表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻の風  作者: 夢氷 城
第2章
103/180

風の果て、闇の始まり

イヴァンカが封印されてから、静かに時が流れていた。


わずか数十分であったが、それは戦火を潜り抜けた者たちにとって、ようやく訪れた平穏の時間だった。


ラーミアは疲れた身体を引きずりながら、仲間たちの治療に奔走していた。


「ラーミア、大丈夫か?」


エンディが心配そうに声をかけた。


ラーミアの顔色は青白く、封印術の行使による極度の消耗が彼女の体を蝕んでいた。


「平気よ、ありがとう。」


笑みを浮かべながらも、その声には無理を押し殺す響きがあった。


その姿は、あまりにも健気で、あまりにも美しかった。


そこへ、アマレットが静かに歩み寄ってきた。


「ラーミア…ありがとう。」


深々と頭を下げたその姿勢には、感情のすべてが滲んでいた。


「アマレット、これからも末長くよろしくね?」


ラーミアはふわりと笑いかけた。


アマレットは目を潤ませながらも、「うん!」と強く頷いた。


イヴァンカが封印された水晶玉は、ロゼがしっかりと掌に抱えていた。


「こいつは国で厳重に保管しておこう。」


その瞬間。


大地を揺らすような地響きが、空気を震わせた。


バベル神殿が、音を立てて崩れ始めたのだ。

まるで神話の終焉を告げる様に。



「おおっ!これは一大事だ!みんな、早く脱出しよう!!」


モスキーノはなぜか少し浮かれた様子で叫んだ。


「そうだな、みんな怪我もそれなりに治ってきたし…。」


エンディの声に応じ、ラーミアも治療の手を止め、皆が立ち上がり、避難の準備を始めた。




しかし、ノストラだけは、微動だにせず地に横たわっていた。


「ノストラさんも、早く逃げるよ!」


エンディが駆け寄り、肩を貸そうとしたそのとき、ノストラはゆっくりと首を横に振った。


「ワシはいいから、おどれらは早く逃げろ。滅びゆくユドラ帝国と共に、ワシはここに残る。」


その言葉に、一瞬空気が凍った。


「何言ってんだよノストラ先輩!早く逃げましょうよ!」


エラルドが叫んだ。

しかし、ノストラは立ち上がらなかった。


否、立ち上がれなかったのだ。


「ワシはもう死ぬ。イヴァンカの雷に撃たれてのう、心臓の持病が悪化してもうたわい。」


声は静かだったが、そこに偽りはなかった。

ノストラの顔には、明らかな死の影が差していた。


「そんな…ラーミア!治せないのか!?」


エンディが叫んだ。


「私は外傷しか治せないの…病気の治療は出来ない…。」


悔しそうに俯くラーミア。

その肩が小さく震えていた。


「そんな悲しげな顔をするな。生まれ故郷に骨を埋めれるんじゃ、ワシは幸せじゃい。エンディ…ちと顔を見せてくれんかの。」


ノストラの声に促され、エンディはその顔を見つめた。


「ありがとうな、エンディ。おどれのお陰で、ワシは生き直すことが出来た。運命に抗い戦い続けるおどれの姿に、たくさんの勇気を貰ったわい。これからも仲間を大切にして…自分の信じる道を貫いたれよ…いつまでも真っ直ぐなままでおるんじゃぞ…ええな?」


その言葉の一つ一つが、深く胸に刻まれていった。


「ノストラさん…俺その言葉、絶対に忘れません!今まで本当にありがとうございました。あなたの生き様はしっかりこの眼に焼き付けました…これからは…ゆっくり休んで下さい。」


