脳内には、いくつものクエスチョンマークが浮かび上がっていた。


「私はマルクスだ!ユドラ帝国の神央院で天文学の教授として教鞭を執っていた!やれやれ…教育者にとって、教え子に忘れ去られる事ほど嘆かわしい事はない。」


そう名乗ってもなお、カインの表情にはまったく覚えの色が浮かばなかった。


「俺もあんたのこと知らねえなあ。」


エンディが肩をすくめて言うと、マルクスはやれやれと首を振った。


「それは当然だろう。なぜならエンディ、お前は不登校だったからな。」


その瞬間、エンディの拳がマルクスの顔面を捉えた。


「うわあ〜〜〜っ!」


大声を上げて吹き飛ばされたマルクスの身体は、王宮のバルコニーを飛び越え、地上の庭園へと真っ逆さまに落下した、かに思えたが。


彼の身体は落下せず、そのまま空中にふわりと静止していた。


「……え?」


エンディとカインは、マルクスの異様な姿に驚愕した。


エンディも対抗するように風の力を発動し、足元からそっと浮き上がっていく。


気流を操り、マルクスへとゆっくり接近していった。


「おい、ユドラ人が何の用だ?イヴァンカの復讐か?それとも…イヴァンカの封印でも解きに来たのか?」


エンディが鋭く問いかけると、マルクスは数秒間きょとんとした後、甲高い声で哄笑し始めた。


その騒ぎを聞きつけて、ロゼたちもバルコニーへと走り込んできた。


「おいおい、なんだよあいつ?」


「宙に浮いてる…何者だろう。」


ノヴァとラベスタが、上空の異様な男を見上げて声を漏らす。


「イヴァンカだと?あの様な負け犬に用など無い!この私が今更、あんな者の為に動くと思うか!!」


マルクスは感情の昂ぶりを隠そうともせず、語気を荒げた。


「負け犬って…おいおい、居なくなった人間には言いたい放題だな?」


エンディが皮肉めいて返すが、マルクスは意に介さず、鼻で笑った。


彼は宙に浮きながら、バルコニーに集まってきた面々を見下ろし、愉悦に満ちた笑みを浮かべていた。


「ギャラリーが集まって来たな…おい貴様ら!宙に浮く私を見て、何か思い出すことはないか?」


その言葉に、カインの心臓が微かに跳ねた。


二年前。

イヴァンカが闇の力を吸収し、宙を舞っていたあの忌まわしい光景が脳裏をよぎる。


「そして…“この力”に見覚えはないか?」


マルクスの身体から、じわじわと黒い蒸気のようなものが溢れ出した。


それは確かに、あの時イヴァンカが纏っていた“あの力”と同質のものだった。


「私は闇の力を与えられ、“魔法族”になったのだ!魔法族となり、ユドラ人など遥かに超越した私に敵はいない!さあ…死んでもらうぞ、天星使共!」


宣言と同時に、マルクスの周囲に黒い衣を纏った七人の男たちが現れた。


その全員が、彼と同様に黒い蒸気を纏いながら宙を浮遊し、不気味に笑っていた。


「ぎゃはははははーっ!」


「死ねえー!!」


下品な罵声とともに、八人の男たちは手から黒い光線を放った。


それは王宮を目掛けて一直線に撃たれた。


「これは”死雨”だ。触れた物の全てを破壊し消し去る闇の光線だ!王宮諸共滅びろ!!」


その攻撃は、一瞬で宮殿を包み込むかと思われた。


だが次の瞬間、地を這うような音とともに、巨大な炎がその黒い光線を吹き飛ばした。


発動者はカインだった。


「チッ、出しゃばりやがって。こんなしょぼい攻撃、俺がサクッと相殺してやろうと思ったのによ。」


ノヴァが肩をすくめて呟いた。


エンディは、今の仲間たちの強さを誇りに思った。


二年前よりも遥かに逞しく、どこまでも頼もしい。


宙に浮かぶマルクスとその一派は、顔を歪めていた。


「舐めるなよ貴様ら…ならば!もっともっと強力なモノをお見舞いしてやる!!」


彼らはさらに強大な魔力を手に込め、王宮に向けて再び死雨を放とうとした。


「これはやばいな…!」


エンディは咄嗟に臨戦体勢へと入る。


両手に風の力を集中させ、全力で防御に転じようとした。


だが、異変は突如として起きた。


「う…うおぉぉぉお…!」


「がっ…がはっ…!」


マルクスたちは突如苦しみ始めたのだ。



胸を押さえ、咳き込み、痙攣しながら、もがき苦しんでいる。


「おい!お前らどうしたんだよ!?」


エンディは理解が追いつかず、混乱していた。


「馬鹿な…どうして…??何故ですかーっ!“御闇(みくら)”ーっ!!」


マルクスは空を仰ぎ、狂ったように叫んだ。


その直後だった。


マルクスを含む八人の魔法族たちは、突如として体内から破裂し、凄まじい爆音と閃光を残して、木っ端微塵に四散した。


咄嗟にエンディが風の防御を展開し、爆風は王宮にも地上にも届かなかった。


しかし、その場に残された者たちは誰一人として、今起きたことをすぐに理解できなかった。


「なんだよ…何が起きたんだよ…?」


エンディは呆然と呟いた。


無理もなかった。

誰の目にも、その出来事は理解の範疇を越えていた。


だが、全員が無言で、ある一つの事実だけを否応なく、思い出していた。


それは、二年前のあの終焉の夜。


ユドラ帝国が崩壊したあの日、あの建物の中から大量の封印物が空へと舞い上がっていった、あの光景。


誰もが、それを“なかったこと”にしたかった。


戦いは終わったのだ。

世界は平和になった。

そう、信じたかった。


だから誰も触れなかった。

この二年間、それはまるで“暗黙の了解”として封印されてきた。


だが今、忘れたふりをしていた現実が、形を持って再び現れたのだ。


悲劇は、いつだって平和のすぐ隣にある。

闇は、常に光の隣に潜んでいる。


そして今、復活した魔法族が、再び世界に闇を齎しに来た。

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