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破滅させる側だった俺が、悪役令嬢を守る話  作者: おにわさ


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13/32

失言王子と正論男爵

 温室を出てから、俺とロイドはしばらく無言だった。


 空気が重いとかじゃなくて、なんかもう“魂が抜けてた”って表現のほうが正しい。

 俺なんて、無意識に小石蹴ってたし。


「……なあ、ロイド」


「はい」


「俺、今日……なにした?」


「えっとですね。

 クラリッサ嬢の心を折り、アリシア嬢に変な期待を与え、僕を巻き込んで死地に突き落としました」


「めっちゃ的確にまとめるじゃん……」


「ちなみに、僕の胃は今、課題より先に実習終了を迎えそうです」


「ごめん……ほんとに……」


 俺が地面を見ながら肩を落として歩いていると、ロイドがちらっとこちらを見た。


「殿下、言葉って“刃”になるんですね……勉強になりました」


「俺が教材かよ……」


「もういっそ、“事前発言許可制”導入しましょう。僕が事前にチェックしますんで」


「じゃあ……これから何か言う前に、“ロイドチェック”入れるってこと?」


「そうです。“ロイド・セーフ・システム”です」


「通称RSS!?」


「今命名されました。検閲は厳しくいきますので」


「そのうち俺、口を開けなくなるぞ」


「平和が訪れますね」


「俺の人格が崩壊するわ!」


 そんなふざけた会話をしているうちに、少しずつ気持ちが軽くなってきた。


 温室での修羅場の記憶はまだフレッシュだが、笑うことで少しだけ、心の痛みが和らぐ。


「……まあ、次は気をつけるよ」


「“次”があればいいんですがね……」


「やめて、めっちゃフラグみたいなこと言わないで」


 俺たちは地図を見ながら、次の課題地点――学院裏の小広場へ向かって歩いていった。


「……ところで、次ってどんな課題なんだっけ?」


「“実地型協力試験”って書いてありますね」


「また協力!? これ以上、俺の人間関係を試さないでくれ……!」


学院裏手の小広場へ向かう途中、角を曲がった先で、見覚えのある二人が立っていた。


 一人は俺の従者――少年騎士志望の皮肉屋タイプ。

 もう一人はクラリッサの侍女で、上品で礼儀正しい……はずなんだが、今は目をうるませていた。


「殿下。今朝からのご様子を拝見しておりますが……」


 従者が腕を組みながら言った。


「……威厳、風格、カリスマ性、すべてが見事に欠落しております。お体の具合でも?」


「ちょっと黙ってくれないかな!? 俺なりに必死なんだよ!!」


 侍女がハンカチで目元を押さえながら、ふるふると首を振る。


「殿下のことは尊敬申し上げております……。でも、クラリッサ様のお気持ちを思うと……思うと……」


 ぽろっ。


「涙が止まりませんの……っ」


「えっ、泣かれてる!? 俺が泣かせたの!?」


「今朝の課題で、なぜあの二人を……あの二人を組ませたのですか!?

 何を考えていらっしゃるのか、本当に理解に苦しみます!」


「いや俺も後から冷静になったら思ったよ!? めっちゃ後悔してるよ!!」


 そのとき、侍女がふとロイドを見て――なぜかすっと目を細めた。


「……殿下のご趣味には口を出しませんが」


「おや!? 今、何か誤解を含んだ前置きが!?」


「ですが、婚約者であるクラリッサ様にだけは、きちんと打ち明けたほうがよいこともございますわよ」


「いや、待って!? 今、僕“そういう立場”にされかけてない!?!?」


 ロイドが即座に反応して、ぴしっと突っ込む。


「殿下との関係、完全に誤解されてますけど!? 僕、ただのペアですからね!? ただの!?」


 俺は頭を抱えた。


「お願いだから、これ以上ややこしい地雷を増やさないで……!!」



 涙ぐむ侍女と、毒舌全開の従者に囲まれて、俺の精神はすでに赤ゲージだった。


「殿下……最後に、ひとつだけ」


 クラリッサの侍女が、ふっと涙を拭い、少しだけ真顔になる。


「これ以上、クラリッサ様を混乱させるような言葉を投げる前に――

 たった一秒でいいので、考えてください。“その言葉、本当に言う必要あるのか?”って」


 心にぐっさり刺さる忠告。いやもうズブズブ。


 すると俺の従者が、にこりと実に腹立たしい笑顔で続けた。


「クラリッサ様がご心配なので、これよりそちらへ向かいます。

 あのとき、殿下が最初からクラリッサ様とペアを組んでおられたら――

 このような状況には、ならなかったでしょうに」


 口が勝手に動いた。


「……もう無理。俺、王子だよね? なんで従者にこんなに言われてんの?」


 二人がさらりと答える。


「殿下のご発言に余地があるからです」


「愛があるから、ですわ」


 そして、トドメ。


「殿下。前にも申し上げましたが、私――母親は違えど、殿下の兄弟ですので」


(………………………………兄弟!?)


 心の中で、全力で叫んだ。


(いやいやいや!? なに!? 今さら何その爆弾情報!?)


(俺、今朝からしか記憶ないのよ!? 人間関係まったく把握してないのに、

 “兄弟ですので”って当然のように言われてもリアクションできるわけないだろ!!)


(従者だと思ってたのに兄弟!? しかもそれを前にも言った!?)


(前っていつ!? 言われたっけ!? 聞いてたっけ!?)


(うわあああああああああああああ!!!!!!)


 だがそれ以上は、言葉に出さなかった。

 口を開けばさらに地雷を踏み抜きそうな気がしたから。


「それでは、私どもはこれにて」


 二人は軽く一礼し、クラリッサのもとへ去っていった。


 俺は顔を覆って呻いた。


(お願いだから……これ以上、“身内ダメ出し”は勘弁してくれ……)


 その隣で、ロイドが静かにぽつりとつぶやく。


「……殿下、なんというか……あれですね。

 お立場って、こう……大変ですね」


「雑っ!!」

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