エンディは涙を零しながら、その手を握り締めて言った。


彼が手を離すと、ラーミアがそっとノストラの手を握った。


そして、ロゼが。エスタが。

ジェシカ、モエーネ、アベル、エラルド、3将帥、カイン。

更にダルマインまでも。


一人、また一人と、静かに手を添えていく。


そこには言葉はなかった。

あったのは、ただ一つの確かな想いのみ。


「若い世代に囲まれて天寿を全うする…幸せじゃな。あ〜、楽しかった!」


そう呟いて、ノストラは静かに瞼を閉じた。


やがて彼は、まばゆい光に満ちた神秘的な扉の前に立っていた。


その扉の前には、ウィンザーとハルディオスが待っていた。


「ノストラ師匠…俺たち、その…。」


二人は気まずそうに言葉を探していた。


「おどれら…再びワシのことを…師と呼んでくれるんかい?」


ノストラの頬が、嬉しさに緩んだ。


「もうよい、何も言うな。さあ、行こうか。昔みたく、また3人で仲良くやっていこうや。」


彼はそう言って、かつての教え子たちと共に、扉の向こう側へと旅立っていった。


静かに微笑みながら。


ノストラの亡骸の前に、皆は黙祷を捧げた。


そして。


「よしみんな、行こう。」


エンディの号令と共に、仲間たちは再び走り出した。


「俺たちはどうすれば…。」


エラルドが言った。


アベルもアマレットも、同じ気持ちだった。


かつて敵だった彼らは、仲間と呼ばれる資格があるのか迷っていたのだ。


「何言ってんだよ、お前らは俺たちと一緒に戦ってくれた…もう俺たち仲間だろ?水臭いこと言ってないで、一緒にバレラルクに行こうぜ?」


エンディの声は、優しく、まっすぐだった。


「エンディ〜、それは新国王の俺が決めることだぜ?まあ、その気持ちは俺も同じだけどよ。おいお前ら、一緒に来い。今日限りでユドラ帝国は滅びたけどよ、無害なユドラ人はみんな迎え入れるつもりだ。その代わり、これからはしっかり働いてもらうぜ?」


ロゼの言葉に、エラルドたちは心からの感謝を込めて頷いた。


「で?お前はどうすんだよ?アズバール。」

ロゼは敢えて答えのわかりきった質問をした。


「ククク…勿論俺は、てめえらと迎合する気も、悪事を辞める気も無えぜ?当然だろうが。」


予想通りの答えに、エンディたちは思わず苦笑いした。



「はっ、だろうな。お前が心を入れ替える訳ねえわな。俺もおかしな事を聞いたわ。今すぐてめえを捕らえて公開処刑でもしてやりてえ所だが…生憎、今の俺たちにそんな元気はねえしな。今日のところは見逃してやるよ。」

ロゼは、早急に視界から消えてくれ、と言わんばかりの表情で言った。


「ククク…別に今すぐ殺しあっても構わねえぜ?」


疲弊し、そんな気力もないくせに痩せ我慢をするアズバールに、エンディは呆れた顔で「無理すんなって」と言った。


「ただし、次会った時は容赦しねえ。てめえの情報は各国に通達し、重大犯罪人として国際手配する。せいぜい俺たちに見つからねえよう、世界中を逃げ回る事だな?」ロゼは嫌みたらしく言った。


「ククク…上等じゃねえかよ。てめえらこそ、次会った時は覚えておけよ?俺は逃げも隠れもしねえからよ?」


「お前がまた悪さするなら、俺が何度だって止めてやる!」


エンディとアズバールは視線が合い、バタバタと火花を散らせた。


そのときだった。


パンドラの屋根が突如、轟音と共に吹き飛んだ。


天井が砕け、そこから漆黒の煙のようなものが、凄まじい速度で空へと昇っていった。


「……!」


エンディの心に、鋭い胸騒ぎが走った。


彼は直感的に、パンドラへと駆け出した。


「エンディ!不用意に近づくな!」


カインが叫びながら追いかける。


その背に続く仲間たち。


全員がパンドラの内部へと駆け込んだ。


そこで彼らが目にしたものは、想像を絶する光景だった。


巨大な水晶玉も、魔王の配下と思しき無数の石像も、そこには無かった。


かつて禁忌の力が渦巻いていた神殿は、一瞬にしてもぬけの殻になっていた。


彼らが空を見上げても、何もなかった。


あの闇は、どこへ向かったのか。


誰も口を開こうとはしなかった。


恐ろしい想像が、全員の脳裏を駆け巡っていた。


やっと、戦いが終わったばかりなのに…。


信じたくなかった。


忘れてしまいたかった。


だが、現実は残酷だった。


昇りゆく闇の波動。

それはまるで、呪いのように脳裏に焼きついた。


それは、終わりの始まり。

500年の時を越え、封じられし魔法族たちがついに、復活したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